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6章【外交編・ブライエ国】

36 男の争い

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「ギルデル。話せる?」
「おや、リーシェさん。あの男の許可が下りれば話はできるんですが……」

いつもと同じような調子の喋り方だが、いかんせんぐるぐる巻きの状態で出てるの口だけという何ともシュールな光景だ。

チラッとクエリーシェルを見ると、「いい、話せ」と短く言ったっきりそっぽを向いてしまった。

「では、許可が下りたということで」
「で、貴方には聞きたいことがたくさんあるけど、まずは今回の戦争のことだけを聞くわ。それ以外は戦争が終わり次第詳しく聞くからそのつもりで」
「えぇ、なんなりと。できればこの縄もう少し緩めて欲しいのですが」
「それは無理」
「そうですか、残念。ではせめてリーシェさんの美しい顔を拝見しながらお喋りしたいので、顔だけ出していただくのは?」
「それも諦めて」
「……仕方ありませんねぇ」

下手に触れて緩めようものなら鬼神と化したクエリーシェルを召喚することになってしまう。

今もよそを見ながらもこちらの動向を気にかけてるのか、私達の会話に耳を傾けてるようでギルデルが余計なことを言うたびこちらを向き、私と目が合うなりスッとそらされるの繰り返しだ。

これでもしまたギルデルがやらかしたら一瞬でこちらまでやってきて、彼をボコボコにしかねない。下手したら勢い余ってヤりかねない。ここは私が穏便に対処し、選択を誤らないようにしなければ。

「それで、首都の警備体制や規模はどれくらいなの」
「んー、よく聞こえませんねぇ。もっと近くでお話いただけると」
「じゅうぶん聞こえてるでしょ。そういうのはいいから、すぐに答えてちょうだい。……ここで死にたくないでしょう?」

わざと後ろにはクエリーシェルがいるんだぞ、とアピールしておく。さすがのギルデルもこのままふざけていたら死ぬ可能性があるかもしれないことはわかっているのだろう、一瞬黙ったあとに口を開いた。

「それは、そうですね」
「ならちゃんと答えてちょうだい。私に協力するというならね」
「そうですね、わかりました。ボクはリーシェさんのファンですからね、喜んで協力します。それで、首都についてでしたっけ?正確な数字は把握しておりませんが、恐らく2万くらいかと」
「帝国とモットー国の割合は?」
「首都ですからねぇ、恐らく2:8くらいでしょうか。そもそもここだけの話、ここにいる帝国の兵はさほど強くありません」
「……どういうこと?」

聞き捨てならないセリフに思わず前のめりになる。すると、気配を察したのか顔を近づけてくるギルデル。

「ちょっ、こら!近づかない!」
「おや、残念」

慌ててギルデルを押し返して地面に押さえつける。危うくまた唇を奪われるところだったと安堵したところで、ゆらりと背後から大きな影が降ってくる。

「……そんなに死にたいか、貴様」

ゆっくりと見上げるとクエリーシェルの殺気に満ちた表情に、思わず私が内心「ひぃ……っ」と竦み上がる。自分に向けられたものではないというのに、彼の声と言葉に自然とガタガタと震え出した。

「おや、お可哀想に。リーシェさんが怖がっておいでですよ?」
「誰のせいだと……っ」
「ふふふ」
「リーシェ、大丈夫か?」
「えぇ、はい。大丈夫です……」
「すまない。リーシェに向けたわけではないのだが、怖がらせてしまったな」

そう言って抱き締められる。耳の位置がちょうど彼の胸元になり、どくんどくんと強く打つ鼓動を聞いて、だんだんと落ち着いてきた。

「あの、もう、大丈夫です」
「そうか?」
「はい、ありがとうございます」
「ならいいんだが」
「すみませーん。ボクの存在忘れてませんかー?」

横槍を入れるようにギルデルが口を挟む。するとすかさず目にも止まらぬ速さで蹴りを入れたらしく「げふ……っ、理不尽すぎません!?」とギルデルが非難の声を上げた。

「おっと、足が滑ってしまった」

棒読みでしれっと言いのけるクエリーシェル。明らかに殺気がぶり返しているが、もう気にしないようにすることにした。というか、この争いに一々付き合っていたらキリがないことに気づいた。

(このままじゃ先に進まない)

「ちょっと、とりあえずケリーさまはステイで」
「え?」
「話が先に進まないので」
「おや、怒られたんです?くすくす」
「貴様……っ!」
「ギルデルも煽らないで。次ふざけた真似したらちょっと炙るわよ」
「あ、炙る……?」
「えぇ、私も拷問の心得はある程度あるので」

わざとカチッカチッと火打ち金を打って音を立てると大人しくなるギルデル。さすがにこれ以上はヤバいと感じたようだ。

「では、話を戻しましょうか?」

私はにっこりと微笑んだ。
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