リヒャルドの白い襯衣(シャツ)

カゲリ

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 ミハエルショックのため、午後の課程(カリキュラム)は虚ろな心地でこなした。そして、放課後。校長からの呼び出しを受けた僕は校長室に赴いた。ノックと同時に声を発する。
 「校長先生、お呼びでしょうか? リヒャルトです。」
 中から機嫌の善い声が応じる。
 「ああ、リヒャルト君、入りたまえ。」
 「失礼します。」
 云って、中に入る。
 スタイリッシュな灰色のスーツの男性が書類から顔も上げずに、口の中だけで「ああ。」と云う。年の頃は50くらいだろうか。痩身。校長だ。
 僕は黙って、校長が書きものを終えるのを待つ。
 「掛けたまえ。」
 書きものから顔を上げて、校長は云う。僕がソファに座ると校長も隣に腰掛けた。
 「今日、またサボつたそうだね、リヒャルト君。」
 そんなことだろうと思った。
 「ええ、気分が優れなくて。」
 「もういいのかい?」
 「ええ、すっかり。」
 「授業が終ったからだろう?」
 校長が云い、僕は悪びれずに微笑む。
 「ええ、まあ。」
 校長が共犯者めいた笑みを浮かべる。少し大きめの口。
 僕が彼のような外見だったら、とても自信なんて持てないと思うのだけど、校長は自信に溢れている。かなり白いものが混ざった髪は広く後退している。大きめの鼻――幾分赤らんでいる――と大きめの口。
 もっとも彼が自信に溢れているのは、その経歴ゆえかも知れない。校長はエリートで、まだ若い――50くらい――のに、もう二十年校長の地位にあると云う話だった。
 「ところで、どうしてネクタイをきちんとしているのかね?」
 「別に。きちんとしていることは歓迎されることではないのですか?」
 僕は平然と云った。
 「性質に適っているならね。」
 校長は笑う。
 「僕はそんな性質(たち)ではないと?」
 僕は云った。校長は笑いを引っこめる。
 「釦を外したまえ。」
 厳しい口調。
 「はい。」
 「はい、校長先生。」
 校長が訂正する。
 「はい、校長先生。」
 僕は云い、ネクタイを弛めて釦を外した。
 「ほう。」
 校長は僕の首筋に目をとめた。
 「誰の仕業かね?」
 「保健医です。」
 「校長先生。」
 「保健医です、校長先生。」
 「なるほど、ハインリヒ君か。以可(いけ)ないね。」
 云いながら、校長は僕の首筋を撫でた。ソファに押し倒される。校長が圧し掛かってくる。
 「お仕置きだ。」
 校長は僕の首筋に唇を這わせる。釦を外してゆく。
 「ふっ、やめてください、校長先生。」
 「やめないよ。」
 その時だった。ノックの音がした。そして、声。
 「お呼びですか? ミハエルです。」
 背筋が粟立った。ミハエル!
 「スペシャルゲストだよ。君はミハエル君を随分と気に入ってるようだからね。」
 昼間のミハエルショックが蘇る。こんなところを見られたら、ミハエルはきっと僕を軽蔑する。
 時間がなかった。僕は体勢を入れ換えた。ジッパーを開け、校長の下半身に顔を埋めた。舌を使ってしごいてやると、立ち上がりかけていたそれは途端に力を持った。
 「うっ、」
 校長が呻いた。
 「校長先生?」
 扉の外側でミハエルが云う。
 「君に用はなくなった。帰りたまえ。」
 「え?」
 扉の外側でミハエルが混乱している気配がする。
 「すまなかったね。行きたまえ。」
 校長が平静さを装って云う。
 「あの、校長先生、」
 「行きたまえ。」 
 校長は言葉を重ねる。
 「――…はい、校長先生。」
 ミハエルが立ち去る気配がする。
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