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55)魔人
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王宮に到着するとすでに神官長達は揃っていた。正装をしているから王太子に謁見を申し出るつもりか?
「これはブラッドフォード卿。貴殿は何をしにいらしたのかな?」
「公務にきまっているだろうが。ダライアス卿は宰相の仕事もお忘れになられたのかな?」
「……偉そうに。そういう態度も今だけだぞ」
「今日は我らは王太子に大事な話をしにきたのだ」
二人とも目が移ろだ。モーガンに良いように導かれているんじゃないのか?
「大事な話とは?……王のことかな?」
「お前何故それを……?」
「包囲しろ!」
控えさせていた騎士たちにサイラスと神官長を拘束させる。騎士たちには二人が何を言っても拘束を解くなと指示していある。後の責任はすべて俺がとると。
「な、なにをする。わしを誰だと」
「わしは神官長だぞ!」
「いいや……反逆者だ」
俺は二人の耳元で囁いてやった。サイラスは悔しそうに眼を見開いたが俺はすぐに踵を返した。
「ち、違う!わしはサイラスに騙されただけだ!」
「何を言う!お前こそ!」
背後で騒ぎ立てていたが後は好きにやってくれ。二人ともモーガンに操られていたのだろう。牢に入れば正気にもどるかもしれない。
「イブ、ついてこい!」
「はい!どこにいくんですか?」
この先には俺が犯した愚かな罪が居る。出来れば会いたくないと思っていた奴だ。だが俺はもう過去の妄言にはとらわれない。罪は罪だ。俺はさらに罪を重ねようとしているのかもしれない。だが足を止める気はない。突き進むのみだ。
「王宮の最奥。王の部屋だ」
アーベルには先に伝えている。自分も行くと言いはっていたが、最悪の事も考えて離宮に避難しろとヘルマンと共に隔離してある。警護にはデニス他、ユリシーズお墨付きの騎士団達があたっている。
「ここから先はイブとユキのチカラも必要になると思う。俺から絶対離れるなよ」
「ピィ!」
「はい!がんばります!」
王の部屋にたどり着くまでに警護の者達と交戦したあとがある。これは騎士団たちか?それともモーガンがやったのか?それとも俺の影たちか。
「エルシド様!」
「タフォス!首尾は?」
「はい。おっしゃられた通りに手配しております」
王の部屋は硬直状態だった。
最奥にはベットの上に王が横たわっている。その周りに複数の俺の影たち。その首にはイブキが薬師たちのために作った治癒魔法が付与されている魔道具が下げられていた。治癒魔法、つまりは聖なる光属性のチカラだ。
影たちはそれを増幅させ見えない聖なる壁を作っていた。
「すごい!バリアをはったんだね?」
「イブのおかげだ」
「くそ……なぜ俺がここに来ることがわかったんだ」
黒装束の男が悔しそうにつぶやく。その腕の中にはうつろな表情の皇子が拘束されていた。後方で騎士団達が剣を構えている。皇子を人質にされているのか?
「瘴気のせいで沼になっちまった泉をみて思い当たったのさ。瘴気は水に溶ける事が出来る。人間の身体は血液、体液など水分が豊富だ。そこでヒトも瘴気を浴び続けたら魔獣みたくなるんじゃねえかとね。だが過去に魔獣になった人間はいねえ。人の理性や知性、感性が邪魔をして魔獣にならないんじゃねえかと思ってる」
「そうだ。それをなくして生きる屍になったモノのほうが瘴気を取り込みやすいのさ」
王はまだ屍にはなっていないはずだ。なのに俺が広めた噂を何故知っている?ということはこいつだな。
「やはりか。お前がモーガンだな」
「ああ。しかし俺が作りたいものは魔獣じゃない。魔人だ!」
モーガンは皇子をイブキに向かって突き飛ばした。
「イブ!危ない!」
俺はイブキを抱きしめた。だがその隙にモーガンがイブキに向かって術具から真っ黒な瘴気を放つ。
「瘴気に侵されてしまえ!」
「ピィーーーーッ!」
毛玉があっという間に成鳥となり大きな羽ではばたき、瘴気をモーガンへと跳ね返した。
「ぐぁああっ!」
大量の瘴気がモーガンの周りをぐるぐるまわる。これは今までためていた瘴気か?濃縮されているのかどす黒く、重々しい雰囲気がする。モーガンの悪意に共鳴しているように見えた。
「はは……腹黒宰相さんよ……これ……覚えてる……かい?」
黒い靄につつまれながらモーガンが手を挙げた。その手には小さな小瓶が握られている。
「それは……!お前だったのか」
あれは人の知性や感性を奪い取ってしまう薬だ。俺が手を染めた罪のひとつ。数年前に突然その薬の情報が手に入り、半信半疑で手に入れたのだ。効果を試すためにまずは別邸側に半分。残りを王宮にて使用した。その結果がコレだ。つまりは俺の行為すらこいつの計画の一部だったわけだ。この野郎。やってくれたな。
「さらば……人間ども」
モーガンが小瓶を一息に全部飲み干した。半分で寝込むほどだ。それを全部飲むなんて。こいつはもう……。
周りをまわっていた真っ黒な瘴気がモーガンの身体に吸収されていく。みるみる黒く膨れていくとボコボコと音を立てて巨大化していった。
「エルシド様。これは魔人でしょうか?」
タフォスが反対側で叫ぶ。そんなこと俺が知るか!
「逃げた方が良いぞ!騎士団達は皇子を連れて行け!」
「御意!」
「タフォス!お前達は王を連れて行け!」
「かしこまりました!」
モーガンの身体は膨れ上がり黒い塊となり王の部屋が崩れていった。人型の黒い塊が壁を壊していく。
「ぐがぁ……」
「魔人になりやがったのか?」
「シド。このままだと王宮の外に出てしまいます!」
「念のため、王宮の周辺は避難命令をだしてある!」
俺が想定する規模よりもユキは被害が出ると予想していた。平民街に被害が出るとおさめきらないかもしれない。どうする?どうすれば。
「ユキ。森へ誘導できるかい?」
「ピ……」
「いや待て!」
そうだ。聖なる場所へ連れて行けばなんとかなるか?
「神殿だ!神殿ならここから近い!」
「ピィ!」
「これはブラッドフォード卿。貴殿は何をしにいらしたのかな?」
「公務にきまっているだろうが。ダライアス卿は宰相の仕事もお忘れになられたのかな?」
「……偉そうに。そういう態度も今だけだぞ」
「今日は我らは王太子に大事な話をしにきたのだ」
二人とも目が移ろだ。モーガンに良いように導かれているんじゃないのか?
「大事な話とは?……王のことかな?」
「お前何故それを……?」
「包囲しろ!」
控えさせていた騎士たちにサイラスと神官長を拘束させる。騎士たちには二人が何を言っても拘束を解くなと指示していある。後の責任はすべて俺がとると。
「な、なにをする。わしを誰だと」
「わしは神官長だぞ!」
「いいや……反逆者だ」
俺は二人の耳元で囁いてやった。サイラスは悔しそうに眼を見開いたが俺はすぐに踵を返した。
「ち、違う!わしはサイラスに騙されただけだ!」
「何を言う!お前こそ!」
背後で騒ぎ立てていたが後は好きにやってくれ。二人ともモーガンに操られていたのだろう。牢に入れば正気にもどるかもしれない。
「イブ、ついてこい!」
「はい!どこにいくんですか?」
この先には俺が犯した愚かな罪が居る。出来れば会いたくないと思っていた奴だ。だが俺はもう過去の妄言にはとらわれない。罪は罪だ。俺はさらに罪を重ねようとしているのかもしれない。だが足を止める気はない。突き進むのみだ。
「王宮の最奥。王の部屋だ」
アーベルには先に伝えている。自分も行くと言いはっていたが、最悪の事も考えて離宮に避難しろとヘルマンと共に隔離してある。警護にはデニス他、ユリシーズお墨付きの騎士団達があたっている。
「ここから先はイブとユキのチカラも必要になると思う。俺から絶対離れるなよ」
「ピィ!」
「はい!がんばります!」
王の部屋にたどり着くまでに警護の者達と交戦したあとがある。これは騎士団たちか?それともモーガンがやったのか?それとも俺の影たちか。
「エルシド様!」
「タフォス!首尾は?」
「はい。おっしゃられた通りに手配しております」
王の部屋は硬直状態だった。
最奥にはベットの上に王が横たわっている。その周りに複数の俺の影たち。その首にはイブキが薬師たちのために作った治癒魔法が付与されている魔道具が下げられていた。治癒魔法、つまりは聖なる光属性のチカラだ。
影たちはそれを増幅させ見えない聖なる壁を作っていた。
「すごい!バリアをはったんだね?」
「イブのおかげだ」
「くそ……なぜ俺がここに来ることがわかったんだ」
黒装束の男が悔しそうにつぶやく。その腕の中にはうつろな表情の皇子が拘束されていた。後方で騎士団達が剣を構えている。皇子を人質にされているのか?
「瘴気のせいで沼になっちまった泉をみて思い当たったのさ。瘴気は水に溶ける事が出来る。人間の身体は血液、体液など水分が豊富だ。そこでヒトも瘴気を浴び続けたら魔獣みたくなるんじゃねえかとね。だが過去に魔獣になった人間はいねえ。人の理性や知性、感性が邪魔をして魔獣にならないんじゃねえかと思ってる」
「そうだ。それをなくして生きる屍になったモノのほうが瘴気を取り込みやすいのさ」
王はまだ屍にはなっていないはずだ。なのに俺が広めた噂を何故知っている?ということはこいつだな。
「やはりか。お前がモーガンだな」
「ああ。しかし俺が作りたいものは魔獣じゃない。魔人だ!」
モーガンは皇子をイブキに向かって突き飛ばした。
「イブ!危ない!」
俺はイブキを抱きしめた。だがその隙にモーガンがイブキに向かって術具から真っ黒な瘴気を放つ。
「瘴気に侵されてしまえ!」
「ピィーーーーッ!」
毛玉があっという間に成鳥となり大きな羽ではばたき、瘴気をモーガンへと跳ね返した。
「ぐぁああっ!」
大量の瘴気がモーガンの周りをぐるぐるまわる。これは今までためていた瘴気か?濃縮されているのかどす黒く、重々しい雰囲気がする。モーガンの悪意に共鳴しているように見えた。
「はは……腹黒宰相さんよ……これ……覚えてる……かい?」
黒い靄につつまれながらモーガンが手を挙げた。その手には小さな小瓶が握られている。
「それは……!お前だったのか」
あれは人の知性や感性を奪い取ってしまう薬だ。俺が手を染めた罪のひとつ。数年前に突然その薬の情報が手に入り、半信半疑で手に入れたのだ。効果を試すためにまずは別邸側に半分。残りを王宮にて使用した。その結果がコレだ。つまりは俺の行為すらこいつの計画の一部だったわけだ。この野郎。やってくれたな。
「さらば……人間ども」
モーガンが小瓶を一息に全部飲み干した。半分で寝込むほどだ。それを全部飲むなんて。こいつはもう……。
周りをまわっていた真っ黒な瘴気がモーガンの身体に吸収されていく。みるみる黒く膨れていくとボコボコと音を立てて巨大化していった。
「エルシド様。これは魔人でしょうか?」
タフォスが反対側で叫ぶ。そんなこと俺が知るか!
「逃げた方が良いぞ!騎士団達は皇子を連れて行け!」
「御意!」
「タフォス!お前達は王を連れて行け!」
「かしこまりました!」
モーガンの身体は膨れ上がり黒い塊となり王の部屋が崩れていった。人型の黒い塊が壁を壊していく。
「ぐがぁ……」
「魔人になりやがったのか?」
「シド。このままだと王宮の外に出てしまいます!」
「念のため、王宮の周辺は避難命令をだしてある!」
俺が想定する規模よりもユキは被害が出ると予想していた。平民街に被害が出るとおさめきらないかもしれない。どうする?どうすれば。
「ユキ。森へ誘導できるかい?」
「ピ……」
「いや待て!」
そうだ。聖なる場所へ連れて行けばなんとかなるか?
「神殿だ!神殿ならここから近い!」
「ピィ!」
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