婚約者が親友と浮気したので婚約破棄したら、なぜか幼馴染の騎士からプロポーズされました

鳥柄ささみ

文字の大きさ
上 下
81 / 83

番外編 ジュリアス編9

しおりを挟む
「はぁ……はぁ……、これで外の奴らは全部か……?」

 視界が赤い。
 動いている者がいないか確認しつつ、髪から返り血が滴るのを袖で拭い、勢いよく剣を振るって刃についた肉片や血を飛び散らせた。
 左手には虫の息なのか既にこときれているのかわからない男を掴んで引きずりながら小屋の扉まで行き、勢いよくドアを蹴破る。

「マリーリ!! マリーリ、いるのか!??」

 視界にすぐ飛び込んで来たのは隣国の騎士達。
 そして彼らによって捕らえられているマリーリだった。

「……っ! うぅ……あ……ぅっ!!」
「おい、喋るな!!」
「マリーリ!?」

 縛られ、その縄を引かれて苦悶の表情を浮かべるマリーリ。
 その頬や身体は見るからに痛めつけられており、マリーリにそんな仕打ちをした奴らに対する怒りと、不本意ながらも彼女を巻き込み傷を負わせてしまった己の不甲斐なさで、俺の怒りが沸点に達するのはあっという間だった。

(よくも俺のマリーリを……!!! 許さん!)

 だがマリーリを人質に取られ、どうやって彼女を救おうかと攻めあぐねる。
 下手に前に出てこれ以上マリーリを傷つけるわけにはいかないが、このまま何もしないわけにもいかない。
 俺はどうすればいいんだ、と脳内で葛藤していたときだった。
 不意にマリーリと視線が合うと、先程まで絶望していたはずの彼女の瞳に闘志が灯っているののに気づく。

(あれはかつて俺を守るために悪ガキ達を蹴散らしたときと同じ瞳……!)

 マリーリはこの状況でも諦めていない、俺を信じてくれている。

(そうだ、ここでマリーリを守れなくて何が騎士だ! マリーリの夫だ! 俺はマリーリを守るために、強くなるために、騎士になったのだ!)

 マリーリの心意気に自分も答えようと奮起する。
 俺を信じてくれたように俺もマリーリを信じようと、左手で持っていた男を勢いよく奴らに投げつけた。
 そして、マリーリが機転を利かしたことで大きな隙が生まれ、マリーリを無事に確保し、マリーリに目を瞑るように指示したあと奴らを全て斬り伏せる。
 絶命し、肉塊と化した奴らを隠すようにマリーリを抱きしめると、マリーリは返り血で真っ赤になった俺を嫌がることなく、強く抱きしめ返してきた。

「ジュリアス、ジュリアス、ジュリアス……っ」
「もう大丈夫だ。よく頑張ったな」

 彼女が生きていた安堵で身体中が歓喜で震える。
 そして俺はマリーリが生きているのを確かめるように、きつくきつく抱きしめた。

「ジュリアス、また助けてくれてありがとう」

 涙を溢すマリーリの涙を拭う。
 震えるマリーリの姿を見ながら、もうこれ以上彼女を傷つけさせるようなことはしないと、危ない目には合わせないと、俺は心の中で固く誓った。

「家に帰ろう。俺達の家に」
「えぇ、みんなが待ってる私達の家に」

 再び抱きしめて口づける。
 つい興奮して舌を差し込み、何度も角度を変えながら彼女の口腔内を蹂躙し、貪るように口づけを深くしていると背後から「あーあ、随分と派手にやらかしたなぁ」と呑気な声が聞こえた。

「……っ! 陛下!? ちょ、ジュリアス、離れて……っ!」
「おや、続けてていいぞ? 我は感動の再会を邪魔する気はないからな」
「だったらもう少し空気を読め。明らかに今は声をかけるタイミングではないだろう!」

 俺が指摘すると、ギルベルトは悪びれる様子もなく笑ってみせたあと、「ふむふむ、隣国の生存者はいないようだな。お前達、すまないが後処理は任せた。我はこのアホを連れて帰らねばならないからな」と近衛騎士達に指示を出す。

(そういえば、肝心のグロウが見当たらなかったな)

 すっかり忘れていたグロウの存在を思い出して部屋を見回すと、彼らしき物体が横たわっているのに気づく。
 マリーリ以外全く眼中になかったのもあってギルベルトに言われてようやく今グロウの存在に気づいたのだが、相当手酷くやられたようで顔の原型を留めておらず、生きているのか死んでいるのか遠目で見て判断につかないほど酷いありさまだった。

「随分と酷くやられたな」
「どうせろくでもないことを考えて返り討ちにでもあったのだろう? はぁ、全く我が弟ながら呆れたもんだ。すまないな、マリーリ嬢」
「い、いえ! お気になさらないでください。この通り私は無事でしたので……っ」

 緊張気味に答えながら、なぜかその場で飛んでみせるマリーリ。
 どうやら元気であることをアピールしているようで、相変わらず可愛らしいな、と心の中で愛でる。

「はは、さすがジュリアスが骨抜きにされるだけはある。肝が据わっておるな。……さて、邪魔者はとっとと退散するとするか。詳細などは後日改めて。今日はこのまま家に帰っていいぞ。用があればまた連絡する」

 近衛騎士達がグロウを馬車に乗せるとギルベルトはその馬車に乗り込み、王城へと引き返す。
 俺達も家に帰ろう、とマリーリに遺体などを見せないように彼女の肩を抱いて目隠ししながらバルムンクの元まで戻り、一緒にバルムンクに乗った。

「ねぇ、ジュリアス」
「何だ?」
「もう、その、お仕事全部終わったの?」

 帰路の道中、身体を預けて視線を揺らしながらおずおずと尋ねてくるマリーリ。
 恐らくキューリスの件を指しているのだろう。
 俺は不安にさせてしまったぶん安心させるように笑ってみせると、マリーリを背中から抱きしめ、頬を合わせた。

「あぁ、先程全て終わった。だからもう今日はずっとマリーリといられる。いや、今日だけでなく、これからずっと一緒だ。ギルベルトから許可も取っている」
「そうなの? よかった」

 嬉しそうにはにかむマリーリが愛しくて、また口づけしようと顎に触れようとすると、なぜかグイッと押し返される。
 まさか拒絶されるとは思わず、「……嫌なのか?」と放心するほどショックを受けると、マリーリは申し訳なさそうに縮こまりながら小さく口を開いた。

「えっと、その、さっきは興奮してて忘れてたけど、今お互いに血塗れだし、帰って綺麗になったら、その……したいかな……と思って」

 最後は消え入りそうな声で話すマリーリ。
 恥ずかしげに頬を染める彼女に、頭の端で彼女の言葉を整理しながら、欲が沸々と内側から沸き立つのが自分でもわかる。

「……なるほど、帰って綺麗になったらいいんだな?」
「え? うん、そう……っ、て、ちょ、ジュリアス!?」

 俺が突然バルムンクの速度を上げると、マリーリはあまりに急なことでついていけずに目を白黒させていた。
 その姿もまた可愛らしい。
 イチャイチャしながらゆっくりと帰ろうと思ったが、予定変更だ。
 マリーリがそう言うのなら、早く帰るにこしたことはない。

(帰ってすぐに一緒に風呂に入って身体を洗って清めてから、今までのぶんたっぷりと甘やかしてイチャイチャしてやるぞ……!!)

 その後急いで家に帰るやいなや使用人達とマリーリとの感動の再会もそこそこに、すぐに風呂を沸かしてもらうと、早速一緒に入って中でマリーリを洗い清める。
 そして浴槽では隙間なく抱きしめ、何度も息が上がるほど口づけ、身体中を愛撫し、たっぷりと愛したところでマリーリの意識が飛んでしまい、それを知ったミヤに俺は懇々と説教されるのだった。
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

【完結】フェリシアの誤算

伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。 正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。 妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。 でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。 ずっとあなたが好きでした。 あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。 でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。 公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう? あなたのために婚約を破棄します。 だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。 たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに―― ※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

【完結】契約結婚。醜いと婚約破棄された私と仕事中毒上司の幸せな結婚生活。

千紫万紅
恋愛
魔塔で働く平民のブランシェは、婚約者である男爵家嫡男のエクトルに。 「醜くボロボロになってしまった君を、私はもう愛せない。だからブランシェ、さよならだ」 そう告げられて婚約破棄された。 親が決めた相手だったけれど、ブランシェはエクトルが好きだった。 エクトルもブランシェを好きだと言っていた。 でもブランシェの父親が事業に失敗し、持参金の用意すら出来なくなって。 別れまいと必死になって働くブランシェと、婚約を破棄したエクトル。 そしてエクトルには新しい貴族令嬢の婚約者が出来て。 ブランシェにも父親が新しい結婚相手を見つけてきた。 だけどそれはブランシェにとって到底納得のいかないもの。 そんなブランシェに契約結婚しないかと、職場の上司アレクセイが持ちかけてきて……

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

処理中です...