9 / 10
9 やり直させたら逆に若返った
しおりを挟む
「ハンス様。今日もお仕事お疲れ様でした。お風呂にする? ご飯にする? それともわたくし?」
「……セラ、ス」
「まあわたくし? 相変わらず堪え性のない御方だこと。そんな所も愛しくて仕方ないのですけれど」
セシルは嫌々ながらも15歳前後の姿になり、嫌々ながらもハンスに愛の言葉を囁いていた。
このようなことになった経緯はヨハン達から聞いた話が発端だった。
色々あって人間不信になりかけていた息子のヨハンがやっと心を開ける人に出会い婚約を結んだのに、その婚約者であるマリアに馬鹿が目をつけた。よってセシルはキレた。ハンスは会話が通じないので親戚にキレた。
『しばらくおとなしくしていたと思ったら調子に乗りやがって! これ以上あの馬鹿を息子の婚約者に近付けたら容赦せんぞ! 色ボケじじいは死ぬまで監禁しておけ!』
『ひらに~! ひらにぃ~!』
セシルはハンスの親戚達に八つ当たりしたが、ハンスを図書館へ連れて行くのだけは禁止にしないでくれと騒がれた。
『図書館に連れていかないと物を投げるのです!』
『癇癪を起こして暴れるし、大便を投げつけてくる時もあって!』
『唯一まだ若い甥だけがハンスを押さえ付ける力があるのですが、甥も仕事があって四六時中見ていることは出来ないのです。おまけに老いた我々では、元騎士のハンスには敵わなくて』
『……車椅子のハンスに敵わないだと?』
『現在のハンスは体格がいいだけの中身は子供です。しかし図書館に連れていった日だけは、とてもおとなしくて……』
『証拠にこれを見せます。我々の体は……ハンスに殴られた痣だらけなのです』
『…………確かに、そのようだな』
親戚達は疲弊しきっていた。
そこでセラスが医師として助けになると言ったのだが、セシルが止めた。もうこれ以上妻とハンスを関わらせたくなかった。
息子の「実は若返れる」という暴露もあり、セシルは成長した息子と共にマリアの実験的提案に乗ってハンスの人生を悔いのないものに書き換えていた。これが成功すれば徘徊老人を減らす手がかりになるかもしれない、という医学的利権も考慮して。
「ハンス様、愛していますわ。チッ。百歳のお誕生日おめでとう」
「お父様、大好きですわ。百歳おめでとうございます」
「……ん。私、が……百歳?」
「ええ。そうですわよ」
「いやだわお父様ったら。わたくし達の姿が変わらないから、時の流れについていけないのね」
「ヨハンナ、お父様に青筋を立てて胸ぐらを掴んではいけませんよ」
「お母様だって夫に対してずっと棒読みでたまに舌打ちしてるじゃない」
セラスは実年齢の姿のまま、常にキレ気味な夫と息子のやり取りを後ろから見ていた。
息子のヨハンはハンスの娘ヨハンナ役を。
そして夫は自分の役を。
日に日におとなしくなっていくハンスの状態と共にとても複雑な気持ちで見ていた。
「ああ……愛する妻も、いて……可愛い娘もいて……私は幸せだ……とても幸せな……人生だっ、た」
そう言ってハンスは安らかな顔で目を閉じた。
「ようやく逝ったか」
「父上、まだ息してますよ」
「気のせいだ。死人の顔にかける布を持ってこい。出来れば濡れた布がいい」
「殺る気満々じゃないですか。マリアが気にするかもしれないので我慢して下さい」
セラスがハンスの状態を診るために側に寄った。そして脈と体温を計り、目の下の血管を診る。脳はともかく健康面に問題はなさそうだと診断するとハンスがパチっと目を開けて「おぎゃあ」と笑った。
ハンスは赤ん坊になっていた。
「……セラ、ス」
「まあわたくし? 相変わらず堪え性のない御方だこと。そんな所も愛しくて仕方ないのですけれど」
セシルは嫌々ながらも15歳前後の姿になり、嫌々ながらもハンスに愛の言葉を囁いていた。
このようなことになった経緯はヨハン達から聞いた話が発端だった。
色々あって人間不信になりかけていた息子のヨハンがやっと心を開ける人に出会い婚約を結んだのに、その婚約者であるマリアに馬鹿が目をつけた。よってセシルはキレた。ハンスは会話が通じないので親戚にキレた。
『しばらくおとなしくしていたと思ったら調子に乗りやがって! これ以上あの馬鹿を息子の婚約者に近付けたら容赦せんぞ! 色ボケじじいは死ぬまで監禁しておけ!』
『ひらに~! ひらにぃ~!』
セシルはハンスの親戚達に八つ当たりしたが、ハンスを図書館へ連れて行くのだけは禁止にしないでくれと騒がれた。
『図書館に連れていかないと物を投げるのです!』
『癇癪を起こして暴れるし、大便を投げつけてくる時もあって!』
『唯一まだ若い甥だけがハンスを押さえ付ける力があるのですが、甥も仕事があって四六時中見ていることは出来ないのです。おまけに老いた我々では、元騎士のハンスには敵わなくて』
『……車椅子のハンスに敵わないだと?』
『現在のハンスは体格がいいだけの中身は子供です。しかし図書館に連れていった日だけは、とてもおとなしくて……』
『証拠にこれを見せます。我々の体は……ハンスに殴られた痣だらけなのです』
『…………確かに、そのようだな』
親戚達は疲弊しきっていた。
そこでセラスが医師として助けになると言ったのだが、セシルが止めた。もうこれ以上妻とハンスを関わらせたくなかった。
息子の「実は若返れる」という暴露もあり、セシルは成長した息子と共にマリアの実験的提案に乗ってハンスの人生を悔いのないものに書き換えていた。これが成功すれば徘徊老人を減らす手がかりになるかもしれない、という医学的利権も考慮して。
「ハンス様、愛していますわ。チッ。百歳のお誕生日おめでとう」
「お父様、大好きですわ。百歳おめでとうございます」
「……ん。私、が……百歳?」
「ええ。そうですわよ」
「いやだわお父様ったら。わたくし達の姿が変わらないから、時の流れについていけないのね」
「ヨハンナ、お父様に青筋を立てて胸ぐらを掴んではいけませんよ」
「お母様だって夫に対してずっと棒読みでたまに舌打ちしてるじゃない」
セラスは実年齢の姿のまま、常にキレ気味な夫と息子のやり取りを後ろから見ていた。
息子のヨハンはハンスの娘ヨハンナ役を。
そして夫は自分の役を。
日に日におとなしくなっていくハンスの状態と共にとても複雑な気持ちで見ていた。
「ああ……愛する妻も、いて……可愛い娘もいて……私は幸せだ……とても幸せな……人生だっ、た」
そう言ってハンスは安らかな顔で目を閉じた。
「ようやく逝ったか」
「父上、まだ息してますよ」
「気のせいだ。死人の顔にかける布を持ってこい。出来れば濡れた布がいい」
「殺る気満々じゃないですか。マリアが気にするかもしれないので我慢して下さい」
セラスがハンスの状態を診るために側に寄った。そして脈と体温を計り、目の下の血管を診る。脳はともかく健康面に問題はなさそうだと診断するとハンスがパチっと目を開けて「おぎゃあ」と笑った。
ハンスは赤ん坊になっていた。
79
お気に入りに追加
496
あなたにおすすめの小説

【完結】真実の愛だと称賛され、二人は別れられなくなりました
紫崎 藍華
恋愛
ヘレンは婚約者のティルソンから、面白みのない女だと言われて婚約解消を告げられた。
ティルソンは幼馴染のカトリーナが本命だったのだ。
ティルソンとカトリーナの愛は真実の愛だと貴族たちは賞賛した。
貴族たちにとって二人が真実の愛を貫くのか、それとも破滅へ向かうのか、面白ければどちらでも良かった。

それでも好きだった。
下菊みこと
恋愛
諦めたはずなのに、少し情が残ってたお話。
主人公は婚約者と上手くいっていない。いつも彼の幼馴染が邪魔をしてくる。主人公は、婚約解消を決意する。しかしその後元婚約者となった彼から手紙が来て、さらにメイドから彼のその後を聞いてしまった。その時に感じた思いとは。
小説家になろう様でも投稿しています。

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。
愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。
自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。
国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。
実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。
ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。

婚約者の初恋を応援するために婚約解消を受け入れました
よーこ
恋愛
侯爵令嬢のアレクシアは婚約者の王太子から婚約の解消を頼まれてしまう。
理由は初恋の相手である男爵令嬢と添い遂げたいから。
それを聞いたアレクシアは、王太子の恋を応援することに。
さて、王太子の初恋は実るのかどうなのか。

結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

婚約者を交換しましょう!
しゃーりん
恋愛
公爵令息ランディの婚約者ローズはまだ14歳。
友人たちにローズの幼さを語って貶すところを聞いてしまった。
ならば婚約解消しましょう?
一緒に話を聞いていた姉と姉の婚約者、そして父の協力で婚約解消するお話です。

ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~
緑谷めい
恋愛
私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。
4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!
一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。
あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?
王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。
そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?
* ハッピーエンドです。
愛を語れない関係【完結】
迷い人
恋愛
婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。
そして、時が戻った。
だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる