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・腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する
番外編 休暇をとろう その1
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即位式も終わり、エルシドは束の間の休暇をとった。王となったアーベルには前々から打診していたことだったので難なく休みをもらえたが、休暇明けは山積みの仕事が待ち構えているだろう。
「いいのですか?僕達二人とも抜けてしまって」
「それをみこおして人員を増やしたのだからかまわないだろう」
確かに最近、エバンとフランシスが同僚として手伝いに入った。彼らは貴族の子息だが、偉ぶったところはないし処理能力が高い。将来有望な人材だと思う。ただ、若さゆえに好奇心旺盛でときに脱線してしまうところがある。といってもその中に僕も入るんだけどね。僕らは年も近いしいい仲間といった感じだ。
「せっかくとれた休暇なのだから束の間でも仕事は忘れよう」
「はい。そうですね!」
「ピィ」
ユキも嬉しそうだ。ユキはオウルの雛だ。僕の世界の梟に似ている。真っ白でふわふわしている。
「毛玉も今日は羽を伸ばしたらどうだ?せっかく自然が多いところにきたんだからな」
僕らは山間に来ている。自然に囲まれた憩いの場所なんだそうだ。自然動物にも出会えるらしくて僕は動物達との出会いのほうに期待している。獣医を目指していたのも動物好きが高じたせいだ。
宿泊先は貴族御用達のコテージ。いわゆる貸別荘のようなところだった。
「わあ。お伽話に出てきそうだね」
「ははは。そんな可愛い事を言うのはお前ぐらいだぞ」
「そうかな?だって絵本の中みたいだよ」
壁は煉瓦で出来ているし薪の暖炉や、大きな出窓。天井には羽の付いたファンがあり、ベットのカバーはパッチワークキルトだ。一階が広々としたリビングでキッチンスペースも充実している。サウナもついていた。二階がベットルームになっている。
「夕飯はデッキでバーベキューにしましょうか?」
クラークさんがついてきてくれてよかった。エルシドが出来るだけ二人で居たいと貸し切りにしたんだけど、僕達二人じゃこんなにテキパキと食事の準備などは出来なかったと思う。食材から必要な荷造りなども全部クラークさんがしてくれたんだ。有能な執事がいてくれて本当によかった。
クラークさん自身もたまには郊外で自然に触れあいたいと言ってくれたんだ。夜は自作の果実酒を飲みながらのんびり星空をみてみたいって。優しいよね。そんな風に言われたら気兼ねなくついてきてもらえるもの。
「シド。何をしてるの?」
「コテージの周りだけ結界を張ってたんだ」
僕は動物達を惹きつけるチカラを持っているようで、結界をはらないといろんな動物が集まってきてしまう。
「大型の動物にこられると安眠できないからな」
「はい。すみません」
「謝る事なぞないぞ。そのチカラの有効な使い方も今考えている。今後は忙しくさせるからな」
「はい!がんばります」
「ははは。ほどほどにな」
夕飯までの時間潰しに近辺の見回りをかねて散歩に出ることにした。
さわやかな風が吹いてきた。おやつにとクラークさんが焼いてくれたパイを芝生に座りながら食べる。
「気持ちいいですね」
「そうだな。近くに湖か泉があるようだな」
「え?そうなのですか?」
「ああ、風に乗って水の匂いがする」
「沼じゃないですよね?」
「はは。瘴気はもう取り除いたはずだ」
「綺麗な湖なら魚もすんでいるんでしようか?」
「そうだな、行ってみるか?」
少し残ったパイを懐にいれて僕らは歩き始めた。
エルシドが何かを唱えると風が小さく渦巻く。
「湖まで連れて行ってくれ」
「風魔法なの?そんな使い方ができるんですね?」
「ああ。探索魔法だ。近場にありそうだからな。使えそうだ」
小さな風の渦巻きが前方を進んでいく。いろんな色の木々が目に鮮やかだ。エルシドの屋敷の中庭に似ている。足元には美しい花々が咲き乱れていた。
渦巻きが止まる。ではこの辺りということなのだろうか?
「すぐ近くまで来ているはずなんだかな?」
「枝を少し伐採しますか?」
「そうだな。少しくらいなら切ってもいいだろう」
エルシドがサバイバルナイフで枝を切っていく。今日は剣は帯同してないようだ。
「キキッ!」
木の上に猿に似た動物がいた。枝の上でぴょんぴょん跳ねている。目がまんまるだ。
「それはヤッキーだ。イタズラ好きなやつだ。気をつけろよ」
エルシドがこの動物の名前を教えてくれた。ヤッキーっていうのか。
「はじめまして。ヤッキー。ここで何をしているの?」
「キイ?」
ヤッキーが鼻をくんくんさせる。
「ん?パイの匂いがするのかな?残り物だけど食べるかい?」
いちじくのパイだ。動物に害のあるもは入っていないだろう。手渡すとヤッキーはあっという間に食べてしまった。
「キイ!キキ!」
美味しかったのだろうか。嬉しそうに見える。
「キキィ!」
ついてこいとばかりにこちらをみながらぴょんぴょんと木々の間を跳ね回る。
何かがあるのかな?僕を連れて行きたいのかな?気をとられていると、ほんの少しエルシドから離れてしまった。
「イブ!危ない!」
「ピィ!」
「わあぁ!」
足元がぬめっていて滑り落ちた。
ザッパーン!
水だ。そうか。僕らが居た場所は崖の側だったんだ。その下が湖だったんだな。木々が生い茂っていてわからなかったんだ。
「いいのですか?僕達二人とも抜けてしまって」
「それをみこおして人員を増やしたのだからかまわないだろう」
確かに最近、エバンとフランシスが同僚として手伝いに入った。彼らは貴族の子息だが、偉ぶったところはないし処理能力が高い。将来有望な人材だと思う。ただ、若さゆえに好奇心旺盛でときに脱線してしまうところがある。といってもその中に僕も入るんだけどね。僕らは年も近いしいい仲間といった感じだ。
「せっかくとれた休暇なのだから束の間でも仕事は忘れよう」
「はい。そうですね!」
「ピィ」
ユキも嬉しそうだ。ユキはオウルの雛だ。僕の世界の梟に似ている。真っ白でふわふわしている。
「毛玉も今日は羽を伸ばしたらどうだ?せっかく自然が多いところにきたんだからな」
僕らは山間に来ている。自然に囲まれた憩いの場所なんだそうだ。自然動物にも出会えるらしくて僕は動物達との出会いのほうに期待している。獣医を目指していたのも動物好きが高じたせいだ。
宿泊先は貴族御用達のコテージ。いわゆる貸別荘のようなところだった。
「わあ。お伽話に出てきそうだね」
「ははは。そんな可愛い事を言うのはお前ぐらいだぞ」
「そうかな?だって絵本の中みたいだよ」
壁は煉瓦で出来ているし薪の暖炉や、大きな出窓。天井には羽の付いたファンがあり、ベットのカバーはパッチワークキルトだ。一階が広々としたリビングでキッチンスペースも充実している。サウナもついていた。二階がベットルームになっている。
「夕飯はデッキでバーベキューにしましょうか?」
クラークさんがついてきてくれてよかった。エルシドが出来るだけ二人で居たいと貸し切りにしたんだけど、僕達二人じゃこんなにテキパキと食事の準備などは出来なかったと思う。食材から必要な荷造りなども全部クラークさんがしてくれたんだ。有能な執事がいてくれて本当によかった。
クラークさん自身もたまには郊外で自然に触れあいたいと言ってくれたんだ。夜は自作の果実酒を飲みながらのんびり星空をみてみたいって。優しいよね。そんな風に言われたら気兼ねなくついてきてもらえるもの。
「シド。何をしてるの?」
「コテージの周りだけ結界を張ってたんだ」
僕は動物達を惹きつけるチカラを持っているようで、結界をはらないといろんな動物が集まってきてしまう。
「大型の動物にこられると安眠できないからな」
「はい。すみません」
「謝る事なぞないぞ。そのチカラの有効な使い方も今考えている。今後は忙しくさせるからな」
「はい!がんばります」
「ははは。ほどほどにな」
夕飯までの時間潰しに近辺の見回りをかねて散歩に出ることにした。
さわやかな風が吹いてきた。おやつにとクラークさんが焼いてくれたパイを芝生に座りながら食べる。
「気持ちいいですね」
「そうだな。近くに湖か泉があるようだな」
「え?そうなのですか?」
「ああ、風に乗って水の匂いがする」
「沼じゃないですよね?」
「はは。瘴気はもう取り除いたはずだ」
「綺麗な湖なら魚もすんでいるんでしようか?」
「そうだな、行ってみるか?」
少し残ったパイを懐にいれて僕らは歩き始めた。
エルシドが何かを唱えると風が小さく渦巻く。
「湖まで連れて行ってくれ」
「風魔法なの?そんな使い方ができるんですね?」
「ああ。探索魔法だ。近場にありそうだからな。使えそうだ」
小さな風の渦巻きが前方を進んでいく。いろんな色の木々が目に鮮やかだ。エルシドの屋敷の中庭に似ている。足元には美しい花々が咲き乱れていた。
渦巻きが止まる。ではこの辺りということなのだろうか?
「すぐ近くまで来ているはずなんだかな?」
「枝を少し伐採しますか?」
「そうだな。少しくらいなら切ってもいいだろう」
エルシドがサバイバルナイフで枝を切っていく。今日は剣は帯同してないようだ。
「キキッ!」
木の上に猿に似た動物がいた。枝の上でぴょんぴょん跳ねている。目がまんまるだ。
「それはヤッキーだ。イタズラ好きなやつだ。気をつけろよ」
エルシドがこの動物の名前を教えてくれた。ヤッキーっていうのか。
「はじめまして。ヤッキー。ここで何をしているの?」
「キイ?」
ヤッキーが鼻をくんくんさせる。
「ん?パイの匂いがするのかな?残り物だけど食べるかい?」
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美味しかったのだろうか。嬉しそうに見える。
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「イブ!危ない!」
「ピィ!」
「わあぁ!」
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