上 下
55 / 57

55)魔人

しおりを挟む
 王宮に到着するとすでに神官長達は揃っていた。正装をしているから王太子に謁見を申し出るつもりか?

「これはブラッドフォード卿。貴殿は何をしにいらしたのかな?」
「公務にきまっているだろうが。ダライアス卿は宰相の仕事もお忘れになられたのかな?」
「……偉そうに。そういう態度も今だけだぞ」
「今日は我らは王太子に大事な話をしにきたのだ」
 二人とも目が移ろだ。モーガンに良いように導かれているんじゃないのか?

「大事な話とは?……王のことかな?」
「お前何故それを……?」

「包囲しろ!」
 控えさせていた騎士たちにサイラスと神官長を拘束させる。騎士たちには二人が何を言っても拘束を解くなと指示していある。後の責任はすべて俺がとると。

「な、なにをする。わしを誰だと」
「わしは神官長だぞ!」
 
「いいや……反逆者だ」
 俺は二人の耳元で囁いてやった。サイラスは悔しそうに眼を見開いたが俺はすぐに踵を返した。

「ち、違う!わしはサイラスに騙されただけだ!」
「何を言う!お前こそ!」
 背後で騒ぎ立てていたが後は好きにやってくれ。二人ともモーガンに操られていたのだろう。牢に入れば正気にもどるかもしれない。


「イブ、ついてこい!」
「はい!どこにいくんですか?」
 この先には俺が犯した愚かな罪が居る。出来れば会いたくないと思っていた奴だ。だが俺はもう過去の妄言にはとらわれない。罪は罪だ。俺はさらに罪を重ねようとしているのかもしれない。だが足を止める気はない。突き進むのみだ。

「王宮の最奥。王の部屋だ」
 アーベルには先に伝えている。自分も行くと言いはっていたが、最悪の事も考えて離宮に避難しろとヘルマンと共に隔離してある。警護にはデニス他、ユリシーズお墨付きの騎士団達があたっている。

「ここから先はイブとユキのチカラも必要になると思う。俺から絶対離れるなよ」
「ピィ!」
「はい!がんばります!」

 王の部屋にたどり着くまでに警護の者達と交戦したあとがある。これは騎士団たちか?それともモーガンがやったのか?それとも俺の影たちか。

「エルシド様!」
「タフォス!首尾は?」
「はい。おっしゃられた通りに手配しております」

 王の部屋は硬直状態だった。

 最奥にはベットの上に王が横たわっている。その周りに複数の俺の影たち。その首にはイブキが薬師たちのために作った治癒魔法が付与されている魔道具が下げられていた。治癒魔法、つまりは聖なる光属性のチカラだ。
 影たちはそれを増幅させ見えない聖なる壁を作っていた。

「すごい!バリアをはったんだね?」
「イブのおかげだ」
 

「くそ……なぜ俺がここに来ることがわかったんだ」
 黒装束の男が悔しそうにつぶやく。その腕の中にはうつろな表情の皇子が拘束されていた。後方で騎士団達が剣を構えている。皇子を人質にされているのか?


「瘴気のせいで沼になっちまった泉をみて思い当たったのさ。瘴気は水に溶ける事が出来る。人間の身体は血液、体液など水分が豊富だ。そこでヒトも瘴気を浴び続けたら魔獣みたくなるんじゃねえかとね。だが過去に魔獣になった人間はいねえ。人の理性や知性、感性が邪魔をして魔獣にならないんじゃねえかと思ってる」

「そうだ。それをなくして生きる屍になったモノ王様のほうが瘴気を取り込みやすいのさ」
 王はまだ屍にはなっていないはずだ。なのに俺が広めた噂を何故知っている?ということはこいつだな。
「やはりか。お前がモーガンだな」
「ああ。しかし俺が作りたいものは魔獣じゃない。魔人だ!」

 モーガンは皇子をイブキに向かって突き飛ばした。
「イブ!危ない!」
 俺はイブキを抱きしめた。だがそのすきにモーガンがイブキに向かって術具から真っ黒な瘴気を放つ。
「瘴気に侵されてしまえ!」


「ピィーーーーッ!」
 毛玉ユキがあっという間に成鳥となり大きな羽ではばたき、瘴気をモーガンへと跳ね返した。

「ぐぁああっ!」
 大量の瘴気がモーガンの周りをぐるぐるまわる。これは今までためていた瘴気か?濃縮されているのかどす黒く、重々しい雰囲気がする。モーガンの悪意に共鳴しているように見えた。

「はは……腹黒宰相さんよ……これ……覚えてる……かい?」
 黒い靄につつまれながらモーガンが手を挙げた。その手には小さな小瓶が握られている。

「それは……!お前だったのか」
 あれは人の知性や感性を奪い取ってしまう薬だ。俺が手を染めた罪のひとつ。数年前に突然その薬の情報が手に入り、半信半疑で手に入れたのだ。効果を試すためにまずは別邸側に半分。残りを王宮にて使用した。その結果がコレだ。つまりは俺の行為すらこいつの計画の一部だったわけだ。この野郎。やってくれたな。


「さらば……人間ども」
 モーガンが小瓶を一息に全部飲み干した。半分で寝込むほどだ。それを全部飲むなんて。こいつはもう……。
 
 周りをまわっていた真っ黒な瘴気がモーガンの身体に吸収されていく。みるみる黒く膨れていくとボコボコと音を立てて巨大化していった。


「エルシド様。これは魔人でしょうか?」
 タフォスが反対側で叫ぶ。そんなこと俺が知るか!
「逃げた方が良いぞ!騎士団達は皇子を連れて行け!」
「御意!」

「タフォス!お前達は王を連れて行け!」
「かしこまりました!」

 モーガンの身体は膨れ上がり黒い塊となり王の部屋が崩れていった。人型の黒い塊が壁を壊していく。

「ぐがぁ……」

「魔人になりやがったのか?」
「シド。このままだと王宮の外に出てしまいます!」

「念のため、王宮の周辺は避難命令をだしてある!」
 俺が想定する規模よりもユキは被害が出ると予想していた。平民街に被害が出るとおさめきらないかもしれない。どうする?どうすれば。

「ユキ。森へ誘導できるかい?」
「ピ……」
「いや待て!」
 そうだ。聖なる場所へ連れて行けばなんとかなるか?

「神殿だ!神殿ならここから近い!」

「ピィ!」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の策略は婚約者に通じるか

BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。 フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン ※他サイト投稿済です ※攻視点があります

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。

転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 俺の死亡フラグは完全に回避された! ・・・と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ラブコメが描きたかったので書きました。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

召喚聖女が十歳だったので、古株の男聖女はまだ陛下の閨に呼ばれるようです

月歌(ツキウタ)
BL
十代半ばで異世界に聖女召喚されたセツ(♂)。聖女として陛下の閨の相手を務めながら、信頼を得て親友の立場を得たセツ。三十代になり寝所に呼ばれることも減ったセツは、自由気ままに異世界ライフを堪能していた。 なのだけれど、陛下は新たに聖女召喚を行ったらしい。もしかして、俺って陛下に捨てられるのかな? ★表紙絵はAIピカソで作成しました。

凌辱夫を溺愛ルートに導く方法

riiko
BL
24時間働けてしまうジャパニーズビジネスマン(社畜)が、アニメの世界に転生した。 気づいた瞬間終わりを悟る、自分の姿は凌辱夫のもとに嫁いだ悲しい公爵令息だった。しかもメインストーリ―のために犠牲になる、物語の初めに命を散らすだけのモブ。 元社畜の処世術が今こそ役立つ!? リリアンの可愛さで溺愛ルートへ導き、ゴマスリ術で生き残ってみせるぜ。 実は初めから溺愛ルートに入った辺境伯×中身は元社畜の死亡フラグ付き公爵令息 一部、凌辱夫を罵る場面がありますが、この作品は凌辱作品自体を否定するものではありません。内容は溺愛メインですのでご了承くださいませ☆ 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけますのでご注意くださいませ。 物語、お楽しみいただけたら幸いです。 コメント欄ネタバレ全解除につき、ご閲覧にはご注意くださいませ。

モブですけど!

ビーバー父さん
BL
ムーンライトノベルでの公開が一番早くなります。 https://novel18.syosetu.com/n4304gu/ 失恋の痛手で落ち込んでいた時に見つけたBLゲーム。 こんな世界で自由恋愛をしたいって思っていたら、異世界転生しちゃってました! BLゲームの世界でモブもモブ! エピソードにもならないけど、名前が付いててキャラクター設定はあるちょっとだけ生きやすいモブだと思ってた! モブだったはずなのに、真の主人公設定とかいらないから、モブに徹します! 真の主人公のフラグを折って折って、折りまくってやるー!! ありがとう!BLゲーム!美形しかいない世界の一応、可愛いだけのキャラだけど、自由恋愛するために飯テロしながらがんばります!

処理中です...