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5章【外交編・モットー国】
29 問題
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あれから馬を走らせて、だいぶ遠くの森までやって来た。途中兵らしき人を見かけて何度か迂回したからか、順調な道のりとは言えなかったが、それでも程々には進めたと思う。
そして、昼食にしようと岩陰に隠れて昼食のサンドイッチを広げたところで、「〈じーちゃんは!??〉」とガバッと飛び上がるようにメリッサが起きた。
メリッサは辺りを慌てて見回すも、私達だけしかいないことに気付き色々と察したのだろう。大きな瞳からぼろぼろぼろと大粒の涙が溢れ出す。
「〈……メリッサ、ごめんね〉」
ありきたりな言葉しか出てこない。
そして、優しく頭を撫でると、バッと払い退けられる。気持ちは痛いほどわかる、メリッサからしたら私も同罪というくらいに酷い仕打ちをした人物だろう。
メリッサの気持ちもわかるが、だからと言ってそれを受け入れることはできない。私もできれば連れてきたかったし、墓も建てたかった。
けれど、あの場に留まったことで全滅してしまう可能性があるなら、それはやはり看過できない。恐らくメリッサもわかってはいるのだろうが、心がついていかないのだろう。
まだ10にも満たないくらいの年頃だ、理解しろ、分別をつけろというほうが無理があるだろう。
「〈ご飯、あるから食べてね。ほら、朝みんなで用意したやつ。師匠のピクルスもあるから、ね?〉」
師匠、の言葉に反応するメリッサ。そして、ジッとそれを見たあとに口に運ぶと、味わいながら師匠の存在を噛みしめつつ、メリッサは静かに泣くのだった。
「……さて、どうしましょうか」
「そうね、困ったことになったわね」
メリッサが少しでも心の整理ができるように、静かに泣いてる場所から離れて話し合う。
本来もっと安全に出発するはずが、想定外のことでバタバタとしていたせいでいくつか落としてしまったものがあった。
主に衣服や食糧関連だが、正直手痛い。ここは朝夕の寒暖差が激しく、日中は暖かいものの夜は急に冷え込むのだ。
なのでできれば、野宿できるように装備を固めていたのだが、馬の安全を確保するために荷物をいくつか落としたまま拾うことができなかった。
食糧も今日の分まではどうにかなるが、あと数日保たせるとなると厳しい部分が出てくる。……果たして、どうしたものか。
「〈何の話をしてるの……〉」
顔をパンパンに腫らしたメリッサが声をかけてくる。非常に痛々しい見た目だが、本人も承知しているだろうから、あえて彼女の顔は見ないようにした。
「〈食糧と衣類の確保をしようと思っているのだけど、心当たりはある?〉」
「〈この近辺は警備がかたいってじーちゃんが言ってた〉」
指を差したのはこの周辺の街や村だった。どこもかしこも潤ってはいるものの、帝国の兵が常駐しているとのことで、乗り込むのは難しそうだった。
「〈最近、帝国が嫌で街を出た人が新しい村を作ったとは聞いたことある〉」
「〈そうなの?〉」
「〈……うん。多分、場所まではわからないけど……〉」
「〈そう、場所がわからないと難しいわね……〉」
体力を消耗しないことはもちろん、下手に動き回るとバレるリスクが高まるため避けておきたい。なので、メリッサの情報はありがたかったが、実際にそれを目標に行動するというのは難しかった。
「〈あの……〉」
「〈ヒューベルトさん、どうしました?〉」
「〈よければ俺が行きましょうか?〉」
「〈え、っと……どこに?〉」
メリッサとの会話の合間にモットー語で参入してくるヒューベルト。拙い発音だが、勉強してきたのだろう、覚えたてとは思えないほどきちんと会話にはなっていた。
「〈聞き込みに。ある程度のモットー語は勉強してきたので。完璧にこなせる自信はありませんが、お役に立てるなら〉」
確かに、ヒューベルトなら顔が割れてるわけでもなければ手配されているわけでもない。
だが、モットーという国に精通していないし、いくら多少モットー語がわかるようになったとはいえ、難しいのではないかとも思う。
(でも、他に手立てはないことも事実なのよね……)
用意されている路銀も、正直乏しい。下手な買い物もできないため、ヒューベルトが吹っかけられたら対処できないことも考えると悩ましい。
「〈なら、私も行くわ〉」
「〈え!?メリッサが!??〉」
「〈うん。多分、ヒジャブで髪を隠していればバレないだろうから。ステラは銀色の髪が目立つけど、あたしならここの人達と一緒に黒髪だし、きっと平気〉」
(ヒューベルトとメリッサが一緒に行ってくれるのは心強いけど、大丈夫かしら)
不安が顔に出ていたのだろう、ヒューベルトが私の肩をポンと叩いた。
「〈いざとなったら俺がメリッサちゃんを護りますから〉」
「〈……あたしも、ヒューベルトさんを守るから大丈夫〉」
何やら既視感があるやりとりのような気がするが、お互いがお互いを支えるというなら大丈夫だろう。
「〈わかりました。でも、無理はしないで〉」
「〈わかりました〉」
「〈うん、わかった〉」
やはり自分以外に頼れる人がいることを心強く思いながら、私はちょっと嬉しくなった。
そして、昼食にしようと岩陰に隠れて昼食のサンドイッチを広げたところで、「〈じーちゃんは!??〉」とガバッと飛び上がるようにメリッサが起きた。
メリッサは辺りを慌てて見回すも、私達だけしかいないことに気付き色々と察したのだろう。大きな瞳からぼろぼろぼろと大粒の涙が溢れ出す。
「〈……メリッサ、ごめんね〉」
ありきたりな言葉しか出てこない。
そして、優しく頭を撫でると、バッと払い退けられる。気持ちは痛いほどわかる、メリッサからしたら私も同罪というくらいに酷い仕打ちをした人物だろう。
メリッサの気持ちもわかるが、だからと言ってそれを受け入れることはできない。私もできれば連れてきたかったし、墓も建てたかった。
けれど、あの場に留まったことで全滅してしまう可能性があるなら、それはやはり看過できない。恐らくメリッサもわかってはいるのだろうが、心がついていかないのだろう。
まだ10にも満たないくらいの年頃だ、理解しろ、分別をつけろというほうが無理があるだろう。
「〈ご飯、あるから食べてね。ほら、朝みんなで用意したやつ。師匠のピクルスもあるから、ね?〉」
師匠、の言葉に反応するメリッサ。そして、ジッとそれを見たあとに口に運ぶと、味わいながら師匠の存在を噛みしめつつ、メリッサは静かに泣くのだった。
「……さて、どうしましょうか」
「そうね、困ったことになったわね」
メリッサが少しでも心の整理ができるように、静かに泣いてる場所から離れて話し合う。
本来もっと安全に出発するはずが、想定外のことでバタバタとしていたせいでいくつか落としてしまったものがあった。
主に衣服や食糧関連だが、正直手痛い。ここは朝夕の寒暖差が激しく、日中は暖かいものの夜は急に冷え込むのだ。
なのでできれば、野宿できるように装備を固めていたのだが、馬の安全を確保するために荷物をいくつか落としたまま拾うことができなかった。
食糧も今日の分まではどうにかなるが、あと数日保たせるとなると厳しい部分が出てくる。……果たして、どうしたものか。
「〈何の話をしてるの……〉」
顔をパンパンに腫らしたメリッサが声をかけてくる。非常に痛々しい見た目だが、本人も承知しているだろうから、あえて彼女の顔は見ないようにした。
「〈食糧と衣類の確保をしようと思っているのだけど、心当たりはある?〉」
「〈この近辺は警備がかたいってじーちゃんが言ってた〉」
指を差したのはこの周辺の街や村だった。どこもかしこも潤ってはいるものの、帝国の兵が常駐しているとのことで、乗り込むのは難しそうだった。
「〈最近、帝国が嫌で街を出た人が新しい村を作ったとは聞いたことある〉」
「〈そうなの?〉」
「〈……うん。多分、場所まではわからないけど……〉」
「〈そう、場所がわからないと難しいわね……〉」
体力を消耗しないことはもちろん、下手に動き回るとバレるリスクが高まるため避けておきたい。なので、メリッサの情報はありがたかったが、実際にそれを目標に行動するというのは難しかった。
「〈あの……〉」
「〈ヒューベルトさん、どうしました?〉」
「〈よければ俺が行きましょうか?〉」
「〈え、っと……どこに?〉」
メリッサとの会話の合間にモットー語で参入してくるヒューベルト。拙い発音だが、勉強してきたのだろう、覚えたてとは思えないほどきちんと会話にはなっていた。
「〈聞き込みに。ある程度のモットー語は勉強してきたので。完璧にこなせる自信はありませんが、お役に立てるなら〉」
確かに、ヒューベルトなら顔が割れてるわけでもなければ手配されているわけでもない。
だが、モットーという国に精通していないし、いくら多少モットー語がわかるようになったとはいえ、難しいのではないかとも思う。
(でも、他に手立てはないことも事実なのよね……)
用意されている路銀も、正直乏しい。下手な買い物もできないため、ヒューベルトが吹っかけられたら対処できないことも考えると悩ましい。
「〈なら、私も行くわ〉」
「〈え!?メリッサが!??〉」
「〈うん。多分、ヒジャブで髪を隠していればバレないだろうから。ステラは銀色の髪が目立つけど、あたしならここの人達と一緒に黒髪だし、きっと平気〉」
(ヒューベルトとメリッサが一緒に行ってくれるのは心強いけど、大丈夫かしら)
不安が顔に出ていたのだろう、ヒューベルトが私の肩をポンと叩いた。
「〈いざとなったら俺がメリッサちゃんを護りますから〉」
「〈……あたしも、ヒューベルトさんを守るから大丈夫〉」
何やら既視感があるやりとりのような気がするが、お互いがお互いを支えるというなら大丈夫だろう。
「〈わかりました。でも、無理はしないで〉」
「〈わかりました〉」
「〈うん、わかった〉」
やはり自分以外に頼れる人がいることを心強く思いながら、私はちょっと嬉しくなった。
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