夢囲い

カゲリ

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8月

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 わたしが書いた、容ちゃんの独り芝居の上演の日が来た。
 俊ちゃんは般若心経のTシャツに黒の鋲がついたジーンズ。わたしはジェーン・バーキンのTシャツにチュチュみたいな黒のスカート、やっぱり黒の鋲のついたボトムス。
 容ちゃんは赤の和服で登場した。
 
 「料理する女」
 
 舞台の上に女が一人。料理をしている。
 傍らには、右腕のない死体。
 「月曜日、今日は右腕。愛しいあなた。わたし達が出会ったのは春だったわ。電車で痴漢に遭ったわたしをあなた助けて呉れたの。桜が満開だった。」
 暗転。
 
 舞台の上に女が一人。料理をしている。
 傍らには、右腕と左腕のない死体。
 「火曜日、今日は左腕。愛しいあなた。一緒に海にも行ったわ。あなた、水着を選んで呉れたの。青の花柄のビキニ。」
 暗転。
 
 舞台の上に女が一人。料理をしている。
 傍らには、右腕と左腕と右足のない死体。
 「水曜日、今日は右足。愛しいあなた。一緒に映画にも行ったね。ホラー映画なのに、ちっとも怖くなくて、『あんな良い霊は居ない』って二人で笑い合ったっけ。」
 暗転。
 
 舞台の上に女が一人。料理をしている。
 傍らには、両手両足のない死体。
 「木曜日、今日は左足。愛しいあなた。『結婚しよう。』とあなた云ったの。少し恥ずかしそうにリングを出して、わたしの指に嵌めて呉れたの。枯れ葉の季節だった。」
 暗転。
 
 舞台の上に女が一人。料理をしている。
 傍らには、頭だけの死体。
 「金曜日、今日は体。愛しいあなた。『好きな人が出来たんだ』。ある日突然、あなたそう云い出した。『毎日行くパン屋の店員さんなんだ。』って。わたしもこっそり見に行ったけど、すごく可愛い娘だった。」
 暗転。
 
 舞台の上に女が一人。料理をしている。
 傍らには、何もない。
 「土曜日、今日は頭。愛しいあなた。わたしはあなたを殺した。首を絞めて、切り刻んだの。首を絞めている間、あなたずっとわたしを見詰めてた。」
 暗転。
 
 舞台の上に女が一人。食事をしている。
 「日曜日、今日は食事。愛しいあなた。あなた、美味しいスープになったの。あなたの皮膚も細胞もどろどろに溶けて、わたしの栄養になあれ。わたしはそれを食べる。」
 暗転。」
 
 終演後、容ちゃんの楽屋を訪ねて行った。
 「容子、綺麗だったよ。」
 花束を手渡しながら、俊ちゃんが云う。
 「琴子ちゃんとどっちが綺麗?」
 わたしは少し意地悪な気持ちになって訊く。
 「容子は大柄な美人って感じだろ。琴子はすごく小っちゃいんだ。150cmぐらいしかないんぢゃないかな。」
 「誰よ、琴子って。」
 メイクを落としながら、容ちゃんは云う。わたしは笑った。
 「俊ちゃんの夢の住人。」
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