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第二章 いじめ
いじめ⑧
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「今日からこの学校に転校してきたアズマです。みなさんよろしくお願いします」
アズマがにっこりと微笑むと、中学生離れした美しさにほとんどの男子と女子生徒の半数は視線が釘づけになって惚け、女子生徒の一部はその様子をやっかんだり興味がなさそうだったりと反応が別れていた。
(ふぅん、なるほど。思春期ってこういうことか。確かこのくらいの年齢の子はちょっと高嶺の花くらいの雰囲気を好む子が多い、というのは当たってはいるようだけど、反応があからさまなのは年相応といったところか)
各々の態度に、なるほどと納得するアズマ。
人間特有の思春期という感情を感じながら視線を桜にやると、彼女はなんとも言えない表情で静かにこちらを見ていた。
そして先程の三人組はあからさまな敵意をアズマに向けてきていて、桜からこちらに意識が向いたことに重畳だと内心思いながら、余裕のある振る舞いをアズマは心がける。
(うーん、実際に害をなそうというレベルの敵意を向けているのはさっきの三人くらいか)
一応アガツマに言われた通りに振る舞ってみているが、さすがというべきだろうか、彼女の言う通りの反応が返ってくる。
もちろん全てが全てではないが、ある程度の心理操作などは必要なさそうなくらいには好意を寄せられているオーラが見て取れた。
なぜか隣にいる教師からも無駄に好意のオーラが見える気もするが、あえてそこは気づかないフリをする。
「では、アズマさんには……東雲の隣でもいいだろうか?」
「はい、わかりました」
彼女の普段の様子を見る上で、あえて隣の席になるように担任を誘導する。
とはいえ、朝の出来事を見る限り大体の主犯格は特定できたが。
今のこの光景はアガツマのところにも届いているので、恐らく憤っているであろう彼女がすぐさま先程の三人組を徹底的に調べ上げていることであろう。
桜はアガツマがだいぶ気に入っていたことを考えると、とことん追い詰めそうだな、と思いながら席についた。
「東雲さん、よろしくね」
「あ、はい。よろしくお願いします」
一応顔見知りだということは伏せておいたほうがいいだろう。
桜もその辺は空気を読んだのか、あえて知らんフリをしてくれている。
(さて、様子見といきますか)
アズマは澄まし顔で席に着くと、桜を取り巻く状況を確認するべく、ゆっくりと観察するのであった。
◇
(はぁ、人間の授業は退屈だなぁ)
ふぁぁああ、と大きな欠伸をしたいのを隠しながら、肘をつきつつ周りを観察する。
こうも長く同じ姿勢で座っていることなんてほぼなかったので、アズマにとっては退屈すぎて反吐が出そうだった。
(学校って窮屈だなぁ、考えてみたら学校に潜入捜査って初めてだったっけ)
今まで依頼を受けたことはあれど、家庭内の問題だったり仕事場での問題だったりと学校の中で実際に学生として振る舞うというのは初めてだ。
だからこそ、ちょっと興味本位で始めたのだが、案外学校は想像以上に窮屈で、アズマはまだ二時間授業を受けただけなのにもううんざりしていた。
(えーっと、主犯格が北原、その取り巻きが南と西沢、だっけ)
授業中に指名された人の顔と名前を見て覚える。
先程率先して桜をいじめていたメンバーの三人のうち、主犯格である北原が主導してクラスのメンバーをも巻き込みながらあの手この手で桜をいじめているらしい。
ーー信じられる!? クラス全体で彼女をハブってるらしいのよ!!
メールの文面から察するにアガツマは相当キレてるのであろう。
怒りのままに綴られた文章が次々と送られてくる。
(クラス全体でか、なんでまた……)
今のところ桜に訳があっていじめられているということはなさそうだった。
そもそも桜は目立つタイプでもなく、かといって何か気に障るようなするタイプでもなく普通の平凡な少女だ。
そんな彼女がなぜターゲットになっているかは不明である。
とはいえ、クラス全体でハブっていると聞き、桜が誰も頼ることができなかったのはそのせいか、と納得しつつも北原にそこまで実権があるのかは甚だ疑問ではあった。
そのため、その疑問をメールにしたためアガツマに送る。
ーー親がいわゆるママ友間でのボスママって呼ばれるこの辺の仕切り屋らしいわよ。
アガツマの返信に、「ボスママ、ねぇ」とアズマは小さく言葉を溢す。
噂には聞いたことがあるが、まさか実際にその影響力を見るのは初めてだ。
(都市伝説じゃなかったんだなぁ)
とはいえ、親同士の関係が子供の関係にまで影響するというのはどうなのだろうか、とアズマは「ふぅむ」と小さく唸った。
(とりあえず、まずは北原を潰すか)
アズマが彼女を見れば、禍々しいオーラがとぷとぷと溢れているのが見て取れる。
恐らくここまでだらだらと溢れ出ているのは、それだけだいぶ業を背負っているということだろう。
早々に彼女を潰して解決するのであれば、被害もこれ以上増えることはないし、桜の今後の生活も安泰だろうしいいことづくめだ。
(となると、尻尾を出す機会をうかがわないと)
朝からやらかしていた辺り、きっとまたすぐに桜に仕掛けてくるだろう。
アズマはそう予測しながら、桜と北原、どちらも注視しつつも悟られぬように授業を聞くフリをしながらアガツマと連絡を取り合うのであった。
アズマがにっこりと微笑むと、中学生離れした美しさにほとんどの男子と女子生徒の半数は視線が釘づけになって惚け、女子生徒の一部はその様子をやっかんだり興味がなさそうだったりと反応が別れていた。
(ふぅん、なるほど。思春期ってこういうことか。確かこのくらいの年齢の子はちょっと高嶺の花くらいの雰囲気を好む子が多い、というのは当たってはいるようだけど、反応があからさまなのは年相応といったところか)
各々の態度に、なるほどと納得するアズマ。
人間特有の思春期という感情を感じながら視線を桜にやると、彼女はなんとも言えない表情で静かにこちらを見ていた。
そして先程の三人組はあからさまな敵意をアズマに向けてきていて、桜からこちらに意識が向いたことに重畳だと内心思いながら、余裕のある振る舞いをアズマは心がける。
(うーん、実際に害をなそうというレベルの敵意を向けているのはさっきの三人くらいか)
一応アガツマに言われた通りに振る舞ってみているが、さすがというべきだろうか、彼女の言う通りの反応が返ってくる。
もちろん全てが全てではないが、ある程度の心理操作などは必要なさそうなくらいには好意を寄せられているオーラが見て取れた。
なぜか隣にいる教師からも無駄に好意のオーラが見える気もするが、あえてそこは気づかないフリをする。
「では、アズマさんには……東雲の隣でもいいだろうか?」
「はい、わかりました」
彼女の普段の様子を見る上で、あえて隣の席になるように担任を誘導する。
とはいえ、朝の出来事を見る限り大体の主犯格は特定できたが。
今のこの光景はアガツマのところにも届いているので、恐らく憤っているであろう彼女がすぐさま先程の三人組を徹底的に調べ上げていることであろう。
桜はアガツマがだいぶ気に入っていたことを考えると、とことん追い詰めそうだな、と思いながら席についた。
「東雲さん、よろしくね」
「あ、はい。よろしくお願いします」
一応顔見知りだということは伏せておいたほうがいいだろう。
桜もその辺は空気を読んだのか、あえて知らんフリをしてくれている。
(さて、様子見といきますか)
アズマは澄まし顔で席に着くと、桜を取り巻く状況を確認するべく、ゆっくりと観察するのであった。
◇
(はぁ、人間の授業は退屈だなぁ)
ふぁぁああ、と大きな欠伸をしたいのを隠しながら、肘をつきつつ周りを観察する。
こうも長く同じ姿勢で座っていることなんてほぼなかったので、アズマにとっては退屈すぎて反吐が出そうだった。
(学校って窮屈だなぁ、考えてみたら学校に潜入捜査って初めてだったっけ)
今まで依頼を受けたことはあれど、家庭内の問題だったり仕事場での問題だったりと学校の中で実際に学生として振る舞うというのは初めてだ。
だからこそ、ちょっと興味本位で始めたのだが、案外学校は想像以上に窮屈で、アズマはまだ二時間授業を受けただけなのにもううんざりしていた。
(えーっと、主犯格が北原、その取り巻きが南と西沢、だっけ)
授業中に指名された人の顔と名前を見て覚える。
先程率先して桜をいじめていたメンバーの三人のうち、主犯格である北原が主導してクラスのメンバーをも巻き込みながらあの手この手で桜をいじめているらしい。
ーー信じられる!? クラス全体で彼女をハブってるらしいのよ!!
メールの文面から察するにアガツマは相当キレてるのであろう。
怒りのままに綴られた文章が次々と送られてくる。
(クラス全体でか、なんでまた……)
今のところ桜に訳があっていじめられているということはなさそうだった。
そもそも桜は目立つタイプでもなく、かといって何か気に障るようなするタイプでもなく普通の平凡な少女だ。
そんな彼女がなぜターゲットになっているかは不明である。
とはいえ、クラス全体でハブっていると聞き、桜が誰も頼ることができなかったのはそのせいか、と納得しつつも北原にそこまで実権があるのかは甚だ疑問ではあった。
そのため、その疑問をメールにしたためアガツマに送る。
ーー親がいわゆるママ友間でのボスママって呼ばれるこの辺の仕切り屋らしいわよ。
アガツマの返信に、「ボスママ、ねぇ」とアズマは小さく言葉を溢す。
噂には聞いたことがあるが、まさか実際にその影響力を見るのは初めてだ。
(都市伝説じゃなかったんだなぁ)
とはいえ、親同士の関係が子供の関係にまで影響するというのはどうなのだろうか、とアズマは「ふぅむ」と小さく唸った。
(とりあえず、まずは北原を潰すか)
アズマが彼女を見れば、禍々しいオーラがとぷとぷと溢れているのが見て取れる。
恐らくここまでだらだらと溢れ出ているのは、それだけだいぶ業を背負っているということだろう。
早々に彼女を潰して解決するのであれば、被害もこれ以上増えることはないし、桜の今後の生活も安泰だろうしいいことづくめだ。
(となると、尻尾を出す機会をうかがわないと)
朝からやらかしていた辺り、きっとまたすぐに桜に仕掛けてくるだろう。
アズマはそう予測しながら、桜と北原、どちらも注視しつつも悟られぬように授業を聞くフリをしながらアガツマと連絡を取り合うのであった。
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