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第一章 新人いびり
新人いびり⑬
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「今日もお疲れさまでした! いよいよ明日はコンペ当日です! みなさん頑張りましょうね!!」
「はい、頑張りましょう!」
「うー、緊張してきたー!」
「ちょっとちょっと、まだ緊張するの早いから!」
「あははは」
終業時間前、それぞれ士気を高めるために清田を皮切りにメンバーがそれぞれ挨拶をする。
明日のプレゼンのためにみんなベストを尽くし、予算の作成から調達や搬送経路全てを今できる最高の状態で仕上げてきていた。
あとはコンペでのプレゼンさえしくじらなければきっと問題ないだろう、と誰もが確信する出来である。
「でも考えてみたらコンペとか初めてだったからついつい気合い入っちゃったけど、なんだかこうやって夢中になるっていうの楽しいっていうか、みんなで一緒に仕事をやるのが楽しいって初めて思えた気がする」
「わかるー! こうしてみんなで頑張るってなかなかなかったし」
「みんなで目標に向かって団結するって学生ぶりだったけど、みんなうちの商品好きなんだなってのも再認識できたわよね~」
「うんうん」
アズマがオーラを見る限り、みんな気分が高揚していた。
この雰囲気から察するに、仕事で初めてみんなで一緒に目標に向かって一致団結したのだろうということが容易に想像できる。
元々それぞれ働き方が違い、個人プレーが多かったカラスマ工業であったが、大多数は同じ感覚や感性を持った同類の集まりだったようで、一度結束するととても優秀であった。
メンバーはもちろんのこと、メンバー以外の社員ともチームプレーを発揮し、各々がどんな仕事をしてるのか、進捗はどうかと確認し合い、フォローしたりしてもらったりと順応に対応できていて、根津がいなくなっただけでこれほどスムーズにことが進むのかと誰もが思ったくらいだ。
(我ながらなんといい作戦だったのか。うんうん、僕ってだいぶ人間味が出てきたんじゃないかなぁ)
アズマはそんな自画自賛をしながら彼らの様子に満足する。
きっと今後もこの調子ならカラスマ工業は問題ないだろう。
烏丸自身もだいぶ顔出しをするようになったからかだいぶ打ち解けてきていて、風通しもよくなり、それぞれが意見を言い合い高め合えるよい関係性が築けていた。
自信家のアズマもまさかここまでとんとん拍子に自分の思惑通りに話が進むとは思わず、怖いくらいには全てが順調にことが進んでいる。
「そういえば田町課長は?」
「もうすぐ戻っては来るみたいだけど」
「前日くらいちゃんと挨拶してほしいよね」
「本当本当~。どこ行ってるんだか」
「てか、終業時間過ぎちゃったけどどうする? 待つ?」
「でもいつ帰ってくるんだろう?」
「うーん……」
チームの要であるはずの田町がいなくて、みんなどうしようかと考えあぐねているようだった。
結局彼はアズマに仕事を丸投げでいいとこ取りしかしなかった。
しかもこのところはずっとコンペのために取引先に回ると言い訳してずっと不在にしていることが多い。
それに対して周りは不満を募らせつつも田町がいないほうが仕事が捗るというのも事実なので、あえて田町に対し誰も言及してはこなかったのだが。
「あ、じゃあ僕待ってますよ」
「そう? でも、それなら残業扱いになっちゃうだろうし。吾妻くんだけ待たせるわけには……」
「実はこのあと烏丸社長からも進捗の確認をされてまして。それ以外はこのあと予定もないですし、一応明日の最終確認も直接田町課長にしたいですから、残らせてください。あぁ、そうそう、明日のコンペ終了後には打ち上げで社長がお寿司を振る舞ってくれるそうで、みんなお腹空かしておいてくれと言ってました」
「え、そうなの?」
「お寿司? やったー!」
「ごめんね、いつも吾妻くんばっかり気を遣わせちゃって」
「いえいえ、お気になさらず」
日頃ちょっとずつ魂を分けてもらってるんでお気になさらず、なんて言えるわけもなくアズマはニコニコと彼らを見送る。
(このまま直帰されても困るから、とりあえず呼び戻すか)
誰もいなくなったのを見計らうと、アズマは印を結び「戻れ」と言葉を吐いた。
すると、程なくしてふらふらと身嗜みが乱れた田町が戻ってくる。
アズマに操られているためまだ意識が戻っていないようだが、どうやら雰囲気的に先程までそういうことをしていたようだ。
(前日までお盛んとは、何を考えてるんだか。……あー、真野がキレてそう)
どうせまた明日はさらにキレるんだろうし今更もういいだろう、とそっちの処理は諦めて、アズマがパンパンと手を叩くとハッと我にかえる田町。
「はっ、え!? 会社!? どうして!??」
「田町課長、大丈夫ですか? 明日はコンペだからって最終確認に来たのでは?」
「は? あ、あぁ、そうだな。明日はコンペのプレゼンだったな」
慌てた様子ではあるものの、平静を装う田町。
記憶の混濁がありつつも、アズマの前では弱味を見せたくないようだった。
「はい。ですのでこれ、最終版の資料なので確認をよろしくお願いします。一応全部森本部長や烏丸社長含めて承認は得ていますが、チームリーダーは課長なので」
「ん? あぁ、わかった。だが、明日のプレゼンは吾妻くんがやるのでは? わざわざ俺に言う必要ないだろ?」
(いや、あなたはチームリーダーだろ。確認まで丸投げする気か?)
自分の役割を忘れているのか、それすらも放棄しようとしているのか。
アズマもまさかここまで愚かだとは、と呆れつつも、「その前提ですが、念のため」と軽く釘を刺すと、眉間に皺を寄せて不機嫌を露わにする田町。
そして、「ドンっ」という音と共に田町はアズマに壁ドンで凄んでくる。
「は? お前、俺に指図するつもりか?」
(うわーお、これがリアル壁ドン。うーん、これ、女子にするやつでは? てか、醜い顔を近づけるのやめてくれないかなぁ)
凄んでくるのはいいが、正直身なりが乱れたままの中年のおっさんにされてもキモいだけだな、と思う。
だが、ここでそんな素振りを見せるわけにもいかないので「いえ、そんなつもりでは」とアズマはわざと怖がっているように装った。
「根津がいなくなったからって調子こいてんじゃねぇぞ?」
「す、すみません」
「ふんっ、とにかく明日はしっかりやれよ? わかったな」
「はい、わかりました」
アズマのしおらしい態度に満足したのか、田町は言いたいことだけ言って満足すると、そのまま事務所を出て行く。
それをアズマは見送ると、「最後のチャンスをふいにしたのは大きいですよ。ふふ、田町課長も明日を楽しみにしてくださいね」とニヤリと笑うのだった。
「はい、頑張りましょう!」
「うー、緊張してきたー!」
「ちょっとちょっと、まだ緊張するの早いから!」
「あははは」
終業時間前、それぞれ士気を高めるために清田を皮切りにメンバーがそれぞれ挨拶をする。
明日のプレゼンのためにみんなベストを尽くし、予算の作成から調達や搬送経路全てを今できる最高の状態で仕上げてきていた。
あとはコンペでのプレゼンさえしくじらなければきっと問題ないだろう、と誰もが確信する出来である。
「でも考えてみたらコンペとか初めてだったからついつい気合い入っちゃったけど、なんだかこうやって夢中になるっていうの楽しいっていうか、みんなで一緒に仕事をやるのが楽しいって初めて思えた気がする」
「わかるー! こうしてみんなで頑張るってなかなかなかったし」
「みんなで目標に向かって団結するって学生ぶりだったけど、みんなうちの商品好きなんだなってのも再認識できたわよね~」
「うんうん」
アズマがオーラを見る限り、みんな気分が高揚していた。
この雰囲気から察するに、仕事で初めてみんなで一緒に目標に向かって一致団結したのだろうということが容易に想像できる。
元々それぞれ働き方が違い、個人プレーが多かったカラスマ工業であったが、大多数は同じ感覚や感性を持った同類の集まりだったようで、一度結束するととても優秀であった。
メンバーはもちろんのこと、メンバー以外の社員ともチームプレーを発揮し、各々がどんな仕事をしてるのか、進捗はどうかと確認し合い、フォローしたりしてもらったりと順応に対応できていて、根津がいなくなっただけでこれほどスムーズにことが進むのかと誰もが思ったくらいだ。
(我ながらなんといい作戦だったのか。うんうん、僕ってだいぶ人間味が出てきたんじゃないかなぁ)
アズマはそんな自画自賛をしながら彼らの様子に満足する。
きっと今後もこの調子ならカラスマ工業は問題ないだろう。
烏丸自身もだいぶ顔出しをするようになったからかだいぶ打ち解けてきていて、風通しもよくなり、それぞれが意見を言い合い高め合えるよい関係性が築けていた。
自信家のアズマもまさかここまでとんとん拍子に自分の思惑通りに話が進むとは思わず、怖いくらいには全てが順調にことが進んでいる。
「そういえば田町課長は?」
「もうすぐ戻っては来るみたいだけど」
「前日くらいちゃんと挨拶してほしいよね」
「本当本当~。どこ行ってるんだか」
「てか、終業時間過ぎちゃったけどどうする? 待つ?」
「でもいつ帰ってくるんだろう?」
「うーん……」
チームの要であるはずの田町がいなくて、みんなどうしようかと考えあぐねているようだった。
結局彼はアズマに仕事を丸投げでいいとこ取りしかしなかった。
しかもこのところはずっとコンペのために取引先に回ると言い訳してずっと不在にしていることが多い。
それに対して周りは不満を募らせつつも田町がいないほうが仕事が捗るというのも事実なので、あえて田町に対し誰も言及してはこなかったのだが。
「あ、じゃあ僕待ってますよ」
「そう? でも、それなら残業扱いになっちゃうだろうし。吾妻くんだけ待たせるわけには……」
「実はこのあと烏丸社長からも進捗の確認をされてまして。それ以外はこのあと予定もないですし、一応明日の最終確認も直接田町課長にしたいですから、残らせてください。あぁ、そうそう、明日のコンペ終了後には打ち上げで社長がお寿司を振る舞ってくれるそうで、みんなお腹空かしておいてくれと言ってました」
「え、そうなの?」
「お寿司? やったー!」
「ごめんね、いつも吾妻くんばっかり気を遣わせちゃって」
「いえいえ、お気になさらず」
日頃ちょっとずつ魂を分けてもらってるんでお気になさらず、なんて言えるわけもなくアズマはニコニコと彼らを見送る。
(このまま直帰されても困るから、とりあえず呼び戻すか)
誰もいなくなったのを見計らうと、アズマは印を結び「戻れ」と言葉を吐いた。
すると、程なくしてふらふらと身嗜みが乱れた田町が戻ってくる。
アズマに操られているためまだ意識が戻っていないようだが、どうやら雰囲気的に先程までそういうことをしていたようだ。
(前日までお盛んとは、何を考えてるんだか。……あー、真野がキレてそう)
どうせまた明日はさらにキレるんだろうし今更もういいだろう、とそっちの処理は諦めて、アズマがパンパンと手を叩くとハッと我にかえる田町。
「はっ、え!? 会社!? どうして!??」
「田町課長、大丈夫ですか? 明日はコンペだからって最終確認に来たのでは?」
「は? あ、あぁ、そうだな。明日はコンペのプレゼンだったな」
慌てた様子ではあるものの、平静を装う田町。
記憶の混濁がありつつも、アズマの前では弱味を見せたくないようだった。
「はい。ですのでこれ、最終版の資料なので確認をよろしくお願いします。一応全部森本部長や烏丸社長含めて承認は得ていますが、チームリーダーは課長なので」
「ん? あぁ、わかった。だが、明日のプレゼンは吾妻くんがやるのでは? わざわざ俺に言う必要ないだろ?」
(いや、あなたはチームリーダーだろ。確認まで丸投げする気か?)
自分の役割を忘れているのか、それすらも放棄しようとしているのか。
アズマもまさかここまで愚かだとは、と呆れつつも、「その前提ですが、念のため」と軽く釘を刺すと、眉間に皺を寄せて不機嫌を露わにする田町。
そして、「ドンっ」という音と共に田町はアズマに壁ドンで凄んでくる。
「は? お前、俺に指図するつもりか?」
(うわーお、これがリアル壁ドン。うーん、これ、女子にするやつでは? てか、醜い顔を近づけるのやめてくれないかなぁ)
凄んでくるのはいいが、正直身なりが乱れたままの中年のおっさんにされてもキモいだけだな、と思う。
だが、ここでそんな素振りを見せるわけにもいかないので「いえ、そんなつもりでは」とアズマはわざと怖がっているように装った。
「根津がいなくなったからって調子こいてんじゃねぇぞ?」
「す、すみません」
「ふんっ、とにかく明日はしっかりやれよ? わかったな」
「はい、わかりました」
アズマのしおらしい態度に満足したのか、田町は言いたいことだけ言って満足すると、そのまま事務所を出て行く。
それをアズマは見送ると、「最後のチャンスをふいにしたのは大きいですよ。ふふ、田町課長も明日を楽しみにしてくださいね」とニヤリと笑うのだった。
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