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11 前編 *

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「もうひとつの姿を見せて?」

 母屋の離れ。
シュウマの部屋がある離れに連れて来られたアヤトは、畳の上に転がされてしまう。
倒れたアヤトをシュウマは覆い被ってきた。

「偽の恋愛感情だったら、人じゃない姿を見たら理解すると思うんだ」

 子どもの頃、目撃した兄の異形な姿を思い出す。
確かにあの姿を見れば、百年の恋心も冷めるかもしれない。だが――。

「そんなの賭けじゃん」

 兄の結婚相手は、兄のあの姿を見た人だ。

「ますます変な力でシュウマを縛られるじゃないのか?」
「だったら、どうして、俺はカスミさんを好きにならないんだろう? 不思議だね」
「そんなの……分かんないよ…………」

 偶然? たまたま? それとも、本当に?
兄への恋愛感情がないというシュウマにアヤトは混乱する。
アヤトの仮説では、鹿ノ目家の者を信仰するように催眠術やら暗示やら何か不思議な力やらが作用していると思っていたのだ。
シュウマが兄に恋愛感情を抱いてない。
そうなるとアヤトの考えていた仮説が崩れてしまう。

「もうひとつのアヤトを見せて。それで俺の反応を見て信じてよ」
「…………わかったよ」

 押し倒されたままで進展しないと思ったアヤトは渋々頷いた。

「だけど、あの時の兄ちゃんみたいな姿……どうやったら、なれるのかオレは分かんねぇーよ?」
「大丈夫。覚えてるから」
「なにを……」

 覚えている。シュウマの発言の意味が分からない。
「どういう意味だ?」と口を開きかけたアヤトの唇が塞がれ、互いの吐いた息が混じり合う。

「突然、なにすんだっ!?」

 肩を押した。
チュッ、チュッと唇を啄むようなキスされたアヤトは当惑する。

「気付いてなかったんだね。俺達がした時、もうひとつの姿になっているんだよ」
「知らんわ、そんなこと」

 受け入れる身として性行為中は、必死なのだ。
今、どんな姿を晒しているのか気にする余裕なんてない。
あとから実は…と告げられたとて覚えてないのである。

「そう? でも、忘れたの?」
「何をだよ」
「カスミさんの正体を知って逃げ出した時、カスミさんと旦那さんは、エッチなことしてたんだよ」
「マジでッ!?」

 ブッ!? とアヤトは息を吹き出しそうになった。
あの時、兄達の性行為を目撃していたとは露ほど思っていなかった。

(気…気付かなかった……)

 当時は、八才。仲がいいなぁというぐらいしか認識してなかった。
やがで、小学校の授業でやんわりと男女の性行為やら赤ちゃんはどこから来るのかを習うとはいえ、現実になるとなかなか結びつかないものである。

「そのセッ…クスすれば、なるんだな?」
「うん、たぶん。なれるよ。おそらく興奮すると変わっちゃうのかな?」
「じゃあ、見せればいいんだな……?!」
「そうだね。例え村の神様でも人じゃないものは、恐れるよ」

 おかしな流れになってしまった。
別れ話からなぜか性行為をする話になり、アヤトは心のどこかで何か引っ掛かるが上手く言語化ができず。

「今、ここで見せてよ。絶対逃げたりしないから、ね?」

 耳許で低く囁かれるままにコクリと頷く。
結局、あやしい雰囲気に吞まれてしまった。



 静かな室内でリップ音が響く。
万歳した状態で中途半端にシャツを脱がされたアヤトは晒した肌に口付けをされている。

――これで…本当に変わるのか……?

 身体に異常を感じず、今のところ何か変わった様子はない。
色々な箇所にキスされ、恥ずかしく思っていると唇の上に落とされる。

「んっ」

 シュウマの舌先が唇に触れ、開いてねだる。
それに応えるようにおそるおそる口を開けば、シュウマの舌がアヤトの口の中に入る。
舌を使った深い口付けにゾクゾクとした感覚が背筋を上っていく。
 
「ん、は、っ」
「っン」

 まともに酸素を取り込めない。頭がクラクラしてくる。
二人ともそうだ。酸素を奪い合って舌を絡めるキスをしているのだから、息苦しくなるのは当たり前で。

「ふ、へぁ」

 どっちから先に口を離したのかやら。
お互い息を弾ませ、頬を紅潮させてしばらく見つめ合った。
 不意に「キレイだね」と腰のラインを手のひらで撫でられ、ゾクリとする。
神経を直接触られた感覚がし、反射的に腰を浮かす。
その隙にシュウマは、下着ごとズボンを下ろし裸にした。

「きもち…よかった?」
「見りゃあわかんだろ」

 性器が緩く勃ち上がっている。性的に興奮した証だ。

「じゃあ、もっときもちよくしてあげる」
「オィ……わっ」

 手で下生えを押さえるとシュウマは、アヤトの中心を口の中に含ませた。

「ちょ、わ、やめろ。まだ風呂に入ってねぇーから汚ねぇって」
「ひはなふあひよ」
「咥えながらしゃべんな」

 大事な箇所に歯が当たらないかヒヤヒヤする。
アヤトの心配を余所にシュウマは、ぬるりと湿った舌で裏筋や亀頭を舐めて刺激した。

「あ、っは、ン」

 手とは違い、股間だけがぬるま湯に浸かるようで心地で気持ちがいい。
性的な行為をされている状況も相まって興奮が高められていく。
情事に耽る二人はまだ気付いてないが、興奮したアヤトの瞳の色は徐々に変化していた。
元から色素の薄い茶色の瞳からさらに色素が抜け、白に近くなり光彩を帯び始める。

「あ…………」

 愛撫する中、不意にシュウマは声を漏らす。気付いたのだ。
半透明の触手が自分の腕にそうっと絡みついていることを。
それは、アヤトの腰辺りから生えている。まるで毒のないイソギンチャクみたいな触手だ。

(キレイだ)

 チラッと目線を上げて見たアヤトの頭には鹿のツノが見えた。
あまりの神秘さに感嘆する。

(ぐちゃぐちゃにしたくなるほど……キレイだ)

 大切にしたいと思えば思うほど反動なのか穢したいという気持ちが増していく。
アヤトは、シュウマの恋心を偽物だというが信仰するものを穢したいと思えるのだろうか?
シュウマは疑問に思い、自分自身で否定する。

(自分の所有物モノだと印をつけたい。大切にしたい気持ちと矛盾しているけれど好きだからだ)

 歪んだ加虐性の裏に潜んでるのは、他人に奪われたくないという心だとシュウマは解釈している。
もう十分だろう。シュウマは愛撫をやめ、口からアヤトの性器を離す。

「すごく…興奮してる」
「へ……?」

 あと少しでイキそうだったのを止められ、アヤトはきょとんとするが。

「ぇ…あ……うそ…………」

 アヤトは、さぁと顔を青褪める。
自分の身体から触手が生えており、うねうねと動くのを見て動揺した。
嬌声をあげながら天を仰いでいたため、全然自分自身の変化に気付いてなかった。

「ス……ストップ! もういい、すんな。見んなよ」
「ダメだよ。ちゃんと証明しなきゃ。俺がアヤトを好きなことを」
「キモイだろ。こんなカラダ、普通に」
「そんなことないよ。アヤト、キレイだよ」
「そんなわけ、ない……って」

 両の手足すらバタつかせ、自分からシュウマを離そうとする。
「好きだよ」と軽く抱き込むようにバタバタする手足を押さえるとアヤトに生えたツノと触手に口付ける。

(キスできるなんて……信じらんない……)

 自分自身ですら醜いと思う箇所に触れられるシュウマを奇異な目で見てしまう。
そして、アヤトは見て気付く。
本当に……本当に愛おしそうに見つめてくるシュウマの姿、表情、瞳を――。

(なんて、顔すんだよ)

 嘘だ、と意固地になり否定しようとした言葉を呑み込むほどだった。
バケモノだとしても嫌わない。それどころ愛してくれる。
自覚するとひとつひとつの愛撫が特別に恥ずかしくなった。

「お前の気持ちはわかったから!」

 セックスを止めるようと要求するが、ニコッと微笑みを返された。
無視したシュウマは、アヤトの両足を上げるとその間に顔を埋める。

「もういい! わかったから、もう、んにゃ?!」

 蕾を口づけられ、濡れた舌の感触に普段発しない声が出た。
くちゅくちゅと下半身から水を含んだ音が聞こえてくる。

「やめろ。汚い、そこ汚ねーからっ!」
「ンー…でも、優しくしたいから……」
「そんぐらいガマンすっから、もういい」

 耳の裏を搔き上げるように両手で掴み、引き離そうとするができない。
頑なにシュウマは離れず、アヤトは性器も愛撫されて力が抜けていた。
前回よりもシュウマは巧い。
以前の経験でアヤトの身体を、感じる箇所を知っているのだ。
シュウマを制止できなかったアヤトは、しっとり蕾が解れるまで愛撫され続けた。

「泣かないで? アヤト」
「泣いてねーよ、あほぉ」

 愛撫が終わるまで顔を両手で覆っていたアヤトに向けて言った。
顔を真っ赤にしながら、睨む姿は小さな犬みたいでかわいいとシュウマは微かに笑いつつ、アヤトの腰を浮かせた。

「おわ…?!」

 急に腰を浮かせられたのでとっさに腕を使い、体勢をとった。
畳みは擦れるとヒリヒリして痛い。
シュウマは、テキパキと近くにあった座布団や脱いだ服を下に敷いて準備を整え、ゴムを装着する姿を見せた。

「……ゴメン」
「何が?」
「うざいだろ、それ」

 待ち遠しいのか構ってほしいのか。
触手がシュウマの腕に絡んだり、手の甲をちょんちょんと突いてたりしている。
動かさないと思えば止まりはするが、何も考えなければ自由に動いた。

「かわいいよね」
「どこがッ!?」

 シュウマの独特な感性に思わずツッコミを入れた。
自ら話を振っておきながら、アヤトの中で盛り上がっていたムードから少し冷静になった。

「かわいいよ? 俺のこと好きなんだなぁって」
「んなっ」
「余裕出てきたみたいだし、挿入れるよ」

 準備を終えたシュウマのモノがアヤトのソコに宛がう。
口で解されたとはいえ、異物が挿入される感覚は慣れない。
喘ぎよりも唸り声をあげ、額に汗を滲ませながらシュウマのイチモツを受け入れた。

「う…ッんん……ふはぁ…ン……」
「ッ…く……」

 ミチミチと肉が擦れ合い、ゆっくりと奥へと進んでいく。
無意識の内にシュウマの腕に絡みつく強さを増した。その痛みが逆に離したくないと訴えたみたいでシュウマは愛しさを募らせた。

「は……ふ……」

 動きが止まる。
じんわりと汗を滲ませた顔と向き合う。
いつもと変わらない。何を考えているか読めない表情だ。
それでも、以前よりその瞳は優しかった。
いや、気付いてなかっただけでアヤトを見つめる瞳はいつも優しかったのだ。

——ほんと…オレってバカだよなぁ。

 愛されているとわかり、じわっと涙が滲む。
安堵で涙腺を緩ませた表情を間近で見たシュウマは少し眉を寄せて。

「もう少し落ち着いてからと思ったけど……いいよね?」

 グリッと体内ナカで動く感触がし、あっ…と声が漏れる。

「きゅ…急に・・・…」
「我慢したんだよ? 結構・・・…」
「あぐ…ア……」

 引いては進み。ナカを摩られ、埋められ、快感を得る箇所を刺激される。
少し縮んでいた性器が互いの腹に挟まれ擦れて先走りの液を垂らしていく。

「ア…ア…ンアァア……!」

 何度も腰を揺さぶられ、刺激を受け続けた身体はやがて決壊する。
嬌声を上げながら、射精したのと同時にぶわっと触手が広がり、開花した。
シュウマを抱きしめ、離さないかの如く、すっぽりと包まれた。

 その中で二人は、たくさんの愛を紡ぐのだった。
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