上 下
41 / 57

41)ハロルド

しおりを挟む
 ブラッドフォード卿から連絡が届いたのはその日の夕方だった。異世界から来られた皇子の現状を教えて欲しいとの事。どうしてそんなことを聞いてくるのかと不思議だった。無事に召喚は成功したのだから滞りなく浄化は進んでいるのだろうと思っていた。

 あの召喚魔法陣を描いたのは私だ。精魂込めて書き上げた後、私は意識不明に陥った。かなりの神聖力を使ってしまったからだ。そうなることはわかっていた。だが、あの時、私しかそれを仕上げる事ができなかったのだ。ブラッドフォード卿にはそのことがお見通しだったようだ。

 神官長の神聖力はほぼ失われている。これまで数々の試練や救いをされてきたせいだろうと思ってきた。敬い尊ぶことがすべてだと信じて祈ってきた。だが最近の彼を見る限りその思いに陰りが出て来てしまう。

 ご自身の神聖力が失われ始めると彼は若い少年たちを手元に置くようになった。彼らと共に居ることで神聖力が高まるというのだ。確かに若者たちと仕事をすることで活気を取り戻されたようには見える。だが閨まで一緒というのはどうなのだろうか?

 
「ハロルド様!もう起きられてよろしいのでしょうか?」
 神官見習いのミオが私を見つけて話しかけてきた。

「心配かけたようですね。もう大丈夫ですよ」
「よかった。お元気になられたのですね」
「ええ。それよりミオ、足の具合はどうですか?また少し治癒をかけておきましょうね」
「あ、ありがとうございます」

 ミオは魔獣に襲われ一命をとりとめたが、足に後遺症が残ってしまった。定期的に治癒をかけないといけない身体だ。控えめな性格なので私以外には頼むことが出来ないようだ。

「痛みがあるときはすぐに近くいる神官に言うのですよ」
「……はい。でも……皆さん忙しそうですし」
「ケガ人を治すのが治癒師です。遠慮はしなくてもいいのですよ」

「ところでミオ。皇子はどこにいらっしゃるのですか?」
 

 初めて対面した皇子は黒い服を着て顔面蒼白だった。何を訪ねても受け答えが一定しない。怯えているようでもあり強がっているようでもあり、情緒不安定な状態だった。

「皇子様。私はハロルド・リーと言います。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「名前?俺の名前を聞いてくれるのか?」
「はい。まさかどなたも皇子様の名前を尋ねなかったのでしょうか?」

「ああ。誰も俺の事を俺としてみてくれなかったんだ。あいつ以外は」
「あいつとはどなたなのです?」
「俺と一緒にこの世界に来たやつだ」


 この時、私は異世界から招かれたのが一人ではなく二人だったという事を知った。皇子の名前は渡瀬誠也わたせ せいやというらしい。どうやら皇子と呼ばれるのが嫌なようだ。

「では私と二人の時は貴方の事をセイヤと呼びましょうか?」
「うん。じゃあ俺もハロルドと呼んでいいか?」
「ええ。かまいませんよ」

「ではまず自己紹介から。私は小さい頃、光属性と判定されこの神殿に連れて来られました。神聖力が高めなので、日々の業務はわたしがやっております」

「俺は……受験生だったんだ。親から良い学校に入れってずっといわれていて。でも思うように出来なくて。それが嫌で。本当に嫌で。俺より弟の方が成績が良かった。常に上位にいて中学受験も名門校にはいって。家の中に俺の居場所なんてなかった。だからアイツの足元に魔法陣が浮かんだ時に一緒に飛び込んだんだ」

「そうだったのですね。ではここでの生活はどうですか?」
「息苦しい。皆、ゲイルの人形みたいだ。ハロルドだけだ。俺に普通に接してくれたのは」

「皇子に対しては敬うように言われているのでしょう。では今後は貴方の世話は私が出来るように頼んでみましょう」
 神官長の事だ。私がここの業務以外の事をするのは嫌がるだろうが皇子の事が気がかりだ。
「本当に?いいのか?」
「ええ。そのかわり、いろいろとお話してくれますか?」
「うん。いいよ」

 本当は素直な子なのだろう。笑顔は幼い。前髪をあげれば可愛い顔立ちをしているようだ。これはしばらくは前髪をおろした髪形にしている方がいいだろうな。神官長に顔立ちがわからないほうが良い気がする。

「浄化は進んでいるのでしょうか?」
「それが俺はチカラが安定してないみたいで、モーガンの魔道具を使っているんだ」
「魔道具?それはどんなものなのですか?」

「よくわかんないんだ。使った後はすぐ意識がなくなるし、魔道具はモーガンに返さないといけないから」
「意識がなくなるのですか?」
「そうなんだ。まだ慣れてないせいだと言われたんだけど」

 これは危険な魔道具を使わされているのではないだろうか?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の策略は婚約者に通じるか

BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。 フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン ※他サイト投稿済です ※攻視点があります

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

凌辱夫を溺愛ルートに導く方法

riiko
BL
24時間働けてしまうジャパニーズビジネスマン(社畜)が、アニメの世界に転生した。 気づいた瞬間終わりを悟る、自分の姿は凌辱夫のもとに嫁いだ悲しい公爵令息だった。しかもメインストーリ―のために犠牲になる、物語の初めに命を散らすだけのモブ。 元社畜の処世術が今こそ役立つ!? リリアンの可愛さで溺愛ルートへ導き、ゴマスリ術で生き残ってみせるぜ。 実は初めから溺愛ルートに入った辺境伯×中身は元社畜の死亡フラグ付き公爵令息 一部、凌辱夫を罵る場面がありますが、この作品は凌辱作品自体を否定するものではありません。内容は溺愛メインですのでご了承くださいませ☆ 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけますのでご注意くださいませ。 物語、お楽しみいただけたら幸いです。 コメント欄ネタバレ全解除につき、ご閲覧にはご注意くださいませ。

モブですけど!

ビーバー父さん
BL
ムーンライトノベルでの公開が一番早くなります。 https://novel18.syosetu.com/n4304gu/ 失恋の痛手で落ち込んでいた時に見つけたBLゲーム。 こんな世界で自由恋愛をしたいって思っていたら、異世界転生しちゃってました! BLゲームの世界でモブもモブ! エピソードにもならないけど、名前が付いててキャラクター設定はあるちょっとだけ生きやすいモブだと思ってた! モブだったはずなのに、真の主人公設定とかいらないから、モブに徹します! 真の主人公のフラグを折って折って、折りまくってやるー!! ありがとう!BLゲーム!美形しかいない世界の一応、可愛いだけのキャラだけど、自由恋愛するために飯テロしながらがんばります!

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

異世界トリップして10分で即ハメされた話

XCX
BL
付き合っていると思っていた相手からセフレだと明かされ、振られた優太。傷心での帰宅途中に穴に落ち、異世界に飛ばされてしまう。落ちた先は騎士団の副団長のベッドの上。その副団長に男娼と勘違いされて、即ハメされてしまった。その後も傷心に浸る暇もなく距離を詰められ、彼なりの方法でどろどろに甘やかされ愛される話。 ワンコな騎士団副団長攻め×流され絆され傷心受け。 ※ゆるふわ設定なので、騎士団らしいことはしていません。 ※タイトル通りの話です。 ※攻めによるゲスクズな行動があります。 ※ムーンライトノベルズでも掲載しています。

処理中です...