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番外編 ジュリアス編6
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「ふふ、あのマリーリの無様な絶望した顔! 見ました? 私がこれからジュリアスさまの妻になるのだと知らないであの態度! ふふふふ、本当に傑作でしたよね!!」
興奮気味にはしゃぐキューリス。
俺が昨日マリーリを諌めたことで彼女に勝ったという優越感なのだろう、その笑顔は非常に醜く、歪んだものだった。
(マリーリに自分の存在を誇示するためならなんだってするのだな)
ここまでマリーリを蔑む理由はわからないが、彼女より優位的立場になりたいという感情がひしひしと伝わってくる。
俺に執着しているのだって、マリーリの婚約者だという肩書きがあるからこそだろう。
ブランの件といい、とことんマリーリを追い詰めようとする姿は異様であった。
「……そうですね。ほら、今日は結婚式なのですから、お支度なさらないと。貴女のドレス姿、楽しみにしています」
「えぇ、そうですわね! わたくしの美貌に見合った豪奢なドレスを着て参りますから楽しみになさっててください! それにしても、まさか王城での結婚式だなんて……。ふふ、マリーリに私の晴れ姿を見せられないのは残念ですけど、あの子が悔しがるような素晴らしい結婚式にしましょう?」
「キューリスさま、時間です」
「わかりました。ジュリアスさまの正装も楽しみにしておりますわね」
キューリスが従者に連れられ奥の部屋に行き、姿が見えなくなったのを見計らうと俺は「はぁ」と大きく溜め息をついた。
(やっとここまで来た。だが、これでもう終わりだ)
そろそろ本格的にマリーリの身が危ないとのことや昨日の一件でキューリスに隙が生まれたことにより、急遽結婚式という名のキューリスを騙し、糾弾する会を前倒しにすることになった。
そのため、帰ったら説明するとマリーリに約束したにも関わらず、結局昨日は帰ることができなかったのだ。
信じて待っていると言ってくれたが、昨日の今日だ、元々気丈に振る舞っているとはいえ薬の効果もあって不安定な彼女を放っておきたくなくて、できれば帰ってちゃんと説明しておきたかった。
マリーリならきっとわかってくれるだろうとたかをくくっていたせいで、あんなにも彼女を傷つけてしまったと思うと胸が痛んだ。
(マリーリ。お願いだから信じて待っていてくれ)
嫌い、とマリーリに言われたときの絶望感を思い出す。
彼女に嫌われてしまったら、自分の元から去ってしまうことになったら、そう思うだけで身を引き裂かれるほどの痛みや恐怖が自分を襲い、俺にはマリーリがどれだけ必要なのかを思い知った。
マリーリのいない人生なんてもう考えられなかった。
(これが終わったら、今までのぶんマリーリの言うことを全部聞いて、甘やかすぞ! それですぐに結婚して、子供もたくさん作って、ずっと離してやらない。そうだ、俺は決めたんだ。もう誰にも俺とマリーリの生活を邪魔させない……!)
これで決着がつくと思うと少し晴れやかな気持ちになるが、同時に最後の最後で気を抜くわけにはいかないと気持ちを引き締める。
ここで彼らに逃げられたら全てが水の泡だ。
最後まで隙を見せず、キューリスとオルガス公爵の両名を拘束するため、しっかりと包囲網を敷かねばならない。
こうして大々的に王城で結婚式を挙げるというようにしたのも、彼らの目を欺くため、油断させるためである。
せいぜい最後まで騙されてくれるよう、こちらもきちんと演じなくては。
◇
滞りなく式は進み、誓いの言葉も終え、オルガス公爵の周りには警備という名の彼を捕らえるための近衛騎士達が配備され、いよいよこの偽結婚式も終盤に差し掛かったところだった。
「では、こちらにサインを」
「え? 指輪の交換や誓いのキスが先ではなくて?」
キューリスの言葉に緊張が走る。
通常の結婚式の流れでは、確かに指輪の交換や誓いのキスを経てから結婚証明書にサインをするのだが、今回はあくまでキューリスを騙すためのもの。
俺はキューリスとのキスも指輪交換も絶対にしたくないと拒否したため、あえて順番を変えていたのだ。
それを見事に指摘されて、偽の司祭も動揺したのか目が泳いでいる。
「ねぇ、ジュリアスさまもおかしいと思いません? 王城での結婚式でしょう? きちんと通常通りにやるのがよいのではなくて?」
語気を強めて司祭に食ってかかるキューリス。
まずい、と誰もが思ったそのとき、俺は一か八かの賭けに出た。
「キューリスさま、申し訳ありません!」
俺の謝罪にキューリスが固まる。
周りの仕掛け人達も、突然の俺の謝罪に何を言い出すのだとソワソワしている様子だった。
「ジュリアスさま……? なぜ、貴方さまが謝るのです? 何かわたくしに……」
「実は、サプライズでこのあと指輪交換と誓いのキスを王城のテラスで民に祝福されながらしようと画策していたのです。キューリスさまはずっとこの結婚式を楽しみにしていらっしゃったので、多くの人々に祝福してもらいたいと思っているのだろうと、差し出がましいながらも前々から計画していおりまして。それで勝手ながらこのように変更させていただいたのですが……やはりお気に召しませんでしたよね?」
苛立った様子のキューリスに畳み掛けるように彼女が好みそうなデタラメなことをすらすらと話す。
そして、自分を褒めたいくらいにスムーズに言えたことにホッとしながら、キューリスの反応を待った。
興奮気味にはしゃぐキューリス。
俺が昨日マリーリを諌めたことで彼女に勝ったという優越感なのだろう、その笑顔は非常に醜く、歪んだものだった。
(マリーリに自分の存在を誇示するためならなんだってするのだな)
ここまでマリーリを蔑む理由はわからないが、彼女より優位的立場になりたいという感情がひしひしと伝わってくる。
俺に執着しているのだって、マリーリの婚約者だという肩書きがあるからこそだろう。
ブランの件といい、とことんマリーリを追い詰めようとする姿は異様であった。
「……そうですね。ほら、今日は結婚式なのですから、お支度なさらないと。貴女のドレス姿、楽しみにしています」
「えぇ、そうですわね! わたくしの美貌に見合った豪奢なドレスを着て参りますから楽しみになさっててください! それにしても、まさか王城での結婚式だなんて……。ふふ、マリーリに私の晴れ姿を見せられないのは残念ですけど、あの子が悔しがるような素晴らしい結婚式にしましょう?」
「キューリスさま、時間です」
「わかりました。ジュリアスさまの正装も楽しみにしておりますわね」
キューリスが従者に連れられ奥の部屋に行き、姿が見えなくなったのを見計らうと俺は「はぁ」と大きく溜め息をついた。
(やっとここまで来た。だが、これでもう終わりだ)
そろそろ本格的にマリーリの身が危ないとのことや昨日の一件でキューリスに隙が生まれたことにより、急遽結婚式という名のキューリスを騙し、糾弾する会を前倒しにすることになった。
そのため、帰ったら説明するとマリーリに約束したにも関わらず、結局昨日は帰ることができなかったのだ。
信じて待っていると言ってくれたが、昨日の今日だ、元々気丈に振る舞っているとはいえ薬の効果もあって不安定な彼女を放っておきたくなくて、できれば帰ってちゃんと説明しておきたかった。
マリーリならきっとわかってくれるだろうとたかをくくっていたせいで、あんなにも彼女を傷つけてしまったと思うと胸が痛んだ。
(マリーリ。お願いだから信じて待っていてくれ)
嫌い、とマリーリに言われたときの絶望感を思い出す。
彼女に嫌われてしまったら、自分の元から去ってしまうことになったら、そう思うだけで身を引き裂かれるほどの痛みや恐怖が自分を襲い、俺にはマリーリがどれだけ必要なのかを思い知った。
マリーリのいない人生なんてもう考えられなかった。
(これが終わったら、今までのぶんマリーリの言うことを全部聞いて、甘やかすぞ! それですぐに結婚して、子供もたくさん作って、ずっと離してやらない。そうだ、俺は決めたんだ。もう誰にも俺とマリーリの生活を邪魔させない……!)
これで決着がつくと思うと少し晴れやかな気持ちになるが、同時に最後の最後で気を抜くわけにはいかないと気持ちを引き締める。
ここで彼らに逃げられたら全てが水の泡だ。
最後まで隙を見せず、キューリスとオルガス公爵の両名を拘束するため、しっかりと包囲網を敷かねばならない。
こうして大々的に王城で結婚式を挙げるというようにしたのも、彼らの目を欺くため、油断させるためである。
せいぜい最後まで騙されてくれるよう、こちらもきちんと演じなくては。
◇
滞りなく式は進み、誓いの言葉も終え、オルガス公爵の周りには警備という名の彼を捕らえるための近衛騎士達が配備され、いよいよこの偽結婚式も終盤に差し掛かったところだった。
「では、こちらにサインを」
「え? 指輪の交換や誓いのキスが先ではなくて?」
キューリスの言葉に緊張が走る。
通常の結婚式の流れでは、確かに指輪の交換や誓いのキスを経てから結婚証明書にサインをするのだが、今回はあくまでキューリスを騙すためのもの。
俺はキューリスとのキスも指輪交換も絶対にしたくないと拒否したため、あえて順番を変えていたのだ。
それを見事に指摘されて、偽の司祭も動揺したのか目が泳いでいる。
「ねぇ、ジュリアスさまもおかしいと思いません? 王城での結婚式でしょう? きちんと通常通りにやるのがよいのではなくて?」
語気を強めて司祭に食ってかかるキューリス。
まずい、と誰もが思ったそのとき、俺は一か八かの賭けに出た。
「キューリスさま、申し訳ありません!」
俺の謝罪にキューリスが固まる。
周りの仕掛け人達も、突然の俺の謝罪に何を言い出すのだとソワソワしている様子だった。
「ジュリアスさま……? なぜ、貴方さまが謝るのです? 何かわたくしに……」
「実は、サプライズでこのあと指輪交換と誓いのキスを王城のテラスで民に祝福されながらしようと画策していたのです。キューリスさまはずっとこの結婚式を楽しみにしていらっしゃったので、多くの人々に祝福してもらいたいと思っているのだろうと、差し出がましいながらも前々から計画していおりまして。それで勝手ながらこのように変更させていただいたのですが……やはりお気に召しませんでしたよね?」
苛立った様子のキューリスに畳み掛けるように彼女が好みそうなデタラメなことをすらすらと話す。
そして、自分を褒めたいくらいにスムーズに言えたことにホッとしながら、キューリスの反応を待った。
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