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・腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する
41)皇子の名前 sideハロルド
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ブラッドフォード卿から連絡が届いたのはその日の夕方だった。異世界から来られた皇子の現状を教えて欲しいとの事。どうしてそんなことを聞いてくるのかと不思議だった。無事に召喚は成功したのだから滞りなく浄化は進んでいるのだろうと思っていた。
あの召喚魔法陣を描いたのは私だ。精魂込めて書き上げた後、私は意識不明に陥った。かなりの神聖力を使ってしまったからだ。そうなることはわかっていた。だが、あの時、私しかそれを仕上げる事ができなかったのだ。ブラッドフォード卿にはそのことがお見通しだったようだ。
神官長の神聖力はほぼ失われている。これまで数々の試練や救いをされてきたせいだろうと思ってきた。敬い尊ぶことがすべてだと信じて祈ってきた。だが最近の彼を見る限りその思いに陰りが出て来てしまう。
ご自身の神聖力が失われ始めると彼は若い少年たちを手元に置くようになった。彼らと共に居ることで神聖力が高まるというのだ。確かに若者たちと仕事をすることで活気を取り戻されたようには見える。だが閨まで一緒というのはどうなのだろうか?
「ハロルド様!もう起きられてよろしいのでしょうか?」
神官見習いのミオが私を見つけて話しかけてきた。
「心配かけたようですね。もう大丈夫ですよ」
「よかった。お元気になられたのですね」
「ええ。それよりミオ、足の具合はどうですか?また少し治癒をかけておきましょうね」
「あ、ありがとうございます」
ミオは魔獣に襲われ一命をとりとめたが、足に後遺症が残ってしまった。定期的に治癒をかけないといけない身体だ。控えめな性格なので私以外には頼むことが出来ないようだ。
「痛みがあるときはすぐに近くいる神官に言うのですよ」
「……はい。でも……皆さん忙しそうですし」
「ケガ人を治すのが治癒師です。遠慮はしなくてもいいのですよ」
「ところでミオ。皇子はどこにいらっしゃるのですか?」
初めて対面した皇子は黒い服を着て顔面蒼白だった。何を訪ねても受け答えが一定しない。怯えているようでもあり強がっているようでもあり、情緒不安定な状態だった。
「皇子様。私はハロルド・リーと言います。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「名前?俺の名前を聞いてくれるのか?」
「はい。まさかどなたも皇子様の名前を尋ねなかったのでしょうか?」
「ああ。誰も俺の事を俺としてみてくれなかったんだ。あいつ以外は」
「あいつとはどなたなのです?」
「俺と一緒にこの世界に来たやつだ」
この時、私は異世界から招かれたのが一人ではなく二人だったという事を知った。皇子の名前は渡瀬誠也というらしい。どうやら皇子と呼ばれるのが嫌なようだ。
「では私と二人の時は貴方の事をセイヤと呼びましょうか?」
「うん。じゃあ俺もハロルドと呼んでいいか?」
「ええ。かまいませんよ」
「ではまず自己紹介から。私は小さい頃、光属性と判定されこの神殿に連れて来られました。神聖力が高めなので、日々の業務はわたしがやっております」
「俺は……受験生だったんだ。親から良い学校に入れってずっといわれていて。でも思うように出来なくて。それが嫌で。本当に嫌で。俺より弟の方が成績が良かった。常に上位にいて中学受験も名門校にはいって。家の中に俺の居場所なんてなかった。だからアイツの足元に魔法陣が浮かんだ時に一緒に飛び込んだんだ」
「そうだったのですね。ではここでの生活はどうですか?」
「息苦しい。皆、ゲイルの人形みたいだ。ハロルドだけだ。俺に普通に接してくれたのは」
「皇子に対しては敬うように言われているのでしょう。では今後は貴方の世話は私が出来るように頼んでみましょう」
神官長の事だ。私がここの業務以外の事をするのは嫌がるだろうが皇子の事が気がかりだ。
「本当に?いいのか?」
「ええ。そのかわり、いろいろとお話してくれますか?」
「うん。いいよ」
本当は素直な子なのだろう。笑顔は幼い。前髪をあげれば可愛い顔立ちをしているようだ。これはしばらくは前髪をおろした髪形にしている方がいいだろうな。神官長に顔立ちがわからないほうが良い気がする。
「浄化は進んでいるのでしょうか?」
「それが俺はチカラが安定してないみたいで、モーガンの魔道具を使っているんだ」
「魔道具?それはどんなものなのですか?」
「よくわかんないんだ。使った後はすぐ意識がなくなるし、魔道具はモーガンに返さないといけないから」
「意識がなくなるのですか?」
「そうなんだ。まだ慣れてないせいだと言われたんだけど」
これは危険な魔道具を使わされているのではないだろうか?
あの召喚魔法陣を描いたのは私だ。精魂込めて書き上げた後、私は意識不明に陥った。かなりの神聖力を使ってしまったからだ。そうなることはわかっていた。だが、あの時、私しかそれを仕上げる事ができなかったのだ。ブラッドフォード卿にはそのことがお見通しだったようだ。
神官長の神聖力はほぼ失われている。これまで数々の試練や救いをされてきたせいだろうと思ってきた。敬い尊ぶことがすべてだと信じて祈ってきた。だが最近の彼を見る限りその思いに陰りが出て来てしまう。
ご自身の神聖力が失われ始めると彼は若い少年たちを手元に置くようになった。彼らと共に居ることで神聖力が高まるというのだ。確かに若者たちと仕事をすることで活気を取り戻されたようには見える。だが閨まで一緒というのはどうなのだろうか?
「ハロルド様!もう起きられてよろしいのでしょうか?」
神官見習いのミオが私を見つけて話しかけてきた。
「心配かけたようですね。もう大丈夫ですよ」
「よかった。お元気になられたのですね」
「ええ。それよりミオ、足の具合はどうですか?また少し治癒をかけておきましょうね」
「あ、ありがとうございます」
ミオは魔獣に襲われ一命をとりとめたが、足に後遺症が残ってしまった。定期的に治癒をかけないといけない身体だ。控えめな性格なので私以外には頼むことが出来ないようだ。
「痛みがあるときはすぐに近くいる神官に言うのですよ」
「……はい。でも……皆さん忙しそうですし」
「ケガ人を治すのが治癒師です。遠慮はしなくてもいいのですよ」
「ところでミオ。皇子はどこにいらっしゃるのですか?」
初めて対面した皇子は黒い服を着て顔面蒼白だった。何を訪ねても受け答えが一定しない。怯えているようでもあり強がっているようでもあり、情緒不安定な状態だった。
「皇子様。私はハロルド・リーと言います。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「名前?俺の名前を聞いてくれるのか?」
「はい。まさかどなたも皇子様の名前を尋ねなかったのでしょうか?」
「ああ。誰も俺の事を俺としてみてくれなかったんだ。あいつ以外は」
「あいつとはどなたなのです?」
「俺と一緒にこの世界に来たやつだ」
この時、私は異世界から招かれたのが一人ではなく二人だったという事を知った。皇子の名前は渡瀬誠也というらしい。どうやら皇子と呼ばれるのが嫌なようだ。
「では私と二人の時は貴方の事をセイヤと呼びましょうか?」
「うん。じゃあ俺もハロルドと呼んでいいか?」
「ええ。かまいませんよ」
「ではまず自己紹介から。私は小さい頃、光属性と判定されこの神殿に連れて来られました。神聖力が高めなので、日々の業務はわたしがやっております」
「俺は……受験生だったんだ。親から良い学校に入れってずっといわれていて。でも思うように出来なくて。それが嫌で。本当に嫌で。俺より弟の方が成績が良かった。常に上位にいて中学受験も名門校にはいって。家の中に俺の居場所なんてなかった。だからアイツの足元に魔法陣が浮かんだ時に一緒に飛び込んだんだ」
「そうだったのですね。ではここでの生活はどうですか?」
「息苦しい。皆、ゲイルの人形みたいだ。ハロルドだけだ。俺に普通に接してくれたのは」
「皇子に対しては敬うように言われているのでしょう。では今後は貴方の世話は私が出来るように頼んでみましょう」
神官長の事だ。私がここの業務以外の事をするのは嫌がるだろうが皇子の事が気がかりだ。
「本当に?いいのか?」
「ええ。そのかわり、いろいろとお話してくれますか?」
「うん。いいよ」
本当は素直な子なのだろう。笑顔は幼い。前髪をあげれば可愛い顔立ちをしているようだ。これはしばらくは前髪をおろした髪形にしている方がいいだろうな。神官長に顔立ちがわからないほうが良い気がする。
「浄化は進んでいるのでしょうか?」
「それが俺はチカラが安定してないみたいで、モーガンの魔道具を使っているんだ」
「魔道具?それはどんなものなのですか?」
「よくわかんないんだ。使った後はすぐ意識がなくなるし、魔道具はモーガンに返さないといけないから」
「意識がなくなるのですか?」
「そうなんだ。まだ慣れてないせいだと言われたんだけど」
これは危険な魔道具を使わされているのではないだろうか?
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