上 下
14 / 16

10 後編

しおりを挟む

 昨日兄から『シカノメ』に関する話を聞いたアヤトは、自信を無くしていた。
シュウマの好意は、自分に流れる神様の血筋のせいで好きと勘違いをしているかもしれない。

――村にいる間。一週間はシュウマとの思い出を作ろう!

 一晩布団の中で考えた末、そう結論に至る。
信仰心と恋心は違うとアヤトは思う以上、本当の意味で愛されていないと感じ虚しくなるのだ。
シュウマからの告白や好意を疑うであろう自分自身が嫌いになる。

――身勝手だよなぁ。付き合ってすぐ別れようなんて。

 正直にいえばシュウマと別れたくない。
だが、シカノメというものに縛られているのなら、解放してやりたいのだ。
そして、本当の意味で好きになった相手と幸せになってほしいとアヤトは願うのだった。


 村に帰省してから、そろそろ一週間になる。
今日こそは別れを告げようと決意を固めたアヤトは、シュウマの仕事が終わったら会う約束をするとごろりと仰向けになった。
 兄と義兄は、朝から職場に出かけている。
約束の時刻までまだたっぷりと時間があるアヤトは、ひとり居間でゴロゴロした。

――できれば、もめたくないなぁ。

 ごろりごろりと転がりつつ、どう別れを切り出そうかと悩む。
この一週間ほど円満に別れる方法がないかと考えてきたが、さっぱり思いつかなかった。
そのため、まずは兄から聞いた話を伝えうと思い至る。

――勘違いしていると分かれば、わかってくれる。

 自分を好きではないとシュウマに気付かせてやれねば……。
幼馴染を想い、正しいことをしているはずなのにズキズキと心が痛んだ。


「もうそろそろ、あっちに戻ろうと思う」

 子供の頃、よく一緒に遊んだ公園で二人は会い、ベンチに座った。
夕飯時に近いためか子どもの姿はない。大人で公園にいるのはアヤトとシュウマだけだ。

「それで……シュウマ、ごめん!」
「えっ、どうしたの?」
「オレ達、別れよう」

 思い切って別れを切り出した途端、見るからにシュウマはしゅんとなった。

「俺、何かアヤトに嫌われるようなことをしちゃったの、かな?」
「違う。シュウマは悪くないんだ。オレが…オレの存在自体がシュウマにとって良くなくて……」
 
 何か気に障ることをしたか? と落ち込むシュウマをアヤトは否定するが、上手く言葉がまとまらず苦戦した。

「騙されているんだ。シュウマは、本当の意味でオレのことを好きじゃない。好きだと思い込んでるだけ」

 この村の神から子孫へ受け継いだ力のせいだ。
きっと洗脳に近い。そんな力で信仰心と恋心の区別ができなくなっているんだ、となんとかシュウマにアヤトは伝える。

「な、オレ、騙してるみたいじゃん、無自覚に。だから、別れたい」

 いったんアヤトは、そう締めくくった。

「騙されてないよ。俺はアヤトのこと好きなんだ。別れたくない」
「騙されてるよ。オレの存在のせいで正気じゃねーんだよ。本当に好きな人と幸せになってくれ」

 アヤトを好きなの気持ちは勘違いだと否定され、シュウマは納得できず首を横に振った。

「俺の幸せを願うならずっとそばにいて」
「……信じらんねぇんだよ」

 ポツリと小さな声でアヤトは零した。

「人間だったらよかった。そうすりゃあ、疑わなくて済んだのに……えッ?!」

 アヤトは、狼狽した。
シュウマの瞳に涙が浮かんでいたからだ。
子どもの頃でさえ、滅多に泣かなかった男がポロポロと泣いている。
いつも何考えているか分からない。ぼんやりした表情を崩し、泣く姿は初めて見る姿だった。

「十二年……」
「え」
「好きなって……十二年……。アヤトは嘘だと否定するんだ…………」
「十…二、ね、ん……」

 二人が出会ったのは、小学校の入学式だ。
ほとんど同じ教室で過ごしてきたが、アヤトは全く片想いされていることに気づかなかった。

――その頃から……。

 十二年間は、長い。
六才から長い間、シュウマの心を惑わし騙していたのかと考えると罪悪感で気分を沈む。

「一目惚れだったよ。自覚したのは、ずっと後になるけど」
「やっぱ、オレが人じゃねぇから好きになったんじゃあ……」
「アヤト。別れたら、死ぬよ」
「なっ?!」

 脅してきやがった。
シュウマの口からまるでメンヘラな恋人みたいな発言が飛び出すとは。
突然、化け物が見えるようになった出来事の次ぐらいに衝撃的であった。

「なんだよ、脅しか」
「そうだよ」

 無理やりアヤトをベンチから立ち上がられさせる。
「来て」と腕を掴み、グイグイとシュウマはアヤトの腕を引っ張った。

「は…離せよ」
「ヤダ」

 日頃、畑仕事をしているシュウマに体格と力の差は歴然でアヤトは抗えなかった。
引きずられるまま気付けば、シュウマの家に着いていた。
母屋には寄らず、シュウマの部屋がある離れへと連れていかれるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

処理中です...