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2章【告白編】
6 針仕事
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「まぁ、お誕生日!おいくつになられたんですか?」
「17になりました」
「おめでとうございます。それでクエリーシェル様はあのように大慌てで」
「えぇ、まぁ、そうなんです」
ちくちくと針仕事をしながら会話。テーブルクロスの刺繍なのだが、なぜに自分の誕生日の用意を自分でせねばならぬのか、などと野暮なことは言わないが、いくらなんでも急ピッチすぎやしないだろうか。
外ではガタガタ騒がしく花や飾り、調度品や楽器など色々なものが搬入されている。本来護衛として雇われているはずのバースも搬入に駆り出され、こき使われているようだ。
正直騒がしいことこの上ないが、自分のためということなので文句を言うのも躊躇わられ、ロゼットにも申し訳ないと思いつつも、2人で一緒に任された針仕事をこなしていた。
「そういえば、ロゼットさんはおいくつなんですか?」
「私は19です。なのでリーシェさんよりは年上ですね」
「ずっと同い年だと思ってました」
「えぇ、私も」
くすくすとお互い笑い合う。ロゼットとはなんだかんだと性格は違えども気は合っていて、お互いにいい距離感を保っていた。
「そういえば、どなたが来る予定で?」
「私もよくは知らないのですが、とりあえずニール様は来るそうですよ。恐らく私を祝いに来るわけでなくて、ただの口実だとは思いますが。あとは先日会ったぺルルーシュカ様もいらっしゃいます」
「あぁ、ファーミット家の」
「ご存知ですか?」
ぺルルーシュカの名前を出してすぐ反応をするということは恐らく知り合い、しかもそれなりに親交があるのだろう。自分の家の尻拭いに知り合いがくるとなると、ロゼットも落ち着かないのではないかと勝手に気を揉んでしまう。
「姉と仲が悪くて。私はあまりお話したことないのですが」
「そうなんですね」
そういえば、以前にロゼットの姉とはあまり気が合わないと言っていたことを思い出す。彼女とは違って傲慢さがあったと聞くが、ある意味あの特殊なクォーツ家でロゼットはよくまともに成長できたな、と感嘆する。
(これが反面教師ってやつかしら?)
「でも、新しく領主としてファーミット家が来るとなると、私は裏方がどこかに隠れていた方が良いのでしょうか?」
「いえ、そんなことはしなくても大丈夫ですよ。ロゼットさんは私の友人ということで、ぜひとも参加してください。私あまりぺルルーシュカ様のこともよくわからないので、そばにいてくださると心強いです」
「そうですか?そうだといいんですが」
「えぇ、私もここ最近は誕生日など祝われることなどなかったので。自分のことながらちょっと実感がわかないというか、今も不思議な気分なんです」
実際にここ数年、国のごたごたがあってから祝われたことなどなかった。そもそも国を出てからは誕生日の日付すら曖昧だったし、それどころではないことが多かった。
(最後に、誕生日おめでとう、なんて言われたのは一体いつだったかしら)
思い出そうにも昔すぎて記憶が辿れない。そもそも思い出しても、過去の記憶が曖昧なことが多々ある。記憶力はいい方だと自負はしているものの、余計な知識量のせいで不要だと判断された記憶はどんどん脳が削除している気がする。
(両親のことも、姉様のことも、どんどん消えてしまうのかしら)
そう考えると少しだけ寂しい気分になる。キュッと胸が締め付けられたような、なんとも言えない感情に囚われていると、急にロゼットが何かを思い出したのか「あ」と声を上げる。
「どうしました?」
「い、いえ、何でもないです」
「?」
急に焦り始めるロゼットを訝しげに見つめながらも、どうにかテーブルクロスの刺繍を終えるのであった。
「17になりました」
「おめでとうございます。それでクエリーシェル様はあのように大慌てで」
「えぇ、まぁ、そうなんです」
ちくちくと針仕事をしながら会話。テーブルクロスの刺繍なのだが、なぜに自分の誕生日の用意を自分でせねばならぬのか、などと野暮なことは言わないが、いくらなんでも急ピッチすぎやしないだろうか。
外ではガタガタ騒がしく花や飾り、調度品や楽器など色々なものが搬入されている。本来護衛として雇われているはずのバースも搬入に駆り出され、こき使われているようだ。
正直騒がしいことこの上ないが、自分のためということなので文句を言うのも躊躇わられ、ロゼットにも申し訳ないと思いつつも、2人で一緒に任された針仕事をこなしていた。
「そういえば、ロゼットさんはおいくつなんですか?」
「私は19です。なのでリーシェさんよりは年上ですね」
「ずっと同い年だと思ってました」
「えぇ、私も」
くすくすとお互い笑い合う。ロゼットとはなんだかんだと性格は違えども気は合っていて、お互いにいい距離感を保っていた。
「そういえば、どなたが来る予定で?」
「私もよくは知らないのですが、とりあえずニール様は来るそうですよ。恐らく私を祝いに来るわけでなくて、ただの口実だとは思いますが。あとは先日会ったぺルルーシュカ様もいらっしゃいます」
「あぁ、ファーミット家の」
「ご存知ですか?」
ぺルルーシュカの名前を出してすぐ反応をするということは恐らく知り合い、しかもそれなりに親交があるのだろう。自分の家の尻拭いに知り合いがくるとなると、ロゼットも落ち着かないのではないかと勝手に気を揉んでしまう。
「姉と仲が悪くて。私はあまりお話したことないのですが」
「そうなんですね」
そういえば、以前にロゼットの姉とはあまり気が合わないと言っていたことを思い出す。彼女とは違って傲慢さがあったと聞くが、ある意味あの特殊なクォーツ家でロゼットはよくまともに成長できたな、と感嘆する。
(これが反面教師ってやつかしら?)
「でも、新しく領主としてファーミット家が来るとなると、私は裏方がどこかに隠れていた方が良いのでしょうか?」
「いえ、そんなことはしなくても大丈夫ですよ。ロゼットさんは私の友人ということで、ぜひとも参加してください。私あまりぺルルーシュカ様のこともよくわからないので、そばにいてくださると心強いです」
「そうですか?そうだといいんですが」
「えぇ、私もここ最近は誕生日など祝われることなどなかったので。自分のことながらちょっと実感がわかないというか、今も不思議な気分なんです」
実際にここ数年、国のごたごたがあってから祝われたことなどなかった。そもそも国を出てからは誕生日の日付すら曖昧だったし、それどころではないことが多かった。
(最後に、誕生日おめでとう、なんて言われたのは一体いつだったかしら)
思い出そうにも昔すぎて記憶が辿れない。そもそも思い出しても、過去の記憶が曖昧なことが多々ある。記憶力はいい方だと自負はしているものの、余計な知識量のせいで不要だと判断された記憶はどんどん脳が削除している気がする。
(両親のことも、姉様のことも、どんどん消えてしまうのかしら)
そう考えると少しだけ寂しい気分になる。キュッと胸が締め付けられたような、なんとも言えない感情に囚われていると、急にロゼットが何かを思い出したのか「あ」と声を上げる。
「どうしました?」
「い、いえ、何でもないです」
「?」
急に焦り始めるロゼットを訝しげに見つめながらも、どうにかテーブルクロスの刺繍を終えるのであった。
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