ブラッドフォード卿のお気に召すままに～～腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する～～

10）イブの素質

「イブ様はエルシド様がいらっしゃらないときは屋敷の用事だけじゃなく図書室で勉強にも励まれておられます」
　デニスが目を細めて報告をする。お前もイブを気に入ってるのだな。

「ほお。それは凄いな。だがあまり根を詰めるなよ」
　クラークやデニスにはイブが自由にできるように屋敷の中では好きにさせるように言いつけていた。我が屋敷の図書室にはこの国の創設や過去の史実などありとあらゆる司書や蔵書が収められている。俺もお気に入りの場所なのだが、イブもそこが気に入ったとは。俺と趣味が合いそうだな。

「はい。無理はしません。でもここの図書室は凄いですね！面白そうな本がいっぱいあって、史実だけじゃなく薬草学や動物図鑑なども沢山あって。僕、本当は獣医になるつもりで大学に通っていたんですよ」

「ジュウイ？それはなんだ？」
「動物のお医者さんです」
「なんと。人間ではなく動物専門の医者というのがあるのか？」

「イブ様が中庭に出られると不思議と小さな動物達が寄ってこられます。怪我をしてる生き物の手当てをなさった時は驚きました」
　この屋敷周辺には結界が張ってある。大型の動物や危害を与える魔獣などは入れないはずだが、小型の動物には効かないのか？

「手当てをしただと？」
「歩き方がおかしかったうさぎ……ジャンピンがいたんです。足に棘が刺さっていたようで、棘を抜いてあげただけです」

「私どもにはその様子が光って見えました」
「僕は自分が光ったかなんてわかりませんがすぐにジャンピンは跳ねていってしまいました。この世界の動物は体力があるんですね」

「まさか素手で捕まえたというのか？」
　傷を治したというのか？だが危ないのではないのか？例えデニスが護衛についていても。相手は野性動物だ。

「はい。うさぎというよく似た種類の動物を飼っていたので捕まえるのには慣れていました。僕の世界では魔法が使えなかったので薬や医療が発達していました。田舎だったので家畜が沢山いたんです。両親が亡くなってからは動物達が僕の心の支えでした。一匹ずつ手放して行ったのですが、最後の一匹は僕にとても懐いていて常に一緒に居たんです。でも病気になってしまって。最後はあっけなかった。だから救える命があるなら救えるようになりたいと思うようになったのです」

　治癒魔法を使わない世界だと？もしここでもそれが出来れば神殿の力を削ぐことが出来る。

「イブの知識は人間にも使えるか？」

「あ……。ごめんなさい。僕はヒトは専門外です。でも薬草から薬が作れると思います」

　薬草か。地方に行くと薬草を主な生業とした商人がいる。なかなか王都の神殿まで来れないからだ。地方にも神官から派遣された治癒師はいるが、主に有力貴族や商人の傍使えだ。

「あの、まずは厩舎で馬の世話をしている者達に話をきいたらいかがでしょう？」
「馬の世話係にか？なぜだ？」

「この世界の馬には鼻の上に角がありますよね？馬車用はその角を切り落としてるらしいですが、発情期などは気性が荒くなり生え始めた尖った角で相手を威嚇すると本で読みました。治癒師は貴重な存在とききましたので、主に人間専用でしょ？馬の傷を癒す薬草などを使っているんじゃないでしょうか？」

　入手先を探せということか。確かに薬師は存在するが、治癒師より重要視されてはいない。それが当然だったからだ。これを機に薬師を育てる事業を立ち上げても良いかもしれない。


「なるほど。イブ、お前なかなか頭が回るな」

　今まで無意識に当たり前だと思っていた事がイブの視線から見ることで見方が変わる。俺自身、この世界の常識とやらに染まっていたのだと気づかされた。これはいいぞ。使えるぞ。

　イブはこのまま俺の従者にしてしまおうか。