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第二章 いじめ
いじめ⑤
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「いじめ? なるほど。詳しく教えてもらってもいいかな?」
「……えと、」
「あぁ、もちろん言える範囲で構わないよ」
アズマもアガツマを見習って桜に優しく接する。
桜はおずおずといった様子でアズマを見てから視線を何度か泳がせたあと、唇を震わせながら再び口を開いた。
「……あの、先に一つ確認したいんですけど」
「うん? 何かな?」
「もしかして、私の思考って読めたりしますか?」
桜の懸念は、自分の記憶や思考が洗いざらい見られてしまわないかということだった。
危害を加えない、と前置きされたとしても「人間ではない」という未知の物体が目の前にいるのは誰にとっても驚異であり、恐怖である。
もちろん桜も例外ではなく、いくら自殺願望があったとはいえ、下手なことを考えて捕食されたり殺されたりするだなんてことは避けたかった。
また、記憶を覗き見られて過去の忌まわしい出来事を知られるのも桜にとって忌避したいことだ。
というのも彼女にとっていじめられた過去の出来事は恥部であり、それを他者に知られるのはどうしても回避したかった。
「あぁ、安心して。こうして僕がわざわざ聞いているのは、そういうのが視えないからさ。ちなみにアガツマも視えないよ。まぁ、正直な話そういうのが視えるやつもいるにはいるけどね」
「そう、なんですね」
アズマの答えにちょっとだけホッと胸を撫で下ろす桜。
自分が考える最悪な状況からは脱したことで、自然と詰まっていた息を吐き出した。
「あぁ、ただ……感情とかは視えるよ?」
「え? それって……」
「といってもかなりざっくりだけどね。喜んでるか、悲しんでるか、とかそれくらい。人間でも聡い人は気づくくらいのそんな程度さ」
「あ、あぁ、なるほど……」
「これで安心したかな? 他に何か質問はある?」
「いえ、特には」
「そう、それはよかった」
ニコニコと人のいい笑みを浮かべるアズマ。
桜はなんだか調子が狂うな、と思いながらもアズマが口から出まかせを言っているわけではなく、事実だけを述べていることだけは理解した。
でなければこんなにあけすけに言わないだろう。
桜がちらっと隣を見ると、アガツマが「洗いざらい喋りすぎでしょう」とばかりにアズマを見ながらうんざりした表情をしていることもその証左といってもいい。
とりあえず現状、風呂に入れてもらったことも、服をもらったことも、命を助けてもらったことも含めて、桜は全くお礼ができていない状態だ。
だからこそ、桜は誠実にアズマにちゃんと話そうと決意したのだった。
◇
「東雲桜、十五歳、聖ウラヌス学園中等部。現在同じクラスの男女含む複数人からいじめを受けている、ということでいいかな?」
「はい」
「十五歳ってことは来年、高校生?」
「はい。でも、今外部受験を検討してて……」
「なるほど、いい選択だ。自分から道を切り拓こうとしているのはいいことだと思うよ」
「あ、ありがとうございます」
「それで? さっきは自殺しようとしてた、ってことでいいのかな?」
「……はい」
「うんうん、なるほど」
アズマは至って事務的に話す。
恐らく彼女にとって親身に話されるよりもこうして事実だけを確認するほうが負担が少ないだろうと判断したのだが、実際桜は聞かれた事実を淡々と答え、魂にも揺らぎがないことは見てとれた。
「ご家族に相談はしたことってある?」
「それは……」
家族の話題を出した途端に揺らぐ桜の魂。
あまり触れられたくない部分なのだろうか、あからさまに動揺していた。
「まだ、言えてないんだね」
「……はい」
「理由を聞いても?」
「迷惑、かけたくないから……」
「どうして? ご両親がそう望んだの?」
「そうじゃな……っ! あ、いえ、違くて……その」
「こら、アズマ。意地悪しないの」
「意地悪じゃないよ。だが、聞き方が悪かったのは認めるよ。すまない」
「いえ」
(これは一筋縄じゃいかなそうだ)
思春期なのもそうだが、いじめを受けていることも重なっているせいで家族を含む誰に対しても壁を作り、本心を曝け出せないのだろう。
頑なになっている現状、今すぐ彼女にどうこう聞くのは難しいだろう、とアズマは方向転換することにした。
「よし、決めた」
「……なんか嫌な予感しかしないんだけど」
アズマがいいことを思いついたと言わんばかりに晴れやかな顔をしているのに対して、アガツマは絶対それろくなことじゃない、と引き攣った表情をしている。
桜は突然のアズマの発言に、不安そうにアズマを見つめていた。
「で? 一応聞くけど、何を決めたの? アズマ」
恐る恐るアガツマが聞く。
こういうときのアズマが大抵聞いてもらうのを待っているというのは、今までの経験上アガツマも心得ていた。
「僕、明日から桜ちゃんの学校に転入することにしたよ」
「「はい!?」」
「……えと、」
「あぁ、もちろん言える範囲で構わないよ」
アズマもアガツマを見習って桜に優しく接する。
桜はおずおずといった様子でアズマを見てから視線を何度か泳がせたあと、唇を震わせながら再び口を開いた。
「……あの、先に一つ確認したいんですけど」
「うん? 何かな?」
「もしかして、私の思考って読めたりしますか?」
桜の懸念は、自分の記憶や思考が洗いざらい見られてしまわないかということだった。
危害を加えない、と前置きされたとしても「人間ではない」という未知の物体が目の前にいるのは誰にとっても驚異であり、恐怖である。
もちろん桜も例外ではなく、いくら自殺願望があったとはいえ、下手なことを考えて捕食されたり殺されたりするだなんてことは避けたかった。
また、記憶を覗き見られて過去の忌まわしい出来事を知られるのも桜にとって忌避したいことだ。
というのも彼女にとっていじめられた過去の出来事は恥部であり、それを他者に知られるのはどうしても回避したかった。
「あぁ、安心して。こうして僕がわざわざ聞いているのは、そういうのが視えないからさ。ちなみにアガツマも視えないよ。まぁ、正直な話そういうのが視えるやつもいるにはいるけどね」
「そう、なんですね」
アズマの答えにちょっとだけホッと胸を撫で下ろす桜。
自分が考える最悪な状況からは脱したことで、自然と詰まっていた息を吐き出した。
「あぁ、ただ……感情とかは視えるよ?」
「え? それって……」
「といってもかなりざっくりだけどね。喜んでるか、悲しんでるか、とかそれくらい。人間でも聡い人は気づくくらいのそんな程度さ」
「あ、あぁ、なるほど……」
「これで安心したかな? 他に何か質問はある?」
「いえ、特には」
「そう、それはよかった」
ニコニコと人のいい笑みを浮かべるアズマ。
桜はなんだか調子が狂うな、と思いながらもアズマが口から出まかせを言っているわけではなく、事実だけを述べていることだけは理解した。
でなければこんなにあけすけに言わないだろう。
桜がちらっと隣を見ると、アガツマが「洗いざらい喋りすぎでしょう」とばかりにアズマを見ながらうんざりした表情をしていることもその証左といってもいい。
とりあえず現状、風呂に入れてもらったことも、服をもらったことも、命を助けてもらったことも含めて、桜は全くお礼ができていない状態だ。
だからこそ、桜は誠実にアズマにちゃんと話そうと決意したのだった。
◇
「東雲桜、十五歳、聖ウラヌス学園中等部。現在同じクラスの男女含む複数人からいじめを受けている、ということでいいかな?」
「はい」
「十五歳ってことは来年、高校生?」
「はい。でも、今外部受験を検討してて……」
「なるほど、いい選択だ。自分から道を切り拓こうとしているのはいいことだと思うよ」
「あ、ありがとうございます」
「それで? さっきは自殺しようとしてた、ってことでいいのかな?」
「……はい」
「うんうん、なるほど」
アズマは至って事務的に話す。
恐らく彼女にとって親身に話されるよりもこうして事実だけを確認するほうが負担が少ないだろうと判断したのだが、実際桜は聞かれた事実を淡々と答え、魂にも揺らぎがないことは見てとれた。
「ご家族に相談はしたことってある?」
「それは……」
家族の話題を出した途端に揺らぐ桜の魂。
あまり触れられたくない部分なのだろうか、あからさまに動揺していた。
「まだ、言えてないんだね」
「……はい」
「理由を聞いても?」
「迷惑、かけたくないから……」
「どうして? ご両親がそう望んだの?」
「そうじゃな……っ! あ、いえ、違くて……その」
「こら、アズマ。意地悪しないの」
「意地悪じゃないよ。だが、聞き方が悪かったのは認めるよ。すまない」
「いえ」
(これは一筋縄じゃいかなそうだ)
思春期なのもそうだが、いじめを受けていることも重なっているせいで家族を含む誰に対しても壁を作り、本心を曝け出せないのだろう。
頑なになっている現状、今すぐ彼女にどうこう聞くのは難しいだろう、とアズマは方向転換することにした。
「よし、決めた」
「……なんか嫌な予感しかしないんだけど」
アズマがいいことを思いついたと言わんばかりに晴れやかな顔をしているのに対して、アガツマは絶対それろくなことじゃない、と引き攣った表情をしている。
桜は突然のアズマの発言に、不安そうにアズマを見つめていた。
「で? 一応聞くけど、何を決めたの? アズマ」
恐る恐るアガツマが聞く。
こういうときのアズマが大抵聞いてもらうのを待っているというのは、今までの経験上アガツマも心得ていた。
「僕、明日から桜ちゃんの学校に転入することにしたよ」
「「はい!?」」
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