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・腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する
58)浄化
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「残りの一体が崩れてきてます!」
ハロルドの声に振り向くとぼこぼこと音を立てて魔人が小さくなっていく。あたりに黒い霧が充満しだした。
「瘴気だ!布で口を覆うんだ!」
「ピピィ!」
「ユキの後ろに下がって下さい!」
ユキが羽ばたき、瘴気を吹き飛ばす。ピシリと聖なる壁にひびがはいりだした。
「ハロルド!持ち堪えろ!」
「セイヤくん頑張って!」
「「はい!」」
ウオオオン!
ウォルフの声が障壁のように辺りを包む。壁の補強をしてくれてるのか?
よし!これならいけるぞ!
どんどん魔人が小さく縮んでいく。黒い影のようになってきた。チカラが弱まったのか?だが先程よりもどす黒く渦を巻いている。凝縮されているのか?
一瞬、黒い影が動き、笑ったように見えた。
「シド!危ない!」
黒い塊が一気に俺にとびかかっった。そうか、この中では俺が一番手を汚しているからな。穢れや呪いは闇をかかえているものに取り憑きやすい。のどの奥から肺に入っていく。身体が重い。
真っ暗な中で、兄貴の歪んだ顔が浮かぶ。
「お前さえいなければ」
兄貴。そんなに俺が憎いのか。悲しい。情けない。悔しい。
これはなんだ?瘴気が見せる幻覚なのか?それとも俺の過去の記憶か?
髪を振り乱した女が叫ぶ。
「貴方のせいよ!こんな気味が悪い子が出来るなんて、この家は呪われているんだわ!」
貴族連中が後ろ指を指してくる。
「あいつだ。あの放蕩息子のせいであの家は潰れたんだ」
「そうだ全部エルシドが悪い」
うるさい!うるさい!どいつもこいつも!そうだ!俺がやったんだ!
憎い。誰が?呪ってやれ。誰を?この世界全部を呪え。全部を?
俺はなんのために戦っているのだ?誰かのためだったはず。誰だったか。
結局俺は独りなのだ。このむなしさはどうしたらなくなるのだ?悔しい。すべてが悔しくて憎い。
ふつふつと湧いてくる怒り……俺は……何に対して怒っているのだ?
(シド。寂しくはないよ。僕がいるよ。だから目を覚まして!)
(イブなのか?)
「シド!しっかりして!瘴気なんかに負けないで!」
イブが何かを叫んでいる。半泣きじゃねえか? 悲しませてるのは俺なのか?
「げほっ……ごほっ……」
苦しい。なにもかもが嫌だ。イブを泣かせる俺自身もだ。いっそこのまま俺が消えてしまえば。
「シド。僕が助けるから。消えちゃだめだ」
(シド。傍に居ろって言ってくれたじゃないか。エルシドがいなくなったら僕はどこに行けばいいのさ)
(僕の居場所になってくれるんでしょ?大好きだよ。エルシド目を開けて)
身体が軽くなっていく。のしかかるような圧迫感が消え意識がはっきりとしだした。
「……イブ……イブキ?」
イブキが俺の腕の中にいた。イブキの口元から喉。手足とも真っ黒だ。まるで瘴気に侵されたように。
「な?なんだ?イブキ!これはいったい?」
「エルシド!起きたか!しっかりしろ!」
ユリシーズが叫ぶ。デニスと共に魔物と応戦中だ。ということは今のはほんの一瞬の出来事だったというのか?
「……シド……よか……た」
「まさか……お前」
俺の瘴気を自分の中に取り込んだのか?魔力譲渡の反転を。俺から瘴気を吸い取ったのか!
「イブキ!」
ああ、何故だ。俺が手にした者は皆、俺の手からすり抜けていく。
「ごふっ……」
イブキが血を吐く。どす黒い血だ。兄貴も最後は血にまみれていた。お前まで逝ってしまうのか?待ってくれ。いかないでくれ。胸の奥を引き裂かれるような想いが俺を貫く。
「イブキ!逝かないでくれ!どこにも行かないでくれ!俺にはお前が必要なんだ!」
ダメだ。俺を置いていかないでくれ!お願いだ。俺のすべてを捨てても良い。だからイブキを助けてくれ。
頼むからまた俺に笑いかけてくれ。その笑顔を見せてくれ。
「イブ。イブキ!目を開けてくれ…………愛しているんだ」
「ピィピ!」
ユキが頭上で羽ばたく。キラキラと輝く光がイブキの上に降り注ぐ。だがイブキの顔色は青ざめたままだ。
「ユキ。助けてくれ。頼む!」
「ピィ!」
ユキがイブキの胸の上に降り立つと羽を広げる。柔らかな光がイブキを包みだす。
「ウォォオオン!ウォォオオン!」
ウォルフもユキに同調するかのように吠え始めた。やがて大きな光が辺りを照らし出す。
「浄化されていくぞ……奇跡だ」
ユリシーズの声が聞こえる。周りに出来ていた沼がただの水たまりになっていった。
ハロルドの声に振り向くとぼこぼこと音を立てて魔人が小さくなっていく。あたりに黒い霧が充満しだした。
「瘴気だ!布で口を覆うんだ!」
「ピピィ!」
「ユキの後ろに下がって下さい!」
ユキが羽ばたき、瘴気を吹き飛ばす。ピシリと聖なる壁にひびがはいりだした。
「ハロルド!持ち堪えろ!」
「セイヤくん頑張って!」
「「はい!」」
ウオオオン!
ウォルフの声が障壁のように辺りを包む。壁の補強をしてくれてるのか?
よし!これならいけるぞ!
どんどん魔人が小さく縮んでいく。黒い影のようになってきた。チカラが弱まったのか?だが先程よりもどす黒く渦を巻いている。凝縮されているのか?
一瞬、黒い影が動き、笑ったように見えた。
「シド!危ない!」
黒い塊が一気に俺にとびかかっった。そうか、この中では俺が一番手を汚しているからな。穢れや呪いは闇をかかえているものに取り憑きやすい。のどの奥から肺に入っていく。身体が重い。
真っ暗な中で、兄貴の歪んだ顔が浮かぶ。
「お前さえいなければ」
兄貴。そんなに俺が憎いのか。悲しい。情けない。悔しい。
これはなんだ?瘴気が見せる幻覚なのか?それとも俺の過去の記憶か?
髪を振り乱した女が叫ぶ。
「貴方のせいよ!こんな気味が悪い子が出来るなんて、この家は呪われているんだわ!」
貴族連中が後ろ指を指してくる。
「あいつだ。あの放蕩息子のせいであの家は潰れたんだ」
「そうだ全部エルシドが悪い」
うるさい!うるさい!どいつもこいつも!そうだ!俺がやったんだ!
憎い。誰が?呪ってやれ。誰を?この世界全部を呪え。全部を?
俺はなんのために戦っているのだ?誰かのためだったはず。誰だったか。
結局俺は独りなのだ。このむなしさはどうしたらなくなるのだ?悔しい。すべてが悔しくて憎い。
ふつふつと湧いてくる怒り……俺は……何に対して怒っているのだ?
(シド。寂しくはないよ。僕がいるよ。だから目を覚まして!)
(イブなのか?)
「シド!しっかりして!瘴気なんかに負けないで!」
イブが何かを叫んでいる。半泣きじゃねえか? 悲しませてるのは俺なのか?
「げほっ……ごほっ……」
苦しい。なにもかもが嫌だ。イブを泣かせる俺自身もだ。いっそこのまま俺が消えてしまえば。
「シド。僕が助けるから。消えちゃだめだ」
(シド。傍に居ろって言ってくれたじゃないか。エルシドがいなくなったら僕はどこに行けばいいのさ)
(僕の居場所になってくれるんでしょ?大好きだよ。エルシド目を開けて)
身体が軽くなっていく。のしかかるような圧迫感が消え意識がはっきりとしだした。
「……イブ……イブキ?」
イブキが俺の腕の中にいた。イブキの口元から喉。手足とも真っ黒だ。まるで瘴気に侵されたように。
「な?なんだ?イブキ!これはいったい?」
「エルシド!起きたか!しっかりしろ!」
ユリシーズが叫ぶ。デニスと共に魔物と応戦中だ。ということは今のはほんの一瞬の出来事だったというのか?
「……シド……よか……た」
「まさか……お前」
俺の瘴気を自分の中に取り込んだのか?魔力譲渡の反転を。俺から瘴気を吸い取ったのか!
「イブキ!」
ああ、何故だ。俺が手にした者は皆、俺の手からすり抜けていく。
「ごふっ……」
イブキが血を吐く。どす黒い血だ。兄貴も最後は血にまみれていた。お前まで逝ってしまうのか?待ってくれ。いかないでくれ。胸の奥を引き裂かれるような想いが俺を貫く。
「イブキ!逝かないでくれ!どこにも行かないでくれ!俺にはお前が必要なんだ!」
ダメだ。俺を置いていかないでくれ!お願いだ。俺のすべてを捨てても良い。だからイブキを助けてくれ。
頼むからまた俺に笑いかけてくれ。その笑顔を見せてくれ。
「イブ。イブキ!目を開けてくれ…………愛しているんだ」
「ピィピ!」
ユキが頭上で羽ばたく。キラキラと輝く光がイブキの上に降り注ぐ。だがイブキの顔色は青ざめたままだ。
「ユキ。助けてくれ。頼む!」
「ピィ!」
ユキがイブキの胸の上に降り立つと羽を広げる。柔らかな光がイブキを包みだす。
「ウォォオオン!ウォォオオン!」
ウォルフもユキに同調するかのように吠え始めた。やがて大きな光が辺りを照らし出す。
「浄化されていくぞ……奇跡だ」
ユリシーズの声が聞こえる。周りに出来ていた沼がただの水たまりになっていった。
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