異形の君へ~バケモノが視えるようになった男のお話~

ten

文字の大きさ
4 / 18

3

しおりを挟む

――アラ……奇遇ね。

 外が騒がしいと思い、女は大学の校舎内から中庭を覗く。
揉め事の中心に視線を向け、女は目を細めた。

――前は、先客がいたけれど……。

 以前、街で見かけた男を目にし、女は小さく笑む。
あの日の夜、ホテル内へと消えていくのを目撃したが、どうやらしくったようだ。

――誰も手を出さないなら、私が食べてもいいよね。

 血がついた唇を拭うように舌なめずりをし、嗤うのだった。

――――――――――――――――――

 うえッくしゅ!!
でっかいくしゃみをひとつし、鼻を啜る。風邪か、季節外れの花粉症か。

「誰かウワサでもしてんじゃね?」

 友人が軽いノリで言う。

「なんか最近、視線を感じるんだよなぁ」
「それ、ストーカーじゃん」
「鹿ノ目はモテるからなー」
「喋るとザンネンなのにな!」

 茶化してくる。
アヤトと並んで歩く二人は、田舎を出て初めて出来た友人だ。
同じ講義を受けているうちに二人とは仲良くなり、よく大学で一緒に過ごしている。

「てかさ、この前の合コン。あれからだった? うまくいったか?」
「あ~……ホテルに行ってすぐ別れた」
「おいおい、ヤり逃げかよ」
「サイテー」
「いや、仕方なかったんだって」

――だって、バケモノだぜ? お前ら知らねぇからそう言えんだ。

「仲のいい先輩に頼んでまたやってもらうか? 今度はお前も来なよ。俺らで鹿ノ目が彼女できるようサポートしてやろうぜ」
「いや、いいかな。俺…彼女出来たし」
「えっ!? いつの間に!」

 アヤトの合コン話から友人に彼女が出来た話へと話題が移っていく。

――俺だって恋人がほしいわ! もちろん、バケモノじゃないやつな。




「え……? 村に帰る?」

 シュウマがアヤトを訪ねて来てから三週間。
「もうそろそろ村に帰ろうかな」と洗濯物を取り込んできたシュウマの呟きにアヤトは、ショックを受ける。

「え、本当に……?」
「うん。さすがに迷惑かなと思って」
「そんなわけないッ!」

 今の生活の快適さを知ってしまったアヤトは、非常に困った。
最初シュウマがやってきた時は、せっかくの一人暮らしに水を差されたと思った。
だが、しばらく暮らすうちにシュウマの存在がとてもありがたいものに気付く。
自分が何もしなくても部屋はキレイになるし、ごはんを用意してもらえるしでぶっちゃけ楽だったのだ。それに。

――シュウマが村に帰るとまたバケモノが視えてしまうかもしれない。

「お前…こっちに住めよぉ……」
「さすがに…それは……実家の仕事もあるし、帰らないと」

 アヤトの提案をやんわりと断られ、落ち込む。

「どうしても、か?」

 今すぐ帰らないとダメか? と上目遣いで見つめれば、珍しくシュウマは表情を崩した。
何を考えてるか分からない顔が少しだけ悩まし気にし、視線を逸らす。

「い、いや……」
「じゃあ、もうちょいここにいてくれよ」

 引き留めるアヤトにシュウマは違和感を覚える。
アヤトの元に訪ねた時から何か隠しているなぁとシュウマは勘付いていたが。

「アヤト、ずっとひとり暮ししたいって言ってたよね。誰にも干渉されない場所に行きたいって……」
「うん……」
「俺がいたら邪魔じゃない?」
「それは……」

 アヤトは視線を彷徨わせ、口ごもる。
 
「何かあったんじゃないのか?」

 シュウマに問われ、隠せないと諦めたアヤトは打ち明ける。
といっても、合コンで出会った女…実際は化け物とセックスしたことについては、省いて話した。

「信じらんねぇと思うが……オレ…バケモノがみえるようになったんだ……!」

 突然、化け物が視えるようになったと言われ、信じるだろうか。
自分がそう打ち明けられたら笑って病院に行けと言うだろう。

「シュウマが来てからそういうモンがみえなくなって……だから、帰ったら困る」

 いなくならないで、助けてほしいと頼むと顔色を窺うように見上げた。

「分かった。もう少しここにいるよ」

 少し考えた後、シュウマは頷いて言った。
自分の息子より可愛がってるアヤトの頼み事を断って帰れば、両親に怒られる。そう想像がついたからだ。
そもそも、あの村で『鹿ノ目』は、特別な存在だ。

「本当か! やったー!!」

 これでもうしばらくは、化け物を視なくて済む。
何も知らずに喜ぶアヤトを見てシュウマは目を細め、愛でた。

「でも、なんで視えるように?」
「あー…大学のやつらとごはん食べに行ってからだなぁ~……ホントなんでだろうなー」

 シュウマの疑問の声に慌てて見当が付かないというアヤトは、とても怪しかった。

――合コンしてきたなんて言えねー……。

 なぜだか、後ろめたい気持ちにさせた。
全然悪いことをしていないのに、とアヤトは思うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった

BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。 にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...