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54)モーガン
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生ぬるい気温の中、雨が降りしきる。あの日もこんな天気だった。
俺の家は貧しかったが、心優しい妻ルーシーと一緒に暮らせて幸せだった。このささやかな生活さえあれば何もいらなかった。それなのにいきなり突っ込んできた貴族の馬車に妻がはねられたのだ。俺は妻を抱えながら治癒をしてもらえるように神官に頼み出た。
「大変でございますな。しかし、治癒を求めて来られる方は他にもいらっしゃり順番待ちとなっております」
「お願いです。なんでもします!妻をどうか助けてやってください」
「では他の方にその説明をしないといけませぬ。今日は貴族の方が多くて、皆治癒を受けたくて心待ちにされている方ばかりですので、お断りする代わりにそれ相当なお品などがなければ難しいかと」
「お品?とは?何をすればいいのだ?」
「そうですな金貨や宝石などはおありですかな?なければお引き取りください」
目の前がまっくらになった。平民の俺の手元にそんなものはありはしない。
次の日、妻は静かに息を引き取った。俺はこの世界を恨んだ。すべてを憎み呪った。貴族なんかくそくらえ!
やがて俺達が住んでいた場所には神殿が建てられることが決まった。白亜の殿堂だという。ふざけるな。この場所は妻が居た場所だ。しかも新しく神官長になったのは俺を追い返したあの神官だったのだ。すぐにそいつが無能な神官だということはわかった。俺には魔力の質が見える。神官長にのし上がったのは実力ではないのだろう。しかも欲にまみれて質が低下しているのがわかったのだ。
憎しみは増幅する。呪うチカラが日々大きくなりいつのまにか呪術が使えるようになっていた。俺は闇属性だった。周りの皆は俺の属性を気味悪がったが妻だけは違った。属性は個性のようなものよと笑ってくれたのだ。
そんな俺の最愛を奪った貴族が、助けてもくれなかった神殿が憎い。恨んでやる。呪ってやる。
闇属性と光属性は相性が悪い。だから念入りに計画を立て、近づいて行かなければなるまい。少しづつ、確実に。時間をかけて信頼を勝ち取って行った。
「神殿には光属性の可愛い方が多いですね」
「そうだな。治癒師は少ない。神殿で保護しないとな」
「あのような可愛い子らに身の回りの世話をしてもらえると……何かとよいですね」
「そうだな……なにかと……」
「若い肌はすべすべで手触りがいいでしょうな」
「…………いいだろうな」
人とは欲望に溺れる者だ。次々にうまい話に乗っかっていく貴族たち。やがて王も不正に協力していたことを知る。ならば王もろともこの国を壊せばいい。そうだ瘴気を起こせばいいのだ。
「そういえば神官長どのはご存じですか?金や宝石の産出量が多い国があるらしいですが」
「ほう?金や宝石とな?」
「ええ。この国のものよりも純度が高いらしいです。手に入ればさぞかし高値がつくのでは?」
「高値がか……?」
「もしそれが手に入れることが出来ればですがね」
「手に入れる……そうだな。いいかもしれない」
原理はわかっている。戦争を起こし俺の様なものを大勢作りあげればいいのだ。絶望は瘴気の元。そして召喚された皇子さえ俺の手元に来た。それも神官長自ら会わせてくれたなんてな。笑える。
もうすぐ長い年月をかけた俺の計画が完成する。あと少しだ。ルーシー待っていてくれ。俺達の幸せを潰したやつらを今度は俺の手で全部ぶち壊してやるのだ。この国ごと全部。
「モーガン様……ハロルドを捕まえました」
「牢に入れておいてくれ。これで皇子と離すことができたな」
神官長つきの神官たちには一定の単語に反応し俺の言う事をきくよう呪いをかけてある。神官長が洗脳だと思っているのはただの暗示だ。それに俺の呪いをほんの少し混ぜてある。彼らには自分たちは光属性と選ばれし者で神官長に身も心も捧げなければと思い込ませているだけだ。情緒が安定していない幼いものほどかかりやすい。
「神官長に決行は本日だと伝えろ。皇子には今日、最後の浄化に行ってもらうと伝えて俺の元へ連れてくるんだ」
「はい。伝えておきます」
最近は瘴気のせいで一度に大勢かける術をかけることが出来るようになった。瘴気自体が呪いに近いモノからできているからだ。瘴気に侵され始めてるものほど俺の呪術にかかりやすい。
皇子にも強めの暗示をかけた。チカラを自分ではコントロールできないようにと。情緒が不安定になるように。しかし異世界人には俺のチカラはききづらいのか継続性がない。しかたなく呪術具を用いた。首から下げているネックレスは制御具だ。あの判定時以降はチカラが出せない様に制限をかけている。
神官長にはチカラが増幅し光属性になると嘘をついておいた。元から皇子は光属性だったのだ。
「瘴気を集める術具はもう耐えられないだろう。充分すぎるほどにに溜まった。。時期は早いがこのままつき進めてしまおう」
いつの間にか雨はやんでいた。どんよりとした雲が空に浮かぶ。俺の心の中と同じだ。
俺の家は貧しかったが、心優しい妻ルーシーと一緒に暮らせて幸せだった。このささやかな生活さえあれば何もいらなかった。それなのにいきなり突っ込んできた貴族の馬車に妻がはねられたのだ。俺は妻を抱えながら治癒をしてもらえるように神官に頼み出た。
「大変でございますな。しかし、治癒を求めて来られる方は他にもいらっしゃり順番待ちとなっております」
「お願いです。なんでもします!妻をどうか助けてやってください」
「では他の方にその説明をしないといけませぬ。今日は貴族の方が多くて、皆治癒を受けたくて心待ちにされている方ばかりですので、お断りする代わりにそれ相当なお品などがなければ難しいかと」
「お品?とは?何をすればいいのだ?」
「そうですな金貨や宝石などはおありですかな?なければお引き取りください」
目の前がまっくらになった。平民の俺の手元にそんなものはありはしない。
次の日、妻は静かに息を引き取った。俺はこの世界を恨んだ。すべてを憎み呪った。貴族なんかくそくらえ!
やがて俺達が住んでいた場所には神殿が建てられることが決まった。白亜の殿堂だという。ふざけるな。この場所は妻が居た場所だ。しかも新しく神官長になったのは俺を追い返したあの神官だったのだ。すぐにそいつが無能な神官だということはわかった。俺には魔力の質が見える。神官長にのし上がったのは実力ではないのだろう。しかも欲にまみれて質が低下しているのがわかったのだ。
憎しみは増幅する。呪うチカラが日々大きくなりいつのまにか呪術が使えるようになっていた。俺は闇属性だった。周りの皆は俺の属性を気味悪がったが妻だけは違った。属性は個性のようなものよと笑ってくれたのだ。
そんな俺の最愛を奪った貴族が、助けてもくれなかった神殿が憎い。恨んでやる。呪ってやる。
闇属性と光属性は相性が悪い。だから念入りに計画を立て、近づいて行かなければなるまい。少しづつ、確実に。時間をかけて信頼を勝ち取って行った。
「神殿には光属性の可愛い方が多いですね」
「そうだな。治癒師は少ない。神殿で保護しないとな」
「あのような可愛い子らに身の回りの世話をしてもらえると……何かとよいですね」
「そうだな……なにかと……」
「若い肌はすべすべで手触りがいいでしょうな」
「…………いいだろうな」
人とは欲望に溺れる者だ。次々にうまい話に乗っかっていく貴族たち。やがて王も不正に協力していたことを知る。ならば王もろともこの国を壊せばいい。そうだ瘴気を起こせばいいのだ。
「そういえば神官長どのはご存じですか?金や宝石の産出量が多い国があるらしいですが」
「ほう?金や宝石とな?」
「ええ。この国のものよりも純度が高いらしいです。手に入ればさぞかし高値がつくのでは?」
「高値がか……?」
「もしそれが手に入れることが出来ればですがね」
「手に入れる……そうだな。いいかもしれない」
原理はわかっている。戦争を起こし俺の様なものを大勢作りあげればいいのだ。絶望は瘴気の元。そして召喚された皇子さえ俺の手元に来た。それも神官長自ら会わせてくれたなんてな。笑える。
もうすぐ長い年月をかけた俺の計画が完成する。あと少しだ。ルーシー待っていてくれ。俺達の幸せを潰したやつらを今度は俺の手で全部ぶち壊してやるのだ。この国ごと全部。
「モーガン様……ハロルドを捕まえました」
「牢に入れておいてくれ。これで皇子と離すことができたな」
神官長つきの神官たちには一定の単語に反応し俺の言う事をきくよう呪いをかけてある。神官長が洗脳だと思っているのはただの暗示だ。それに俺の呪いをほんの少し混ぜてある。彼らには自分たちは光属性と選ばれし者で神官長に身も心も捧げなければと思い込ませているだけだ。情緒が安定していない幼いものほどかかりやすい。
「神官長に決行は本日だと伝えろ。皇子には今日、最後の浄化に行ってもらうと伝えて俺の元へ連れてくるんだ」
「はい。伝えておきます」
最近は瘴気のせいで一度に大勢かける術をかけることが出来るようになった。瘴気自体が呪いに近いモノからできているからだ。瘴気に侵され始めてるものほど俺の呪術にかかりやすい。
皇子にも強めの暗示をかけた。チカラを自分ではコントロールできないようにと。情緒が不安定になるように。しかし異世界人には俺のチカラはききづらいのか継続性がない。しかたなく呪術具を用いた。首から下げているネックレスは制御具だ。あの判定時以降はチカラが出せない様に制限をかけている。
神官長にはチカラが増幅し光属性になると嘘をついておいた。元から皇子は光属性だったのだ。
「瘴気を集める術具はもう耐えられないだろう。充分すぎるほどにに溜まった。。時期は早いがこのままつき進めてしまおう」
いつの間にか雨はやんでいた。どんよりとした雲が空に浮かぶ。俺の心の中と同じだ。
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