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・腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する

23)汚染

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 しばらくして偵察隊から東の地域で水が汚染されているという知らせが届いた。

 水だと?その一帯は作物が育たなくなっているらしい。水耕地の用水路からは異臭が放ち、水源地をつきとめるといつのまにか泉だった場所が瘴気を帯びた沼のようになっていた事が判明した。

 すぐに村人達を避難させたが、体調不良で寝込んでいる者も多い。まだこの程度で済んだのだから良い方なのかもしれないな。

 瘴気が発生する鍵は水にあるのか?それとも瘴気は水に溶けやすいのだろうか。人間の血液も液体だ。これはひょっとして人間も瘴気を浴び続けていたら魔獣のようになってしまうのだろうか?

 獣と人間の違いはなんだ?理性か?人は理性が働くから魔獣にならないのか?いや、なりにくいだけかもしれない。実証してみたいが人体に関わる事だ。人々を危険な目にあわすことは出来ない。

 それにもしも、瘴気から発生する魔物が人になってしまったら?魔人となるのか?知恵を持ってしまうとこれまでのようなやりかたで太刀打ちできない気がする。それだけは阻止しないといけない。


 提出されていた『作物の被害報告』は農家の戯言だと思われていたのかもしれない。作物の収穫量をごまかす為に偽造書を作成したのかもと、細かい調査もせずにこの書類は後回しにされていたのだろう。

 俺の手元に陳情書が届くのがもう少し早かったら。いや、あのとき毛玉が見つめていなかったら俺も重要視してなかったかもしれない。未処理のまま書類の束の中に紛れていた可能性が高かっただろうな。

「ユキに感謝だな」

 やはりオウルは優れた能力を持っている。モノを見極めるチカラがあるようだ。


 調査を進めると沼を中心として瘴気が拡大しつつあるらしい。周辺に魔獣も出現し出したようだ。今回は神殿にも要請を出さなければなるまい。沼の浄化が必要だからだ。

 危険な場所になるなら神官長ゲイルはやってこないだろう。あいつは自分の保身しか考えない奴だ。代わりに皇子を派遣してくるだろうな。だが皇子には良いイメージがないし、正直イブには会わせたくないものだ。

 だがまあ、あちらも異世界からの客人だ。騎士団長ユリシーズには皇子側についてもらう様に打診をしておこう。できれば神官長との間に入ってもらいたいがあいつにそこまで出来るとは思えない。人には得手不得手というものがある。




「エルシド様。イブ様のお洋服が出来上がってまいりました」
 いつものようにクラークが気配を消して近づいてきていた。まったくお前にはスパイ業務をさせていた方がよかったかもしれないな。何かと活用できるから俺の傍に置いているのだが。

「そうか。間に合ったか」
「討伐用でございますか?」
「そうだ。攻撃無効化と毒性無効化、身体増強など付与させたものだ」
「どこかの国と戦争でもしそうな耐久性ですね」
「するわけないだろう。俺が絶対にさせねえ」

「またお渡しするときはエルシド様のお古だと伝えるのですか?」
「そうだ。その都度衣装を作っていると知ってたら気を使わせることになるからな」
 それでイブキが着てくれなかったら作った意味がないではないか。

「これで何着めでしたでしょうか?そんなに袖を通していない新品の服が多くあるなんて疑問に思われるかもしれませんよ」
「貴族だからこれくらいは持っている物だと伝えてくれればいいさ。イブは異世界から来た客人だからな」
「さようでございますね。な客人ですからね」

「クラーク。お前なんか棘がある言い方していないか?」
「とんでもございません。すべてはエルシドごしゅじんさまのお気に召すままに」



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