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・腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する

52)逃亡未遂 sideハロルド

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 皇子セイヤが寝静まったのを見て部屋の隅に声をかける。
「待たせましたね。定時の連絡でしょうか?」

「はい。さようです」
 現れたのは黒装束の男。名前も聞いてはいないが少し前からブラッドフォード卿との橋渡しの役目をしてくれている。

「皇子とハロルド様にお会いしたいとのことです。できれば皇子を連れてここから出られることを望まれております」

「そうか。そのほうがいいかもしれない。浄化の度に体調を崩されるようになっておられる。私としてももう魔道具は使わせたくないと思っていた」

「それが、皇子が使われているのは魔道具ではなく、呪術具ではないかと思われます」
「な……?呪術だと。そんなおぞましいものを使っていたのか?」
「はい。長らくお使いになられますと心身共に影響を受けるのではないかとあの方も心配されております」

「不調があれば私が治癒をかけているので今のところは問題はないかと思う……。それは術具の周りにいる者も影響を受ける代物なのか?」
「はい。おそらくは。何かありましたか?」

「皇子が、神官たちが瘴気に侵されているのではないかと言うのだ」
「神官たちが?……そういえば、何人か神官とすれ違いましたが目つきが虚ろな者もおりました。その者たちの事でしょうか?」

「なんという事だ。神官長は何をしているのだ?」
 浄化が進んでいるのにもかかわらず、治癒依頼が後を絶たないのは聖魔法が使えなくなっている神官が多いせいなのか?以前の人数ならこなせていた数を今はもうこなせないというのか?それほど深刻な事態になっているのに何故神官長は気づかないのだ?

「この一件には神官長も関与されているとの疑いがあります」
「そんな。仮にも聖職だぞ……」

 いや、あり得るではないか。現に皇子が使用しているのが本当に呪術具なら、それを使うように許可したのは神官長である可能性が高い。

「……あさって、また浄化をするように指示が出ているそうだ」
「では、明日の内にここを出る手配をいたしましょう」
「そうしてくれるか?」

「はい。この時間にまたお迎えに参ります」
「皇子には私から告げておこう」

「ハロルド様。くれぐれも神官長には進言なさらぬように願います」
「何故だ?こんなこと許せるものではないぞ」
「それで皇子が更に危険な目にあうかもしれません」

「そ……うかもしれないな」
「一時の正義感で大事な者を失くされては元も子もございません」
「わかった。まずは皇子の安全を考えねばな」



 次の朝。身支度をし部屋を出ると神官見習いのミオが倒れていた。
「どうしたミオ?またどこか痛むのか?」
 ミオの手が黒ずんでいる。瘴気か?慌てて治癒を流すとミオが苦しみだす。
「……ぐぅ……はろ……るど様?」
「大丈夫か?何故こんなところで倒れているのだ?」

「ぼく、皇子様の魔道具の片づけ係なんだ」
 ミオは足が悪く普段から出来る仕事の範囲が限られていた。そのため他の神官とは違い、下働きがするような仕事をすることが多い。

「なんだと?それで?その道具は今どこにあるんだ?」
「魔導士のモーガンさんのお部屋です」

 やはりモーガンか。しかし神官でない彼が神殿の中を歩き回れるはずがない。部屋は神殿の中にはないはずだ。それに神官達が無断で外出することも許されていないはずだ。

「モーガンの部屋とはどこなのだ?」
「神官長の部屋から隠し扉で外に出てすぐの小屋です」
「隠し扉だと?そんなものまでできていたのか?」
「はい。神官長の避難用の通路だそうです」

 避難用通路など聞いたことがない。まさか日常的にそこから市井に行き来していたというのか?施しのために市井に出歩くのならいざ知らず。あの神官長がそのような事に心を砕くとは思えない。

「……この神殿の内部は腐っている」
 あるべき姿に戻さなければいけない。

「ミオ。貴方もこれ以上その術具に触れてはいけません」
「術具ですか?魔道具でなく?」
「はい。それはおぞましい道具なのかもしれないのです」
「ええ?そんな……。ぼくは何度も触れました。他の神官さんもです」

「これ以上触れると貴方の身体が瘴気にまた侵されてしまうかもしれません」
「そんな。また苦しむのは嫌です!でも……ぼくには他に出来る仕事がありません」
「……わかりました。ミオ。今晩、ここを一緒に抜け出しましょう」

「え?ここを抜け出すのですか?」
「はい。私と皇子と一緒にここから出ましょう」
「皇子様と?……はい。一緒に行きます!」

 ミオも一緒に連れて行った方がよいだろう。このままここに置いていてもこの子にとって良いことはないもない。


「では、私は皇子様の元へ参ります……ミオ?その手を離してもらえますか?」


「……捕まえた……逃がすもの……か」
 ミオの様子が急変した。どうしたというのだ?

「え?お前?なにを……」
「逃すか……」

 必死に私にしがみつこうとミオが暴れだし、靴がぬげた。真っ黒になった足が見える。遅かったのか。すでに瘴気で侵されていたのか。それにしても様子がおかしい。

「皇子を連れ出す……のは悪いやつ……逃がすな……ぶつぶつ……」

「まさか。洗脳されているのか?」

 ある単語を聞くと洗脳が発動するというのを聞いたことがある。呪術は呪いを媒介とすると言われている。もしも瘴気で侵されたものも呪われた者と同じ作用があるのなら……。

 ガン!と音と共に後頭部に衝撃を受けた。

 「セイヤ……」


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