10 / 11
15時
301
しおりを挟む
ミハエルショックのため、午後の課程(カリキュラム)は虚ろな心地でこなした。そして、放課後。校長からの呼び出しを受けた僕は校長室に赴いた。ノックと同時に声を発する。
「校長先生、お呼びでしょうか? リヒャルトです。」
中から機嫌の善い声が応じる。
「ああ、リヒャルト君、入りたまえ。」
「失礼します。」
云って、中に入る。
スタイリッシュな灰色のスーツの男性が書類から顔も上げずに、口の中だけで「ああ。」と云う。年の頃は50くらいだろうか。痩身。校長だ。
僕は黙って、校長が書きものを終えるのを待つ。
「掛けたまえ。」
書きものから顔を上げて、校長は云う。僕がソファに座ると校長も隣に腰掛けた。
「今日、またサボつたそうだね、リヒャルト君。」
そんなことだろうと思った。
「ええ、気分が優れなくて。」
「もういいのかい?」
「ええ、すっかり。」
「授業が終ったからだろう?」
校長が云い、僕は悪びれずに微笑む。
「ええ、まあ。」
校長が共犯者めいた笑みを浮かべる。少し大きめの口。
僕が彼のような外見だったら、とても自信なんて持てないと思うのだけど、校長は自信に溢れている。かなり白いものが混ざった髪は広く後退している。大きめの鼻――幾分赤らんでいる――と大きめの口。
もっとも彼が自信に溢れているのは、その経歴ゆえかも知れない。校長はエリートで、まだ若い――50くらい――のに、もう二十年校長の地位にあると云う話だった。
「ところで、どうしてネクタイをきちんとしているのかね?」
「別に。きちんとしていることは歓迎されることではないのですか?」
僕は平然と云った。
「性質に適っているならね。」
校長は笑う。
「僕はそんな性質(たち)ではないと?」
僕は云った。校長は笑いを引っこめる。
「釦を外したまえ。」
厳しい口調。
「はい。」
「はい、校長先生。」
校長が訂正する。
「はい、校長先生。」
僕は云い、ネクタイを弛めて釦を外した。
「ほう。」
校長は僕の首筋に目をとめた。
「誰の仕業かね?」
「保健医です。」
「校長先生。」
「保健医です、校長先生。」
「なるほど、ハインリヒ君か。以可(いけ)ないね。」
云いながら、校長は僕の首筋を撫でた。ソファに押し倒される。校長が圧し掛かってくる。
「お仕置きだ。」
校長は僕の首筋に唇を這わせる。釦を外してゆく。
「ふっ、やめてください、校長先生。」
「やめないよ。」
その時だった。ノックの音がした。そして、声。
「お呼びですか? ミハエルです。」
背筋が粟立った。ミハエル!
「スペシャルゲストだよ。君はミハエル君を随分と気に入ってるようだからね。」
昼間のミハエルショックが蘇る。こんなところを見られたら、ミハエルはきっと僕を軽蔑する。
時間がなかった。僕は体勢を入れ換えた。ジッパーを開け、校長の下半身に顔を埋めた。舌を使ってしごいてやると、立ち上がりかけていたそれは途端に力を持った。
「うっ、」
校長が呻いた。
「校長先生?」
扉の外側でミハエルが云う。
「君に用はなくなった。帰りたまえ。」
「え?」
扉の外側でミハエルが混乱している気配がする。
「すまなかったね。行きたまえ。」
校長が平静さを装って云う。
「あの、校長先生、」
「行きたまえ。」
校長は言葉を重ねる。
「――…はい、校長先生。」
ミハエルが立ち去る気配がする。
「校長先生、お呼びでしょうか? リヒャルトです。」
中から機嫌の善い声が応じる。
「ああ、リヒャルト君、入りたまえ。」
「失礼します。」
云って、中に入る。
スタイリッシュな灰色のスーツの男性が書類から顔も上げずに、口の中だけで「ああ。」と云う。年の頃は50くらいだろうか。痩身。校長だ。
僕は黙って、校長が書きものを終えるのを待つ。
「掛けたまえ。」
書きものから顔を上げて、校長は云う。僕がソファに座ると校長も隣に腰掛けた。
「今日、またサボつたそうだね、リヒャルト君。」
そんなことだろうと思った。
「ええ、気分が優れなくて。」
「もういいのかい?」
「ええ、すっかり。」
「授業が終ったからだろう?」
校長が云い、僕は悪びれずに微笑む。
「ええ、まあ。」
校長が共犯者めいた笑みを浮かべる。少し大きめの口。
僕が彼のような外見だったら、とても自信なんて持てないと思うのだけど、校長は自信に溢れている。かなり白いものが混ざった髪は広く後退している。大きめの鼻――幾分赤らんでいる――と大きめの口。
もっとも彼が自信に溢れているのは、その経歴ゆえかも知れない。校長はエリートで、まだ若い――50くらい――のに、もう二十年校長の地位にあると云う話だった。
「ところで、どうしてネクタイをきちんとしているのかね?」
「別に。きちんとしていることは歓迎されることではないのですか?」
僕は平然と云った。
「性質に適っているならね。」
校長は笑う。
「僕はそんな性質(たち)ではないと?」
僕は云った。校長は笑いを引っこめる。
「釦を外したまえ。」
厳しい口調。
「はい。」
「はい、校長先生。」
校長が訂正する。
「はい、校長先生。」
僕は云い、ネクタイを弛めて釦を外した。
「ほう。」
校長は僕の首筋に目をとめた。
「誰の仕業かね?」
「保健医です。」
「校長先生。」
「保健医です、校長先生。」
「なるほど、ハインリヒ君か。以可(いけ)ないね。」
云いながら、校長は僕の首筋を撫でた。ソファに押し倒される。校長が圧し掛かってくる。
「お仕置きだ。」
校長は僕の首筋に唇を這わせる。釦を外してゆく。
「ふっ、やめてください、校長先生。」
「やめないよ。」
その時だった。ノックの音がした。そして、声。
「お呼びですか? ミハエルです。」
背筋が粟立った。ミハエル!
「スペシャルゲストだよ。君はミハエル君を随分と気に入ってるようだからね。」
昼間のミハエルショックが蘇る。こんなところを見られたら、ミハエルはきっと僕を軽蔑する。
時間がなかった。僕は体勢を入れ換えた。ジッパーを開け、校長の下半身に顔を埋めた。舌を使ってしごいてやると、立ち上がりかけていたそれは途端に力を持った。
「うっ、」
校長が呻いた。
「校長先生?」
扉の外側でミハエルが云う。
「君に用はなくなった。帰りたまえ。」
「え?」
扉の外側でミハエルが混乱している気配がする。
「すまなかったね。行きたまえ。」
校長が平静さを装って云う。
「あの、校長先生、」
「行きたまえ。」
校長は言葉を重ねる。
「――…はい、校長先生。」
ミハエルが立ち去る気配がする。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説


王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?



【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる