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48 理由は知っているのか?
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「随分とまぁ、趣向の偏った家だな」
「恐れ入ります」
「……ところで先日のハンカチはなぜ貴様が届けなかった?」
「え? あ、ジュリア……主人が自分が王城に出向くときに渡すからと譲りませんで。申し訳ありません、ご無礼でしたよね」
「ふん、あの朴念仁がこうも入れ込んでいるのか」
グロウが何やらぶつぶつと独りごちているのを聞きつつ、恐る恐る側に控えるように立つマリーリ。
(今日グロウさまが来るなんて聞いてないわよね)
ミヤもグウェンも帰ってくるなりマリーリがグロウを伴って帰ってきたことに「えぇ!?」と目を剥きバタバタと片付けやら準備やらしていたことを思い出すと、きっと彼らも知らなかったのだろう。
もし、ジュリアスが言い忘れていたのだとしたら、あとで問い詰めなくてはならないほどの過失である。
「貴様、マリーリと言ったか?」
「えぇ、はい。マリーリ・バードと申します」
「ではマリーリ、案内しろ」
「案内、ですか? えっと、お茶を淹れましたが……」
「それはあとで飲む。先に家の中を案内しろ」
「は、はい、わかりました」
(一体何の用事なのかしら)
来るなり、家が見たいなどとはどういうことだろうか。
そもそも家主不在の状態で来るというのも不自然な話だろうが、慣れないマリーリは目の前のことで精一杯だった。
「では、案内します」
助けを求めてちらっとミヤとグウェンに視線を送るも、「頑張って!」とでも言うような視線が返ってきてしまい、マリーリは「ですよねー」と腹を括ってグロウに家の中を案内するのだった。
◇
(家の中を案内するったって、どこまで回ればいいのだろうか)
あまりに不得手なことすぎて、マリーリは大いに戸惑う。
(さすがに浴室とか寝室まで案内する必要はないはよね……。というか本当に何しにここに来たの、この人)
チラッとグロウに視線を送ると、彼は堂々とした様子でまっすぐ前を見て歩いている。
さすが王弟であり、騎士団長と言ったところか、まだ年若いはずなのにマリーリが萎縮してしまうくらいには貫禄があった。
「ここは……?」
「あ、ここはアトリエです」
「アトリエ。あいつは絵を嗜むのか?」
あいつ、というのは恐らくジュリアスのことだろうと予想する。
グロウとジュリアスはどのような関係なのかいまいちわからないながらも、今までの言動から察するにあまり良好とは言えなそうだ。
だからとりあえずマリーリは事実だけを口にすることにした。
「あ、いえ。主人ではなく私が……」
「貴様が? ほう、なるほど。どれ、見せてみろ」
「え、今ですか!?」
「あぁ、今だ」
「で、ですが、まだ完成したばかりでして……っ」
「完成したのなら問題ないだろう」
「まぁ、確かに、そうですね。でもグロウさまにお見せできるほどの代物ではないと思いますが……」
「それはおれが判断する。つべこべ言わずにいいから早く見せろ」
「わ、わかりました……っ」
グロウの不遜な態度におろおろしつつも、キャンバスを彼の前に持ってくる。
すると、「ほう、これを貴様が……」とまじまじと見られて、マリーリは羞恥で穴があったら入りたい気分になった。
「……ふん、悪くはないのではないか?」
「あ、ありがとうございます」
「だが、乗馬に絵画にと女にしては随分と変わった趣味だな」
「……よく言われます」
「なるほど、色々とよくわかった。では、茶をいただこうか」
「は、はい。ただいま用意させます」
(まだ居座る気なの?)
この人はいつまでいるのだろうか、と不安になってくる。
ジュリアスは恐らくいつも通りであればまだ帰ってこないだろうし、ジュリアスに用事があるのならそもそもこちらに来る必要はないはずだ。
一体グロウの目的はなんなのかマリーリは推測できないまま、言われるがままに茶を用意するのだった。
◇
「ジュリアスは最近忙しいのだろう?」
「えぇ、まぁ」
「理由は知っているのか?」
「え? いえ、特には聞いておりませんが……」
「なるほど」
(さっきから何がなるほどなんだろう)
未だにジュリアスとの関係や、何が目的でここにいるかも掴めないマリーリ。
ジュリアスが帰ってくるまで居座るつもりなのだろうか、そうしたら夕飯の準備だけではなく寝床の準備まで用意しなければならない。
もしそうなったらメイド達だけではなく、グウェンも胃痛で再起不能になる可能性が大だ。
「あいつが最近忙しくしているのはとある令嬢の護衛を勤めているからだ」
「そうなんですか?」
「あぁ。オルガス公爵令嬢。キミはご存知かな?」
「え、オルガス公爵令嬢って……」
(キューリスの護衛……!?)
どくり、と胸が嫌な音を立てる。
背筋を悪寒が走り、目の前が砂嵐のようになって脚がガクガクと震え、気を抜いたら倒れてしまいそうなほどであった。
(どうしてジュリアスがキューリスの護衛だなんて)
「大丈夫か? 顔色が悪いようだが」
「だ、大丈夫です。でも、なぜそれを私に?」
「いや、マリーリが知らないのなら伝えておいたほうがいいだろうと思ってな。主人の仕事内容について知っておいて損はないだろう?」
「そう、ですね……」
「ところで、マリーリ。キミはジュリアスを愛しているのか?」
「はい!?」
話が突然ぶっ飛んで戸惑う。
なぜそんなことを聞かれなくてはならないのかと、マリーリの視線は泳ぎ、震える。
そもそもジュリアスとキューリスとのことで動揺しているマリーリは、先程から黒い靄が自分の心を巣喰い、ネガティブな言葉ばかりが頭に浮かんでとても苦しくて彼がグロウが何を意図してそんな質問をするのかわからなかった。
「好きですよ。だから結婚を……」
「と言いつつ、まだ婚約状態なのだろう?」
「なぜ、それを……」
このことを知っているのは少ないと聞いていたはずなのに、とさらに戸惑うマリーリ。
聞いていたことと事実が相反することが多くて、何をどう信じたらいいのかわからなかった。
「婚約状態だというなら、話はいくらでもひっくり返せる」
「えっと、申し訳ありません。おっしゃってる意味が分かりかねます」
息が詰まる。
頭に情報がうまく入らず、必死に脳内で情報処理をしているとグロウに手を握り締められるマリーリ。
何が起きているのか、とグロウを見れば彼はこちらをまっすぐ見つめていた。
「マリーリ、おれと結婚しろ」
「恐れ入ります」
「……ところで先日のハンカチはなぜ貴様が届けなかった?」
「え? あ、ジュリア……主人が自分が王城に出向くときに渡すからと譲りませんで。申し訳ありません、ご無礼でしたよね」
「ふん、あの朴念仁がこうも入れ込んでいるのか」
グロウが何やらぶつぶつと独りごちているのを聞きつつ、恐る恐る側に控えるように立つマリーリ。
(今日グロウさまが来るなんて聞いてないわよね)
ミヤもグウェンも帰ってくるなりマリーリがグロウを伴って帰ってきたことに「えぇ!?」と目を剥きバタバタと片付けやら準備やらしていたことを思い出すと、きっと彼らも知らなかったのだろう。
もし、ジュリアスが言い忘れていたのだとしたら、あとで問い詰めなくてはならないほどの過失である。
「貴様、マリーリと言ったか?」
「えぇ、はい。マリーリ・バードと申します」
「ではマリーリ、案内しろ」
「案内、ですか? えっと、お茶を淹れましたが……」
「それはあとで飲む。先に家の中を案内しろ」
「は、はい、わかりました」
(一体何の用事なのかしら)
来るなり、家が見たいなどとはどういうことだろうか。
そもそも家主不在の状態で来るというのも不自然な話だろうが、慣れないマリーリは目の前のことで精一杯だった。
「では、案内します」
助けを求めてちらっとミヤとグウェンに視線を送るも、「頑張って!」とでも言うような視線が返ってきてしまい、マリーリは「ですよねー」と腹を括ってグロウに家の中を案内するのだった。
◇
(家の中を案内するったって、どこまで回ればいいのだろうか)
あまりに不得手なことすぎて、マリーリは大いに戸惑う。
(さすがに浴室とか寝室まで案内する必要はないはよね……。というか本当に何しにここに来たの、この人)
チラッとグロウに視線を送ると、彼は堂々とした様子でまっすぐ前を見て歩いている。
さすが王弟であり、騎士団長と言ったところか、まだ年若いはずなのにマリーリが萎縮してしまうくらいには貫禄があった。
「ここは……?」
「あ、ここはアトリエです」
「アトリエ。あいつは絵を嗜むのか?」
あいつ、というのは恐らくジュリアスのことだろうと予想する。
グロウとジュリアスはどのような関係なのかいまいちわからないながらも、今までの言動から察するにあまり良好とは言えなそうだ。
だからとりあえずマリーリは事実だけを口にすることにした。
「あ、いえ。主人ではなく私が……」
「貴様が? ほう、なるほど。どれ、見せてみろ」
「え、今ですか!?」
「あぁ、今だ」
「で、ですが、まだ完成したばかりでして……っ」
「完成したのなら問題ないだろう」
「まぁ、確かに、そうですね。でもグロウさまにお見せできるほどの代物ではないと思いますが……」
「それはおれが判断する。つべこべ言わずにいいから早く見せろ」
「わ、わかりました……っ」
グロウの不遜な態度におろおろしつつも、キャンバスを彼の前に持ってくる。
すると、「ほう、これを貴様が……」とまじまじと見られて、マリーリは羞恥で穴があったら入りたい気分になった。
「……ふん、悪くはないのではないか?」
「あ、ありがとうございます」
「だが、乗馬に絵画にと女にしては随分と変わった趣味だな」
「……よく言われます」
「なるほど、色々とよくわかった。では、茶をいただこうか」
「は、はい。ただいま用意させます」
(まだ居座る気なの?)
この人はいつまでいるのだろうか、と不安になってくる。
ジュリアスは恐らくいつも通りであればまだ帰ってこないだろうし、ジュリアスに用事があるのならそもそもこちらに来る必要はないはずだ。
一体グロウの目的はなんなのかマリーリは推測できないまま、言われるがままに茶を用意するのだった。
◇
「ジュリアスは最近忙しいのだろう?」
「えぇ、まぁ」
「理由は知っているのか?」
「え? いえ、特には聞いておりませんが……」
「なるほど」
(さっきから何がなるほどなんだろう)
未だにジュリアスとの関係や、何が目的でここにいるかも掴めないマリーリ。
ジュリアスが帰ってくるまで居座るつもりなのだろうか、そうしたら夕飯の準備だけではなく寝床の準備まで用意しなければならない。
もしそうなったらメイド達だけではなく、グウェンも胃痛で再起不能になる可能性が大だ。
「あいつが最近忙しくしているのはとある令嬢の護衛を勤めているからだ」
「そうなんですか?」
「あぁ。オルガス公爵令嬢。キミはご存知かな?」
「え、オルガス公爵令嬢って……」
(キューリスの護衛……!?)
どくり、と胸が嫌な音を立てる。
背筋を悪寒が走り、目の前が砂嵐のようになって脚がガクガクと震え、気を抜いたら倒れてしまいそうなほどであった。
(どうしてジュリアスがキューリスの護衛だなんて)
「大丈夫か? 顔色が悪いようだが」
「だ、大丈夫です。でも、なぜそれを私に?」
「いや、マリーリが知らないのなら伝えておいたほうがいいだろうと思ってな。主人の仕事内容について知っておいて損はないだろう?」
「そう、ですね……」
「ところで、マリーリ。キミはジュリアスを愛しているのか?」
「はい!?」
話が突然ぶっ飛んで戸惑う。
なぜそんなことを聞かれなくてはならないのかと、マリーリの視線は泳ぎ、震える。
そもそもジュリアスとキューリスとのことで動揺しているマリーリは、先程から黒い靄が自分の心を巣喰い、ネガティブな言葉ばかりが頭に浮かんでとても苦しくて彼がグロウが何を意図してそんな質問をするのかわからなかった。
「好きですよ。だから結婚を……」
「と言いつつ、まだ婚約状態なのだろう?」
「なぜ、それを……」
このことを知っているのは少ないと聞いていたはずなのに、とさらに戸惑うマリーリ。
聞いていたことと事実が相反することが多くて、何をどう信じたらいいのかわからなかった。
「婚約状態だというなら、話はいくらでもひっくり返せる」
「えっと、申し訳ありません。おっしゃってる意味が分かりかねます」
息が詰まる。
頭に情報がうまく入らず、必死に脳内で情報処理をしているとグロウに手を握り締められるマリーリ。
何が起きているのか、とグロウを見れば彼はこちらをまっすぐ見つめていた。
「マリーリ、おれと結婚しろ」
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