上 下
44 / 83

44 子供ですか、貴方達

しおりを挟む
「ふぁあぁ~~、もうお腹いっぱい! ごちそうさまでした!!」
「あぁ、ごちそうさま」

 昼食はどれもこれも美味しく、最後のデザートに至っては満腹だったはずなのに別腹だと言わんばかりにするするとたいらげてしまった。
 あのアップルパイはシナモンたっぷりでしっとりと甘く、程よい酸味でマリーリの大好きなフィーロ家の味だ。

「ジュリアスは我が家のアップルパイを食べるの初めてでしょう? どうだった?」
「あぁ、とても美味しかった。我が家のは砂糖がたっぷり使ってあって結構甘めなんだが、フィーロ家のアップルパイはちょうどいい甘さと酸味で口当たりもいいな」
「ふふふ。そうでしょう、そうでしょう? 気に入ってくれたのならよかった。うちのは特製の蜂蜜を使ってて、舌触りも滑らかになって程よい甘さになってるの」
「なるほど、蜂蜜か」
「えぇ。それにしても、あー……本当にお腹いっぱい! だんだん眠くなってきちゃったわ」

 ふぁああ、と大きな欠伸が出るのを手で口元を隠す。
 きっと家族やミヤに見られていたらはしたないと怒られてしまうほどには大きな欠伸であった。

「だったら昼寝するか? まだ日は高いぞ」

 ジュリアスの提案に心が揺れる。
 正直とても眠いが、ここで寝てしまったらきっと太るような気がして、誘惑に負けずに首を振った。

「いえ、大丈夫。確か、釣りもしなきゃですもんね! 次こそは私が勝つからね!」
「はは、随分と威勢がいいな。では、また勝負といこうか。せっかくだ、負けたほうが勝ったほうの言うことを聞くというのはどうだ?」
「いいわね。面白そう!」
「では、それで決まりだな」
「えぇ、絶対に負けないからね!」

 マリーリが食事の後片付けをすると、いそいそと釣り道具を取り出してくるジュリアス。
 ここまで気が利く旦那様などいるのだろうか、いやジュリアスしかいないのではないか、とマリーリは密かにジュリアスのことを素敵な旦那様だと誇らしく思い、きゅんとまた胸が高鳴った。

(あぁ、ますます私ばかりジュリアスのことを好きになってる気がするわ……。ジュリアスも私のことを同じくらい好きだったらもっといいのに)

 もどかしい想い。
 この想いを口にできたらいいのに、と思いながらもマリーリはこの関係を壊したくなくてどうしても口にできなかった。

「ほら、準備できたぞ!」
「はーい、今行きます~」

 不意に視線を移すと、いつの間にかバルムンクとアルテミスは仲良く寄り添って眠りについているのが見える。
 それを微笑ましく思いながら、マリーリはジュリアスの元へと駆け寄った。


 ◇


「相変わらず競争するのは構わないんですが、限度を考えてください、限度を。そして学習をしてください。子供ですか、貴方達」
「申し訳ない」
「ごめんなさい」

 お互いに釣果を持ち帰ったのはいいのだが、その量があまりに多いとミヤに怒られるマリーリとジュリアス。
 つい熱中してしまい、イワナやノーザンパイク、グレーリングなど小型から大型まで次々と釣り上げてしまい、結果合計二十五匹という度肝を抜くような量になってしまった。
 もちろんすぐに食べられるはずもないので、これらはまた領民に配らねばならず、手間が増える! とミヤが怒っていたのだった。

「本当、お二人は張り合うと碌なことにならないんですから!」
「ごめんってば、ミヤ」
「いくらマリーリさまにいつも甘々な私でも、今日は怒りますからねー!」
「うぅぅぅう」

 さすがのミヤも今日は許してはくれないらしい。
 可愛らしい顔からは怒りのオーラがダダ漏れしていて、ジュリアスでさえも大人しくしているくらいだ。

「とりあえずまずは湯浴みなさってきてください! 二人共泥だらけですよ。お湯はすぐ張りますから、ちゃっちゃと入ってきてくださいね! ……なんだったら二人で入ってきていただいてもかまいませんよ? そのほうが手間がかかりませんし」
「もう、またすぐミヤはそういうこと言って……」
「そうだな。では、二人で入るか」
「ねぇ、ジュリアスも……って、えぇぇぇええ!?」

 ミヤの軽口を困ったものだと同意を得ようとしたのに、まさかのジュリアスの発言に戸惑うマリーリ。
 けれどすぐさま、「あ、もしかしてジュリアスの冗談かしら」と思い直して「もう、ジュリアスもミヤの冗談に付き合わなくていいわよ」と軽く諌める。
 しかし、マリーリがジュリアスの表情を見ると、なぜか彼の表情はいつものからかうようなものではなかった。

「いや、本気だ」
「はい?」
「先程の釣りの勝者は俺だからな。言うことを聞かせられる権利は俺にある」

 確かに先程の釣りの対決は、ジュリアスが十六匹に対してマリーリは九匹と完敗であった。
 特にマリーリは久々の釣りにも関わらず、こうもたくさん釣れて自分でも驚いたほどである。
 だが、勝負は勝負。
 数で言えば圧倒的な差でジュリアスに負けていた。

「それ、今日の私のワガママ一個で相殺は?」
「ダメだ。却下」
「何で!?」
「それは甘えるに該当しないからだ。よって却下だ」
「なにそれ! ずるいーーー!!」
「ずるくない。というわけだ、これ以上使用人達の手間をかけさせるわけにはいかないから、ちゃちゃっと入るぞ」

 どうやら冗談で言ってるわけではないらしい、と気づいてマリーリは羞恥心やら何やらで頭がいっぱいになる。
 そして、

「あ、逃げた」

 ジュリアスの不意をつきマリーリは一目散に逃げ出すのだが、

「俺に足の速さで勝てると思っているのか?」

 なんなく追いつかれると、そのまま浴室へと連行されるマリーリ。
 それを微笑ましい温かい眼差しで見つめるミヤ含むメイド達であった。
しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

冷酷非情の雷帝に嫁ぎます~妹の身代わりとして婚約者を押し付けられましたが、実は優しい男でした~

平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは落ちこぼれと蔑まれながらも、希望だった魔法学校で奨学生として入学することができた。 ある日、妹のノエルが雷帝と恐れられるライトニング侯爵と婚約することになった。 ライトニング侯爵と結ばれたくないノエルは父に頼み、身代わりとしてフィーナを差し出すことにする。 保身第一な父、ワガママな妹と縁を切りたかったフィーナはこれを了承し、婚約者のもとへと嫁ぐ。 周りから恐れられているライトニング侯爵をフィーナは怖がらず、普通に妻として接する。 そんなフィーナの献身に始めは心を閉ざしていたライトニング侯爵は心を開いていく。 そしていつの間にか二人はラブラブになり、子宝にも恵まれ、ますます幸せになるのだった。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~

瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】  ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。  爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。  伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。  まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。  婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。  ――「結婚をしない」という選択肢が。  格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。  努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。  他のサイトでも公開してます。全12話です。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

処理中です...