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27 マリーリの補充も兼ねてな
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レモネードを持ってジュリアスの元へと戻れば、待ち侘びた様子の彼がこちらを見るなりパッと顔を明るくした。
「随分と時間がかかったが、大丈夫だったか?」
「えぇ、ごめんなさい、遅くなってしまって。水が足りなくなったから井戸まで水を汲みに行ってたの」
「そうだったのか。すまない、手間をかけさせたな」
「いいのよ。ほら、飲んで。喉が痛いのでしょう?」
「あぁ、ありがとう」
そう言ってマリーリが渡すと、そのままごくごくと飲み干していくジュリアス。
一応味見はしたものの、ちゃんとできているか心配だったマリーリはジュリアスの様子を窺うようにジッと彼を見つめた。
「どう? 美味しい?」
「あぁ、とても美味しい。随分とさっぱりした後味だったが、何を入れているんだ?」
「ミントよ。ジュリアスの家では入れなかった?」
「なるほど、ミントか。そういえば、そもそもレモネードを実家であまり飲んだ記憶はないな」
「そうなの? でも、お気に召したならよかった」
美味しい、と言ってもらってホッとするマリーリ。
ちなみにレモネードを作ったのは久々だったので、フォッジにちょっとだけアドバイスをもらったのは秘密である。
「喉、ちょっとは回復した?」
「あぁ、おかげさまでこのあとも頑張れそうだ」
「それはよかった。領民の人々も待ってるだろうから早く戻らないとね」
「あぁ、だがその前に……」
グイッと腕を引かれて抱き締められる。
何が起こっているのかわからなくて目を白黒とさせていると、そのまま一緒にソファにダイブした。
「あぶっ」
「大丈夫か?」
「全然大丈夫じゃないわよっ。もう、せっかく髪を結んでもらったのにぐちゃぐちゃじゃない!」
「悪い悪い」
悪いという言葉とは裏腹に、口元が緩んでいるジュリアス。
しかも未だ抱き締められたまま彼の腕の中で、一体何が起こっているのか理解できなかった。
「てか、何やってるの」
「戻る前に心構えというか、何も身構えずに行って返り討ちにあいたくないからな」
「返り討ちって……。ただパーティーに戻るだけでしょう? そもそも何で私まで巻き込まれてるの」
「マリーリの補充も兼ねてな」
「私の補充?」
「ちょっと元気がなさそうだったから。違うか?」
「それは……」
相変わらず聡い。
ミヤの次には聡い気がする、と思いながら隠しきれなくて否定せずにいると「もしかして、井戸に落ちかけたか?」と心配された。
「お、落ちかけてないわよっ! もう、みんな揃いも揃って私をなんだと思っているの!」
「ん? おてんばなじゃじゃ馬娘だろう?」
「煩い!」
けろっと言ってのけるジュリアスに、先程までの顔色の悪さはなくなっていることに気づいて、内心ホッとする。
なんだかんだで強がってはいるものの、やはり慣れない人と接するのは苦手なのだろう。
マリーリ自身も夜会や舞踏会自体には抵抗ないが、やはりあの場に行くことで陰口を言われると思うと、自然と行くのが億劫になってしまう。
だから慣れないことをするのには勇気がいるのはわかっているので、ジュリアスの気持ちがわからなくもなかった。
「でもあまり遅くなってしまっては、ホストとして失格じゃない?」
「そうだが、いざとなればトイレに行っていたことにしよう。……マリーリが」
「なっ! そこはジュリアスにしておいてよ! 私を犠牲にするなんて旦那様としてどうなの!」
「はは、冗談だよ」
「……お楽しみ中、申し訳ありませんが……」
「ひっ!」
ぬらり、と物陰から突如出てきた人影とドスの効いた声に思わず小さく叫ぶマリーリ。
ジュリアスも驚いたせいか、見たこともない表情で固まっていた。
「み、ミヤ……!」
「イチャイチャされるのは結構ですが、時と場合を考えてくださいませね?」
ずごごごご、ととてつもなく真っ黒なオーラが彼女の背後から見える。
にっこりと美しい顔で微笑んではいるが、明らかに額にビキビキと青筋が立っていた。
「使用人達がバタバタと忙しくしてる間に主人達がこんなでは、ねぇ……?」
「ご、ごめんなさい、ミヤ! す、すぐに行くわ!!」
「えぇ、ぜひ。とりあえずジュリアスさまは先に行ってください。私はマリーリさまのその乱れた髪を整えねばなりませんので」
「あ、あぁ。すまない。マリーリ、先に行っている」
ジュリアスはそう言うとそそくさと部屋を出て行く。
それくらいミヤの迫力は怖かった。
「さて、マリーリさま?」
「は、ひゃい」
「御髪直しますから大人しくなさっててくださいねぇ~? それと、せっかくですしマーサさまより賜りました主人としての心得を読み上げて差し上げましょうね~?」
「うぅ。ごめんなさい……」
すっかりお目付役となってしまったミヤに懇々と説教をされながら、髪を整えてもらう。
そしてミヤの説教を聞き終えたマリーリは、休憩する前よりもドッと疲労感を覚えるのであった。
「随分と時間がかかったが、大丈夫だったか?」
「えぇ、ごめんなさい、遅くなってしまって。水が足りなくなったから井戸まで水を汲みに行ってたの」
「そうだったのか。すまない、手間をかけさせたな」
「いいのよ。ほら、飲んで。喉が痛いのでしょう?」
「あぁ、ありがとう」
そう言ってマリーリが渡すと、そのままごくごくと飲み干していくジュリアス。
一応味見はしたものの、ちゃんとできているか心配だったマリーリはジュリアスの様子を窺うようにジッと彼を見つめた。
「どう? 美味しい?」
「あぁ、とても美味しい。随分とさっぱりした後味だったが、何を入れているんだ?」
「ミントよ。ジュリアスの家では入れなかった?」
「なるほど、ミントか。そういえば、そもそもレモネードを実家であまり飲んだ記憶はないな」
「そうなの? でも、お気に召したならよかった」
美味しい、と言ってもらってホッとするマリーリ。
ちなみにレモネードを作ったのは久々だったので、フォッジにちょっとだけアドバイスをもらったのは秘密である。
「喉、ちょっとは回復した?」
「あぁ、おかげさまでこのあとも頑張れそうだ」
「それはよかった。領民の人々も待ってるだろうから早く戻らないとね」
「あぁ、だがその前に……」
グイッと腕を引かれて抱き締められる。
何が起こっているのかわからなくて目を白黒とさせていると、そのまま一緒にソファにダイブした。
「あぶっ」
「大丈夫か?」
「全然大丈夫じゃないわよっ。もう、せっかく髪を結んでもらったのにぐちゃぐちゃじゃない!」
「悪い悪い」
悪いという言葉とは裏腹に、口元が緩んでいるジュリアス。
しかも未だ抱き締められたまま彼の腕の中で、一体何が起こっているのか理解できなかった。
「てか、何やってるの」
「戻る前に心構えというか、何も身構えずに行って返り討ちにあいたくないからな」
「返り討ちって……。ただパーティーに戻るだけでしょう? そもそも何で私まで巻き込まれてるの」
「マリーリの補充も兼ねてな」
「私の補充?」
「ちょっと元気がなさそうだったから。違うか?」
「それは……」
相変わらず聡い。
ミヤの次には聡い気がする、と思いながら隠しきれなくて否定せずにいると「もしかして、井戸に落ちかけたか?」と心配された。
「お、落ちかけてないわよっ! もう、みんな揃いも揃って私をなんだと思っているの!」
「ん? おてんばなじゃじゃ馬娘だろう?」
「煩い!」
けろっと言ってのけるジュリアスに、先程までの顔色の悪さはなくなっていることに気づいて、内心ホッとする。
なんだかんだで強がってはいるものの、やはり慣れない人と接するのは苦手なのだろう。
マリーリ自身も夜会や舞踏会自体には抵抗ないが、やはりあの場に行くことで陰口を言われると思うと、自然と行くのが億劫になってしまう。
だから慣れないことをするのには勇気がいるのはわかっているので、ジュリアスの気持ちがわからなくもなかった。
「でもあまり遅くなってしまっては、ホストとして失格じゃない?」
「そうだが、いざとなればトイレに行っていたことにしよう。……マリーリが」
「なっ! そこはジュリアスにしておいてよ! 私を犠牲にするなんて旦那様としてどうなの!」
「はは、冗談だよ」
「……お楽しみ中、申し訳ありませんが……」
「ひっ!」
ぬらり、と物陰から突如出てきた人影とドスの効いた声に思わず小さく叫ぶマリーリ。
ジュリアスも驚いたせいか、見たこともない表情で固まっていた。
「み、ミヤ……!」
「イチャイチャされるのは結構ですが、時と場合を考えてくださいませね?」
ずごごごご、ととてつもなく真っ黒なオーラが彼女の背後から見える。
にっこりと美しい顔で微笑んではいるが、明らかに額にビキビキと青筋が立っていた。
「使用人達がバタバタと忙しくしてる間に主人達がこんなでは、ねぇ……?」
「ご、ごめんなさい、ミヤ! す、すぐに行くわ!!」
「えぇ、ぜひ。とりあえずジュリアスさまは先に行ってください。私はマリーリさまのその乱れた髪を整えねばなりませんので」
「あ、あぁ。すまない。マリーリ、先に行っている」
ジュリアスはそう言うとそそくさと部屋を出て行く。
それくらいミヤの迫力は怖かった。
「さて、マリーリさま?」
「は、ひゃい」
「御髪直しますから大人しくなさっててくださいねぇ~? それと、せっかくですしマーサさまより賜りました主人としての心得を読み上げて差し上げましょうね~?」
「うぅ。ごめんなさい……」
すっかりお目付役となってしまったミヤに懇々と説教をされながら、髪を整えてもらう。
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