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3 色んな意味で若返りました
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それから5年後……。
セラスは39歳になった。
医師として働きながらもロト男爵夫人としてたまに社交界に出席し、貴婦人達の憂いを取り除く相談を受けたりしていた。
「セラス夫人。こんな時に悪いんだけど、相談に乗って頂ける?」
「あらローズ子爵、かまいませんよ」
「……実はね、あたくしの以前の体の不調は夫が原因でしたの。離縁した途端、夫の顔を見なくなった途端、劇的に不調が改善されましたのよ」
「……まあ」
セラスはローズの暴露に目を見開いた。
「セバスもそう思ったんでしょう?」
「僕はなんとなく……今のアリア様は当時のローズ様と不調の様子が似ていたので」
ローズが傍らに侍らせているまだ若い良人。ローズの愛人で、名はセバス。後取りを孕ませたのでその息子の後見人でもある。
「だからねぇ、もしかしたらアリア夫人の不調もあたくしと同じ類いかと疑っていますのよ」
「あ、そういえば……確かにその可能性は否定できませんわね」
アリア夫人とはセラスが主治医をしている伯爵家の奥方だ。今宵の夜会は病欠との報せがきて、セラスは心配していた。
「そうでしょう? 心配よねぇ。あ、セラス夫人はこれから妊活する予定でしょう? 肉体を若返らせることが出来るっていいわよねぇ。あたくしもう一人欲しかったけど、体力的に辛いから諦めましたのよ」
「まあ、でも若い時に生んだのですから、後継者教育も滞りなく進んでいますでしょう? わたくしはきっと今から苦労しますわ」
「まあ、おっほほほ。ならこれから何か困ったことがあったら相談にのるわ。また当家の夜会にも出席して頂戴ね」
「ええ、勿論っ」
かつて自分の婚約者だったハンスを捨てたローズとは今や旧知の仲だった。なかなかの女傑で医師のセラスと話も合う。そしてたまにこうやって助言もしてくれる。
人も疎らに夜会も終盤に差し掛かった頃、予想外の人物がセラスの目の前に現れた。
「……セラス」
男性はハットと付け髭、そして眼鏡を取った。
声をかけてきたのは変装していたハンス・ロッセンだった。
5年ぶりに姿を見た。
騎士としてそれなりに鍛えている体つきだが、現在は白髪も増え、髪も薄くなっていた。
「いきなりなんですの?」
「何って……何故、何故あの時は正体を明かしてくれなかったんだ! 私はあれから君の事を調べてっ、ロト男爵の婚約者がかつての私の婚約者のセラスだということを知った! それと同時にエルフの血を引く君が見た目年齢を変えられることも……最初からそれを知っていれば私は君を手放さなかった! 酷いじゃないか! 何故こんなまわりくどい事をする!?」
何故?
いきなり捲し立てるハンスにセラスは呆れた。
それはともかく、逆に何故あなたは離縁された家の夜会に出席しているのでしょうか?と目を丸くした。
「……恥知らずなの?」
「何を言っている! それに何故そんな老けた姿をしている! 君は肉体を若返らせることができるのだろう? なら今すぐ美少女だったあの頃に戻ってくれ! そしたら私は決して君を裏切ったりしない! 生涯を共にすることを今ここで誓おう!」
「どこまで恥知らずなの?」
夜会も終盤ということで、既に主催者のローズは退席している。セラスが困ったわ、と扇子を片手に天井を仰ぐと、背後から腰を引き寄せられた。
「……油断していたよ。まさか居るとは思わなかった」
現れたのは夫のセシルだった。
普段は夫婦で宴に出席しているが、今回セシルは仕事で都合が合わなかった。そんな時はハンスが出席しないであろう、ローズの誘いにのみ妻を出席させていた。だが帰りは必ず迎えにいっていた。
貴族は自分の妻や婚約者が一人で宴に出席した場合、帰りはパートナーである自身が迎えにいく場合が多い。だから招待状がなくともパートナーを迎えにきたと言えば屋敷に通してもらえるのだが、実はハンスはこれを利用して勝手にローズの夜会に侵入した。怪しまれないよう宴の終盤を狙って、わざわざ変装までして。
「ロト男爵……! 貴様はあの時自分の婚約者だとは言ったが、セラスと名を呼ばなかった! 私がセラスに気付いていないと、馬鹿にしていたのだな!」
「……5年も前の事をぶり返すとは、もうなんと返してよいやら」
不穏な空気に屋敷の護衛達が集まってきた。変装を解いたハンスに気付いたのだ。
「ま、待ってくれ! セラス! やり直そう! 君はまだ子を生んでいない! それに私にも子はいない! 今ならきっとやり直せる筈だ! 二人で子を作り家族になろう! セラス! セラス! セラ────」
護衛に素早く連行されたハンス。
今は人も疎らで、後は帰るだけのほろ酔い気分にグラスを掲げる招待客しかいないのがまだ救いだった。
「セラス」
「うん?」
呼ばれて振り向いたセラスはぎょっとした。
セシルは出会った当初よりも若い姿をしていた。そして額に青筋が立っている。このような場でいきなり若返るとは、何が逆鱗に触れたのか、酒も入っているセラスは頭がまわらなかった。
「帰ったら子作りだ!」
「……帰ったらって」
結婚してからほぼ毎晩してるじゃない。
とは流石に言わなかった。
酒は入っていてもここは公の場だ。
セラスは人目を気にして馬車に戻ってから若返った。
十代の時の姿で抱かれるのは久々だった。およそ5年ぶりだろうか。異様に緊張して、ドレスを脱ぐ手が震える。いつもは夜になるとセシルがセラスの部屋を訪れるのだが、今夜は帰宅した途端、早急にセシルの部屋に連れ込まれた。
若返ったせいなのか、いつもとは違うセシルの部屋だからか、セラスは乙女のように全身を真っ赤にしていた。今にも緊張でぶっ倒れてしまいそうだ。
「私が手伝おう」
「きゃっ、そんなっ」
焦れたのかセシルが目の前に立って、セラスを抱き締めたまま背中にあるドレスの留め具を外した。コルセットもそのままほどかれていく。
「こ、こんなこといつもしないじゃ……!」
「君が私の目の前で自ら脱ぐ姿がたまらなく好きだったからな。だが若いと抑えがつかなくなるな」
「きゃっ、待っ、アッ───」
その晩セラスは初めて朝まで抱かれてしまった。いつもは2回でギブアップしていたが、若返って体力があったのだ。それに性欲もあった。それが拍車をかけた。
セラスは三日三晩ベットから出してもらえず、あっという間に懐妊した。
セラスは39歳になった。
医師として働きながらもロト男爵夫人としてたまに社交界に出席し、貴婦人達の憂いを取り除く相談を受けたりしていた。
「セラス夫人。こんな時に悪いんだけど、相談に乗って頂ける?」
「あらローズ子爵、かまいませんよ」
「……実はね、あたくしの以前の体の不調は夫が原因でしたの。離縁した途端、夫の顔を見なくなった途端、劇的に不調が改善されましたのよ」
「……まあ」
セラスはローズの暴露に目を見開いた。
「セバスもそう思ったんでしょう?」
「僕はなんとなく……今のアリア様は当時のローズ様と不調の様子が似ていたので」
ローズが傍らに侍らせているまだ若い良人。ローズの愛人で、名はセバス。後取りを孕ませたのでその息子の後見人でもある。
「だからねぇ、もしかしたらアリア夫人の不調もあたくしと同じ類いかと疑っていますのよ」
「あ、そういえば……確かにその可能性は否定できませんわね」
アリア夫人とはセラスが主治医をしている伯爵家の奥方だ。今宵の夜会は病欠との報せがきて、セラスは心配していた。
「そうでしょう? 心配よねぇ。あ、セラス夫人はこれから妊活する予定でしょう? 肉体を若返らせることが出来るっていいわよねぇ。あたくしもう一人欲しかったけど、体力的に辛いから諦めましたのよ」
「まあ、でも若い時に生んだのですから、後継者教育も滞りなく進んでいますでしょう? わたくしはきっと今から苦労しますわ」
「まあ、おっほほほ。ならこれから何か困ったことがあったら相談にのるわ。また当家の夜会にも出席して頂戴ね」
「ええ、勿論っ」
かつて自分の婚約者だったハンスを捨てたローズとは今や旧知の仲だった。なかなかの女傑で医師のセラスと話も合う。そしてたまにこうやって助言もしてくれる。
人も疎らに夜会も終盤に差し掛かった頃、予想外の人物がセラスの目の前に現れた。
「……セラス」
男性はハットと付け髭、そして眼鏡を取った。
声をかけてきたのは変装していたハンス・ロッセンだった。
5年ぶりに姿を見た。
騎士としてそれなりに鍛えている体つきだが、現在は白髪も増え、髪も薄くなっていた。
「いきなりなんですの?」
「何って……何故、何故あの時は正体を明かしてくれなかったんだ! 私はあれから君の事を調べてっ、ロト男爵の婚約者がかつての私の婚約者のセラスだということを知った! それと同時にエルフの血を引く君が見た目年齢を変えられることも……最初からそれを知っていれば私は君を手放さなかった! 酷いじゃないか! 何故こんなまわりくどい事をする!?」
何故?
いきなり捲し立てるハンスにセラスは呆れた。
それはともかく、逆に何故あなたは離縁された家の夜会に出席しているのでしょうか?と目を丸くした。
「……恥知らずなの?」
「何を言っている! それに何故そんな老けた姿をしている! 君は肉体を若返らせることができるのだろう? なら今すぐ美少女だったあの頃に戻ってくれ! そしたら私は決して君を裏切ったりしない! 生涯を共にすることを今ここで誓おう!」
「どこまで恥知らずなの?」
夜会も終盤ということで、既に主催者のローズは退席している。セラスが困ったわ、と扇子を片手に天井を仰ぐと、背後から腰を引き寄せられた。
「……油断していたよ。まさか居るとは思わなかった」
現れたのは夫のセシルだった。
普段は夫婦で宴に出席しているが、今回セシルは仕事で都合が合わなかった。そんな時はハンスが出席しないであろう、ローズの誘いにのみ妻を出席させていた。だが帰りは必ず迎えにいっていた。
貴族は自分の妻や婚約者が一人で宴に出席した場合、帰りはパートナーである自身が迎えにいく場合が多い。だから招待状がなくともパートナーを迎えにきたと言えば屋敷に通してもらえるのだが、実はハンスはこれを利用して勝手にローズの夜会に侵入した。怪しまれないよう宴の終盤を狙って、わざわざ変装までして。
「ロト男爵……! 貴様はあの時自分の婚約者だとは言ったが、セラスと名を呼ばなかった! 私がセラスに気付いていないと、馬鹿にしていたのだな!」
「……5年も前の事をぶり返すとは、もうなんと返してよいやら」
不穏な空気に屋敷の護衛達が集まってきた。変装を解いたハンスに気付いたのだ。
「ま、待ってくれ! セラス! やり直そう! 君はまだ子を生んでいない! それに私にも子はいない! 今ならきっとやり直せる筈だ! 二人で子を作り家族になろう! セラス! セラス! セラ────」
護衛に素早く連行されたハンス。
今は人も疎らで、後は帰るだけのほろ酔い気分にグラスを掲げる招待客しかいないのがまだ救いだった。
「セラス」
「うん?」
呼ばれて振り向いたセラスはぎょっとした。
セシルは出会った当初よりも若い姿をしていた。そして額に青筋が立っている。このような場でいきなり若返るとは、何が逆鱗に触れたのか、酒も入っているセラスは頭がまわらなかった。
「帰ったら子作りだ!」
「……帰ったらって」
結婚してからほぼ毎晩してるじゃない。
とは流石に言わなかった。
酒は入っていてもここは公の場だ。
セラスは人目を気にして馬車に戻ってから若返った。
十代の時の姿で抱かれるのは久々だった。およそ5年ぶりだろうか。異様に緊張して、ドレスを脱ぐ手が震える。いつもは夜になるとセシルがセラスの部屋を訪れるのだが、今夜は帰宅した途端、早急にセシルの部屋に連れ込まれた。
若返ったせいなのか、いつもとは違うセシルの部屋だからか、セラスは乙女のように全身を真っ赤にしていた。今にも緊張でぶっ倒れてしまいそうだ。
「私が手伝おう」
「きゃっ、そんなっ」
焦れたのかセシルが目の前に立って、セラスを抱き締めたまま背中にあるドレスの留め具を外した。コルセットもそのままほどかれていく。
「こ、こんなこといつもしないじゃ……!」
「君が私の目の前で自ら脱ぐ姿がたまらなく好きだったからな。だが若いと抑えがつかなくなるな」
「きゃっ、待っ、アッ───」
その晩セラスは初めて朝まで抱かれてしまった。いつもは2回でギブアップしていたが、若返って体力があったのだ。それに性欲もあった。それが拍車をかけた。
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