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それは、何気ない日だった。
クラスメイトの友達と一緒に、他愛もない話をしながら、いつもの通学路で学校から帰る。
お母さんもお父さんも仕事が忙しくて家にいないのはわかっているから、自分の鍵を取り出して1人で家に入る。
誰もいない空っぽの家の中でランドセルを片付けたり、用意されてる軽食用のお弁当を持って支度したりする。そして、宿題や明日の準備をしたあと、塾へ向かって私立中学校の受験勉強。
何ら変わりない、いつもの出来事のはずだった。
塾帰り、横断歩道でいつものように「今夜の夜ご飯なにかなー」なんて適当なことを考えていた。
すると、突然明るくなる視界。
(眩しいなぁ)
気づいたときには、目の前に大きなトラックが物凄い勢いで迫ってきていた。
悲鳴を上げることすらできなかった。
逃げることすらできなかった。
そして、私の意識はそこで途切れた。
◇
ずっとずっと、深い深い海の底に漂っているような感覚。
海の底になんて行ったことはないけれど、きっとこんな暗くて冷たくて静かなところなんだろうと勝手に想像する。
(……動けない)
苦しくもない。
つらくもない。
でも、何もできない。
ただ、ここに自分がいるだけ。
(何で私は、こんな真っ暗なところにいるんだろう)
理由を思い出そうとして、ゆっくりと身体が浮き上がるような、足下がふわふわするような、そんな不思議な感覚になる。
何かに包まれているような、でもそれが何かはわからないような、自分の言葉では言い表せない感覚。
「どうかどうか、お願いだから、麻衣、目を覚まして……っ!」
(あれ?)
この声はお母さんだろうか。お母さんの声が聞こえて、キュッと胸が縮んだかのように苦しくなる。
「もう一度、お願いだから」
お母さんの絞り出したかのような苦しそうな声。つらそうな声。こんな声は今まで聞いたことがなかった。
(お母さん、泣いてるの?)
何をそんなに悲しんでいるのだろうか。
私に何ができるかな。
お母さん大丈夫かな。
どんどん疑問や感情が湧いてくる。今までにない感覚。
ふっと身体が軽くなる。今なら手が、指が、動くかもしれない。
……そう、今なら。頑張れば、きっと。
今までで一番というくらい、全力で動かす。それが実際には指先しか動かせなかったとしても、それが今、私にできる全力だった。
「……っ、麻衣!?看護師さん、看護師さん!麻衣、麻衣が!!!」
ザワザワと色々な音が聞こえる。
先程まで静かで真っ暗なところにいたというのに、今は明るくて真っ白な空間にいることに気づく。
(ここは、どこだろう)
ぼんやりと、あまりの眩しさに目を細めながら、私は長い時を経て目覚めた。
クラスメイトの友達と一緒に、他愛もない話をしながら、いつもの通学路で学校から帰る。
お母さんもお父さんも仕事が忙しくて家にいないのはわかっているから、自分の鍵を取り出して1人で家に入る。
誰もいない空っぽの家の中でランドセルを片付けたり、用意されてる軽食用のお弁当を持って支度したりする。そして、宿題や明日の準備をしたあと、塾へ向かって私立中学校の受験勉強。
何ら変わりない、いつもの出来事のはずだった。
塾帰り、横断歩道でいつものように「今夜の夜ご飯なにかなー」なんて適当なことを考えていた。
すると、突然明るくなる視界。
(眩しいなぁ)
気づいたときには、目の前に大きなトラックが物凄い勢いで迫ってきていた。
悲鳴を上げることすらできなかった。
逃げることすらできなかった。
そして、私の意識はそこで途切れた。
◇
ずっとずっと、深い深い海の底に漂っているような感覚。
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(……動けない)
苦しくもない。
つらくもない。
でも、何もできない。
ただ、ここに自分がいるだけ。
(何で私は、こんな真っ暗なところにいるんだろう)
理由を思い出そうとして、ゆっくりと身体が浮き上がるような、足下がふわふわするような、そんな不思議な感覚になる。
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「どうかどうか、お願いだから、麻衣、目を覚まして……っ!」
(あれ?)
この声はお母さんだろうか。お母さんの声が聞こえて、キュッと胸が縮んだかのように苦しくなる。
「もう一度、お願いだから」
お母さんの絞り出したかのような苦しそうな声。つらそうな声。こんな声は今まで聞いたことがなかった。
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「……っ、麻衣!?看護師さん、看護師さん!麻衣、麻衣が!!!」
ザワザワと色々な音が聞こえる。
先程まで静かで真っ暗なところにいたというのに、今は明るくて真っ白な空間にいることに気づく。
(ここは、どこだろう)
ぼんやりと、あまりの眩しさに目を細めながら、私は長い時を経て目覚めた。
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