42 / 76
・腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する
41)皇子の名前 sideハロルド
しおりを挟む
ブラッドフォード卿から連絡が届いたのはその日の夕方だった。異世界から来られた皇子の現状を教えて欲しいとの事。どうしてそんなことを聞いてくるのかと不思議だった。無事に召喚は成功したのだから滞りなく浄化は進んでいるのだろうと思っていた。
あの召喚魔法陣を描いたのは私だ。精魂込めて書き上げた後、私は意識不明に陥った。かなりの神聖力を使ってしまったからだ。そうなることはわかっていた。だが、あの時、私しかそれを仕上げる事ができなかったのだ。ブラッドフォード卿にはそのことがお見通しだったようだ。
神官長の神聖力はほぼ失われている。これまで数々の試練や救いをされてきたせいだろうと思ってきた。敬い尊ぶことがすべてだと信じて祈ってきた。だが最近の彼を見る限りその思いに陰りが出て来てしまう。
ご自身の神聖力が失われ始めると彼は若い少年たちを手元に置くようになった。彼らと共に居ることで神聖力が高まるというのだ。確かに若者たちと仕事をすることで活気を取り戻されたようには見える。だが閨まで一緒というのはどうなのだろうか?
「ハロルド様!もう起きられてよろしいのでしょうか?」
神官見習いのミオが私を見つけて話しかけてきた。
「心配かけたようですね。もう大丈夫ですよ」
「よかった。お元気になられたのですね」
「ええ。それよりミオ、足の具合はどうですか?また少し治癒をかけておきましょうね」
「あ、ありがとうございます」
ミオは魔獣に襲われ一命をとりとめたが、足に後遺症が残ってしまった。定期的に治癒をかけないといけない身体だ。控えめな性格なので私以外には頼むことが出来ないようだ。
「痛みがあるときはすぐに近くいる神官に言うのですよ」
「……はい。でも……皆さん忙しそうですし」
「ケガ人を治すのが治癒師です。遠慮はしなくてもいいのですよ」
「ところでミオ。皇子はどこにいらっしゃるのですか?」
初めて対面した皇子は黒い服を着て顔面蒼白だった。何を訪ねても受け答えが一定しない。怯えているようでもあり強がっているようでもあり、情緒不安定な状態だった。
「皇子様。私はハロルド・リーと言います。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「名前?俺の名前を聞いてくれるのか?」
「はい。まさかどなたも皇子様の名前を尋ねなかったのでしょうか?」
「ああ。誰も俺の事を俺としてみてくれなかったんだ。あいつ以外は」
「あいつとはどなたなのです?」
「俺と一緒にこの世界に来たやつだ」
この時、私は異世界から招かれたのが一人ではなく二人だったという事を知った。皇子の名前は渡瀬誠也というらしい。どうやら皇子と呼ばれるのが嫌なようだ。
「では私と二人の時は貴方の事をセイヤと呼びましょうか?」
「うん。じゃあ俺もハロルドと呼んでいいか?」
「ええ。かまいませんよ」
「ではまず自己紹介から。私は小さい頃、光属性と判定されこの神殿に連れて来られました。神聖力が高めなので、日々の業務はわたしがやっております」
「俺は……受験生だったんだ。親から良い学校に入れってずっといわれていて。でも思うように出来なくて。それが嫌で。本当に嫌で。俺より弟の方が成績が良かった。常に上位にいて中学受験も名門校にはいって。家の中に俺の居場所なんてなかった。だからアイツの足元に魔法陣が浮かんだ時に一緒に飛び込んだんだ」
「そうだったのですね。ではここでの生活はどうですか?」
「息苦しい。皆、ゲイルの人形みたいだ。ハロルドだけだ。俺に普通に接してくれたのは」
「皇子に対しては敬うように言われているのでしょう。では今後は貴方の世話は私が出来るように頼んでみましょう」
神官長の事だ。私がここの業務以外の事をするのは嫌がるだろうが皇子の事が気がかりだ。
「本当に?いいのか?」
「ええ。そのかわり、いろいろとお話してくれますか?」
「うん。いいよ」
本当は素直な子なのだろう。笑顔は幼い。前髪をあげれば可愛い顔立ちをしているようだ。これはしばらくは前髪をおろした髪形にしている方がいいだろうな。神官長に顔立ちがわからないほうが良い気がする。
「浄化は進んでいるのでしょうか?」
「それが俺はチカラが安定してないみたいで、モーガンの魔道具を使っているんだ」
「魔道具?それはどんなものなのですか?」
「よくわかんないんだ。使った後はすぐ意識がなくなるし、魔道具はモーガンに返さないといけないから」
「意識がなくなるのですか?」
「そうなんだ。まだ慣れてないせいだと言われたんだけど」
これは危険な魔道具を使わされているのではないだろうか?
あの召喚魔法陣を描いたのは私だ。精魂込めて書き上げた後、私は意識不明に陥った。かなりの神聖力を使ってしまったからだ。そうなることはわかっていた。だが、あの時、私しかそれを仕上げる事ができなかったのだ。ブラッドフォード卿にはそのことがお見通しだったようだ。
神官長の神聖力はほぼ失われている。これまで数々の試練や救いをされてきたせいだろうと思ってきた。敬い尊ぶことがすべてだと信じて祈ってきた。だが最近の彼を見る限りその思いに陰りが出て来てしまう。
ご自身の神聖力が失われ始めると彼は若い少年たちを手元に置くようになった。彼らと共に居ることで神聖力が高まるというのだ。確かに若者たちと仕事をすることで活気を取り戻されたようには見える。だが閨まで一緒というのはどうなのだろうか?
「ハロルド様!もう起きられてよろしいのでしょうか?」
神官見習いのミオが私を見つけて話しかけてきた。
「心配かけたようですね。もう大丈夫ですよ」
「よかった。お元気になられたのですね」
「ええ。それよりミオ、足の具合はどうですか?また少し治癒をかけておきましょうね」
「あ、ありがとうございます」
ミオは魔獣に襲われ一命をとりとめたが、足に後遺症が残ってしまった。定期的に治癒をかけないといけない身体だ。控えめな性格なので私以外には頼むことが出来ないようだ。
「痛みがあるときはすぐに近くいる神官に言うのですよ」
「……はい。でも……皆さん忙しそうですし」
「ケガ人を治すのが治癒師です。遠慮はしなくてもいいのですよ」
「ところでミオ。皇子はどこにいらっしゃるのですか?」
初めて対面した皇子は黒い服を着て顔面蒼白だった。何を訪ねても受け答えが一定しない。怯えているようでもあり強がっているようでもあり、情緒不安定な状態だった。
「皇子様。私はハロルド・リーと言います。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「名前?俺の名前を聞いてくれるのか?」
「はい。まさかどなたも皇子様の名前を尋ねなかったのでしょうか?」
「ああ。誰も俺の事を俺としてみてくれなかったんだ。あいつ以外は」
「あいつとはどなたなのです?」
「俺と一緒にこの世界に来たやつだ」
この時、私は異世界から招かれたのが一人ではなく二人だったという事を知った。皇子の名前は渡瀬誠也というらしい。どうやら皇子と呼ばれるのが嫌なようだ。
「では私と二人の時は貴方の事をセイヤと呼びましょうか?」
「うん。じゃあ俺もハロルドと呼んでいいか?」
「ええ。かまいませんよ」
「ではまず自己紹介から。私は小さい頃、光属性と判定されこの神殿に連れて来られました。神聖力が高めなので、日々の業務はわたしがやっております」
「俺は……受験生だったんだ。親から良い学校に入れってずっといわれていて。でも思うように出来なくて。それが嫌で。本当に嫌で。俺より弟の方が成績が良かった。常に上位にいて中学受験も名門校にはいって。家の中に俺の居場所なんてなかった。だからアイツの足元に魔法陣が浮かんだ時に一緒に飛び込んだんだ」
「そうだったのですね。ではここでの生活はどうですか?」
「息苦しい。皆、ゲイルの人形みたいだ。ハロルドだけだ。俺に普通に接してくれたのは」
「皇子に対しては敬うように言われているのでしょう。では今後は貴方の世話は私が出来るように頼んでみましょう」
神官長の事だ。私がここの業務以外の事をするのは嫌がるだろうが皇子の事が気がかりだ。
「本当に?いいのか?」
「ええ。そのかわり、いろいろとお話してくれますか?」
「うん。いいよ」
本当は素直な子なのだろう。笑顔は幼い。前髪をあげれば可愛い顔立ちをしているようだ。これはしばらくは前髪をおろした髪形にしている方がいいだろうな。神官長に顔立ちがわからないほうが良い気がする。
「浄化は進んでいるのでしょうか?」
「それが俺はチカラが安定してないみたいで、モーガンの魔道具を使っているんだ」
「魔道具?それはどんなものなのですか?」
「よくわかんないんだ。使った後はすぐ意識がなくなるし、魔道具はモーガンに返さないといけないから」
「意識がなくなるのですか?」
「そうなんだ。まだ慣れてないせいだと言われたんだけど」
これは危険な魔道具を使わされているのではないだろうか?
177
お気に入りに追加
542
あなたにおすすめの小説
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
【完結】売れ残りのΩですが隠していた××をαの上司に見られてから妙に優しくされててつらい。
天城
BL
ディランは売れ残りのΩだ。貴族のΩは十代には嫁入り先が決まるが、儚さの欠片もない逞しい身体のせいか完全に婚期を逃していた。
しかもディランの身体には秘密がある。陥没乳首なのである。恥ずかしくて大浴場にもいけないディランは、結婚は諦めていた。
しかしαの上司である騎士団長のエリオットに事故で陥没乳首を見られてから、彼はとても優しく接してくれる。始めは気まずかったものの、穏やかで壮年の色気たっぷりのエリオットの声を聞いていると、落ち着かないようなむずがゆいような、不思議な感じがするのだった。
【攻】騎士団長のα・巨体でマッチョの美形(黒髪黒目の40代)×【受】売れ残りΩ副団長・細マッチョ(陥没乳首の30代・銀髪紫目・無自覚美形)色事に慣れない陥没乳首Ωを、あの手この手で囲い込み、執拗な乳首フェラで籠絡させる独占欲つよつよαによる捕獲作戦。全3話+番外2話
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる