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第八話 溺愛

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 志乃がミゾレの家に暮らし始めてからどれほど経っただろうか。

 ミゾレは志乃を大事に大事に可愛がり、それはそれは愛しい者として寵愛していた。
 ただ志乃をこの世界に閉じ込めておくのではなく、たまに彼女を現世へと連れ立っては人里に降りていって団子や抹茶、茶菓子などを味わったり、釣りや紅葉狩りなどに出かけたりしていた。
 そして、今まで茂平との生活ではすることができなかったことをこれでもかと堪能した。

 はじめは「こんなにしてもらってばかりでよいのだろうか」と思っていた志乃も、ミゾレと共にいるうちに申し訳なさを感じることなく一緒に楽しめるようになってきていた。

「シノー! シノー!」
「はい、ただいま!」

 ミゾレは志乃の姿が見えないと、このようにすぐさま志乃を呼ぶ。
 以前言っていた通り、元々ミゾレの家は大所帯だったせいか、志乃が来る前はずっと一人だったようで彼はとても寂しがりやであった。

「また掃除をしていたのか? よいと言っているのに」
「だって、何もしないと落ち着きませんから」
「シノは何もせずともよいと言っているだろう? 綺麗なのはありがたいが、我はシノと一緒にいたい」
「いつも一緒にいるではありませんか」
「それでも一緒にいたいのだ。ほら、掃除などもうよいから、我と共に桜を観に行くぞ。麻ヶ谷山の桜がちょうど見頃らしい」
「わかりましたから、ってミゾレさま」
「シノは歩くのが遅いからな。こうしたほうが早い」

 ひょいっと抱き上げられて、すぐさま唇を奪われる。

「私、謝っておりませんよ?」
「我がしたかったからしただけだ」
「では、私も」

 そうして再び口付ける。

「桜の精にうつつを抜かさないでくださいね」
「我は暴れ川の主人だぞ? 桜の精には恐れられている。それに、我はこう見えて一途なのだ。目の前に愛しい者がおるのにうつつを抜かす暇はない」

 以前のような、感情を抑え、何にでも謝る志乃はそこにはもういなかった。
 彼女は変わり、だんだんと自分の気持ちを素直に吐露できるようになっていた。

「シノこそ、このような愛らしい姿を人間どもに見せたらならぬぞ。人間なぞに横恋慕されたら敵わん」
「私のことを愛らしいというのはミゾレさまくらいですよ」
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