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5.5章【閑話休題】

メリッサ編(30〜31の間の話)

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「〈大丈夫?緊張してる?〉」
「〈え、あぁ、ちょっとね。ちゃんと喋れるかどうかちょっと心配で〉」

馬に乗りながら、ヒューベルトさんに背中を預けていると、トクトクトクトク、と速いリズムで打つ鼓動が気になり、つい声をかけてしまった。

男の人はじーちゃん以外はみんな怖いイメージだったけど、ヒューベルトさんは全然そんなことなくて、ちょっとホッとする。

顔が綺麗でカッコいいから緊張はするけど、叩いたり蹴ったりしないし、あたしを変な目で見ないし普通に接してくれるヒューベルトさんと一緒にいるのは落ち着く。

しかも大人は隠し事が多くて、余計な話を嫌うイメージだったけど、ヒューベルトさんはそんなこと全然なくて、大人の男性のイメージがちょっとよくなった。

ヒューベルトさんは怒鳴ったりあたしを見下したりせずに、気持ちを隠すことなく素直に話してくれる。

ちょっと苦笑気味ではあるけど、照れ隠しなのか、その様子もなんだか可愛らしく思えてくるし、そんな姿をあたしに見せてくれるのがちょっと嬉しかった。

今まであたしが知ってる人は城にいたヤツらとじーちゃんくらいしかいなかったけど、こうしてステラとヒューベルトが一緒にいてくれるのは心強いし安心できて、じーちゃんがいなくなって不安だったのがちょっとずつだけど薄れてきた気がする。

「〈わからないことがあったらあたしが代わりに喋るから大丈夫〉」
「〈ありがとう、メリッサちゃん。心強いよ〉」
「〈あ、ほら!さっき名前決めたでしょ?〉」
「〈あ、あぁ、そうだったね。ミリーちゃんだったよね、今は〉」
「〈うん。貴方はウムトさんだよ?〉」
「〈うん、忘れないようにしないと〉」

年下のあたしの言葉にも真摯に応対してくれるヒューベルトさん。

こんな人が存在すること自体、最初信じられない気持ちでいっぱいだったけど、それだけきっとあたしが知る世界が少ないのだと思うと、他の世界を知ることにワクワクした。

「〈ねぇ、ミリーちゃんは怖くない?〉」
「〈うん。昔は怖いものだらけだったけど、今は全然。じーちゃんがいたし、リーシェやウムトさんがいてくれるから〉」
「〈そっか。それはよかった〉」
「〈ウムトさんはちょっと緊張ほぐれた?〉」
「〈いや、全然。でも、どうにかしないとね。リーシェさんも待ってるし〉」
「〈うん〉」

(ヒューベルトさんはステラのことどう思っているんだろう)

ステラとヒューベルトさんはなんだか不思議な関係だ。仲はいいと思うけど、どこかぎこちない気もするし、かと言って信頼し合っている感じもしてちょっとモヤモヤする。

こうして人に対してわからない気持ちを持ったのは初めてだった。

「〈ヒューベルトさんて、リーシェのこと好きなの?〉」
「〈えぇ!?きゅ、急になんだい?〉」

あたふたとあからさまに狼狽るヒューベルトさん。

こう言った話題には慣れてないのか、それとも急に突拍子もないことを言ってしまったからか、あたしがなんだか悪いことを聞いてしまったような変な気持ちになってくる。

「〈ごめんなさい。気になったから、つい〉」
「〈あぁ、別に謝ることではないよ。うん、ちょっとびっくりしただけ。俺、あんまり女性と縁がなかったものだからこういった話題には疎くてね。女の子はもうそういうことを気にするのかぁ……〉」

なんだかしみじみと言われてしまって恥ずかしくなる。普通の女の子とは違うから、余計になんだかそわそわした。

「〈えーっと、俺とリーシェさんは……なんていうか、複雑でね〉」
「〈複雑?〉」
「〈そう、最初は監視兼護衛対象だったんだけど、今は主治医と患者かな?〉」
「〈意味がわからない……〉」

言葉の意味もだが、そもそも関係性が違いすぎるというか、思っていたものと違って理解できなかった。

それを素直に吐き出すと、「〈あー……〉」と返答に困ったかのように再び苦笑するヒューベルトさん。

「〈あーうー……、とにかくちょっと変わった関係って言えばいいかな?〉」
「〈ってことは、恋人同士じゃないの?〉」
「〈ぶふっ!ち、違うよ!リーシェさんにはちゃんとした恋人がいるよ。恋人……って言っていいのかはわからないけど、そういったいい関係の人はいるんだ。その人は多分ブライエ国にいるはずだ〉」
「〈そうだったの〉」

ステラにそういう人がいるのか、となんだかちょっぴり寂しくなる。ヒューベルトさんもステラも、誰かに取られてしまうと思うと、ギュッと胸が苦しくなった。

でも同時に、ヒューベルトさんとステラが恋人ではないと知れてホッとする自分もいた。

「〈さぁ、もうすぐ着きそうだ。準備はいい?〉」
「〈うん。大丈夫〉」

目の前には街の門。後ろで大きく深呼吸しているのを聞きながら、あたしもそっと覚悟を決めて門をくぐるのだった。
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