無双代行人アズマ

鳥柄ささみ

文字の大きさ
上 下
28 / 34
第二章 いじめ

いじめ⑨

しおりを挟む
(あぁ、美味しかった。アガツマには感謝しないとな)

 この学校の昼食は弁当だったので急遽アガツマに作ってもらったのだが、赤に緑に黄色に茶色と弁当の中身は彩りよく構成されていて、アガツマの女子力の高さに改めて気づかされたアズマ。
 よくよく考えてみたらお手製の弁当を食べるのって初めてだと気づいて、ちょっと嬉しくなる。

(たまにはこういうご飯もいいなぁ。今後もたまに作ってもらうとしようかな)

 そんなことを考えていると不意にガタン、と隣から音が聞こえてそちらを向く。
 すると、ちょうど桜が席を立つところだった。
 彼女も昼食は食べ終えていたようで、机の上は綺麗に整頓されている。
 どこに行くのかとなんとなく目で追うと、どうやら行き先はトイレらしい。

(食事のあとだしね。……彼女がいない間何か悪戯されないか荷物番でもしておこうか)

 さすがに性転換してるとはいえ、護衛としてトイレにまでついていくのはまずいだろう。
 彼女も僕に見られたくはないだろうし、とアズマは大人しくしているつもりであった。
 だが、桜のあとを例の三人組がこっそりとあとをつけるように追いかけているのが目に入り、視線で彼女達を追うと、彼女達は桜を追いかけるようにトイレへと入っていくのを目撃する。

(あー、もしかして早速尻尾出しちゃう感じ?)

 なんとなく彼女達のオーラから察するに何かよからぬことを考えているらしいことはわかる。
 そのため、桜には申し訳ないと思いつつもアズマは静かに彼女達のあとをつけ、そーっと離れながら様子をうかがうのであった。


 ◇


「南はバケツに水くんで。ニッシーはドア押さえといて」

 北原が何やらコソコソと二人に話しているのが見える。
 彼女達が立っているのは扉の閉まった個室の前で、どうやらその中には桜が入っているようだ。

「……っ、あれ、ドアが……っ」

 水が流れる音と共に、用を足したであろう桜がドアを開けようとするも、扉が開かないで戸惑っているのがこちらにも聞こえてくる。
 それを見ながらクスクスと下卑た笑みを浮かべながら、三人は水を溜めたバケツを個室の上に置こうとしていた。

(うわぁ……、今時そんな古典的ないじめする?)

 アズマは呆れながらも、さすがにこれは見過ごせないと後ろ手で印を結ぶ。
 そして、「反転インヴァーション」と小さく唱えた。
 すると、桜の個室の上に掲げていたバケツが突然、三人組側のほうに傾く。

(あぁ、これ、証拠として撮っといたほうがいいな)

 アズマがすかさずスマホで撮影する。
 そして、彼女達が「「「え?」」」と言った瞬間、勢いよくバケツはひっくり返り、バシャーーー! という大きな音と共に北原、南、西沢の三人組は全員バケツの水を引っ被った。

「きゃああああ!!」
「何で何で!?」
「どうして! 信じられない!!」
「どうした! 何があったんだ!?」

 三人がキャアキャアと喚き立てるのを聞きつけた先生達が慌てて女子トイレに駆けつける。
 するとそこには、びしょ濡れで下着やら肌やらが濡れてブラウスから諸々が透けた三人組がいた。

「や! やぁああああ!!」
「ちょ、先生こっち来ないで!!」
「女の先生いないの!? ちょっと、やだもう……っ」

 恥じらうように彼女達は腕で身体を隠す。
 その騒ぎに乗じておずおずと桜がトイレから脱出するのを見届けてから、野次馬に紛れて「もしよかったら、これを使ってください」とカバンからタオルを取り出すアズマ。

「それで身体を隠して保健室にでも行ったほうがいいですよ?」
「言われなくても保健室行くわよ!」
「早く寄越しなさいよ!」
「あーもー、お前ら全員こっち見んな!!」

 好奇な目に晒されて、悪態をつく彼女達。

(あれだけ大騒ぎしてたらみんな野次馬するのも無理はないだろうな)

 実際思春期の男子達には格好の餌であろう。
 彼らは興味津々で彼女達をまじまじと見つめ「うっわ、えろ!」「やば、勃ちそう」「ひゅー! 結構でかいんだな、あいつら」と下世話なことを口々に言っている。
 それを「やめなさいよ~」と男子生徒達に指摘しつつも、ニヤニヤしている女子生徒もいて現場はかなりの混沌と化していた。
 その状況を眺めながら、思春期ヤバいな、と今まで見たこともないくらい様々な感情のオーラを見て素直に驚くアズマ。
 人間の本質を垣間見た気がして、アズマもそんな彼らに好奇心がちょこっと顔を出すが、今はとりあえず桜の安否だ、とコソコソと教室に入り自分の席で大人しくしている彼女に「大丈夫?」と声をかけた。

「は、はい。大丈夫です」
「そう。ならよかった。怖かったでしょう? もう大丈夫よ」
「あ、ありがとう、ございます」

 ガタガタと震える桜の頭をぽんぽんと撫でる。
 いくら自分にかからなかったとはいえ、あの状況というのは恐怖には違いなかった。
 それにしても……

(随分とあからさまないじめだな。今回彼女達が水を被ったから大騒ぎだったが、これがもし桜ちゃんだった場合どうなっていたか……)

 恐らく、今回のような騒ぎにはならなかったのだろうと推測しながら、この一件が今後どのように作用するか、とアズマは桜の頭を撫でながら考えるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ようこそ魔街へ 〜人外魔境異聞録〜

杜乃日熊
ファンタジー
かつて人と魔物が争い、やがて共存していくようになった世界にて、魔法が不得意な少年 結羽竜司と請負屋という何でも屋を営む女性 日向綾音が依頼を解決していくファンタジックコメディ(?) 拙作『ようこそ魔街へ 〜人外魔境日録〜』の読み切り版となります。 *小説家になろう、カクヨム、エブリスタ、マグネット、ノベルアップでも連載してます。 また、表紙のイラストはおけゆん様(Twitter ID→@o1k3a0y4u5)に描いていただきました。

100回目の螺旋階段

森羅秋
ファンタジー
現在更新停止中です。 表現もう少しマイルドにするために修正しています。 時は総ヲ時代のはじめ。異能力を持つ者はイギョウモノとよばれソラギワ国に消費される時代であった。 一般市民の琴葉岬眞白は、『何でも屋の陸侑』にフールティバの撲滅の依頼をする。 フールティバは疫病の新薬として使われているが、その実態は舘上狗(たてがみいぬ)が作った薬物ドラックだ。 仲の良い同僚の死を目の当たりにした眞白はこれ以上犠牲者が増えないようにと願い出る。 陸侑はその依頼を請け負い、フールティバの撲滅を開始した。 裏社会がソラギワを牛耳りイギョウモノを不当に扱っていた時代に、彼らを守る志を掲げた二人が出会いはじまる物語である。 推理というよりも小賢しいと感じるような内容になってます。 中編ほどの長さです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...