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2章【告白編】
59 昼食
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「「いただきます」」
ずらっと片付け終えたテーブルに並べたのは、予め下準備をしておいたものに手を加えた昼食の品々だ。
干し肉と卵やトマト、酢漬けした魚などを挟んだサンドイッチに、干し肉や色とりどりの野菜と香辛料を入れたスープ。他には病気前に仕込んでおいたウサギのテリーヌに、厚切りのハムにミートパイなどを用意した。
出掛ける人数も人数だし、そもそもピクニックということで携帯食なのだからあまり豪勢にはできないものの、せっかく全快したので美味しいものを食べたいという欲求はどうしても出てくる。
なので、クエリーシェルの大きい体躯を言い訳にして、自分が食べたいものを粗方用意してきた。
「美味しそうだな」
「ありがとうございます」
クエリーシェルが手を伸ばしたあとに、自分も食事に手をつける。いくら一緒に食べるとは言え、主人より先に食べるというのはどうしても気が引けたからだ。
(ケリー様は、そういうの気にしないだろうけど)
先日も、「もう敬語や敬称はやめにしないか?」と提案があったが、何となくその提案は承服しかねた。
そもそも元は皇女という立場だったとはいえ、それはあくまで過去の話。国は滅び、私の身分を証明するものや後継人になるものは身近には存在しない。
一応アーシャや諸外国には一応顔は知られているとはいえ、はっきりとした身分はないに等しいので、どうしてもこのメイドという部分から脱却するのは自分では納得できなかった。
(まぁ、こういうことが元々好きだと言うのもあるけど)
メイドの仕事は嫌いではない。むしろ、皇女のときより自由度は高くて息苦しくなく生きやすい。
(それはそれでよくないのだろうけど)
ただ生きるだけの人生から、充実した人生を送るにシフトチェンジをしたため、のほほんと平凡な毎日を過ごすわけにはいかない。そもそも狙われている身の上なので、そんな心穏やかな生活を送れるとも思ってはいないが。
「どうした?体調が悪いか?」
ぼんやりと考えごとをしていたせいか、手が止まっていたようで、クエリーシェルから心配される。
「いえ、ちょっと考え事をしてました。大丈夫です、とても元気です」
「そうか、ならいいのだが。そういえば、このスープには何が入っているのだ?」
「このスープには鹿の肉とジャガイモ、人参、ネギ、えんどう豆にキャベツを入れ、サフラン、クミンなどの香辛料を入れてます」
聞かれたから、恐らく美味しいと思ってくれたのだろうか。説明をすると、クエリーシェルはなぜだかぽかんとした顔をしていた。
「んんん?とにかく具沢山だな」
「はい。栄養を摂らないと、倒れてしまいますので」
「栄養?」
クエリーシェルには聞き覚えのない言葉だったのか、非常に間の抜けた顔をしていた。確かに栄養についての知識など、医者以外に基本持ち合わせていないだろう。
貴族は食べたいものを食べる、ただそれだけだ。そして野菜は、地植えされていたものは下賤が食べるものとして、あまりこの国の貴族の間では食べない。
(だから、偏食によって引き起こされる貴族病というのも蔓延するのよね)
実にもったいないとは思う。そういう根本的な思考変換も必要かもしれないな、と頭の隅で考える。
「野菜にはそれぞれ栄養がありまして、効能が違います。貴族の方で野菜を摂らない方が多いでしょうが、そういう方は栄養が偏って病気になることもあります」
「そうなのか?」
「東洋では漢方と言って薬草などを煎じて飲む習慣がありますが、野菜を多く摂るそうで元々健康的な方が多いようですよ。まぁ、何事もバランスでしょうが」
「ほうほう、なるほど。ためになるな」
「えぇ、ですから野菜は多めに食べるのに越したことはないんです。普段のスープではそこまで品数入れてませんけど、入れましょうか?」
「いや、いい。そういうのはたまの贅沢にとっておこう」
そう言ってどんどんと気持ちよく食べていくクエリーシェルに、負けじと自分も手を出していく。
(我ながら味付けがいい。この塩気の感じ、ベストマッチね。上出来)
ウサギのテリーヌはちょうどいい塩梅の塩加減で、とても美味しく仕上がっていた。思わず自画自賛してしまうほどに。
(手間はかかるけど、これだけ美味しくなるならやった価値はあるわね)
私は他にもスープやサンドイッチを摘みながら、クエリーシェルと共に病明けの美味しい食事を満喫した。
ずらっと片付け終えたテーブルに並べたのは、予め下準備をしておいたものに手を加えた昼食の品々だ。
干し肉と卵やトマト、酢漬けした魚などを挟んだサンドイッチに、干し肉や色とりどりの野菜と香辛料を入れたスープ。他には病気前に仕込んでおいたウサギのテリーヌに、厚切りのハムにミートパイなどを用意した。
出掛ける人数も人数だし、そもそもピクニックということで携帯食なのだからあまり豪勢にはできないものの、せっかく全快したので美味しいものを食べたいという欲求はどうしても出てくる。
なので、クエリーシェルの大きい体躯を言い訳にして、自分が食べたいものを粗方用意してきた。
「美味しそうだな」
「ありがとうございます」
クエリーシェルが手を伸ばしたあとに、自分も食事に手をつける。いくら一緒に食べるとは言え、主人より先に食べるというのはどうしても気が引けたからだ。
(ケリー様は、そういうの気にしないだろうけど)
先日も、「もう敬語や敬称はやめにしないか?」と提案があったが、何となくその提案は承服しかねた。
そもそも元は皇女という立場だったとはいえ、それはあくまで過去の話。国は滅び、私の身分を証明するものや後継人になるものは身近には存在しない。
一応アーシャや諸外国には一応顔は知られているとはいえ、はっきりとした身分はないに等しいので、どうしてもこのメイドという部分から脱却するのは自分では納得できなかった。
(まぁ、こういうことが元々好きだと言うのもあるけど)
メイドの仕事は嫌いではない。むしろ、皇女のときより自由度は高くて息苦しくなく生きやすい。
(それはそれでよくないのだろうけど)
ただ生きるだけの人生から、充実した人生を送るにシフトチェンジをしたため、のほほんと平凡な毎日を過ごすわけにはいかない。そもそも狙われている身の上なので、そんな心穏やかな生活を送れるとも思ってはいないが。
「どうした?体調が悪いか?」
ぼんやりと考えごとをしていたせいか、手が止まっていたようで、クエリーシェルから心配される。
「いえ、ちょっと考え事をしてました。大丈夫です、とても元気です」
「そうか、ならいいのだが。そういえば、このスープには何が入っているのだ?」
「このスープには鹿の肉とジャガイモ、人参、ネギ、えんどう豆にキャベツを入れ、サフラン、クミンなどの香辛料を入れてます」
聞かれたから、恐らく美味しいと思ってくれたのだろうか。説明をすると、クエリーシェルはなぜだかぽかんとした顔をしていた。
「んんん?とにかく具沢山だな」
「はい。栄養を摂らないと、倒れてしまいますので」
「栄養?」
クエリーシェルには聞き覚えのない言葉だったのか、非常に間の抜けた顔をしていた。確かに栄養についての知識など、医者以外に基本持ち合わせていないだろう。
貴族は食べたいものを食べる、ただそれだけだ。そして野菜は、地植えされていたものは下賤が食べるものとして、あまりこの国の貴族の間では食べない。
(だから、偏食によって引き起こされる貴族病というのも蔓延するのよね)
実にもったいないとは思う。そういう根本的な思考変換も必要かもしれないな、と頭の隅で考える。
「野菜にはそれぞれ栄養がありまして、効能が違います。貴族の方で野菜を摂らない方が多いでしょうが、そういう方は栄養が偏って病気になることもあります」
「そうなのか?」
「東洋では漢方と言って薬草などを煎じて飲む習慣がありますが、野菜を多く摂るそうで元々健康的な方が多いようですよ。まぁ、何事もバランスでしょうが」
「ほうほう、なるほど。ためになるな」
「えぇ、ですから野菜は多めに食べるのに越したことはないんです。普段のスープではそこまで品数入れてませんけど、入れましょうか?」
「いや、いい。そういうのはたまの贅沢にとっておこう」
そう言ってどんどんと気持ちよく食べていくクエリーシェルに、負けじと自分も手を出していく。
(我ながら味付けがいい。この塩気の感じ、ベストマッチね。上出来)
ウサギのテリーヌはちょうどいい塩梅の塩加減で、とても美味しく仕上がっていた。思わず自画自賛してしまうほどに。
(手間はかかるけど、これだけ美味しくなるならやった価値はあるわね)
私は他にもスープやサンドイッチを摘みながら、クエリーシェルと共に病明けの美味しい食事を満喫した。
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