6 / 41
5吉凶占い sideイスベルク
しおりを挟む
北の大地を護る極寒の地。通称その名も氷の国と呼ばれるアヴェランシェ。この国には護り神と言われるアイスドラゴンが居る。そのアイスドラゴンと共に国を治めていくのがこの地の習わしである。
「アイスドラゴンねえ。ぜんぜん興味ねえな」
俺がつぶやくと横にいるユージナルが呆れた眼でみてきやがる。
「イスベルク様。そりゃあないでしょ。ご自分のことじゃないですか」
まったくもうとぶつくさ言って頭をがりがりかいている。ユージナルは俺の乳母の孫だ。物心ついた時から共にいる乳兄弟ってわけだ。母親はちゃんといる。いるが父が溺愛しすぎているのだ。息子の俺にもあまり会わそうとしない。
「仕方ありませんよ。龍とは番をそれはもう大事にされる生き物なのですから」
乳母や側近から耳が痛くなるほど言い聞かされて育った。この地の皇帝である父は龍神であり竜人である。息子の俺も竜人なのだろうがあいにくその特徴が出るのが薄い。この国にいる他の竜人族とほとんどかわらないのだ。竜人族は通常の見た目は人間そのもの。ただちょっとばかし人間よりも丈夫で長生きなだけだ。そして竜のチカラを発揮するときだけ角が出る。龍神である竜人との違いは龍になれるかなれないかだ。
俺は別に焦ってはいなかった。龍は500年~1000年以上生きると言われている。じゃあ龍で父でもある皇帝が長生きしてくれるんだから俺が継がなくてもいいのではないかと思っていた。弟もいるし俺でなくてもいいじゃないかと。
「何をおっしゃられるのです! きちんと後継者になられて成人の儀を済まされないと寿命は延びないのですよ!」
宰相であるグラソンが必死で訴えてくる。龍になれたら成人の儀が終わるということらしい。つまりは龍になれなければこのまま竜人族と同じ寿命で尽きるということなのだろう。それでも別にかまわない。戦いに暮れ幾度となく敵をこの手で倒してきた。国を護る。それだけを考えて生きてきた。だが平和になった世に俺が存在してもいいのだろうか?俺の手は血にまみれている。命を懸けて守りたい者というのにまだであったことがないためだろうか?俺も父王のようになるのだろうか?母の尻を追いかけまわしている姿は仲睦まじいを超えていて情けなくもある。
「いつなれるかわからぬものにあまり期待するでない」
俺がめんどくさそうに言うとグラソンが困ったような顔をする。こいつはいつも影で皇帝や俺を支えてくれている。戦略をたてたら右に出るものはいない。敵にはしたくないやつではある。
「……わかりました。では一度吉凶占いをさせましょう」
「仕方がないな。つきあうとしよう」
吉凶占いとはその名のとおり、吉とでればよい事。凶と出れば悪い事を占う。まあ気休めのようなものだ。占いなどに頼るなんてよほど俺の行く末を案じてるのだろうな。なんとも古めかしい迷信だ。
「お久しぶりでごじゃりまする」
現れたのは占い師のミコト。年齢不詳の婆さんだ。玄武の子孫だというから長生きしてるのだろう。毎年の年始にその年の吉凶を占う時しか顔を会わせたことはない。
「うぅむ。おぉうう……ぬぬぬぉうぉう……ほっほ」
何やらぶつぶつ掛け声を発しながらしばらく舞をまったあとでキョエ~と叫び、真面目な顔で俺の前に立つ。大丈夫なのか?
「さて。吉がでましたぞ。それも南でごじゃりまする」
「南だと?」
「はい。常夏の国フレムベルジュでごじゃりまする。そこから運命が回り始める事でしょう」
「ほぉ。フレムベルジュか。行ったことがないな」
「イスベルク様。南は遠すぎます。灼熱の地を渡らないといけません。危険すぎます」
グラソンが慌てだすのが面白い。俺は国境沿いの戦いには身を投じて来たが、この地を大きく離れたことがないのだ。基本的に俺たちは自ら争いを仕掛けて他国に攻め入ることはない。仕掛けてきたら叩き潰すだけだがな。
「南ですか? 暑いんでしょうね?」
武闘稽古の合間にユージナルが聞いてきた。どうやら俺が吉凶を占ったってことは側近たちには筒抜けになっているようだ。占いなんて信じてないはずの貴方が珍しいことするんですねーなんて言うものだから内容を教えてやった。
「あはははは。いやあ。でもグラソン様の気持ちもわかりますよ。自分の事にも他の事にも興味なさすぎだから。これじゃあダメだってなったんでしょうね」
「なんだそれは。俺だって興味があるものくらい……」
べつにないな。興味か。国を護ることぐらいしか考えてなかったな。後は強くなること。興味ってなんだろうか。戦う事?いやもう戦争は悲劇しか産まない。俺はもう平和な国を作っていきたいんだ。
「ほらね。即答できないでしょ? なんかないんですか? やってみたいこととか」
やってみたいことか。なるほど、それなら……。
「おい。着替えを用意しろ。南へいくぞ」
「へ? ……ぷっくくく。はい。わかりました!」
今気づいた。俺は旅行らしいことはしたことがない。
「アイスドラゴンねえ。ぜんぜん興味ねえな」
俺がつぶやくと横にいるユージナルが呆れた眼でみてきやがる。
「イスベルク様。そりゃあないでしょ。ご自分のことじゃないですか」
まったくもうとぶつくさ言って頭をがりがりかいている。ユージナルは俺の乳母の孫だ。物心ついた時から共にいる乳兄弟ってわけだ。母親はちゃんといる。いるが父が溺愛しすぎているのだ。息子の俺にもあまり会わそうとしない。
「仕方ありませんよ。龍とは番をそれはもう大事にされる生き物なのですから」
乳母や側近から耳が痛くなるほど言い聞かされて育った。この地の皇帝である父は龍神であり竜人である。息子の俺も竜人なのだろうがあいにくその特徴が出るのが薄い。この国にいる他の竜人族とほとんどかわらないのだ。竜人族は通常の見た目は人間そのもの。ただちょっとばかし人間よりも丈夫で長生きなだけだ。そして竜のチカラを発揮するときだけ角が出る。龍神である竜人との違いは龍になれるかなれないかだ。
俺は別に焦ってはいなかった。龍は500年~1000年以上生きると言われている。じゃあ龍で父でもある皇帝が長生きしてくれるんだから俺が継がなくてもいいのではないかと思っていた。弟もいるし俺でなくてもいいじゃないかと。
「何をおっしゃられるのです! きちんと後継者になられて成人の儀を済まされないと寿命は延びないのですよ!」
宰相であるグラソンが必死で訴えてくる。龍になれたら成人の儀が終わるということらしい。つまりは龍になれなければこのまま竜人族と同じ寿命で尽きるということなのだろう。それでも別にかまわない。戦いに暮れ幾度となく敵をこの手で倒してきた。国を護る。それだけを考えて生きてきた。だが平和になった世に俺が存在してもいいのだろうか?俺の手は血にまみれている。命を懸けて守りたい者というのにまだであったことがないためだろうか?俺も父王のようになるのだろうか?母の尻を追いかけまわしている姿は仲睦まじいを超えていて情けなくもある。
「いつなれるかわからぬものにあまり期待するでない」
俺がめんどくさそうに言うとグラソンが困ったような顔をする。こいつはいつも影で皇帝や俺を支えてくれている。戦略をたてたら右に出るものはいない。敵にはしたくないやつではある。
「……わかりました。では一度吉凶占いをさせましょう」
「仕方がないな。つきあうとしよう」
吉凶占いとはその名のとおり、吉とでればよい事。凶と出れば悪い事を占う。まあ気休めのようなものだ。占いなどに頼るなんてよほど俺の行く末を案じてるのだろうな。なんとも古めかしい迷信だ。
「お久しぶりでごじゃりまする」
現れたのは占い師のミコト。年齢不詳の婆さんだ。玄武の子孫だというから長生きしてるのだろう。毎年の年始にその年の吉凶を占う時しか顔を会わせたことはない。
「うぅむ。おぉうう……ぬぬぬぉうぉう……ほっほ」
何やらぶつぶつ掛け声を発しながらしばらく舞をまったあとでキョエ~と叫び、真面目な顔で俺の前に立つ。大丈夫なのか?
「さて。吉がでましたぞ。それも南でごじゃりまする」
「南だと?」
「はい。常夏の国フレムベルジュでごじゃりまする。そこから運命が回り始める事でしょう」
「ほぉ。フレムベルジュか。行ったことがないな」
「イスベルク様。南は遠すぎます。灼熱の地を渡らないといけません。危険すぎます」
グラソンが慌てだすのが面白い。俺は国境沿いの戦いには身を投じて来たが、この地を大きく離れたことがないのだ。基本的に俺たちは自ら争いを仕掛けて他国に攻め入ることはない。仕掛けてきたら叩き潰すだけだがな。
「南ですか? 暑いんでしょうね?」
武闘稽古の合間にユージナルが聞いてきた。どうやら俺が吉凶を占ったってことは側近たちには筒抜けになっているようだ。占いなんて信じてないはずの貴方が珍しいことするんですねーなんて言うものだから内容を教えてやった。
「あはははは。いやあ。でもグラソン様の気持ちもわかりますよ。自分の事にも他の事にも興味なさすぎだから。これじゃあダメだってなったんでしょうね」
「なんだそれは。俺だって興味があるものくらい……」
べつにないな。興味か。国を護ることぐらいしか考えてなかったな。後は強くなること。興味ってなんだろうか。戦う事?いやもう戦争は悲劇しか産まない。俺はもう平和な国を作っていきたいんだ。
「ほらね。即答できないでしょ? なんかないんですか? やってみたいこととか」
やってみたいことか。なるほど、それなら……。
「おい。着替えを用意しろ。南へいくぞ」
「へ? ……ぷっくくく。はい。わかりました!」
今気づいた。俺は旅行らしいことはしたことがない。
32
お気に入りに追加
208
あなたにおすすめの小説

【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!
カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。
魔法と剣、そして魔物がいる世界で
年の差12歳の政略結婚?!
ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。
冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。
人形のような美少女?になったオレの物語。
オレは何のために生まれたのだろうか?
もう一人のとある人物は……。
2022年3月9日の夕方、本編完結
番外編追加完結。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。
篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。
愛しの妻は黒の魔王!?
ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」
――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。
皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。
身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。
魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。
表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます!
11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる