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第二章 いじめ
いじめ④
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「あぁ、そういえば名乗るのが遅れたね。僕の名前はアズマだよ」
「あ、私の名前は東雲桜です。てか、え、あれ、え? あの、」
「桜ちゃんか。趣があっていい名前だね。さて……」
「ストップ、ストップ、ストーーーーップ! こら、アズマ! 桜ちゃんが混乱してる!!」
先程の長身イケメンから一転、桜と同級生くらいの姿に変わったアズマ。
身長は桜ほどに小柄に変わり、黒髪の長髪ストレートは見るからにサラサラで、肌は滑らかで透明感があり、唇はふっくらと色艶がよく、鼻もスッと通っていて睫毛も長い。
誰がどう見ても可愛らしく、まるで妖精みたいな容姿の美少女に変身していた。
それなのに、さも何事もなかったかのように話を進めるアズマに対して、すかさずアガツマがストップをかける。
だがアズマは訳がわからないとでも言うように「え、何で?」と首を傾げ、それを見てアガツマは「はぁあああ」と盛大な溜め息をついた。
「突然何も知らない人間の目の前で変身したら混乱するでしょ! 何を考えているの!?」
「え? だって桜ちゃん、僕が助けたの覚えてるだろうから、てっきり人間じゃないのバレてるかと……」
「人間、じゃない、んですか……?」
「ほら! こういうとこ、本当雑なんだから!! 桜ちゃんそのときのことあんまり覚えてなさそうだったのに」
「え、そうだったの?」
アガツマのような事情を知っている者の前で変身するならまだしも、何も知らない桜の目の前で突然変身するというアクロバティックなことをしでかし、それを丁寧にアガツマが指摘しているというのに、一体何が悪いのかと言わんばかりにきょとんとしているアズマ。
それに対し、「何でこいつはここまで説明しても理解できていないのか!」と頭を抱えるアガツマと、「これは見てよかったのだろうか、私、このまま殺されちゃうんじゃ」と危機感と不安でおろおろとする桜。
アガツマに至っては、桜が目の前いるため自制できているものの、もしいなかったら今すぐにでもツノがにょきっと生えそうなくらいには立腹していた。
「アズマって、人間好きなくせにこういうとこ鈍感よね!」
「え、そうかな? それほどでもないよ」
「褒めてないから!」
アガツマが鋭くツッコミを入れる。
アズマは「えー」と不満そうな声を上げるも顔はとびきり可愛いというアンバランスな状態で、普通の人間が見たらちょっとした脳内バグが起こりそうな光景だ。
桜は目の前で繰り広げられるやりとりにあわあわするも、邪魔してはいけないと小さくなって大人しくすることにした。
「というか、そういうなら逆に何でアガツマはわかるの?」
「そりゃ、よく見てるからね。言っておくけど、オンナはそういう機微を察してないと生き残れないのよ」
「えぇ……? そこで性差持ってくるの……?」
アズマが不満そうにすると、アガツマは「ほら、そういうとこ。オンナの世界はアズマが思っているよりもずっと複雑で混沌なのよ」と鼻を鳴らすと、桜も身に覚えがあったからか、ふるりと身体を震わせた。
「あら、身体冷やしちゃった? ごめんなさいね、突然言い合いなんかしちゃって」
すかさず、目敏いアガツマが桜を心配してすぐさま彼女にブランケットをかける。
こういう気遣いができる部分が先程アガツマが言っていたオンナは察するという部分に繋がるのか、とアズマは彼女達のやりとりを傍観しながら納得した。
「すみません、お気遣いしていただいて。ありがとうございます。というか、私お邪魔ですよね……」
「何を言ってるの、そんなことないわよー? ねぇ、アズマ」
「もちろん。僕がここに連れてきたんだからね。先程は驚かせてしまったようですまない。まだ人間のことは勉強中でね。おかしなことがあったらすぐに教えて欲しい。……ということで改めて、僕の名前はアズマ。種明かしをしてしまったけど、僕は人間ではない。でも人間好きだからキミに危害が加えないよ?」
「は、はぁ……?」
「アズマ、桜ちゃん困ってる」
「……え、なぜ……っ」
最後に余計な一言を言うアズマに、「破滅的に言葉のチョイスが間違ってる」と絶望しながらアガツマがアズマの代わりに席に座るように促す。
そして、アガツマは桜の隣に腰掛けた。
「ごめんね、桜ちゃん。アズマはちょーっと会話が下手だけど、悪いやつではないわ。私が保証する」
「わ、わかりました」
小さく頷く桜。
それを見て勝ち誇った笑みを浮かべるアガツマに、アズマはうぐぐぐ、と敗北感を感じた。
だが、ごほんっと一つ咳払いをすると、アズマは己のプライドとしてそれをおくびにも出さず、涼しい顔をして彼女達の向かいに座る。
とはいえアガツマにはバレバレだったが、彼女もそこまで鬼畜ではないのでそれ以上追及はしなかった。
「とにかく、僕は桜ちゃんに危害を加えるつもりはない。実は僕はね、何でも屋をしていてね。困った人の人助けをしているんだ。だから、キミの力になりたい。僕の見立てだと、桜ちゃんにとって今、何か困ったことがあるだろう? 僕でよければお手伝いしたいんだけど、いいかな?」
桜は黙り込む。
それはアズマの提案が嫌なわけではなく、どこからどう話していいかわからなかったからだ。
ぐるぐると縮こまりながら色々とあれこれ考えていると、不意にアガツマが桜の頭を撫でた。
「ゆっくりでいいから。言いたくないことは言わなくていいし、ね? でも、もし私達が力になれることがあったら遠慮なく言ってちょうだい」
アガツマの言葉に、桜は硬く閉じていた口を開く。
そして、「私、学校でいじめられているんです」と彼女はゆっくりと重々しげに吐き出すのだった。
「あ、私の名前は東雲桜です。てか、え、あれ、え? あの、」
「桜ちゃんか。趣があっていい名前だね。さて……」
「ストップ、ストップ、ストーーーーップ! こら、アズマ! 桜ちゃんが混乱してる!!」
先程の長身イケメンから一転、桜と同級生くらいの姿に変わったアズマ。
身長は桜ほどに小柄に変わり、黒髪の長髪ストレートは見るからにサラサラで、肌は滑らかで透明感があり、唇はふっくらと色艶がよく、鼻もスッと通っていて睫毛も長い。
誰がどう見ても可愛らしく、まるで妖精みたいな容姿の美少女に変身していた。
それなのに、さも何事もなかったかのように話を進めるアズマに対して、すかさずアガツマがストップをかける。
だがアズマは訳がわからないとでも言うように「え、何で?」と首を傾げ、それを見てアガツマは「はぁあああ」と盛大な溜め息をついた。
「突然何も知らない人間の目の前で変身したら混乱するでしょ! 何を考えているの!?」
「え? だって桜ちゃん、僕が助けたの覚えてるだろうから、てっきり人間じゃないのバレてるかと……」
「人間、じゃない、んですか……?」
「ほら! こういうとこ、本当雑なんだから!! 桜ちゃんそのときのことあんまり覚えてなさそうだったのに」
「え、そうだったの?」
アガツマのような事情を知っている者の前で変身するならまだしも、何も知らない桜の目の前で突然変身するというアクロバティックなことをしでかし、それを丁寧にアガツマが指摘しているというのに、一体何が悪いのかと言わんばかりにきょとんとしているアズマ。
それに対し、「何でこいつはここまで説明しても理解できていないのか!」と頭を抱えるアガツマと、「これは見てよかったのだろうか、私、このまま殺されちゃうんじゃ」と危機感と不安でおろおろとする桜。
アガツマに至っては、桜が目の前いるため自制できているものの、もしいなかったら今すぐにでもツノがにょきっと生えそうなくらいには立腹していた。
「アズマって、人間好きなくせにこういうとこ鈍感よね!」
「え、そうかな? それほどでもないよ」
「褒めてないから!」
アガツマが鋭くツッコミを入れる。
アズマは「えー」と不満そうな声を上げるも顔はとびきり可愛いというアンバランスな状態で、普通の人間が見たらちょっとした脳内バグが起こりそうな光景だ。
桜は目の前で繰り広げられるやりとりにあわあわするも、邪魔してはいけないと小さくなって大人しくすることにした。
「というか、そういうなら逆に何でアガツマはわかるの?」
「そりゃ、よく見てるからね。言っておくけど、オンナはそういう機微を察してないと生き残れないのよ」
「えぇ……? そこで性差持ってくるの……?」
アズマが不満そうにすると、アガツマは「ほら、そういうとこ。オンナの世界はアズマが思っているよりもずっと複雑で混沌なのよ」と鼻を鳴らすと、桜も身に覚えがあったからか、ふるりと身体を震わせた。
「あら、身体冷やしちゃった? ごめんなさいね、突然言い合いなんかしちゃって」
すかさず、目敏いアガツマが桜を心配してすぐさま彼女にブランケットをかける。
こういう気遣いができる部分が先程アガツマが言っていたオンナは察するという部分に繋がるのか、とアズマは彼女達のやりとりを傍観しながら納得した。
「すみません、お気遣いしていただいて。ありがとうございます。というか、私お邪魔ですよね……」
「何を言ってるの、そんなことないわよー? ねぇ、アズマ」
「もちろん。僕がここに連れてきたんだからね。先程は驚かせてしまったようですまない。まだ人間のことは勉強中でね。おかしなことがあったらすぐに教えて欲しい。……ということで改めて、僕の名前はアズマ。種明かしをしてしまったけど、僕は人間ではない。でも人間好きだからキミに危害が加えないよ?」
「は、はぁ……?」
「アズマ、桜ちゃん困ってる」
「……え、なぜ……っ」
最後に余計な一言を言うアズマに、「破滅的に言葉のチョイスが間違ってる」と絶望しながらアガツマがアズマの代わりに席に座るように促す。
そして、アガツマは桜の隣に腰掛けた。
「ごめんね、桜ちゃん。アズマはちょーっと会話が下手だけど、悪いやつではないわ。私が保証する」
「わ、わかりました」
小さく頷く桜。
それを見て勝ち誇った笑みを浮かべるアガツマに、アズマはうぐぐぐ、と敗北感を感じた。
だが、ごほんっと一つ咳払いをすると、アズマは己のプライドとしてそれをおくびにも出さず、涼しい顔をして彼女達の向かいに座る。
とはいえアガツマにはバレバレだったが、彼女もそこまで鬼畜ではないのでそれ以上追及はしなかった。
「とにかく、僕は桜ちゃんに危害を加えるつもりはない。実は僕はね、何でも屋をしていてね。困った人の人助けをしているんだ。だから、キミの力になりたい。僕の見立てだと、桜ちゃんにとって今、何か困ったことがあるだろう? 僕でよければお手伝いしたいんだけど、いいかな?」
桜は黙り込む。
それはアズマの提案が嫌なわけではなく、どこからどう話していいかわからなかったからだ。
ぐるぐると縮こまりながら色々とあれこれ考えていると、不意にアガツマが桜の頭を撫でた。
「ゆっくりでいいから。言いたくないことは言わなくていいし、ね? でも、もし私達が力になれることがあったら遠慮なく言ってちょうだい」
アガツマの言葉に、桜は硬く閉じていた口を開く。
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