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3章【外交編・カジェ国】

15 楽しい晩餐会

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「ぅ、わぁぁぁぁぁーーーー……!」

部屋に自分の声が響いて、思わず「ぱくん」と口を閉じる。するとくつくつと隣から嚙み殺した笑い声が聞こえてクエリーシェルを見れば、肩を揺らしながら必死で声を殺していた。

「もう、笑わないでよ……!」
「いえ、可愛らしくて、つい」
「……久々だったんだもの。いいじゃない、私まだ17なのよ」
「わかってますよ。だから、別に何も言ってないじゃないですか」
「……むぅ」

目の前の豪華な料理。カジェ国の伝統的な料理も去るごとながら、自国ペンテレアのジビエ料理であるステーキやコンフィ、ロワイヤルなど懐かしい料理が並んでいた。

久々に目にする料理の数々、そして懐かしい匂いに素直な腹の虫がぐぅぅ、と大きな声を上げる。

それを聞いて、先王妃がクスクスと笑いながら私の方を見る。

「(気に入ってもらえてよかったわ。シェフが腕によりをかけているはずだから、ぜひたくさん召し上がって。きちんと再現できていればいいのだけど)」
「(そこのキミも座りなさい。ステラの恋人で護衛なのだろう?)」

先王と先王妃から席に着くことを促されるが、聞き捨てならない台詞にキッとアーシャを見る。

「(え!ちょっと、アーシャ!!)」
「(何よ、もういい加減認めなさいな)」

勝手にクエリーシェルのことを面白おかしく言っていたに違いないと憤慨するものの、アーシャはどこ吹く風と言った様子だ。隣にいるアジャ国王も苦笑している。

「(そもそも、あなたたちの関係がどういうものか口で説明できるわけ?言えるというなら、きちんと詳しく聞くけど?)」

言われて、ぐぬぬと歯噛みする。実際のところ、一体自分とクエリーシェルとはどのような関係性なのかと聞かれても、上手く答えられる自信はなかった。

婚約してるわけでもなければ、交際しているというのも、元々の領主とメイドの立ち位置では変な話である。

好き。だから婚約、結婚しましょう!と簡単に言えるわけでもなければできるわけでもない。

そもそも、この貴族やら王族やらの権力ピラミッドが存在する世界で暮らしている私達にとって、今の関係はお互い立場的に微妙ではある。

そう簡単に配偶者としての関係を築き上げられるほど単純な話ではなく、どこかでやはり色々と難儀な部分は出てくるであろうことは想像はできていた。

(面倒な縛りではあるけど、だからこうして自分はここに来れている)

ただの娘じゃ、クエリーシェルとこのような関係にはなってなかったかもしれない。そして、このように外交などはもってのほかであった。

こうして自分が現状ここにいるのは、ペンテレアの皇女だったという事実があるからだ。

(だから、今の人生で後悔はしない)

ぷりぷりと憤慨しつつも、美味しい料理の前で憤ってばかりいるのは憚られたので大人しく席に着く。

グラスにとぷとぷとラッシーやバターミルクが注がれる。隣に座ったクエリーシェルは、物珍しそうにコップの中を覗いていた。

「何の飲み物ですか?」
「ラッシーとバターミルクよ。ラッシーは飲むヨーグルトみたいなものかしら。バターミルクは、こちらにはスパイスが入っているから、ちょっと普段飲んでいるものとは違うと思うわ。馴染みない味ではあるけど美味しいし、身体にもいいからあとで飲んでみて」
「これが、バターミルク……」

コルジールにもある飲料であるが見た目や匂い、材料などどれも違うものに驚きを隠せないようなクエリーシェルが可愛らしい。

(なかなか自国にいると体験できないし、触れ合わないものね)

こうして外交で他国に行くと、未知の文化に驚くことはとても多い。

実際に幼少期の私も、よく他国からの要請で出向く両親にくっついて行った際には自分の知らない料理や知識、文化に感銘を受けたものだ。

国が違えば文化も違う。当たり前のことかもしれないが、やっぱり何かしら驚きはつきものである。

気候が違えば取れるもの、過ごし方、マナーなど自分の慣れ親しんだものと違うというのは、知識欲や好奇心を擽られる要素であった。

(ここに来れて良かった)

国王に感謝せねば。

まだ先行きは不透明だが、それでもこうして来れたことを嬉しく思う。

「(では、料理も人も揃ったことだし、いただきましょうか。アジャ、声掛けをお願い)」
「(あぁ。遠路はるばる我が国カジェにお越しいただきありがとう。今回はステラ姫訪問を祝して、……乾杯!!)」

杯を上に掲げる。こんな楽しい晩餐会は久々だと再び嬉しく思いながら、杯に入れられたラッシーを口に含む。甘くとろっとした口触りに、思わず私は口元が緩むのであった。
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