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3)王宮の執務室
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「宰相よ、此度はいかがであったか?」
宮廷の執務室は人払いをしている。今は俺とこの国の王太子であるアーベル・ユンクヴィスト・アルミュールとその側近のヘルマンだけだ。ヘルマンは壮年の紳士でアーベルの幼少時から傍らにいる従者だ。
「はい。無事に召喚の儀式は終えました」
「そうか、まずは一安心だな。偵察隊からはまた瘴気が濃くなった地域があると報告を受けた」
王太子は深い翠色の瞳を伏目勝ちにし憂いを帯びた表情だ。
「さようでございますか。では当初の予定通り、騎士団の派遣と避難場所の確保を急ぎましょう」
「うむ。采配はまかせる」
「御意」
アーベルは愚かではない。無能だったのは父王だ。私利私欲に目が眩んだ側近達に唆され同じように甘い汁を吸っていたのだ。先程のくそ神官長もその一人だ。俺は王太子の命を受け密かにその内情を探っている。
「お前が宰相になってくれて良かった」
「ありがたき幸せ」
「おいおい、シド。もう仕事の話しは終わりだ。私とヘルマンだけの時くらい砕けた口調にしてくれ」
ヘルマンが頷きながら茶を入れたカップを俺の前に置いてくれた。王太子が見事なブロンドの髪をガシガシとかきながら口をへの字にしている。足も崩し、シャツのボタンも緩めてしまった。
まったく、俺と居ると気を抜き過ぎだ。臣下の前ではそれをやるなよ。
アーベルと俺は学生時代からの仲だ。その時のアーベルはまだ第二王子だった。
温室育ちの王子をあちこち連れ回したのは俺だ。魔法で髪や目の色を変えて市井に繰り出して平民達の現状や貧困なども見て回った。
何不自由なく育った王子には衝撃的な事実だったのだろう。貧富の差が広がっていたなんて。時には暴れて時には嘆き、アーベルは王宮の不正や貴族社会の歪みに気づいてくれた。
同時に俺達はきれいごとだけでは世の中は回らない事も知ったのだ。その頃出会った仲間は数少ない友と呼べる者達だ。今では俺の影として働いてくれている。
2年前に王が病に倒れた。倒れる様に仕向けたのはこの俺だ。いつまでも無能な王がこの国を牛耳っていることが我慢ならなかったのだ。本当はアーベルも薄々は気づいているのだろう。
アーベルは立太子すると腐敗したこの国の体制を正したいと動き出した。まさか俺を宰相にまで引き上げるとは思ってもみなかった。だがまだ後ろ盾が少ないのが現状だ。まあ、裏でいろいろと策を講じてはいるがな。
「わかった。これからが大変だな」
「ああ。異世界人を招喚してしまったからな」
「あのバカどもは自分達の名声や利益を優先にするだろうからな。ちやんと仕事をするのか見張らないと。ったく!面倒くさい」
「ははは。シドは見た目は月下の麗人のくせに口が悪すぎだぞ」
「ほっといてくれ。だがこの外見で騙されてくれるのならいくらでも使うぞ」
「ふふ。頼りにしているよ」
「ところでひとつ耳に入れておきたい」
「なんだ?」
「今回召喚されたのは一人ではないかもしれないのだ」
宮廷の執務室は人払いをしている。今は俺とこの国の王太子であるアーベル・ユンクヴィスト・アルミュールとその側近のヘルマンだけだ。ヘルマンは壮年の紳士でアーベルの幼少時から傍らにいる従者だ。
「はい。無事に召喚の儀式は終えました」
「そうか、まずは一安心だな。偵察隊からはまた瘴気が濃くなった地域があると報告を受けた」
王太子は深い翠色の瞳を伏目勝ちにし憂いを帯びた表情だ。
「さようでございますか。では当初の予定通り、騎士団の派遣と避難場所の確保を急ぎましょう」
「うむ。采配はまかせる」
「御意」
アーベルは愚かではない。無能だったのは父王だ。私利私欲に目が眩んだ側近達に唆され同じように甘い汁を吸っていたのだ。先程のくそ神官長もその一人だ。俺は王太子の命を受け密かにその内情を探っている。
「お前が宰相になってくれて良かった」
「ありがたき幸せ」
「おいおい、シド。もう仕事の話しは終わりだ。私とヘルマンだけの時くらい砕けた口調にしてくれ」
ヘルマンが頷きながら茶を入れたカップを俺の前に置いてくれた。王太子が見事なブロンドの髪をガシガシとかきながら口をへの字にしている。足も崩し、シャツのボタンも緩めてしまった。
まったく、俺と居ると気を抜き過ぎだ。臣下の前ではそれをやるなよ。
アーベルと俺は学生時代からの仲だ。その時のアーベルはまだ第二王子だった。
温室育ちの王子をあちこち連れ回したのは俺だ。魔法で髪や目の色を変えて市井に繰り出して平民達の現状や貧困なども見て回った。
何不自由なく育った王子には衝撃的な事実だったのだろう。貧富の差が広がっていたなんて。時には暴れて時には嘆き、アーベルは王宮の不正や貴族社会の歪みに気づいてくれた。
同時に俺達はきれいごとだけでは世の中は回らない事も知ったのだ。その頃出会った仲間は数少ない友と呼べる者達だ。今では俺の影として働いてくれている。
2年前に王が病に倒れた。倒れる様に仕向けたのはこの俺だ。いつまでも無能な王がこの国を牛耳っていることが我慢ならなかったのだ。本当はアーベルも薄々は気づいているのだろう。
アーベルは立太子すると腐敗したこの国の体制を正したいと動き出した。まさか俺を宰相にまで引き上げるとは思ってもみなかった。だがまだ後ろ盾が少ないのが現状だ。まあ、裏でいろいろと策を講じてはいるがな。
「わかった。これからが大変だな」
「ああ。異世界人を招喚してしまったからな」
「あのバカどもは自分達の名声や利益を優先にするだろうからな。ちやんと仕事をするのか見張らないと。ったく!面倒くさい」
「ははは。シドは見た目は月下の麗人のくせに口が悪すぎだぞ」
「ほっといてくれ。だがこの外見で騙されてくれるのならいくらでも使うぞ」
「ふふ。頼りにしているよ」
「ところでひとつ耳に入れておきたい」
「なんだ?」
「今回召喚されたのは一人ではないかもしれないのだ」
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