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3章【外交編・カジェ国】
53 演習場
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「うぉおおお!」
「ぐ……っ」
「はぁあああ!!」
男の野太い声や金属が擦れる音が至る所で響いている。まさに喧騒そのもので、耳を塞ぎたくなるほどの騒音をBGMにしながら、私達はカジェ国の軍演習場を見て回っていた。
「何だ、これは」
「ウルミという剣です」
「これが、剣、だと……?」
クエリーシェルは目の前に鎮座している武器を見て絶句する。同様に、ヒューベルトも言葉をなくしていた。
ウルミ、というのはここカジェ国古来から存在する剣である。だが、剣とは言うものの、その見た目や形状は一般的に認知されている剣とは程遠いものだった。
というのもウルミはどちらかというと一見すると鞭と錯覚するような剣であった。
「これ、使い方にコツがあるのですが、使いこなせば結構殺傷能力は高いんですよ」
「使いこなせば、って下手したら自分も傷つける可能性もあるのでは?」
「否定はしません」
「誰がこんな武器を考えたんだ……」
ぽつりと呟くクエリーシェル。実際古来からあるとはいえ、確かにどうしてこのような形態になったのだろう、と疑問に思うのは無理もないだろう。
(私も使おうとして、さすがにアーシャにも止められたしね)
あのときは「あんた、何考えてんの!?」と今まで見たことないほど目をクワッとかっ開きながら迫られて、あまりの迫力に私も大人しく引き下がったのだ。
今回も、過去のことを思い出したのだろう、軍の演習場に行きたいと言えば「わかってると思うけど、ウルミは絶対ダメだからね」と釘を刺され済みである。
(本当、無駄に記憶力いいんだから)
「他にもマドゥやハラディーとかもありますよ」
「いやな予感しかしない」
「まぁまぁ、そう言わずに」
明らかに引き気味のクエリーシェルとヒューベルト。いくら軍に所属してるとはいえ、見たこともない武器や戦い方に驚きよりも呆気の方が優っているようだった。
(異文化の武器って面白いは面白いけど、カジェ国のは明らかに異様な形態してるのよね)
マドゥも盾に矛が付いているという、まさに矛盾した武器であるし、ハラディーに関しては諸刃の剣という持ち手以外は刃になっている武器である。
(防げて切れて、どこでも切れて、お得っちゃお得?)
昔の人が考えることはよくわからない、と思いながら、見て回る。
「ヒューベルト様もせっかくですし、許可は取ってあるんですから色々と見せていただきましょう?」
「え、えぇ、はい、拝見致します……!」
なぜか、私とクエリーシェルから半歩下がっているヒューベルトに声をかける。
(相変わらず、気にしてるのかしら……?)
何かどことなく距離感を感じる。先日まではそこまでなかった壁が目の前にあるようだ。
(何かしたかなぁ、やっぱり身分差のこと?全く、ケリー様も余計なことを)
別に同じ人間だし、さして気にするようなことでもないと思う。だが、そのように考えたところで、ふとそれは私が特権階級だったからこその驕りかもしれないとも思った。
(そりゃ、普通は気にするものか)
自分だってクエリーシェルの邸宅に行った際には主従とは、と言ったことを考えてたなぁと思い出し、自己矛盾に気づいて自嘲する。
そもそも、特権階級には特権階級の意義がある。皆を導き、責を負う。だからこそ、敬われる存在でなければならない。
ーー主従のルールはきちんと守らねばならない。そうしないと身を滅ぼすことになる。
そういえば、この言葉はブライエ国王シグバールのものだったか。確か彼は主従関係が近すぎたゆえに謀反を起こされ、それを返り討ちにし、一掃したという。
(哀しいことね)
信頼していたからこそ、主従関係など関係なく接していたのだろう。それなのに、謀反を起こされ、自らが手にかけてなかったとしても、命を奪ったと言う事実は、きっと彼に重くのしかかっているはずだ。
それもあって、彼は今も老齢でありながらも前線で戦い続けるのかもしれない。
ーーステラ、何事も見誤るな。そのためにしっかりと見極めよ。
シグバールが王城の最も高い塔から見下ろしながら言った言葉は、力強くも寂しげであったと今更気付く。
(私は王ではないけれど、国を背負うということは多少なりともわかる)
好き嫌いの問題ではない。この身分相応の役割を果たすことが義務であるならば、そうしようではないか。……私が王であるならば。
「ヒューベルトさん」
「な、何でしょう?」
「やっぱり私はそのように距離を置かれると、いざという時に守れません」
「は、……え?ま、守る……?俺がリーシェ様を守るのでは……?」
「そういう細かいことは気にしないで。それに、ほら、私のほうがきっと強いですし?ですから、以前のように振舞っていただければと。それに、こうしてケリー様も私に対してこんな感じですしね」
「こ、こんな感じとは何だ……!私はちゃんとリーシェを想ってだな……っ」
ふふふ、と笑えば、少しだけ肩の力が抜けたのか表情が柔らかくなるヒューベルト。
(私は私。見極めれば、問題ない)
そして、一通り武器を眺め、兵団長に稽古をつけてもらったあと、帰城するのだった。
「ぐ……っ」
「はぁあああ!!」
男の野太い声や金属が擦れる音が至る所で響いている。まさに喧騒そのもので、耳を塞ぎたくなるほどの騒音をBGMにしながら、私達はカジェ国の軍演習場を見て回っていた。
「何だ、これは」
「ウルミという剣です」
「これが、剣、だと……?」
クエリーシェルは目の前に鎮座している武器を見て絶句する。同様に、ヒューベルトも言葉をなくしていた。
ウルミ、というのはここカジェ国古来から存在する剣である。だが、剣とは言うものの、その見た目や形状は一般的に認知されている剣とは程遠いものだった。
というのもウルミはどちらかというと一見すると鞭と錯覚するような剣であった。
「これ、使い方にコツがあるのですが、使いこなせば結構殺傷能力は高いんですよ」
「使いこなせば、って下手したら自分も傷つける可能性もあるのでは?」
「否定はしません」
「誰がこんな武器を考えたんだ……」
ぽつりと呟くクエリーシェル。実際古来からあるとはいえ、確かにどうしてこのような形態になったのだろう、と疑問に思うのは無理もないだろう。
(私も使おうとして、さすがにアーシャにも止められたしね)
あのときは「あんた、何考えてんの!?」と今まで見たことないほど目をクワッとかっ開きながら迫られて、あまりの迫力に私も大人しく引き下がったのだ。
今回も、過去のことを思い出したのだろう、軍の演習場に行きたいと言えば「わかってると思うけど、ウルミは絶対ダメだからね」と釘を刺され済みである。
(本当、無駄に記憶力いいんだから)
「他にもマドゥやハラディーとかもありますよ」
「いやな予感しかしない」
「まぁまぁ、そう言わずに」
明らかに引き気味のクエリーシェルとヒューベルト。いくら軍に所属してるとはいえ、見たこともない武器や戦い方に驚きよりも呆気の方が優っているようだった。
(異文化の武器って面白いは面白いけど、カジェ国のは明らかに異様な形態してるのよね)
マドゥも盾に矛が付いているという、まさに矛盾した武器であるし、ハラディーに関しては諸刃の剣という持ち手以外は刃になっている武器である。
(防げて切れて、どこでも切れて、お得っちゃお得?)
昔の人が考えることはよくわからない、と思いながら、見て回る。
「ヒューベルト様もせっかくですし、許可は取ってあるんですから色々と見せていただきましょう?」
「え、えぇ、はい、拝見致します……!」
なぜか、私とクエリーシェルから半歩下がっているヒューベルトに声をかける。
(相変わらず、気にしてるのかしら……?)
何かどことなく距離感を感じる。先日まではそこまでなかった壁が目の前にあるようだ。
(何かしたかなぁ、やっぱり身分差のこと?全く、ケリー様も余計なことを)
別に同じ人間だし、さして気にするようなことでもないと思う。だが、そのように考えたところで、ふとそれは私が特権階級だったからこその驕りかもしれないとも思った。
(そりゃ、普通は気にするものか)
自分だってクエリーシェルの邸宅に行った際には主従とは、と言ったことを考えてたなぁと思い出し、自己矛盾に気づいて自嘲する。
そもそも、特権階級には特権階級の意義がある。皆を導き、責を負う。だからこそ、敬われる存在でなければならない。
ーー主従のルールはきちんと守らねばならない。そうしないと身を滅ぼすことになる。
そういえば、この言葉はブライエ国王シグバールのものだったか。確か彼は主従関係が近すぎたゆえに謀反を起こされ、それを返り討ちにし、一掃したという。
(哀しいことね)
信頼していたからこそ、主従関係など関係なく接していたのだろう。それなのに、謀反を起こされ、自らが手にかけてなかったとしても、命を奪ったと言う事実は、きっと彼に重くのしかかっているはずだ。
それもあって、彼は今も老齢でありながらも前線で戦い続けるのかもしれない。
ーーステラ、何事も見誤るな。そのためにしっかりと見極めよ。
シグバールが王城の最も高い塔から見下ろしながら言った言葉は、力強くも寂しげであったと今更気付く。
(私は王ではないけれど、国を背負うということは多少なりともわかる)
好き嫌いの問題ではない。この身分相応の役割を果たすことが義務であるならば、そうしようではないか。……私が王であるならば。
「ヒューベルトさん」
「な、何でしょう?」
「やっぱり私はそのように距離を置かれると、いざという時に守れません」
「は、……え?ま、守る……?俺がリーシェ様を守るのでは……?」
「そういう細かいことは気にしないで。それに、ほら、私のほうがきっと強いですし?ですから、以前のように振舞っていただければと。それに、こうしてケリー様も私に対してこんな感じですしね」
「こ、こんな感じとは何だ……!私はちゃんとリーシェを想ってだな……っ」
ふふふ、と笑えば、少しだけ肩の力が抜けたのか表情が柔らかくなるヒューベルト。
(私は私。見極めれば、問題ない)
そして、一通り武器を眺め、兵団長に稽古をつけてもらったあと、帰城するのだった。
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