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3章【外交編・カジェ国】
36 遭遇
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「(ここよ!ここ!!)」
「(確かに凄い人集りね……)」
空き地には、たくさんの人集りができている。
大きな簡易テントを張って集客しているようだが、想像していたものよりも規模が大きくて、少し圧倒されてしまった。
サーカスを見たことは片手で数えるほどだが、特に固定地を持たずに移動で行うにしては今までに見た中でも相当な大きさだ。というか、私もここまでの規模のものは初めて見る。
「……ステラ、あれ」
クエリーシェルがこそっと私に耳打ちする。サッと指差す方向を見れば、黄色地に銃と剣のマークの旗がたなびいている。
あれはまさしく、マルダスの国旗だった。
(まさか、こんなところで……!)
どこかにはいるとは思っていたが、まさかこんな大規模なサーカスをしているなどとは露ほども思わず、思わぬ遭遇に心の準備ができてなかった私は少したじろぐ。
(それにしても、随分と大々的に宣伝しているな)
友好国なのだからそれもそうか、と納得しつつも、城下町の中心部と言っても差し支えないような立地でここまで大規模なイベントができるというのは、相当に優遇されているに違いなかった。
(この件に関しては、あとでアーシャに聞くしかないようね)
それにしても、マルダスではサーカスが有名なのだろうか。
そもそも、マルダスでサーカスをしているなど聞いたことがなかったので、ちょっと意外だった。さらに驚くべきなのはこのサーカスが女性のみで構成されているということだった。
(女性だけってのは凄いわね……)
マルダスでは女性も活躍できるということを売りにしているのか、はたまた男性は違うことをせねばならないために女性だけでやっているのか。
憶測の域は超えないが、まずはやはり見るに限るだろう。
とりあえず、自分達がコルジールの人間だとバレないように細心の注意を払いながらチケットを3枚購入する。
「(アリーはたまにこのサーカスを見に来るの?)」
「(いいえ、サーカスはたまに来るけど、この人達は初めてだわ!だから楽しみ!!)」
(初めて……)
アルルが毎回見ているとは限らないが、初めてというくらいだ、物珍しいことには違いない。
「……ケリー様はマルダスでサーカスをやってるなんて知ってました?」
「いや、初耳だ。そもそも私が彼らと相対するのも戦地くらいだからな。あちらが友好的だったことなど一度もないから、わかりかねる」
「そうですか……」
そこも引っかかる部分ではある。
常にコルジールと争い続けていたマルダスが、なぜこのカジェ国とは親交があるのか。
確かに、カジェ国には魅力的な香辛料がたくさんあるし、カジェ国は他の国に比べて人口が抜きん出て多いので、争うとなると相当な戦力を持って来なければならないだろう。そのため、下手に敵に回しても利がないのはわかる。
だが、ではなぜコルジールとは、このように親交を深めなかったのだろうか。武で争わずに親交することもできたのではないのだろうか。
コルジールなら侵略できると思ったのか、それとも何か思惑があるのか、はたまた別の理由があるのか……。
(これはもう、マルダスだけを調べるのではなくコルジールの歴史なども調べないといけないわね)
「(お姉ちゃん?)」
アルルに声をかけられ、ハッと我にかえる。思考に集中してたせいで、ぼんやりとしていたようだ。
「(あ、ごめんなさい。つい考え事をしてしまったわ)」
「(もう、人がいっぱいいるのだから危ないわよ!)」
お姉さんみたいに私を注意するアルルに、思わず口元が緩む。
「(そうね、ごめんなさい。あの時みたいにはぐれたら大変だものね)」
コルジールのことを思い出しながら言うと、アルルも思い出したのか何とも複雑そうな顔をしていた。きっとあのあとそれなりにアーシャに怒られたのだろうか、ちょっとした不服さが滲み出ている。
「(あら、入場が始まったみたいね)」
「(楽しみ楽しみ!)」
はしゃぐアルルとしっかりと手を繋ぎながら、クエリーシェルの手を握る。
「……はぐれたら大変ですから」
「そうだな」
絡められた指が少し節張っていて、ゴツゴツしていることを感じながら、人混みに飲まれるようにテントの中へと入っていった。
「(確かに凄い人集りね……)」
空き地には、たくさんの人集りができている。
大きな簡易テントを張って集客しているようだが、想像していたものよりも規模が大きくて、少し圧倒されてしまった。
サーカスを見たことは片手で数えるほどだが、特に固定地を持たずに移動で行うにしては今までに見た中でも相当な大きさだ。というか、私もここまでの規模のものは初めて見る。
「……ステラ、あれ」
クエリーシェルがこそっと私に耳打ちする。サッと指差す方向を見れば、黄色地に銃と剣のマークの旗がたなびいている。
あれはまさしく、マルダスの国旗だった。
(まさか、こんなところで……!)
どこかにはいるとは思っていたが、まさかこんな大規模なサーカスをしているなどとは露ほども思わず、思わぬ遭遇に心の準備ができてなかった私は少したじろぐ。
(それにしても、随分と大々的に宣伝しているな)
友好国なのだからそれもそうか、と納得しつつも、城下町の中心部と言っても差し支えないような立地でここまで大規模なイベントができるというのは、相当に優遇されているに違いなかった。
(この件に関しては、あとでアーシャに聞くしかないようね)
それにしても、マルダスではサーカスが有名なのだろうか。
そもそも、マルダスでサーカスをしているなど聞いたことがなかったので、ちょっと意外だった。さらに驚くべきなのはこのサーカスが女性のみで構成されているということだった。
(女性だけってのは凄いわね……)
マルダスでは女性も活躍できるということを売りにしているのか、はたまた男性は違うことをせねばならないために女性だけでやっているのか。
憶測の域は超えないが、まずはやはり見るに限るだろう。
とりあえず、自分達がコルジールの人間だとバレないように細心の注意を払いながらチケットを3枚購入する。
「(アリーはたまにこのサーカスを見に来るの?)」
「(いいえ、サーカスはたまに来るけど、この人達は初めてだわ!だから楽しみ!!)」
(初めて……)
アルルが毎回見ているとは限らないが、初めてというくらいだ、物珍しいことには違いない。
「……ケリー様はマルダスでサーカスをやってるなんて知ってました?」
「いや、初耳だ。そもそも私が彼らと相対するのも戦地くらいだからな。あちらが友好的だったことなど一度もないから、わかりかねる」
「そうですか……」
そこも引っかかる部分ではある。
常にコルジールと争い続けていたマルダスが、なぜこのカジェ国とは親交があるのか。
確かに、カジェ国には魅力的な香辛料がたくさんあるし、カジェ国は他の国に比べて人口が抜きん出て多いので、争うとなると相当な戦力を持って来なければならないだろう。そのため、下手に敵に回しても利がないのはわかる。
だが、ではなぜコルジールとは、このように親交を深めなかったのだろうか。武で争わずに親交することもできたのではないのだろうか。
コルジールなら侵略できると思ったのか、それとも何か思惑があるのか、はたまた別の理由があるのか……。
(これはもう、マルダスだけを調べるのではなくコルジールの歴史なども調べないといけないわね)
「(お姉ちゃん?)」
アルルに声をかけられ、ハッと我にかえる。思考に集中してたせいで、ぼんやりとしていたようだ。
「(あ、ごめんなさい。つい考え事をしてしまったわ)」
「(もう、人がいっぱいいるのだから危ないわよ!)」
お姉さんみたいに私を注意するアルルに、思わず口元が緩む。
「(そうね、ごめんなさい。あの時みたいにはぐれたら大変だものね)」
コルジールのことを思い出しながら言うと、アルルも思い出したのか何とも複雑そうな顔をしていた。きっとあのあとそれなりにアーシャに怒られたのだろうか、ちょっとした不服さが滲み出ている。
「(あら、入場が始まったみたいね)」
「(楽しみ楽しみ!)」
はしゃぐアルルとしっかりと手を繋ぎながら、クエリーシェルの手を握る。
「……はぐれたら大変ですから」
「そうだな」
絡められた指が少し節張っていて、ゴツゴツしていることを感じながら、人混みに飲まれるようにテントの中へと入っていった。
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