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1章【出会い編】

11 仕立て

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「1週間」
「はい、1週間です。手間賃は弾みます」
「刺繍も込み、と」
「えぇ、刺繍ですが、さすがにこの日程では間に合わないと思いますので、こちらもお手伝いさせていただきます」
「そうしてもらえると助かる。刺繍はジャケットとヴェストにつければいいのかな?」
「えぇ。ですので、ジャケットはお任せしますので、ヴェストはこちらで。デザインですが、時間も時間なので合わせの端だけをこのように……」

目の前で繰り広げられる己の衣装談義に入ることもできず、ただ成り行きを見守るクエリーシェル。

まさかこんな大事になるとは思わず、些か戸惑っているのは事実であるが、ある意味彼女がいてくれて助かった。

この有能なメイドは、どこまで知識があるのかは不明だが、社交界についても詳しいらしい。自分で頼んでおきながらも、一体どれほどの知識があるのか、興味を惹かれると共に、疑問でもあった。

(そもそも、16のメイドの知識量ではなかろうに)

「今はどのようなものが流行りで?こちらの今の流行には、あまり詳しくなくて」
「今の流行は、あまりフィットしないものが流行っているよ」
「なるほど、ではズボンはゆったりとした感じで、丈は……長い方がいいですね。フリルって今はどんな感じですか?」
「フリルも昔は襟や袖につけることが多かったが、最近は胸元やフロント部分につけるのもあるようだねぇ」
「へぇぇ、胸元だと結構印象変わりますね。このジャケットと合わせるならこのように広がりすぎず、ふわっとしたフリルが良いと思うのですが」
「あぁ、確かに領主様だとこちらの方がいいかもしれないね」

チラチラとこちらを見られながら進められる話し合いに、何となく肩身が狭い。

本来なら堂々としているべきなのだろうか、こういった場面を避けてきたというか遭遇してこなかったので、経験不足で何とも言えない。

「とりあえず採寸致しましょう」
「あぁ、そうしようか。アンナ、手伝ってくれ」
「はい」

立つように促されると、ぐるりと3人に取り囲まれる。以前、採寸したときなど遥か昔過ぎてあまり覚えていないが、こんなんだっただろうか、と頭の端で思い出す。

確か、姉の御用達の店でやった覚えがあるのだが、そういえばそのときは店員に怖がられていた気がする。今は今で、なんだか、ある意味威圧感があって居た堪れないが、以前に比べたらまだマシな気がする。

「うーん、領主様はタッパがあるから、あまり脇は広げない方が無難か」
「脇を絞るのもアリかと。以前、そのようなジャケットを見かけたことがあります」
「ほう、それはあとで仕様を詳しく聞かせてくれ」

会話しつつも、きちんと採寸していくのは見事である。アンナという仕立屋の娘も、黙々と私の周りをうろちょろしながら腕を伸ばして採寸してくれているのだが、大きい身体で申し訳ないほど必死にやっているのが見て取れる。

この身体のせいで既製品はほぼ入らないのだが、さらにオーダーするにも流行り廃りなど知ったことではない、と姉の忠告等々を流していたせいで、結局このように尻拭いをさせる羽目になってしまった。

(実際、口煩いのは私を想ってのことなのだし)

そういえば最近会ってないなぁ、と姉であるマルグリッダに想いを馳せる。

会ったらどうせまた小言を言われるのだろうが、いい加減確かに戦地に赴いてばかりで、領主としての仕事を疎かにしていたという実感はある。

今はリーシェもいることだし、やれることはやらないといけないな、と考えを改めながらクエリーシェルは採寸の時が過ぎるのを待っていた。

「お疲れさまでした」

仕立屋も帰り、一応話は詰め終えて、舞踏会前日までの仕上がりということでお願いすることになった。

リーシェもヴェストの刺繍をすることになり、前日までに仕上げるので、多少家のことは疎かになると詫びられたが、元々1人でこなしていたのでさして問題でもなかった。

「すまなかったな、こんなに大掛かりなことになるとは思わなんだ」
「いえ、お気になさらず、と言いたいところですが、失礼を承知で言わせていただきますと、領主というお立場であればある程度の衣装、装飾品などはお持ちでないと困ります。お時間があるときで構いませんので、どこか港町や城下町など舶来品や物資が潤沢なところに赴かれてお選びになっていただければと思います」
「そうだな、すまない」
「いえ、出過ぎた物言いで申し訳ありません。では、夕食の支度をさせていただきます。ちなみに、今夜のご予定は?」
「ない。だから久々に我が家でゆっくりさせてもらう」
「承知致しました。あ、1つご忠告ですが」
「何だ?」
「できれば痩せたり太ったりはなさらないでください。痩せても多少はどうにかなりますが、太るのはダメです」
「あ、あぁ、気をつける」

言うだけ言うと、リーシェは疲れた様子も見せずにキッチンへと向かう。その後ろ姿を見ながら、何となくリーシェのように自分も仕事を全うせねばな、という気になる。

クエリーシェルは溜まっていた手紙の整理や返事書き、許可証の押印などをするため、自室へと戻るのだった。
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