25 / 83
25 そういえば、用事って?
しおりを挟む
ジュリアスに言われたとおりに布団に潜る。
いつもの実家の部屋と違うのもそうだが、ジュリアスと同じ家にいると思うと何だかそわそわして落ち着かない。
(ジュリアスったら、大丈夫かしら)
ジュリアスがいない時間が長く感じる。
やはり白湯の作り方がわからなかったのではないか、そもそも主人に白湯を作らせるというのはいかがなものか、とマリーリが不安になっているときだった。
ーーコンコン
「誰?」
ノックをするような人物が思いつかなくて、使用人かと思って声をかけると「俺だ」とジュリアスの声が聞こえる。
「ジュリアス? どうぞ」
「失礼する」
恭しく頭を下げて入ってくるジュリアスに、面食らうマリーリ。
そんな気を遣わないでもいいのに、と思いながらも自分に気を遣ってくれたのだと思うとちょっとだけ嬉しくなる。
「わざわざノックしなくてもいいのに」
「一応礼儀だからな」
こういうとこ律儀だなぁ、と思いながらベッドサイドの机に白湯を置いてもらう。
コップを見下ろすとホカホカと湯気が立つ透明な白湯がそこにあった。
「ありがとう、ジュリアス」
「あぁ、気にするな。あ、だが、ちょっと温めすぎたかもしれないから、多少冷ましてから飲むほうがいいかもしれない」
「そう? わかった」
手をつけようとすると慌てて制するジュリアス。
普段は仏頂面で寡黙なため、普段の彼を知る人物がこの姿を見たらきっと驚くだろう。
誰かがジュリアスのことをクールビューティーと評していたが、人に興味がないように見えて案外彼は面倒見がいいのだ。
もしかしたらジュリアスのこの姿を知ってるのは自分だけかもしれないと思うと、少しだけマリーリの気分は上がった。
「そういえば、用事ってどうしたの?」
つい忘れていたが、そういえば本来ジュリアスの目的は自分に用事があったはずだと思い出すマリーリ。
するとジュリアスは再び隣に腰掛け、何やらゴソゴソと自分の身体を漁っている。
「実はな」
そう言って渡されたのはアンクレットだった。
紅く煌めく宝石がいくつもあしらわれ、とても高価なものだと一目でわかる代物だ。
揺らすとキラキラと光に合わせて輝き、魅入ってしまうほどに美しい。
「どうしたの、これ」
「先日ハンカチをくれただろう? 俺も何かマリーリに婚約の証として渡しておきたくてな」
「指輪じゃなくて?」
「あー、ほら、マリーリに先に指輪を渡すと失くすかもしれないだろう? だから、失くさなくて邪魔にならないものをと思って選んだのだが」
「べ、別に指輪をもらっても失くさないわよ」
「そうか? ……というのは冗談だ。実はせっかくなら普段つけてて邪魔にならないほうがいいだろうと思ってな。できれば指輪はそのうち一緒に見に行きたいと思っていたんだが、いいだろうか?」
「一緒に? ジュリアスと? 指輪を?」
「あぁ。……本来はサプライズであげられたらよかったのだろうが、あいにくそういうのに詳しい知り合いなどがいなくてな。ずっと騎士として戦場に出てた弊害というべきかなんというか……」
あれこれ言い訳を始めるジュリアス。
その顔から本当に戸惑っているのがよくわかる。
昔からジュリアスは焦ると多弁になるのだ。
恐らく、本当に指輪を選びきれずに困った末のアンクレットだったのだろう。
「わかったわかった。ジュリアスの都合いい日に見に行きましょう」
「いいのか?」
「ジュリアスが言ったんでしょ。それに本当に私が失くさないってとこもアピールしないと」
「それもそうだな。でも、とりあえずはこれをキミに」
「いいの? 高かったんじゃない?」
「マリーリのために買ったんだ。それにアンクレットは魔除けや御守りの意味もある」
「へぇ、そうなの」
「あぁ。で、早速つけようと思うのだがいいだろうか」
「え、えぇ。いいけど」
マリーリが身体を起こし、布団から足を出すとジュリアスが跪き、左足に触れる。
なんだかむず痒いようなそわそわする感覚。
こうして跪かれたことなどなかったマリーリは、妙な感覚を覚えながらジュリアスの指先を見つめる。
大きく節張っていて男性的でありながらも指は長くて綺麗だなぁ、と見つめながらアンクレットを左足首につけてもらった。
「よし、できた」
「ありがとう、ジュリアス」
「あぁ、大事にしてくれ。くれぐれも失くすなよ」
「だから失くさないってば」
お互い軽口を言い合うと笑い合う。
こうした彼とのひと時がたまらなく愛しかった。
「そろそろ寝ないとな」
「えぇ、そうね。ジュリアスも風呂上がりならしっかり寝ないと風邪ひくわ」
「そうだな。ホストが風邪をひいたら目も当てられないからな」
このまま一緒にジュリアスと寝れたら、なんてはしたない考えが頭に浮かんで慌てて消す。
(まだ婚約中だというのに、そんなこと考えてたら淑女としてダメよね)
「おやすみ、マリーリ」
「おやすみなさい、ジュリアス」
彼の背を見送り、パタンとドアがしまるのを確認すると、キュッと胸が切なく疼く。
(そうだ、白湯)
せっかくジュリアスが入れてくれたのだから飲まなければ、と手を伸ばして口に含む。
するとちょうどいい温度まで冷めていたようで、ほんのりと温かくてなんだか気持ちまで温かくなってきた。
(寂しくならないうちに寝よう)
最後の一滴まで飲み干すと、身体が火照るのを感じながら布団に潜り込む。
なんだかジュリアスに抱き締められているような錯覚を覚えながら、マリーリは目を閉じて眠りにつくのだった。
いつもの実家の部屋と違うのもそうだが、ジュリアスと同じ家にいると思うと何だかそわそわして落ち着かない。
(ジュリアスったら、大丈夫かしら)
ジュリアスがいない時間が長く感じる。
やはり白湯の作り方がわからなかったのではないか、そもそも主人に白湯を作らせるというのはいかがなものか、とマリーリが不安になっているときだった。
ーーコンコン
「誰?」
ノックをするような人物が思いつかなくて、使用人かと思って声をかけると「俺だ」とジュリアスの声が聞こえる。
「ジュリアス? どうぞ」
「失礼する」
恭しく頭を下げて入ってくるジュリアスに、面食らうマリーリ。
そんな気を遣わないでもいいのに、と思いながらも自分に気を遣ってくれたのだと思うとちょっとだけ嬉しくなる。
「わざわざノックしなくてもいいのに」
「一応礼儀だからな」
こういうとこ律儀だなぁ、と思いながらベッドサイドの机に白湯を置いてもらう。
コップを見下ろすとホカホカと湯気が立つ透明な白湯がそこにあった。
「ありがとう、ジュリアス」
「あぁ、気にするな。あ、だが、ちょっと温めすぎたかもしれないから、多少冷ましてから飲むほうがいいかもしれない」
「そう? わかった」
手をつけようとすると慌てて制するジュリアス。
普段は仏頂面で寡黙なため、普段の彼を知る人物がこの姿を見たらきっと驚くだろう。
誰かがジュリアスのことをクールビューティーと評していたが、人に興味がないように見えて案外彼は面倒見がいいのだ。
もしかしたらジュリアスのこの姿を知ってるのは自分だけかもしれないと思うと、少しだけマリーリの気分は上がった。
「そういえば、用事ってどうしたの?」
つい忘れていたが、そういえば本来ジュリアスの目的は自分に用事があったはずだと思い出すマリーリ。
するとジュリアスは再び隣に腰掛け、何やらゴソゴソと自分の身体を漁っている。
「実はな」
そう言って渡されたのはアンクレットだった。
紅く煌めく宝石がいくつもあしらわれ、とても高価なものだと一目でわかる代物だ。
揺らすとキラキラと光に合わせて輝き、魅入ってしまうほどに美しい。
「どうしたの、これ」
「先日ハンカチをくれただろう? 俺も何かマリーリに婚約の証として渡しておきたくてな」
「指輪じゃなくて?」
「あー、ほら、マリーリに先に指輪を渡すと失くすかもしれないだろう? だから、失くさなくて邪魔にならないものをと思って選んだのだが」
「べ、別に指輪をもらっても失くさないわよ」
「そうか? ……というのは冗談だ。実はせっかくなら普段つけてて邪魔にならないほうがいいだろうと思ってな。できれば指輪はそのうち一緒に見に行きたいと思っていたんだが、いいだろうか?」
「一緒に? ジュリアスと? 指輪を?」
「あぁ。……本来はサプライズであげられたらよかったのだろうが、あいにくそういうのに詳しい知り合いなどがいなくてな。ずっと騎士として戦場に出てた弊害というべきかなんというか……」
あれこれ言い訳を始めるジュリアス。
その顔から本当に戸惑っているのがよくわかる。
昔からジュリアスは焦ると多弁になるのだ。
恐らく、本当に指輪を選びきれずに困った末のアンクレットだったのだろう。
「わかったわかった。ジュリアスの都合いい日に見に行きましょう」
「いいのか?」
「ジュリアスが言ったんでしょ。それに本当に私が失くさないってとこもアピールしないと」
「それもそうだな。でも、とりあえずはこれをキミに」
「いいの? 高かったんじゃない?」
「マリーリのために買ったんだ。それにアンクレットは魔除けや御守りの意味もある」
「へぇ、そうなの」
「あぁ。で、早速つけようと思うのだがいいだろうか」
「え、えぇ。いいけど」
マリーリが身体を起こし、布団から足を出すとジュリアスが跪き、左足に触れる。
なんだかむず痒いようなそわそわする感覚。
こうして跪かれたことなどなかったマリーリは、妙な感覚を覚えながらジュリアスの指先を見つめる。
大きく節張っていて男性的でありながらも指は長くて綺麗だなぁ、と見つめながらアンクレットを左足首につけてもらった。
「よし、できた」
「ありがとう、ジュリアス」
「あぁ、大事にしてくれ。くれぐれも失くすなよ」
「だから失くさないってば」
お互い軽口を言い合うと笑い合う。
こうした彼とのひと時がたまらなく愛しかった。
「そろそろ寝ないとな」
「えぇ、そうね。ジュリアスも風呂上がりならしっかり寝ないと風邪ひくわ」
「そうだな。ホストが風邪をひいたら目も当てられないからな」
このまま一緒にジュリアスと寝れたら、なんてはしたない考えが頭に浮かんで慌てて消す。
(まだ婚約中だというのに、そんなこと考えてたら淑女としてダメよね)
「おやすみ、マリーリ」
「おやすみなさい、ジュリアス」
彼の背を見送り、パタンとドアがしまるのを確認すると、キュッと胸が切なく疼く。
(そうだ、白湯)
せっかくジュリアスが入れてくれたのだから飲まなければ、と手を伸ばして口に含む。
するとちょうどいい温度まで冷めていたようで、ほんのりと温かくてなんだか気持ちまで温かくなってきた。
(寂しくならないうちに寝よう)
最後の一滴まで飲み干すと、身体が火照るのを感じながら布団に潜り込む。
なんだかジュリアスに抱き締められているような錯覚を覚えながら、マリーリは目を閉じて眠りにつくのだった。
0
お気に入りに追加
2,231
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
上辺だけの王太子妃はもうたくさん!
ネコ
恋愛
侯爵令嬢ヴァネッサは、王太子から「外聞のためだけに隣にいろ」と言われ続け、婚約者でありながらただの体面担当にされる。周囲は別の令嬢との密会を知りつつ口を噤むばかり。そんな扱いに愛想を尽かしたヴァネッサは「それなら私も好きにさせていただきます」と王宮を去る。意外にも国王は彼女の価値を知っていて……?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄おめでとー!
鳥柄ささみ
恋愛
「ベルーナ・ディボラ嬢! 貴女との婚約を破棄する!!」
結婚前パーティーで突然婚約者であるディデリクス王子から婚約破棄を言い渡されるベルーナ。婚約破棄をされるようなことをしでかした覚えはまるでないが、ベルーナは抵抗することなく「承知致しました」とその宣言を受け入れ、王子の静止も聞かずにその場をあとにする。
「ぷはー!! 今日は宴よ! じゃんじゃん持ってきて!!」
そしてベルーナは帰宅するなり、嬉々として祝杯をあげるのだった。
※他のサイトにも掲載中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる