あなたまるで鬼みたい

阿弖流為

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 翌朝、私は朝餉の膳につきながら、昨夜の出来事を思い返していた。

 赤き髪、碧き瞳――まさしく島に伝わる「鬼」の特徴そのままの人物。

 だが、それは本当に鬼と呼ぶべき存在なのか。それとも、かつての異邦の民の末裔なのか。

 「お嬢様、今朝はお早うございますね」

 微笑みながら朝餉を運んできた女主人に、私は慎重に言葉を選びつつ尋ねた。

 「女将さん、この島に、異国の方々が住まわれていたという記録はございますの?」

 女主人は一瞬、箸を持つ手を止めた。

 「……そのような話を、どこで?」

 「ただの好奇心ですわ。昨夜、少しばかり昔話を調べてみましたの」

 私は穏やかに微笑む。

 「ふむ……確かに、この島には古くから異国の血を引く者がいたと言われております。けれど、それは遠い昔の話。今となっては、何が真実やら……」

 「彼らはどこへ?」

 「さあ、それは誰にも……」

 言葉を濁しつつ、女主人はそっと目を伏せた。

 何かを隠している。私はそう確信した。

 食事を終えた後、私は宿を抜け出し、昨日の森へと向かうことにした。

 鬼は、もう一度現れるだろうか――。

 

 森の中はひんやりとした空気に包まれていた。陽の光が葉の隙間から洩れ、静寂が支配する世界。

 私は昨夜の場所へと歩みを進める。

 すると――

 どこからか、唄声が聞こえてきた。

 低く、静かな、異国の旋律。言葉は分からぬが、胸の奥に響くような、不思議な哀愁を帯びた調べ。

 私は思わず、その声の方へと足を向けた。

 やがて、木々の間に人影が見えた。

 あの男――鬼。

 昨夜と同じく、紅き髪が陽の光に揺れ、碧き瞳が物憂げに空を見つめている。

 私は躊躇わず、声をかけた。

 「その唄……異国のものですの?」

 男は驚いたように私を見た。そして、微かに笑う。

 「汝、また来たのか」

 「ええ、だって面白いではありませんの。貴方は、まことに鬼でいらっしゃるの?」

 彼は少しの間私を見つめ、それからゆっくりと口を開いた。

 「……我らは、かつて海を渡り、この地に辿り着いた者の末裔。故国を失い、流れ着いた民」

 「やはり、異国の……」

 男は静かに頷く。

 「だが、この島の者たちは我らを異端とした。異なる髪、異なる目を持つ我らを」

 私は言葉を失った。

 鬼とは、人ではなかったのか。

 いや、異なる姿をしていたからといって、それだけで鬼と呼ばれるのか?

 「では……貴方がたは、この島でどのように生きてきたの?」

 男はゆっくりと空を見上げた。

 「語るほどのものではない。ただ、隠れ、恐れられ、そして……忘れられた」

 風が、木々を揺らした。

 私は彼の言葉の重みを感じながら、そっと口を開いた。

 「……では、私は貴方を忘れませんわ」

 彼は驚いたように私を見た。

 私は微笑みながら、続ける。

 「私は藤村綾子。探究心に駆られ、真実を知りたくなったただの女学生ですわ」

 彼は、しばし沈黙したのち、小さく微笑んだ。

 「……面白い女だ」

 私は満足げに微笑み返した。

 これは、まだ始まりに過ぎない――。
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