退廃成人

阿弖流為

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それでも

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朝が来た。

 夜の静寂はいつも、私に様々な思考を巡らせるが、朝になると全てが嘘のように消え去る。

 淡い光がカーテン越しに差し込んでいる。時計は午前七時を指していた。

 夫は、ソファで眠っていた。

 まるで、帰る場所を見失った人間のように。

***

 私は黙って、キッチンに向かった。

 トーストを焼き、コーヒーを淹れる。

 夫の分も用意する。

 なぜかはわからない。ただ、そうすることが習慣になっているだけだ。

 夫がゆっくりと目を覚ました。

 「……何時だ?」

 「七時よ」

 「もう朝か……」

 夫は頭をかきながら起き上がる。

 「コーヒー、飲む?」

 夫は少し驚いたような顔をした。

 私は彼の反応を見て、小さく笑った。

 「そんなに驚かなくてもいいじゃない」

 夫は照れ隠しのように鼻を鳴らし、黙って席についた。

 私はコーヒーを差し出す。

 夫はそれを一口飲み、ぼそりと呟いた。

 「……苦いな」

 「あなたの好みでしょう?」

 「まあな」

 夫はカップを置き、ぼんやりと窓の外を眺める。

 私はトーストをかじりながら、何となく聞いてみた。

 「ねえ、あなたは私と離婚したい?」

 夫は一瞬、動きを止めた。

 そして、ゆっくりとカップを持ち上げる。

 「お前は?」

 私は、少し考えた。

 それから、小さく微笑んだ。

 「わからないわ」

 夫は、それ以上何も言わなかった。

***

 私たちは夫婦である。

 そう、少なくとも法的には。

 心はすれ違い、会話は減り、互いに何を考えているのかもわからなくなった。

 それでも、私は今朝もコーヒーを淹れる。

 それでも、夫は目の前に座っている。

 夫婦とは、何なのだろう。

 愛がなくても続いていくものなのか。

 それとも、ただ惰性で繋がっているだけなのか。

 私はコーヒーを飲みながら、夫の横顔を見つめた。

 夫は、それに気づいていない。

 もしかしたら、私たちはこれからもこうして朝を迎え続けるのかもしれない。

 それが幸せなのか、不幸なのかは、まだわからないけれど。
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