33 / 34
第二章 いじめ
いじめ⑭
しおりを挟む
「とりあえず、北原と北原の母は沈黙、と」
あれから数日は先日の動画の件でクラスは騒然となっていた。
クラスメートは連日あの動画の内容や撮影者などの話題で盛り上がり、もちろんその話題はクラスメートのみならず、上級や下級クラスの生徒の保護者達にも波及し、教師陣は急遽保護者会や全校集会などを開いて火消しに走り回っていた。
北原はSNSのアカウントを削除。
北原は元々自己中心的で我が強く、どのクラスメートも見下していてあまり周りから好かれていなかったため、興味本位や冷やかし目的で連絡を取ろうとするクラスメートや野次馬、今までの恨みつらみなどがこもった中傷で溢れ返り、いずれもブロックなどをしても次々と湧いて出てくるせいで、とうとう一切のSNSをやめて引きこもっているそうだ。
北原の母も、今まで散々ママ友間でボスママ気取りで傍若無人に振る舞い、ことあるごとにマウンティングもしていたらしいが、そのせいで現在はその周りからは総スカンを食らっていた。
そして北原家では連日大声での夫婦喧嘩や親子喧嘩が絶えず、近所にもその言い合いが聞こえるほどで、警察を呼ばれたり近隣の住民からクレームが来たりということが増え、最近では人目が気になるのか引きこもっているらしい。
「えぇ、さすがにこれじゃあもう大人しくしてると思うわ。このままいけば卒業式まで大人しくしてるんじゃない?」
現在は十月。
この調子でいけばあとは長期休みと受験が被り、中学三年の桜にとって障害はないだろうと予想する。
「うん、それは重畳。アガツマ、魂の回収は?」
「もうちょい負の感情が育ってから回収予定~。今いい感じに育ってきてるから、いいものが回収できそうよ」
「そうか、では引き続きよろしく頼むよ」
(これで桜の一件が片付けばいいけど)
アズマは手元にある資料を眺める。
そこには桜の担任である野地に関して記されていた。
(生徒から慕われ、先生からの信頼も厚く、リーダーシップのある先生、ねぇ)
手放しの評価に、眉を顰めるアズマ。
生徒、保護者、教師陣、どの項目も高評価ばかりで、ここまで負の面が書かれてないのは正直異様だった。
(あのとき感じた違和感は気のせいだったかな?)
そんなことを思いながら、今回の件の事後処理のことに思考を切り替える。
だがアズマの想定通り、この件はそれだけでは終わらなかった。
◇
「東雲さ~ん、ちょっといいかな?」
「え? や、……っやだ」
「嫌がらないでよ~」
「俺たち友達だろぉ~?」
「そーそー、ちょぉーーーっと話があるだけだし」
学校に来るなり、無理矢理腕を引かれて学校の裏手に連行され、ぐるりと同級生男子四人に囲まれる桜。
自分よりも身長のある彼らからの威圧感は大きく、桜は身体を震わせた。
「東雲さん、北原達からイシャリョーもらったんでしょ? 俺らにちょうだいよ」
「そそ。金持ってるんでしょ? 友達なんだし、奢ってよ」
「そんなもの、もらってな……」
「えぇー? 嘘ついちゃいけないよー。みんなキミがもらったって知ってるんだよ?」
「そうそう。自分だけいい思いしようとしてるの?」
「あ、じゃあ友達になってあげるから友達料ちょうだい?」
「あー、いいな、それ!」
じりじりと距離を縮め、上から見下ろすように威圧してくる男子に、桜はただおろおろとするのみ。
腕力も逃げ足も何もかも勝てない。
さすがにこの状況で逃げられるわけもなく、必死にどうしようかと頭の中でぐるぐると考えるが正解なんて出しようがなかった。
「へぇ? 東雲さんって意外におっぱい大きいんじゃない?」
「言われてみたら確かに」
「うわっ、柔らけぇ」
「おい、オレにも触らせろよ」
「いやっ!」
胸を鷲掴みにされて抵抗する桜。
無遠慮に触られた痛みで顔を歪ませると、「何逃げてんだよ」と脅すように怒声を上げ、桜はその声に萎縮して小さくなる。
「いいじゃん、減るもんじゃないし」
「そーそー。あ、友達料もらう代わりにヤらせてよ」
「いーな、それ!」
「あぁ、もちろん友達料とヤるのセットでもいいぜ?」
「だな。セットでお得!」
ぎゃははは、と下品な笑いを浮かべる彼らにどうすることもできずに桜は涙ぐむ。
「はは、泣いてるぜ、こいつ」
「ウケるー」
「まぁ、泣いたからって容赦しないんだけど……な!」
「きゃあ!」
「スカートの中身はなんだろな~」
「黒? あー、これ、スパッツじゃん」
「何だよ、パンツ見えねーじゃん」
「やだ、やだ……っ、やめて!!」
男の一人が桜を足蹴にする。
そして桜がそのまま尻餅をつくと、それに跨る男。
桜が抵抗したところで腕力で敵うはずもなく、ジタバタと暴れることしかできない。
その手も他の男達に押さえられ、口も塞がれ、桜はとうとう一切身動きが取れなくなった。
「んーーーー! うぅーーーー!!!」
「ジタバタしてんじゃねぇよ、殺すぞ?」
口元を押さえられたまま首に手をかけられ、恐怖で固まる桜。
その瞳からは涙がぼろぼろと溢れていた。
「何をやってるの?」
男達が一斉に振り返る。
そこにはアズマが立っていた。
あれから数日は先日の動画の件でクラスは騒然となっていた。
クラスメートは連日あの動画の内容や撮影者などの話題で盛り上がり、もちろんその話題はクラスメートのみならず、上級や下級クラスの生徒の保護者達にも波及し、教師陣は急遽保護者会や全校集会などを開いて火消しに走り回っていた。
北原はSNSのアカウントを削除。
北原は元々自己中心的で我が強く、どのクラスメートも見下していてあまり周りから好かれていなかったため、興味本位や冷やかし目的で連絡を取ろうとするクラスメートや野次馬、今までの恨みつらみなどがこもった中傷で溢れ返り、いずれもブロックなどをしても次々と湧いて出てくるせいで、とうとう一切のSNSをやめて引きこもっているそうだ。
北原の母も、今まで散々ママ友間でボスママ気取りで傍若無人に振る舞い、ことあるごとにマウンティングもしていたらしいが、そのせいで現在はその周りからは総スカンを食らっていた。
そして北原家では連日大声での夫婦喧嘩や親子喧嘩が絶えず、近所にもその言い合いが聞こえるほどで、警察を呼ばれたり近隣の住民からクレームが来たりということが増え、最近では人目が気になるのか引きこもっているらしい。
「えぇ、さすがにこれじゃあもう大人しくしてると思うわ。このままいけば卒業式まで大人しくしてるんじゃない?」
現在は十月。
この調子でいけばあとは長期休みと受験が被り、中学三年の桜にとって障害はないだろうと予想する。
「うん、それは重畳。アガツマ、魂の回収は?」
「もうちょい負の感情が育ってから回収予定~。今いい感じに育ってきてるから、いいものが回収できそうよ」
「そうか、では引き続きよろしく頼むよ」
(これで桜の一件が片付けばいいけど)
アズマは手元にある資料を眺める。
そこには桜の担任である野地に関して記されていた。
(生徒から慕われ、先生からの信頼も厚く、リーダーシップのある先生、ねぇ)
手放しの評価に、眉を顰めるアズマ。
生徒、保護者、教師陣、どの項目も高評価ばかりで、ここまで負の面が書かれてないのは正直異様だった。
(あのとき感じた違和感は気のせいだったかな?)
そんなことを思いながら、今回の件の事後処理のことに思考を切り替える。
だがアズマの想定通り、この件はそれだけでは終わらなかった。
◇
「東雲さ~ん、ちょっといいかな?」
「え? や、……っやだ」
「嫌がらないでよ~」
「俺たち友達だろぉ~?」
「そーそー、ちょぉーーーっと話があるだけだし」
学校に来るなり、無理矢理腕を引かれて学校の裏手に連行され、ぐるりと同級生男子四人に囲まれる桜。
自分よりも身長のある彼らからの威圧感は大きく、桜は身体を震わせた。
「東雲さん、北原達からイシャリョーもらったんでしょ? 俺らにちょうだいよ」
「そそ。金持ってるんでしょ? 友達なんだし、奢ってよ」
「そんなもの、もらってな……」
「えぇー? 嘘ついちゃいけないよー。みんなキミがもらったって知ってるんだよ?」
「そうそう。自分だけいい思いしようとしてるの?」
「あ、じゃあ友達になってあげるから友達料ちょうだい?」
「あー、いいな、それ!」
じりじりと距離を縮め、上から見下ろすように威圧してくる男子に、桜はただおろおろとするのみ。
腕力も逃げ足も何もかも勝てない。
さすがにこの状況で逃げられるわけもなく、必死にどうしようかと頭の中でぐるぐると考えるが正解なんて出しようがなかった。
「へぇ? 東雲さんって意外におっぱい大きいんじゃない?」
「言われてみたら確かに」
「うわっ、柔らけぇ」
「おい、オレにも触らせろよ」
「いやっ!」
胸を鷲掴みにされて抵抗する桜。
無遠慮に触られた痛みで顔を歪ませると、「何逃げてんだよ」と脅すように怒声を上げ、桜はその声に萎縮して小さくなる。
「いいじゃん、減るもんじゃないし」
「そーそー。あ、友達料もらう代わりにヤらせてよ」
「いーな、それ!」
「あぁ、もちろん友達料とヤるのセットでもいいぜ?」
「だな。セットでお得!」
ぎゃははは、と下品な笑いを浮かべる彼らにどうすることもできずに桜は涙ぐむ。
「はは、泣いてるぜ、こいつ」
「ウケるー」
「まぁ、泣いたからって容赦しないんだけど……な!」
「きゃあ!」
「スカートの中身はなんだろな~」
「黒? あー、これ、スパッツじゃん」
「何だよ、パンツ見えねーじゃん」
「やだ、やだ……っ、やめて!!」
男の一人が桜を足蹴にする。
そして桜がそのまま尻餅をつくと、それに跨る男。
桜が抵抗したところで腕力で敵うはずもなく、ジタバタと暴れることしかできない。
その手も他の男達に押さえられ、口も塞がれ、桜はとうとう一切身動きが取れなくなった。
「んーーーー! うぅーーーー!!!」
「ジタバタしてんじゃねぇよ、殺すぞ?」
口元を押さえられたまま首に手をかけられ、恐怖で固まる桜。
その瞳からは涙がぼろぼろと溢れていた。
「何をやってるの?」
男達が一斉に振り返る。
そこにはアズマが立っていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ようこそ魔街へ 〜人外魔境異聞録〜
杜乃日熊
ファンタジー
かつて人と魔物が争い、やがて共存していくようになった世界にて、魔法が不得意な少年 結羽竜司と請負屋という何でも屋を営む女性 日向綾音が依頼を解決していくファンタジックコメディ(?)
拙作『ようこそ魔街へ 〜人外魔境日録〜』の読み切り版となります。
*小説家になろう、カクヨム、エブリスタ、マグネット、ノベルアップでも連載してます。
また、表紙のイラストはおけゆん様(Twitter ID→@o1k3a0y4u5)に描いていただきました。
100回目の螺旋階段
森羅秋
ファンタジー
現在更新停止中です。
表現もう少しマイルドにするために修正しています。
時は総ヲ時代のはじめ。異能力を持つ者はイギョウモノとよばれソラギワ国に消費される時代であった。
一般市民の琴葉岬眞白は、『何でも屋の陸侑』にフールティバの撲滅の依頼をする。
フールティバは疫病の新薬として使われているが、その実態は舘上狗(たてがみいぬ)が作った薬物ドラックだ。
仲の良い同僚の死を目の当たりにした眞白はこれ以上犠牲者が増えないようにと願い出る。
陸侑はその依頼を請け負い、フールティバの撲滅を開始した。
裏社会がソラギワを牛耳りイギョウモノを不当に扱っていた時代に、彼らを守る志を掲げた二人が出会いはじまる物語である。
推理というよりも小賢しいと感じるような内容になってます。
中編ほどの長さです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる