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6章【外交編・ブライエ国】
39 死ねない理由
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「[遅くなってごめんなさい。さ、行きましょうか]」
「[何の話をしていたんだ?]」
シオンのところへ戻ると会話の内容を尋ねられる。ちょっと長く話してはいたが、実際の内容……と考えたとき、結局は蝶々の話だったな、と思い至る。
「[んー、蝶々の話]」
「[は?蝶々?]」
「[えぇ、蝶々]」
「[なぜ急に蝶々の話が?]」
「[それは……この戦争で大事なことだからよ]」
にっこりと微笑むとシオンはわけがわからないとでもいうように肩を竦める。その様子がなぜか先程の少年の姿と重なってちょっと微笑ましいと思ったのは、私だけの秘密である。
◇
「[これより、モットー国の首都へと向かう!いいか、ここから先はさらに厳しい戦いとなるから心してかかれよ!一瞬の隙が命取りだ、いいな!?]」
「[はっ!!!!]」
「[相手は我々よりも人数は多い!だが我々はそれを上回る鍛錬をし、技術や体力を身につけている!決して遅れをとるようなことはない!!]」
「[おぉおおおおおお!!!]」
シオンが士気を高めるための演説を始める。
いよいよだと思うと私もドキドキと気持ちが高揚してくる。
「……あまり勢いに飲まれすぎるなよ」
「え?」
シオンの話を注視して聞いていると、不意に隣にいるクエリーシェルから声をかけられ、そちらを見る。
「士気が昂まることはいいことだが、そのぶん無茶もしやすい。リーシェは特に注意しろ。周りをよく見て行動するんだ」
「はい」
「善処する、ではダメだからな。命を無駄にするな。リーシェの価値はもはや自身だけのものではないと心得てくれ」
「わかりました」
日頃の行いが悪いのもあって釘を刺されているのもあるが、それ以上に私自身と今後の世界の行く末を見つめる言葉に気が引き締まる。
死んではいけない。
死を望んでいた私が死んではいけない、というもも奇妙な話だが、今後の政局を考える限り死んではいけないというのは理解していた。
私はこの戦争だけでなく、帝国と世界での大局のキーパーソンである。以前我が国ペンテレアが各国の潤滑油としていた責務を唯一の生き残りとして引き継がねばならない。
「私がリーシェを必ず守る。だが、そのためには守られる者の意志が大切だ。むやみに前線には出ない。時としてグッと堪えて耐えることも必要だ」
「わかりました」
「慢心していると足下をすくわれやすいからな。私も気をつけて行動せねば」
「えぇ、よろしくお願いします」
「あぁ、だから俺のそばを離れるな」
「はい」
恭しく頭を下げると、頭を撫でられる。そして力強く後頭部を引き寄せられて抱きしめられた。顔を上げれば今にも触れ合いそうな距離の唇に、ドキドキしながらそっと目を閉じる。
唇が震える。もう少しで触れそうな雰囲気を察して、そっと唇を薄く開いたその時だった。
「[こぉら!そこの2人!今から戦争おっ始めるってときにイチャついてんじゃねー!!!]」
「[え!?うぇわ、わわわわ……っ!!]」
後頭部に突き刺さるような勢いで怒声が飛んできて、慌てて身体を離す。後ろを振り向けば、様々な兵士達が自分達に注目していることに気づいて頭が沸騰しそうだった。
クエリーシェルを見ればこちらもバツが悪そうに苦笑している。
(完全に2人の世界に入ってて周りのことがすっぽ抜けてた)
キスしかけてたところを見られたと思うと恥ずかしい。まだ未遂ではあったからまだよかったものの、恥ずかしいものは恥ずかしい。
「あとでのお預けだな」
「もう、言わないでください……っ」
「死ねない理由がまた1つ増えたな」
「ケリー様!!」
「[おい、そろそろマジでキレるぞ?]」
「[ご、ご、ごめんなさい!すぐに用意するわ!]」
私が慌てる様子がおかしいのか、ちょっとニヤけているクエリーシェルを叩けば、さらに微笑まれる。
(うーーー、前までこんな余裕なかったくせに!)
1人で恥ずかしがったり憤ったりと感情が乱高下しながらも、私は馬に跨り隊列の最後尾につくのだった。
「[何の話をしていたんだ?]」
シオンのところへ戻ると会話の内容を尋ねられる。ちょっと長く話してはいたが、実際の内容……と考えたとき、結局は蝶々の話だったな、と思い至る。
「[んー、蝶々の話]」
「[は?蝶々?]」
「[えぇ、蝶々]」
「[なぜ急に蝶々の話が?]」
「[それは……この戦争で大事なことだからよ]」
にっこりと微笑むとシオンはわけがわからないとでもいうように肩を竦める。その様子がなぜか先程の少年の姿と重なってちょっと微笑ましいと思ったのは、私だけの秘密である。
◇
「[これより、モットー国の首都へと向かう!いいか、ここから先はさらに厳しい戦いとなるから心してかかれよ!一瞬の隙が命取りだ、いいな!?]」
「[はっ!!!!]」
「[相手は我々よりも人数は多い!だが我々はそれを上回る鍛錬をし、技術や体力を身につけている!決して遅れをとるようなことはない!!]」
「[おぉおおおおおお!!!]」
シオンが士気を高めるための演説を始める。
いよいよだと思うと私もドキドキと気持ちが高揚してくる。
「……あまり勢いに飲まれすぎるなよ」
「え?」
シオンの話を注視して聞いていると、不意に隣にいるクエリーシェルから声をかけられ、そちらを見る。
「士気が昂まることはいいことだが、そのぶん無茶もしやすい。リーシェは特に注意しろ。周りをよく見て行動するんだ」
「はい」
「善処する、ではダメだからな。命を無駄にするな。リーシェの価値はもはや自身だけのものではないと心得てくれ」
「わかりました」
日頃の行いが悪いのもあって釘を刺されているのもあるが、それ以上に私自身と今後の世界の行く末を見つめる言葉に気が引き締まる。
死んではいけない。
死を望んでいた私が死んではいけない、というもも奇妙な話だが、今後の政局を考える限り死んではいけないというのは理解していた。
私はこの戦争だけでなく、帝国と世界での大局のキーパーソンである。以前我が国ペンテレアが各国の潤滑油としていた責務を唯一の生き残りとして引き継がねばならない。
「私がリーシェを必ず守る。だが、そのためには守られる者の意志が大切だ。むやみに前線には出ない。時としてグッと堪えて耐えることも必要だ」
「わかりました」
「慢心していると足下をすくわれやすいからな。私も気をつけて行動せねば」
「えぇ、よろしくお願いします」
「あぁ、だから俺のそばを離れるな」
「はい」
恭しく頭を下げると、頭を撫でられる。そして力強く後頭部を引き寄せられて抱きしめられた。顔を上げれば今にも触れ合いそうな距離の唇に、ドキドキしながらそっと目を閉じる。
唇が震える。もう少しで触れそうな雰囲気を察して、そっと唇を薄く開いたその時だった。
「[こぉら!そこの2人!今から戦争おっ始めるってときにイチャついてんじゃねー!!!]」
「[え!?うぇわ、わわわわ……っ!!]」
後頭部に突き刺さるような勢いで怒声が飛んできて、慌てて身体を離す。後ろを振り向けば、様々な兵士達が自分達に注目していることに気づいて頭が沸騰しそうだった。
クエリーシェルを見ればこちらもバツが悪そうに苦笑している。
(完全に2人の世界に入ってて周りのことがすっぽ抜けてた)
キスしかけてたところを見られたと思うと恥ずかしい。まだ未遂ではあったからまだよかったものの、恥ずかしいものは恥ずかしい。
「あとでのお預けだな」
「もう、言わないでください……っ」
「死ねない理由がまた1つ増えたな」
「ケリー様!!」
「[おい、そろそろマジでキレるぞ?]」
「[ご、ご、ごめんなさい!すぐに用意するわ!]」
私が慌てる様子がおかしいのか、ちょっとニヤけているクエリーシェルを叩けば、さらに微笑まれる。
(うーーー、前までこんな余裕なかったくせに!)
1人で恥ずかしがったり憤ったりと感情が乱高下しながらも、私は馬に跨り隊列の最後尾につくのだった。
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