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53 やっぱり結婚するならジュリアスがいい
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あれからマリーリは元気を取り戻したもののまだジュリアスと会う決心がついておらず、あの日以降マリーリはジュリアスと会っていなかった。
ジュリアスは何度もマリーリの部屋を訪問したが、その都度ミヤが彼の訪問をことごとく断り、家庭内別居の状態だ。
「ねぇ、ミヤ。ジュリアスが毎日私の部屋に来てるって本当?」
「えぇ、本当ですよ。まぁ、いつも帰りは遅いですけど、毎晩です」
「……そう」
毎度断られるたびに縋ってどうにか一目だけでも、と懇願しているらしいが、ミヤが一切拒絶しているそうだ。
普通の主人なら妻にここまでの対応をされたら堪忍袋の緒が切れて愛想を尽かしそうなものだが、ジュリアスはそう言った様子もなく毎回項垂れて自室へと戻るらしい。
まるで叱られた犬のようだとミヤは称していたが、そう言った辺りもマリーリにとって不可解な部分であった。
「何かご用事があるんですか? と聞いても、ただ会いたいと言うだけですし、正直ジュリアスさまが何を考えているか私にもわかりません」
「ミヤがそこまで言うくらいなら相当ね」
「そもそも、そんなに会いたいならちゃんと言うべきじゃありません!? 理由があるのならなおのこと! それなのにいつも私が聞いてもだんまりで。そんな状態のジュリアスさまにマリーリさまを会わせられません!!」
(理由……理由があるのだろうか)
考えてもわからない。
そもそもジュリアスとキューリスに何か接点はないはずだ。
あるとしたら、どう考えても領主としてこちらに来てからのはずだとマリーリは考える。
(領主としてここにいれど、騎士として籍はおいたままということで陛下からの仕事の依頼はあると聞いていたし、そこで何か繋がりでもあったのかしら)
マリーリは様々な憶測をするも、どれも確証がない。
そもそもこのブレアの地に越してから領民達と触れ合う機会はあれど、あまり他の貴族と会うことがなく、情報源であった母のマーサもいないためマリーリには想定する手がかりが何もなかった。
(でも心変わりしたわけじゃないというし、本当によくわからないわ)
キューリスのことが好きになってマリーリと婚約破棄したいのかとのミヤの問いにも「冗談も大概にしろ」とジュリアスは一蹴すると言うし、何がなんだかマリーリにはさっぱりだった。
「でも、ずっとこのままではいられないわよねぇ」
「まぁ、それはそうですね」
「ちゃんと話し合わないと……」
自分でそう口にしながらも、マリーリはキュッと胸が苦しくなる。
正直ジュリアスと対峙して、真実を追求するのはとても怖かった。
ミヤはそこまで心配しなくてもあの様子なら婚約解消など絶対にありえないと言うが、マリーリはいくらミヤの言葉と言えどもどうしてもその言葉を信じきれなかった。
(もし、ジュリアスからやはり結婚はなかったことに、なんて面と向かって言われたら、今度こそ立ち直れなくなってしまう)
グロウからの求婚も頭の隅にはあれど、マリーリはグロウとの結婚生活を思い描くことはできず、例えジュリアスと婚約解消することになれど彼との婚姻は考えられないことだった。
(やっぱり結婚するならジュリアスがいい)
最近はギクシャクしているとはいえ、自分のことをよく理解し、色々と尽くしてくれて慮ってくれるのはジュリアス以外いないと思うマリーリ。
あの婚約破棄をした日以降の日々を思い出すも、どれもこれも宝物のようなものばかりで、マリーリにとってかけがえのないものだった。
だから別の誰かではない、結婚相手……ずっと人生を共にするのはジュリアスがいいのだとマリーリは強く願う。
だからこそこんなにも悩み、胸が苦しいのだが、ずっとこのモヤモヤしている状態も耐えられない。
早く楽になってしまいたい、でももし望んだ答えではなかったら。
二律背反する思考が何度もマリーリの中でせめぎ合った。
(あれ? そういえば、……私、何か忘れてない……?)
ふと、ジュリアスとの日々を思い出して何かが引っかかる。
それは彼との些細な会話の断片であった。
ーー今は何のお仕事をしているの?
ーーとある人物の調査だ。
(そういえば、あのときのとある人物って誰だったのかしら)
以前、寝る前にそんな話をしていたことを思い出すマリーリ。
ただの世間話の一環であったが、あのときの彼はいつもよりもさらに歯に詰まった物言いをしていたように思う。
(調査している相手がわからない以上あくまで私の希望的観測かもしれないけど、もしかしてジュリアスはただ仕事でやっているだけかも……?)
そんな都合のいい話はないかもしれない。
だが、マリーリはさらに記憶の糸を手繰り寄せた。
ーーだからこれから先、普段の俺と違う側面を見せるかもしれないが、できればマリーリには俺を信じていてもらいたい。
(あれって、もしかして今のこの状況のこと?)
よくよく考えてみたら無愛想で他人に無関心なジュリアスが急にキューリスとあんなに親しくなるのもおかしいのではないだろうか。
いつも帰ってくるなり疲れたと酷い顔をしているし、マリーリの顔を見るなりどこかホッとしたような表情になることも少なくないジュリアスを彼女は思い出した。
(ジュリアスがもし仕事で頑張っているのだとしたら私、とんでもない勘違いをしていたかも?)
あのときも陛下からの仕事だと言っていたし、大役という言葉を否定することなく、それ以上多くを語らなかった。
それは守秘義務でそれ以上言えなかったからではないか、とても重要な仕事だからこそ自分にはっきりと言えないまでも信じてくれと言ったのではないか、と次々に疑問に思えてくる。
とはいえ、まだ半信半疑な部分はある。
正直こんなに状況が混沌とした今、マリーリは何を信じ、誰を信じたらいいかわからなかった。
でも、だからこそ怖くても苦しくてもジュリアスに喧嘩を売ってでも直接本当のことを聞き出さねばならないのではないかと思い直す。
(そうよ、マリーリ・フィーロがこんなことで悩むなんてバカらしいわ! 私はフィーロ家の娘であり、ジュリアスの奥様になる女なのだから……!)
「ミヤ! 私、今日ジュリアスと会うわ」
「え、えぇ!? マリーリさま、そんな急に……いいんです?」
「えぇ。こうして一人で勝手にメソメソしてても何にもならないし。でしょう?」
「そうですね」
ミヤはマリーリの様子に安堵したのか、ふっと柔らかく微笑む。
そして「そうですよ。それでこそ私のマリーリさまです!」と彼女を勇気づけてくれた。
「あー、何か決心したらいてもたってもいられなくなっちゃった。ちょっとアルテミスにでも乗ってこようかしら」
「いいですけど、服を汚さないでくださいね~」
「わかってるわよ。ちょっとその辺見回ってくるだけだし」
そんな会話を二人でしていると、コンコンコンコン! といつになく余裕のなさそうなノックにマリーリとミヤは顔を見合わせた。
「どうしたの? 何かあった?」
ドアを開けると、そこには顔を真っ青にした新人メイドがそこにいた。
「大丈夫? 顔色が悪いけど」
「は、はい。大丈夫です……!」
「それで、どうしたの?」
「きゅ……」
「きゅ……?」
言い淀んでいるメイドに、ミヤが「吃ってないで早く言いなさい」と先を促す。
「も、申し訳ありません。実は、キューリス・オルガス公爵令嬢と名乗る女性がいらっしゃいました……っ!!」
ジュリアスは何度もマリーリの部屋を訪問したが、その都度ミヤが彼の訪問をことごとく断り、家庭内別居の状態だ。
「ねぇ、ミヤ。ジュリアスが毎日私の部屋に来てるって本当?」
「えぇ、本当ですよ。まぁ、いつも帰りは遅いですけど、毎晩です」
「……そう」
毎度断られるたびに縋ってどうにか一目だけでも、と懇願しているらしいが、ミヤが一切拒絶しているそうだ。
普通の主人なら妻にここまでの対応をされたら堪忍袋の緒が切れて愛想を尽かしそうなものだが、ジュリアスはそう言った様子もなく毎回項垂れて自室へと戻るらしい。
まるで叱られた犬のようだとミヤは称していたが、そう言った辺りもマリーリにとって不可解な部分であった。
「何かご用事があるんですか? と聞いても、ただ会いたいと言うだけですし、正直ジュリアスさまが何を考えているか私にもわかりません」
「ミヤがそこまで言うくらいなら相当ね」
「そもそも、そんなに会いたいならちゃんと言うべきじゃありません!? 理由があるのならなおのこと! それなのにいつも私が聞いてもだんまりで。そんな状態のジュリアスさまにマリーリさまを会わせられません!!」
(理由……理由があるのだろうか)
考えてもわからない。
そもそもジュリアスとキューリスに何か接点はないはずだ。
あるとしたら、どう考えても領主としてこちらに来てからのはずだとマリーリは考える。
(領主としてここにいれど、騎士として籍はおいたままということで陛下からの仕事の依頼はあると聞いていたし、そこで何か繋がりでもあったのかしら)
マリーリは様々な憶測をするも、どれも確証がない。
そもそもこのブレアの地に越してから領民達と触れ合う機会はあれど、あまり他の貴族と会うことがなく、情報源であった母のマーサもいないためマリーリには想定する手がかりが何もなかった。
(でも心変わりしたわけじゃないというし、本当によくわからないわ)
キューリスのことが好きになってマリーリと婚約破棄したいのかとのミヤの問いにも「冗談も大概にしろ」とジュリアスは一蹴すると言うし、何がなんだかマリーリにはさっぱりだった。
「でも、ずっとこのままではいられないわよねぇ」
「まぁ、それはそうですね」
「ちゃんと話し合わないと……」
自分でそう口にしながらも、マリーリはキュッと胸が苦しくなる。
正直ジュリアスと対峙して、真実を追求するのはとても怖かった。
ミヤはそこまで心配しなくてもあの様子なら婚約解消など絶対にありえないと言うが、マリーリはいくらミヤの言葉と言えどもどうしてもその言葉を信じきれなかった。
(もし、ジュリアスからやはり結婚はなかったことに、なんて面と向かって言われたら、今度こそ立ち直れなくなってしまう)
グロウからの求婚も頭の隅にはあれど、マリーリはグロウとの結婚生活を思い描くことはできず、例えジュリアスと婚約解消することになれど彼との婚姻は考えられないことだった。
(やっぱり結婚するならジュリアスがいい)
最近はギクシャクしているとはいえ、自分のことをよく理解し、色々と尽くしてくれて慮ってくれるのはジュリアス以外いないと思うマリーリ。
あの婚約破棄をした日以降の日々を思い出すも、どれもこれも宝物のようなものばかりで、マリーリにとってかけがえのないものだった。
だから別の誰かではない、結婚相手……ずっと人生を共にするのはジュリアスがいいのだとマリーリは強く願う。
だからこそこんなにも悩み、胸が苦しいのだが、ずっとこのモヤモヤしている状態も耐えられない。
早く楽になってしまいたい、でももし望んだ答えではなかったら。
二律背反する思考が何度もマリーリの中でせめぎ合った。
(あれ? そういえば、……私、何か忘れてない……?)
ふと、ジュリアスとの日々を思い出して何かが引っかかる。
それは彼との些細な会話の断片であった。
ーー今は何のお仕事をしているの?
ーーとある人物の調査だ。
(そういえば、あのときのとある人物って誰だったのかしら)
以前、寝る前にそんな話をしていたことを思い出すマリーリ。
ただの世間話の一環であったが、あのときの彼はいつもよりもさらに歯に詰まった物言いをしていたように思う。
(調査している相手がわからない以上あくまで私の希望的観測かもしれないけど、もしかしてジュリアスはただ仕事でやっているだけかも……?)
そんな都合のいい話はないかもしれない。
だが、マリーリはさらに記憶の糸を手繰り寄せた。
ーーだからこれから先、普段の俺と違う側面を見せるかもしれないが、できればマリーリには俺を信じていてもらいたい。
(あれって、もしかして今のこの状況のこと?)
よくよく考えてみたら無愛想で他人に無関心なジュリアスが急にキューリスとあんなに親しくなるのもおかしいのではないだろうか。
いつも帰ってくるなり疲れたと酷い顔をしているし、マリーリの顔を見るなりどこかホッとしたような表情になることも少なくないジュリアスを彼女は思い出した。
(ジュリアスがもし仕事で頑張っているのだとしたら私、とんでもない勘違いをしていたかも?)
あのときも陛下からの仕事だと言っていたし、大役という言葉を否定することなく、それ以上多くを語らなかった。
それは守秘義務でそれ以上言えなかったからではないか、とても重要な仕事だからこそ自分にはっきりと言えないまでも信じてくれと言ったのではないか、と次々に疑問に思えてくる。
とはいえ、まだ半信半疑な部分はある。
正直こんなに状況が混沌とした今、マリーリは何を信じ、誰を信じたらいいかわからなかった。
でも、だからこそ怖くても苦しくてもジュリアスに喧嘩を売ってでも直接本当のことを聞き出さねばならないのではないかと思い直す。
(そうよ、マリーリ・フィーロがこんなことで悩むなんてバカらしいわ! 私はフィーロ家の娘であり、ジュリアスの奥様になる女なのだから……!)
「ミヤ! 私、今日ジュリアスと会うわ」
「え、えぇ!? マリーリさま、そんな急に……いいんです?」
「えぇ。こうして一人で勝手にメソメソしてても何にもならないし。でしょう?」
「そうですね」
ミヤはマリーリの様子に安堵したのか、ふっと柔らかく微笑む。
そして「そうですよ。それでこそ私のマリーリさまです!」と彼女を勇気づけてくれた。
「あー、何か決心したらいてもたってもいられなくなっちゃった。ちょっとアルテミスにでも乗ってこようかしら」
「いいですけど、服を汚さないでくださいね~」
「わかってるわよ。ちょっとその辺見回ってくるだけだし」
そんな会話を二人でしていると、コンコンコンコン! といつになく余裕のなさそうなノックにマリーリとミヤは顔を見合わせた。
「どうしたの? 何かあった?」
ドアを開けると、そこには顔を真っ青にした新人メイドがそこにいた。
「大丈夫? 顔色が悪いけど」
「は、はい。大丈夫です……!」
「それで、どうしたの?」
「きゅ……」
「きゅ……?」
言い淀んでいるメイドに、ミヤが「吃ってないで早く言いなさい」と先を促す。
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