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5 念願のミリーを引き取ることができました
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「アイリス様!」
「ミリー……!」
後日。
ミリーはカトレン家に引き取られました。
お祖父様の協力もあって、大公はあっさりと懐刀であるミリーを手離しました。それが少し不思議だったのですが、それよりもミリーは私の義妹として当家に住むことが決まったので、些細な事は気にしないことにしました。
「アイリス様……顔色もよくなられて、本当にようございました」
「ミリーはもうカトレン家の籍に入ったわ。私を姉さんと呼んでくれないの?」
「……ではアイリスお姉様と、お呼び致します」
私たちは手を取り合って喜びを噛み締めました。アース様が当家に押し入ってきたのは、その数時間後の事でした。
「ふざけるな! 僕はミリーを愛人にするつもりだったんだ! それをっ……クルーヤ子息の妻にしただと!?」
アース様は私兵を連れてカトレン家の門兵を脅し、敷地内に侵入してきました。しかしどことなく様子がおかしいです。
私の姿を見るなり、目が怯えだしたのです。
こんなアース様は初めて見ました。
私の顔を見るたび、舌打ちしては唾を吐きかけてきた人がです。
クルーヤが登場したことにより、それは言葉にも顕著に現れました。
「……っ、クルーヤ子息。ミリーはゼネラル家の侍女だ。まだ任期も残っているというのに、僕に断りもなく連れ出すとは……きちんとした説明を望む」
「ミリーの所有者でもある大公が決めたことですよ。それに雇用契約に反した辞任、それに伴う罰金は既に大公が肩がわりして完済しています」
「そんな事はどうでもいい! ミリーは僕の愛人だと言っているだろう! 何度もこの手で抱いてきたんだぞ! それをまだ成人もしていない君にかっさらわれるとは、納得ができない!」
「……ふっ。抱いてきた? そのようですね。ちゃんと効果が出ているようなので」
クルーヤの言葉の意味が解りません。更にお祖父様が出てきてからは、アース様の私兵まで怯えだしました。
「……成る程な。これはまた、珍しい異能だな。そういう事だったのか。フッ、ふっはははっ」
「お祖父様、姉さんには聞こえないようにして」
「安心しろ……これは男子の異能者にしか認識することができん」
「しかしっ」
「まさか王家が改良したのか? それで大公も見えないとはいえ、あっさりと手離したのか」
意味は解りませんが、きちんと二人の会話は聞こえています。それよりも、既に法的にもクルーヤの妻で、私の義妹でもあるミリーを愛人にとは、見逃せない発言です。ミリーが何度もアース様に抱かれたのは、私を庇ったせいでもあるのですから。
「アース様は種無しなのですよね? まさか再婚相手がいなくて困ったから私同様に冷遇していたミリーを、今さら掌反しで愛人にするつもりだったのですか?」
「っ、うるさい! 石女は黙れ! この役立たずの無能者が! お前が異能持ちだなんてっ、僕は信じないぞ!」
「では何故そんなに怯えているのですか?」
不思議なものです。
あんなに恐れていたアース様が、今はちっとも怖くないのです。これは私にカトレン家特有の異能があると自覚したからでしょう。
「うるさい! なんだその態度は! お前は僕に跪いていればいいんだ! 口を挟むな!」
「あら? 罵倒だけで、いつものように私を殴らないのですか?」
一歩前に出るとアース様が身を縮ませました。
そこでしまったと私は後悔しました。
クルーヤとお祖父様の手から、青い鎖が飛び出したのです。
「ひぃ!?」
その鎖はアース様の足元に吸い込まれ、消えていきました。
「命が惜しくばさっさと姉さんと離縁しろよ。もたつけばいずれその鎖はお前の首もとに辿り着いて、文字通りお前の首を絞めることになる」
「そ、そんなっ、横暴だ! 僕はゼネラル侯爵家の次期当主だぞ! こんなことが許される筈がない!」
アース様の言葉に私は動揺しました。王家の暗部とはいえ、侯爵家の令息を殺せば何かお咎めがあるかもしれません。
不安になってお祖父様の裾を引くと、安心しなさいと頭を撫でられました。
「後継ぎが種無しとなれば、王家も侯爵家も小僧を護りはしない」
「それより姉さん、殴られてたってどういう事? そんなの聞いてないんだけど?」
「……そ、れは……私が、石女だったから」
「それは息子が種無しだったっていう侯爵夫妻の手紙で姉さんは石女じゃないと証明されたよね。嫁ぐ前にも検査はしたんだから」
「……そう、ね。私の有責じゃなかった」
そう言ってアース様を見ると、見る見る内に顔色が青くなっていきました。
「僕はっ……僕だってお前と結婚する前の検査では、何も異常は見当たらなかった! なのに父上から早く子を設けろと急かされて! 母上にも生んだ恩を返せと怒鳴られ続けて、疲弊してたんだよ! 今の僕は種無しでも、結婚時は正常だったんだ! なのにお前は身籠らなかっただろう! ならお前も石女じゃないのか!」
「……私は嫁いですぐアース様から冷遇され、しばらくすると暴力まで奮われるようになりました。そのような環境で懐妊するのは難しいのでは? 例え身籠ったとしても、暴力で流れていたかと……」
なんせアース様が屋敷にいる時は食事もろくに与えられず、月のものも不安定でしたから。
「う、うるさい! 黙れ! お前はさっさと当家に戻って、お飾りの妻をやっていればいいんだ! 僕にはミリーがいる! お前なんかいらない!」
アース様が私に掴みかかろうとしてきました。そこで慌てるように走ってきたミリーが私の前に飛び出してきました。
「ミリー……!」
後日。
ミリーはカトレン家に引き取られました。
お祖父様の協力もあって、大公はあっさりと懐刀であるミリーを手離しました。それが少し不思議だったのですが、それよりもミリーは私の義妹として当家に住むことが決まったので、些細な事は気にしないことにしました。
「アイリス様……顔色もよくなられて、本当にようございました」
「ミリーはもうカトレン家の籍に入ったわ。私を姉さんと呼んでくれないの?」
「……ではアイリスお姉様と、お呼び致します」
私たちは手を取り合って喜びを噛み締めました。アース様が当家に押し入ってきたのは、その数時間後の事でした。
「ふざけるな! 僕はミリーを愛人にするつもりだったんだ! それをっ……クルーヤ子息の妻にしただと!?」
アース様は私兵を連れてカトレン家の門兵を脅し、敷地内に侵入してきました。しかしどことなく様子がおかしいです。
私の姿を見るなり、目が怯えだしたのです。
こんなアース様は初めて見ました。
私の顔を見るたび、舌打ちしては唾を吐きかけてきた人がです。
クルーヤが登場したことにより、それは言葉にも顕著に現れました。
「……っ、クルーヤ子息。ミリーはゼネラル家の侍女だ。まだ任期も残っているというのに、僕に断りもなく連れ出すとは……きちんとした説明を望む」
「ミリーの所有者でもある大公が決めたことですよ。それに雇用契約に反した辞任、それに伴う罰金は既に大公が肩がわりして完済しています」
「そんな事はどうでもいい! ミリーは僕の愛人だと言っているだろう! 何度もこの手で抱いてきたんだぞ! それをまだ成人もしていない君にかっさらわれるとは、納得ができない!」
「……ふっ。抱いてきた? そのようですね。ちゃんと効果が出ているようなので」
クルーヤの言葉の意味が解りません。更にお祖父様が出てきてからは、アース様の私兵まで怯えだしました。
「……成る程な。これはまた、珍しい異能だな。そういう事だったのか。フッ、ふっはははっ」
「お祖父様、姉さんには聞こえないようにして」
「安心しろ……これは男子の異能者にしか認識することができん」
「しかしっ」
「まさか王家が改良したのか? それで大公も見えないとはいえ、あっさりと手離したのか」
意味は解りませんが、きちんと二人の会話は聞こえています。それよりも、既に法的にもクルーヤの妻で、私の義妹でもあるミリーを愛人にとは、見逃せない発言です。ミリーが何度もアース様に抱かれたのは、私を庇ったせいでもあるのですから。
「アース様は種無しなのですよね? まさか再婚相手がいなくて困ったから私同様に冷遇していたミリーを、今さら掌反しで愛人にするつもりだったのですか?」
「っ、うるさい! 石女は黙れ! この役立たずの無能者が! お前が異能持ちだなんてっ、僕は信じないぞ!」
「では何故そんなに怯えているのですか?」
不思議なものです。
あんなに恐れていたアース様が、今はちっとも怖くないのです。これは私にカトレン家特有の異能があると自覚したからでしょう。
「うるさい! なんだその態度は! お前は僕に跪いていればいいんだ! 口を挟むな!」
「あら? 罵倒だけで、いつものように私を殴らないのですか?」
一歩前に出るとアース様が身を縮ませました。
そこでしまったと私は後悔しました。
クルーヤとお祖父様の手から、青い鎖が飛び出したのです。
「ひぃ!?」
その鎖はアース様の足元に吸い込まれ、消えていきました。
「命が惜しくばさっさと姉さんと離縁しろよ。もたつけばいずれその鎖はお前の首もとに辿り着いて、文字通りお前の首を絞めることになる」
「そ、そんなっ、横暴だ! 僕はゼネラル侯爵家の次期当主だぞ! こんなことが許される筈がない!」
アース様の言葉に私は動揺しました。王家の暗部とはいえ、侯爵家の令息を殺せば何かお咎めがあるかもしれません。
不安になってお祖父様の裾を引くと、安心しなさいと頭を撫でられました。
「後継ぎが種無しとなれば、王家も侯爵家も小僧を護りはしない」
「それより姉さん、殴られてたってどういう事? そんなの聞いてないんだけど?」
「……そ、れは……私が、石女だったから」
「それは息子が種無しだったっていう侯爵夫妻の手紙で姉さんは石女じゃないと証明されたよね。嫁ぐ前にも検査はしたんだから」
「……そう、ね。私の有責じゃなかった」
そう言ってアース様を見ると、見る見る内に顔色が青くなっていきました。
「僕はっ……僕だってお前と結婚する前の検査では、何も異常は見当たらなかった! なのに父上から早く子を設けろと急かされて! 母上にも生んだ恩を返せと怒鳴られ続けて、疲弊してたんだよ! 今の僕は種無しでも、結婚時は正常だったんだ! なのにお前は身籠らなかっただろう! ならお前も石女じゃないのか!」
「……私は嫁いですぐアース様から冷遇され、しばらくすると暴力まで奮われるようになりました。そのような環境で懐妊するのは難しいのでは? 例え身籠ったとしても、暴力で流れていたかと……」
なんせアース様が屋敷にいる時は食事もろくに与えられず、月のものも不安定でしたから。
「う、うるさい! 黙れ! お前はさっさと当家に戻って、お飾りの妻をやっていればいいんだ! 僕にはミリーがいる! お前なんかいらない!」
アース様が私に掴みかかろうとしてきました。そこで慌てるように走ってきたミリーが私の前に飛び出してきました。
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