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58 誰にものを言っている!
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「ここで乗り換えるぞ」
「きゃっ!」
突然馬車が止まったかと思えば、マリーリはグロウに腕を掴まれて馬車から無理矢理降ろされる。
どうやら隣国へ行くのに馬車を乗り換えるらしい。
確かに、王族専用の馬車が隣国に行くなど目撃されたら大変な騒ぎになるだろう。
(随分と用意が周到なのね)
事前にジュリアスの不在を狙って行動を起こしたのだろう。
馬車の用意といい、国境近くまで誰にも咎められることなくスムーズに来れたことといい、色々と根回しが済んでいるようだった。
マリーリは逃げるなら今がチャンス!? とも一瞬思うが、さすがに無力な自分が抵抗したところで逃げ道もなければ移動手段もないので諦める。
そもそも騎士団長を務めているグロウにただの小娘が敵うはずもなかった。
「ここからは拘束させてもらおう。せっかく散々事前に準備していたのに、ここで隣国のクソどもに疑われたら敵わんからな」
強引に腕を引かれてマリーリは抵抗するように髪を振り乱すと、ぽとりとパールの髪留めが落ちる。
「今更抵抗などするんじゃない!!」
「うっ、く……っ」
首ねっこを掴まれ、暴れられないように拘束される。
そして、ギリギリと腕や脚を綱でこれでもかというほどキツく縛られた。
「痛っ……」
「ふん、抵抗などしなければ優しくしたものを」
「王族ともあろう人がこんなことをしでかすなんて正気ですか!?」
「誰にものを言っている!」
パン! と頬を叩かれる。
加減はしたのだろうが、それでも男性の力は強くて痛い。
以前ブランにされたことを思い出してマリーリはあの当時の記憶が蘇って、ガタガタと身体が震える。
泣きたくなどないのに、勝手にじわりと涙が滲んだ。
「くく、いいざまだ。このおれに意見するなど、そこまで不敬を働くならよかろう。多少甚振られただけで助けようと思ったが、どうせ忘れさせるなら薬を使うまでもない、お前が死んでからゆっくりヤツらを粛清するのも悪くないか」
「……っ!」
「恨むならジュリアスを恨め。くくく、ヤツも最愛の妻が死んだと知ったらどんな顔をするか! あぁ、考えただけで笑いが込み上げてくる。そうだ、その煩い口はさっさと塞ぐに限るな」
グロウは笑いながらマリーリの口の周りもぐるぐると縛り、彼女は「んーーんんーーーぅうー」と言葉にならない声しか上げることができなくなった。
「いい気味だ。さて、行くか。相手方もお待ちかねだ。せいぜい餌として役目を果たせよ」
◇
「うぐっ!!」
どこかの国境近くにある小屋に連れてこられたと思えば、マリーリはグロウに投げ捨てられるように放り込まれる。
拘束されているマリーリは受け身を取ることすらままならず、勢いのままに肩から床に着地して、あまりの痛みに思わず呻いた。
「やっと来たか」
「来ないかと思ったぞ」
「すまない。少々手間取ってな」
「それで? この娘があの男の妻だと?」
「あぁ。ジュリアスの妻のマリーリ・バードだ」
「ふぅん、あの男はこう言った娘が好みなのか」
上から下までじろじろと男達の好奇の目に晒されて嫌悪感が増すマリーリ。
だが、手足と口を縛られた今、何も抵抗することはできない。
隣国の者であろう男達はざっと数えただけでも二桁はいそうで、いずれも屈強そうであり、本当にグロウ一人で倒せるのか怪しい気がした。
「随分と珍しい髪の色をしているな」
「あぐ……っ」
髪を掴まれ引っ張られる。
そしてそのまま持ち上げられて、頭皮がぶちぶちと悲鳴を上げた。
「そちらの国では珍しくないのか?」
「いや、我が国でも珍しい。あまり見ない色だ」
「ほう、なるほど。であれば、せっかくだ。ここで嬲って楽しもうと思ったが、価値があるなら人買いに売るのも手だな」
「どういうことだ? ここでヤツの妻を甚振ってジュリアスを誘き寄せる餌にするはずでは!?」
隣国の男の言葉を聞き、途端にグロウが慌て出す。
恐らく隣国の男の提案はグロウの想定外のようだった。
「本当にヤツの妻かどうかも怪しいしな。それなら最大限利用できるほうに利用するのが最善だろう? そもそもあの男の目の前で甚振らねば意味もないし、だったらこの女は我が国の貴族に高値で買ってもらったほうが価値がある」
「それは契約違反だろう! 話が違う!!」
「どうした? そんなに慌てて。ここをどこだと思っている? もうお前の国ではないのだぞ、王弟グロウ」
「なぜ、おれの名を……!?」
「そんなもの調べればすぐにわかる。貴様がどうしてわざわざ偽名を使ってまで我々に接触してきたのか理由は不明だが、まさに好都合」
男は笑うと、グロウの周りを一気に複数の男達が囲む。
「っく! な、何をする!!」
「この女だけでない、お前も人質として我が国の王への献上品だ。本当に愚かな男だ。自ら進んで敵地に赴くなど」
グロウは抵抗するもさすがに多勢に無勢ではなす術もなく、剣を抜く隙すら与えられずに殴られ蹴られ、まるでボロ雑巾のようにぼろぼろにされていた。
目の前で繰り広げられる暴力にゾッとしながらマリーリが視線を逸らすと、「お前もあぁなりたくなかったら大人しくしているんだな」と男に耳元で囁かれ、マリーリはあまりの恐怖にギュッと目を閉じる。
(ジュリアス、ジュリアス、ジュリアス……! お願い、助けて!!!)
届くはずのない願いだが、マリーリはそう願わずにはいられなかった。
未だに聞こえるグロウを暴行する音に身体を震わせながら、マリーリは身体を縮こませ、助けがくるよう何度も何度も彼女は祈り続けるのだった。
「きゃっ!」
突然馬車が止まったかと思えば、マリーリはグロウに腕を掴まれて馬車から無理矢理降ろされる。
どうやら隣国へ行くのに馬車を乗り換えるらしい。
確かに、王族専用の馬車が隣国に行くなど目撃されたら大変な騒ぎになるだろう。
(随分と用意が周到なのね)
事前にジュリアスの不在を狙って行動を起こしたのだろう。
馬車の用意といい、国境近くまで誰にも咎められることなくスムーズに来れたことといい、色々と根回しが済んでいるようだった。
マリーリは逃げるなら今がチャンス!? とも一瞬思うが、さすがに無力な自分が抵抗したところで逃げ道もなければ移動手段もないので諦める。
そもそも騎士団長を務めているグロウにただの小娘が敵うはずもなかった。
「ここからは拘束させてもらおう。せっかく散々事前に準備していたのに、ここで隣国のクソどもに疑われたら敵わんからな」
強引に腕を引かれてマリーリは抵抗するように髪を振り乱すと、ぽとりとパールの髪留めが落ちる。
「今更抵抗などするんじゃない!!」
「うっ、く……っ」
首ねっこを掴まれ、暴れられないように拘束される。
そして、ギリギリと腕や脚を綱でこれでもかというほどキツく縛られた。
「痛っ……」
「ふん、抵抗などしなければ優しくしたものを」
「王族ともあろう人がこんなことをしでかすなんて正気ですか!?」
「誰にものを言っている!」
パン! と頬を叩かれる。
加減はしたのだろうが、それでも男性の力は強くて痛い。
以前ブランにされたことを思い出してマリーリはあの当時の記憶が蘇って、ガタガタと身体が震える。
泣きたくなどないのに、勝手にじわりと涙が滲んだ。
「くく、いいざまだ。このおれに意見するなど、そこまで不敬を働くならよかろう。多少甚振られただけで助けようと思ったが、どうせ忘れさせるなら薬を使うまでもない、お前が死んでからゆっくりヤツらを粛清するのも悪くないか」
「……っ!」
「恨むならジュリアスを恨め。くくく、ヤツも最愛の妻が死んだと知ったらどんな顔をするか! あぁ、考えただけで笑いが込み上げてくる。そうだ、その煩い口はさっさと塞ぐに限るな」
グロウは笑いながらマリーリの口の周りもぐるぐると縛り、彼女は「んーーんんーーーぅうー」と言葉にならない声しか上げることができなくなった。
「いい気味だ。さて、行くか。相手方もお待ちかねだ。せいぜい餌として役目を果たせよ」
◇
「うぐっ!!」
どこかの国境近くにある小屋に連れてこられたと思えば、マリーリはグロウに投げ捨てられるように放り込まれる。
拘束されているマリーリは受け身を取ることすらままならず、勢いのままに肩から床に着地して、あまりの痛みに思わず呻いた。
「やっと来たか」
「来ないかと思ったぞ」
「すまない。少々手間取ってな」
「それで? この娘があの男の妻だと?」
「あぁ。ジュリアスの妻のマリーリ・バードだ」
「ふぅん、あの男はこう言った娘が好みなのか」
上から下までじろじろと男達の好奇の目に晒されて嫌悪感が増すマリーリ。
だが、手足と口を縛られた今、何も抵抗することはできない。
隣国の者であろう男達はざっと数えただけでも二桁はいそうで、いずれも屈強そうであり、本当にグロウ一人で倒せるのか怪しい気がした。
「随分と珍しい髪の色をしているな」
「あぐ……っ」
髪を掴まれ引っ張られる。
そしてそのまま持ち上げられて、頭皮がぶちぶちと悲鳴を上げた。
「そちらの国では珍しくないのか?」
「いや、我が国でも珍しい。あまり見ない色だ」
「ほう、なるほど。であれば、せっかくだ。ここで嬲って楽しもうと思ったが、価値があるなら人買いに売るのも手だな」
「どういうことだ? ここでヤツの妻を甚振ってジュリアスを誘き寄せる餌にするはずでは!?」
隣国の男の言葉を聞き、途端にグロウが慌て出す。
恐らく隣国の男の提案はグロウの想定外のようだった。
「本当にヤツの妻かどうかも怪しいしな。それなら最大限利用できるほうに利用するのが最善だろう? そもそもあの男の目の前で甚振らねば意味もないし、だったらこの女は我が国の貴族に高値で買ってもらったほうが価値がある」
「それは契約違反だろう! 話が違う!!」
「どうした? そんなに慌てて。ここをどこだと思っている? もうお前の国ではないのだぞ、王弟グロウ」
「なぜ、おれの名を……!?」
「そんなもの調べればすぐにわかる。貴様がどうしてわざわざ偽名を使ってまで我々に接触してきたのか理由は不明だが、まさに好都合」
男は笑うと、グロウの周りを一気に複数の男達が囲む。
「っく! な、何をする!!」
「この女だけでない、お前も人質として我が国の王への献上品だ。本当に愚かな男だ。自ら進んで敵地に赴くなど」
グロウは抵抗するもさすがに多勢に無勢ではなす術もなく、剣を抜く隙すら与えられずに殴られ蹴られ、まるでボロ雑巾のようにぼろぼろにされていた。
目の前で繰り広げられる暴力にゾッとしながらマリーリが視線を逸らすと、「お前もあぁなりたくなかったら大人しくしているんだな」と男に耳元で囁かれ、マリーリはあまりの恐怖にギュッと目を閉じる。
(ジュリアス、ジュリアス、ジュリアス……! お願い、助けて!!!)
届くはずのない願いだが、マリーリはそう願わずにはいられなかった。
未だに聞こえるグロウを暴行する音に身体を震わせながら、マリーリは身体を縮こませ、助けがくるよう何度も何度も彼女は祈り続けるのだった。
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