上 下
65 / 83

65 結婚式が楽しみだわ

しおりを挟む
「と、ギルベルト国王がおっしゃってたわ」
「そうですか」
「ミヤ、何か陛下に言ったの? というか、陛下と知り合いなの?」
「いえ、別に。……あ! そんなことより、やっとご結婚できるようでよかったですねぇ~! 私も嬉しいですぅ~!!」

 帰宅するなりミヤに色々と報告するマリーリ。
 言う前に「守秘義務があるのでは?」とも思ったのだが、ジュリアスにミヤには全部報告しても問題ないと言われてその通りにした。

(ミヤってこういう話好きだからてっきり食いつくと思ったんだけどなぁ)

 だが、ミヤは大して興味もなさそうに「ふぅん」とした表情のあと、すぐに話を変えてしまった。
 彼女の興味をひかなかったのかな、と思いつつ結婚式のことに頭を切り替える。
 結局結婚式が延期になっていたのは先日の一件のせいとのことで、無事に解決した今、ようやく結婚式を挙げられることが決まったのだ。
 ジュリアスも結婚式と新婚旅行のためにと、溜まっていた領主の仕事を見たこともないスピードで片付けているようで、あのグウェンでさえ舌を巻くほどであった。

「ウェディングドレスは何にします? あ、マーサさまにもお伺いします?」
「母さまに言ったらネルフィーネさまと一緒に口出ししてきそうじゃない?」
「確かに。それは絶対に阻止せねばですね」
「それに、せっかくだしジュリアスと一緒に選びたいな、って」
「えーーー、そこはジュリアスさまだけでなく、私にも一緒に選ばせてくださいよぉ~!」
「私もミヤと一緒に選びたいとも思ったけど、ジュリアスったらすぐにヤキモチ焼くんだもの。だから、ごめんなさい」

 あれからのジュリアスは色々な意味で酷かった。
 俺がいないときは家から出るな、出かけるときは俺と一緒じゃないとダメだ、ミヤばかり構わないで俺も構ってくれ、これから寝室を一緒にするぞ、これからはずっと風呂も一緒に入るぞ、などともう今までの一線置いていたのが嘘のようなマリーリにべったり状態。
 しかも毎日朝のいってきますから帰りのただいまのキスは必須で、「愛してる」という愛の言葉つきなため、毎日毎日マリーリは羞恥心で死にそうになりながら過ごしていた。
 あんなに、自分のことが好きかどうなのか、気持ちを言葉にしてくれないし態度もあまり示してくれないと思い悩んでいたというのに、今までの反動のせいかまさに溺愛といった状態で甘やかされて、さすがに使用人達の生温かい視線が居た堪れなくなってくる。
 ちょっとは距離を置こうと努力したものの、「マリーリは俺が嫌いなのか?」としょんぼりした表情で言われてしまえばマリーリはそれ以上何も言えず、結局ジュリアスの言われるがまま彼に従う日々であった。

「ジュリアスさまもケチですねぇ」
「そういうこと言わないの。ミヤは髪飾りを選んでちょうだい。あと当日の髪結はミヤにお任せしたいわ」
「わかりました~。あ、明日から色々試してみます?」
「えぇ、お願い! いくつか候補出しておいて、ドレスに合った髪型を選ぶのもいいわね」

 キャッキャと盛り上がる二人。
 マリーリも当日のことを思うと胸が弾んだ。

「結婚式が楽しみだわ」
「そうですね。一年越しですもんね~」
「本当、色々巻き込まれてしまったからね」

 この一年色々あったなぁ、と遠い目をするマリーリ。
 まさに濃厚な一年であった。

「そういえば、ジュリアスさまって何で寝室分けてたんです? 結局ずるずるとマリーリさまの部屋で寝てましたけど」

 ミヤに尋ねられて、苦笑するマリーリ。
 言ってもいいのだろうか、と思いつつももう今更かと口を開く。

「それが……寝室一緒にしたらいつ子供できるかわからないし、万が一子供ができた場合に結婚前に子供ができることも問題になるかもしれないが、そもそもキューリスに我が子の命が狙われかねないだろう? とかそんな心配をしてたみたい」
「あーーー……。では、マリーリさまに冷たくしてたのは?」
「薬盛られてたから、いつどこで私を襲うかわからないから……って」
「あーーー、なるほど? ご馳走さまです」
「もう、別に惚気てるわけでもないし、納得しないでよ! 私には情報量多すぎてびっくりなんだからっ」

 ミヤがなんとも言えない冷めた表情になっているのを見て、マリーリは縋りつくように彼女に抱きつく。

「いやぁ、まぁ、なんとなく想定内のことで」
「えぇ!? ミヤは気づいてたの!??」

 まさかジュリアスがそこまで色々と考えていたなどと思わず、正直マリーリには驚きの連続だったのだがどうやらミヤは察していたらしい。
 だが、マリーリにとってはジュリアスの変わり身についていくのでさえやっとのことだった。
 あまり触れなかったのだって我慢がきかなくなるとか言うわりにはやっぱりちょっとだけなら、と触れてはそれ以上したかったと暴露されてマリーリに反応に困るような事実ばかり出てくるのだ。

「あんなに悩んでたのに……」
「だから言ったじゃないですかぁ、杞憂だって」

 よしよしとミヤに頭を撫でられていると「マリーリ!」と聞き慣れた声が聞こえてそちらを向けば、急いで帰ってきたのか頬を上気させたジュリアスがいた。

「ジュリアス、おかえりなさ……」
「またミヤにくっついているのか」

 目敏く見つけたジュリアスが、すかさず割り込むようにやってくる。

「いいじゃないですかぁ、減るもんじゃないですし~」
「減る! 俺とマリーリの時間が減るだろう!」
「嫉妬深い男性は嫌われますよ?」
「ギルといい、ミヤといい、揃いも揃ってそういうことを言うんじゃない!」

(なんなんだろう、このやりとり)

 ジュリアスがマリーリ大好きマンと化した今、ジュリアスとミヤのマリーリ争奪戦は今日もまた夜遅くまで何度も勃発するのであった。
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

冷酷非情の雷帝に嫁ぎます~妹の身代わりとして婚約者を押し付けられましたが、実は優しい男でした~

平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは落ちこぼれと蔑まれながらも、希望だった魔法学校で奨学生として入学することができた。 ある日、妹のノエルが雷帝と恐れられるライトニング侯爵と婚約することになった。 ライトニング侯爵と結ばれたくないノエルは父に頼み、身代わりとしてフィーナを差し出すことにする。 保身第一な父、ワガママな妹と縁を切りたかったフィーナはこれを了承し、婚約者のもとへと嫁ぐ。 周りから恐れられているライトニング侯爵をフィーナは怖がらず、普通に妻として接する。 そんなフィーナの献身に始めは心を閉ざしていたライトニング侯爵は心を開いていく。 そしていつの間にか二人はラブラブになり、子宝にも恵まれ、ますます幸せになるのだった。

【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~

瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】  ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。  爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。  伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。  まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。  婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。  ――「結婚をしない」という選択肢が。  格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。  努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。  他のサイトでも公開してます。全12話です。

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?

鶯埜 餡
恋愛
 バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。  今ですか?  めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?

処理中です...