播磨の美しい姫

阿弖流為

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蘭姫誕生

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 播磨の国、赤松の城に一人の姫が生まれた。

 名を蘭姫(らんひめ)。

 父は赤松義村(あかまつ よしむら)、播磨を治める名門の当主であり、母は都より輿入れした公家の娘であった。蘭姫が生まれた夜、城の周囲では不吉な風が吹き荒れたという。産声が上がると同時に、庭の池に住まう老いた鯉が水面に身を投げ、無数の蛍が闇夜を舞った。

 生まれて間もない蘭姫を見た乳母は、そのあまりの美しさに息を呑んだ。白く透き通る肌、糸のように長い黒髪、静かに閉じられた瞼の奥に秘められた、深き闇のような瞳。

 しかし、その美貌が災厄をもたらすことになるとは、まだ誰も知らなかった。

 ──蘭姫の産声が響いたその夜、城に仕える陰陽師・法蓮(ほうれん)は、空を仰ぎ震えていた。

「この子は……」

 法蓮は、生まれたばかりの姫の運命を占った。すると、占具の玉が砕け、炉の火が弾ける。異様な気配が空気を満たし、黒き影が揺らめいた。

 法蓮は愕然としながらも、やがて低く呟いた。

「この姫の美貌は人の心を惑わせ、やがて国を滅ぼすであろう」

 その言葉を聞いた義村は、一瞬顔を強張らせた。しかしすぐに表情を和らげ、「戯言よ」と笑い飛ばした。

「我が娘は吉祥の象徴だ。災厄などもたらすはずがない」

 義村は蘭姫を腕に抱き上げ、優しく微笑んだ。彼にとって、この幼子は何よりも愛しい存在だった。

 しかし、母は違った。

 蘭姫を産んだ直後、母は高熱を出し、三日と経たぬうちに命を落とした。都より呼び寄せた医師も手の施しようがなかった。

「姫様を……どうか、大切に……」

 それが、母が遺した最期の言葉だった。

 赤松家の人々は、この出来事を深く胸に刻んだ。蘭姫は母の命と引き換えに生まれた子。何か得体の知れぬものを宿しているのではないか──そう囁く者もいた。

 だが、義村だけは決して蘭姫を忌むことはなかった。

「お前は、わしの宝だ」

 そう言い聞かせるように、彼は蘭姫を抱きしめた。

 幼い姫の瞳が、闇の中で静かに開かれた。そこには、何も映らぬ虚ろな光が宿っていた。

──蘭姫の運命は、この夜、すでに決まっていたのかもしれない。
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