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5 ねぇねぇ、教えなさいな
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「まぁまぁまぁまぁ、マリーリったら。いつの間にジュリアスくんとあんなに親しくなっていたの? ちょっと母様に教えなさいな」
「お、お母様! 見てたの!?」
「そりゃ、こんなとこでいちゃついてたら目につくわよ~。いいわぁ、わたくしもあんな風にイチャイチャしたい!」
まるで思春期の恋する娘のようにキラキラと目を輝かせるマーサ。
彼女は昔からこういった色恋沙汰が好きなのだ。
「それはお父様に言ってよ」
「お父様に言ってもやってくれないわよ。恥ずかしがり屋だし、不器用な人だもの。貴女もその血を継いじゃって不器用だけど」
「そんなの言われなくてもわかってるわよ。だから浮気されてしまったのかもしれないし……って、もうとりあえず中に入って!」
くすくすと笑う母の背を押して、家の中に戻る。
「そういえば、お父様……大丈夫なの? 私が無理を言ったせいで……」
一応、勢いで啖呵を切ってしまった自覚があるマリーリ。
気が強いマリーリは、つい意地を張って引くに引けない状況になることが多いのだが、今回の件はその中でもとびきりだった。
今回も頭に血が昇った勢いのままに婚約破棄などと言ってしまったのだが、自分自身のことだけでなく色々な家を巻き込んでしまっていることに気づいて反省する。
後悔はないが、しゅんと己の愚かさに項垂れていると、マーサが苦笑しながらマリーリを抱きしめた。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。あの人、なんだかんだでやるときはやる男よ? それに我が家をバカにされて黙っていられるほどお人好しでもないわ。わたくしもそうだし。そもそも、こんなに愛らしいマリーリと婚約しながら浮気するだなんて不誠実極まりないわ。とにかくマリーリが心配することではないから、気長に待ちなさい」
マーサはマリーリに言い聞かせるようにそう言った。
元々色恋の気配なかったマリーリが、婚約者であるブランに対してほんのりと恋心を抱くようになっていたのを微笑ましく思っていたからこそ進めていた縁談だというのに、こうして浮気によって婚約破棄になった事実がマーサは許せなかったのだ。
「……わかった」
「で? ジュリアスくんとはいつからあのような仲に?」
「その話、まだ続いてたの!?」
「もちろんよ。わたくし、しつこいのが取り柄ですもの。マリーリも知っているでしょう?」
「う。そうだけど」
「というか、マリーリはずっとブランくんのことを好きだと思ってたからこの縁談も進めてきたけど、気が変わったのならバッサリ切って捨ててしまったほうが両者にとっていいことだわ」
「そ、そういうものなの?」
「もちろんよ。あのね、家を代々続けるというのはね……」
(これは、お母様のスイッチが入っちゃったわ……)
普段はおっとりとしたマーサだが、こだわりは強いタイプで、特に家のことや女性の活躍のことになるとこうして熱弁してしまうくらい強い信念があった。
それは恐らくマーサの家が代々女系だったからこそ、時勢とは違った考え方をしているのだろう。
女は政治に関心を持つなと言われて長いが、そんなことおかまいなしにマーサはガンガン口を出すし根回しをする。
それによってフィーロ家が繁栄できているのもまた事実であった。
「そもそも最近、グラコスも変だとよく溢していたのよ」
「変?」
「グシュダン家のこと。さっきもジュリアスくんが言っていたけど、ちょっとあまりよろしくない噂があってね。わたくしもグラコスが内々で調査してたことまでは知りませんでしたけど、こう言った噂は回るのが早いのよ」
「ふぅん、そういうものなの」
「貴女は全然夜会とか社交会とか出ないから知らないでしょうけど、こういう情報交換は大事なのよ? 家を守るためには縁と情報が大事で……」
再び長々と話し出しそうなマーサをマリーリは彼女の口を塞ぐように止めた。
「わかった、わかったわよ。……もしジュリアスのとこに嫁ぐのだとしたらそういうことも勉強しなきゃだろうし、ちゃんと行くようにするわ」
「あら、そう。マリーリがこんなに素直だなんて。明日は嵐かしら」
「私だって色々と考えているのよ!」
「ふふ、ならいいけど。わたくしとしてはいい成長だと思うわ」
いつになくニコニコ顔の母の姿に、居た堪れないマリーリ。
なんだか色々と見透かされているような気がして落ち着かなかった。
「さて、まだお夕飯まで時間があるでしょう? せっかくですもの、刺繍……今度はジュリアスくんにハンカチを作ってあげたら?」
「ジュリアスに?」
「えぇ。きっと喜んでくれると思うわよ?」
(ジュリアスにハンカチ……)
先程作った大作は渡す前にボツになってしまったからなぁ、と気が滅入ってくる。
さすがに元婚約者用に作っていたものをそのまま現婚約者に渡すというのは倫理的によろしくないだろうとも思うし、だったらやはり一から作り直すのが筋であろう。
「うん、わかった。刺繍してくるわ」
「あら素直。ふふ、一針一針ちゃんと真心こめてね」
「わ、わかってるわよ!」
顔を赤らめながら階段を上がり、自分の部屋へと向かうマリーリ。
そんな彼女を微笑ましく見つめたあと、マーサは今回の件についてグラコスと話し合うために彼の私室へと向かうのだった。
「お、お母様! 見てたの!?」
「そりゃ、こんなとこでいちゃついてたら目につくわよ~。いいわぁ、わたくしもあんな風にイチャイチャしたい!」
まるで思春期の恋する娘のようにキラキラと目を輝かせるマーサ。
彼女は昔からこういった色恋沙汰が好きなのだ。
「それはお父様に言ってよ」
「お父様に言ってもやってくれないわよ。恥ずかしがり屋だし、不器用な人だもの。貴女もその血を継いじゃって不器用だけど」
「そんなの言われなくてもわかってるわよ。だから浮気されてしまったのかもしれないし……って、もうとりあえず中に入って!」
くすくすと笑う母の背を押して、家の中に戻る。
「そういえば、お父様……大丈夫なの? 私が無理を言ったせいで……」
一応、勢いで啖呵を切ってしまった自覚があるマリーリ。
気が強いマリーリは、つい意地を張って引くに引けない状況になることが多いのだが、今回の件はその中でもとびきりだった。
今回も頭に血が昇った勢いのままに婚約破棄などと言ってしまったのだが、自分自身のことだけでなく色々な家を巻き込んでしまっていることに気づいて反省する。
後悔はないが、しゅんと己の愚かさに項垂れていると、マーサが苦笑しながらマリーリを抱きしめた。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。あの人、なんだかんだでやるときはやる男よ? それに我が家をバカにされて黙っていられるほどお人好しでもないわ。わたくしもそうだし。そもそも、こんなに愛らしいマリーリと婚約しながら浮気するだなんて不誠実極まりないわ。とにかくマリーリが心配することではないから、気長に待ちなさい」
マーサはマリーリに言い聞かせるようにそう言った。
元々色恋の気配なかったマリーリが、婚約者であるブランに対してほんのりと恋心を抱くようになっていたのを微笑ましく思っていたからこそ進めていた縁談だというのに、こうして浮気によって婚約破棄になった事実がマーサは許せなかったのだ。
「……わかった」
「で? ジュリアスくんとはいつからあのような仲に?」
「その話、まだ続いてたの!?」
「もちろんよ。わたくし、しつこいのが取り柄ですもの。マリーリも知っているでしょう?」
「う。そうだけど」
「というか、マリーリはずっとブランくんのことを好きだと思ってたからこの縁談も進めてきたけど、気が変わったのならバッサリ切って捨ててしまったほうが両者にとっていいことだわ」
「そ、そういうものなの?」
「もちろんよ。あのね、家を代々続けるというのはね……」
(これは、お母様のスイッチが入っちゃったわ……)
普段はおっとりとしたマーサだが、こだわりは強いタイプで、特に家のことや女性の活躍のことになるとこうして熱弁してしまうくらい強い信念があった。
それは恐らくマーサの家が代々女系だったからこそ、時勢とは違った考え方をしているのだろう。
女は政治に関心を持つなと言われて長いが、そんなことおかまいなしにマーサはガンガン口を出すし根回しをする。
それによってフィーロ家が繁栄できているのもまた事実であった。
「そもそも最近、グラコスも変だとよく溢していたのよ」
「変?」
「グシュダン家のこと。さっきもジュリアスくんが言っていたけど、ちょっとあまりよろしくない噂があってね。わたくしもグラコスが内々で調査してたことまでは知りませんでしたけど、こう言った噂は回るのが早いのよ」
「ふぅん、そういうものなの」
「貴女は全然夜会とか社交会とか出ないから知らないでしょうけど、こういう情報交換は大事なのよ? 家を守るためには縁と情報が大事で……」
再び長々と話し出しそうなマーサをマリーリは彼女の口を塞ぐように止めた。
「わかった、わかったわよ。……もしジュリアスのとこに嫁ぐのだとしたらそういうことも勉強しなきゃだろうし、ちゃんと行くようにするわ」
「あら、そう。マリーリがこんなに素直だなんて。明日は嵐かしら」
「私だって色々と考えているのよ!」
「ふふ、ならいいけど。わたくしとしてはいい成長だと思うわ」
いつになくニコニコ顔の母の姿に、居た堪れないマリーリ。
なんだか色々と見透かされているような気がして落ち着かなかった。
「さて、まだお夕飯まで時間があるでしょう? せっかくですもの、刺繍……今度はジュリアスくんにハンカチを作ってあげたら?」
「ジュリアスに?」
「えぇ。きっと喜んでくれると思うわよ?」
(ジュリアスにハンカチ……)
先程作った大作は渡す前にボツになってしまったからなぁ、と気が滅入ってくる。
さすがに元婚約者用に作っていたものをそのまま現婚約者に渡すというのは倫理的によろしくないだろうとも思うし、だったらやはり一から作り直すのが筋であろう。
「うん、わかった。刺繍してくるわ」
「あら素直。ふふ、一針一針ちゃんと真心こめてね」
「わ、わかってるわよ!」
顔を赤らめながら階段を上がり、自分の部屋へと向かうマリーリ。
そんな彼女を微笑ましく見つめたあと、マーサは今回の件についてグラコスと話し合うために彼の私室へと向かうのだった。
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