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6章【外交編・ブライエ国】

50 反抗期

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目を血走らせて、ローグが剣を握ってこちらに向かってくる。

「リーシェ!」

ガキンっ……!

心配するようにクエリーシェルの私の名を呼ぶ声が響くが、私はその刃を棍でいなして弾いた。そしてその弾いた勢いのままに側頭部に2度打ちつけると、体幹すら満足に鍛えていなかったローグは崩れるように膝を地につける。

「〈はっ、弱いわね。最近の師匠のほうがまだ強かったわ。それで師匠を超える国づくりをしようとしてたとか……片腹痛いわ〉」
「〈煩い!煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い!!!〉」
「〈どっちが煩いんだ……かっ!〉」

続けて畳み掛けるように棍で打っていく。剣を取りこぼし、拾い上げようとするのをすかさずその手を打って拾わせないようにする。

「〈っく!お前はいつも、いつも俺の邪魔ばかり……っ!〉」
「〈そうだったかしら?ごめんなさいね、正直私、貴方の印象ないのよね〉」
「〈なん、だと……っ!?〉」
「〈だっていつも陰から私を睨みつけてるばかりだったじゃない。何か言うわけでもなく、ただジッと睨みつけてるだけ。何?あれで意思表示してたわけ?〉」
「〈煩い!俺は俺は……っ〉」

抗うローグをこれでもかとボコスカ殴る。

ほぼ一方的な戦いであった。背後にいる他のメンバーも、クエリーシェルでさえも私の独壇場と化しているのを見てなんとも言えない空気になっているのを肌で感じる。

「おーい、ステラ。あんまやるとそいつ死ぬぞー」

セツナがやんわりと止めに入るように声をかけてくる。けれど私はそれを無視して死なないくらいの弱さで脚や身体を殴り続けた。

ローグは蹲り、立ち上がることすらままならないようで、私は彼の前に見下ろすように仁王立ちする。

「〈いい加減負けを認めたらどう?〉」
「〈いつも、そうだ……っ、いつも親父はお前ばっかり……っ〉」
「〈アホくさ。よく言うわよ。師匠はよっぽど貴方を気にかけてくれていたというのに〉」
「〈嘘だ!あのクソ親父は国とお前のことばかりだった!お前の国が滅んだときも清々したと思ったのに、あいつは……お前の心配ばかりで……っ!〉」
「〈はっ、そんなのは同盟国として当然でしょ?何、もしかして帝国と組んだのもって私に対する当てつけなわけ?〉」

黙り込むローグに呆れ果てる。そんな見栄と私に対する恨みつらみで国をこんなにも堕落させたかと思うと、頭痛すらしてくる始末だ。

「〈そんなしょうもない感情のために師匠は殺されたっていうの?〉」
「〈……っ、俺は、別に殺すつもりは……っ〉」
「〈でも、結果的に師匠は死んだ。そして、メリッサも殺そうとしてたじゃない……〉」
「〈それは、あいつのせいでレベッカが死んだからであって……〉」
「〈ふぅん、じゃあ命をかけて産んだ我が子を夫が殺すことを望んでたの?彼女は……〉」
「〈それは……っ〉」

言葉を詰まらせるローグ。この様子から察するに、彼は彼自身自分の感情や気持ちを理解しきれてないのではないだろうか。……だからといってローグが今までやった行為は許されることではないが。

「〈とことんバカなのね。あんた〉」
「〈はぁ!?さっきからバカにしやがって……!〉」

睨むように私を射抜く瞳。殺意というよりも反抗期に近いそれは、まだ彼が成熟してないことの証だった。

「〈ほら、これ〉」
「〈なんだ、その紙切れ……〉」
「〈いいから読みなさい。あんた宛よ。……師匠からの〉」
「〈なん、だ……と?〉」

師匠からの手紙を差し出すと、それを引ったくるように奪われる。そして、その手紙をまじまじと読み込むローグの瞳には大粒の涙が滲んでいた。

「〈親父……っ〉」
「〈わかった?あんたの一方的な逆恨みのような反抗期のせいで一生あんたは謝れなくなったのよ。師匠は誰よりも何よりもあんたのことを心配していた。……メリッサを保護してたのだって、あんたが親として至らないのと我が子の尻拭いとしてやってたのよ。そんなこともわからなかっただなんて本当どんだけワガママで身勝手なの〉」
「〈……っく〉」

悔しそうにぼろぼろと涙を流すローグ。一番後悔しているであろうからこそ、あえて言葉にして自分がやったことの重みを改めて痛感させる。

「〈どうする?過去は変えられないけど、未来は変えられる。今ここであんたは私に殺されるか、心を入れ替えて帝国と手を切り、私達に協力するかどうか決めなさい〉」
「〈どういうことだ?〉」
「〈質問で返さないで。王として、今判断力が問われているのよ。さっさとどっちか決めなさい!!〉」

棍を足元に叩きつけると、びくんと身体を飛び上がらせるローグ。もう彼の戦意がないことなどわかりきってはいたが、それはそれ。これはこれである。

「〈……降伏します〉」
「〈何?もっとはっきり言いなさい!〉」
「〈我々モットー国はブライエ国との戦闘を中止します!〉」
「〈じゃあ、さっさと伝令達に伝えて。それと、同行してる帝国軍にはそれを察されないように上手く配慮してから捕縛するか殺すように指示しなさい。いいわね?〉」
「〈わかった……〉」

項垂れるローグ。そして私は振り返り、「[ということですので、とりあえずブライエ国とモットー国の戦争は終結です]」と背後の彼等に微笑むのだった。
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